(っと、いかんいかん)


こんなところで油を売っている暇はない。
教室では彼女が待っているはずだ。
私は両手に抱えた大量のプリントを持ち直し、再び歩き始めた。



あの奇妙な夢を見てからすでに一ヶ月以上が経つ。

夢に出てきた怪物に突然襲われる!

……ということもなく、私はすっかり元の平凡な日常へと戻っていた。
このまま時間が経てば、あの夢はじきに記憶から失われていくのだろう。

………時間が経てば、の話だが。

雨が降ると、私は未だに思い出してしまう。
あの夜の事を。あの夢の事を。


(明日からはまた、雨だっけ……)


六月。
梅雨はまだ始まったばかりだ。
美しい夕日に照らされながら、私は足を進める。