ーーー
ーー
ー
「……で、目が覚めた。確認したら、足はなんともなかったんだけどね。おしまい」
船見さんは左ももを軽くさすりながら、自嘲するかのように小さく笑った。
そして「退屈だった?」と私に問いかける。
言葉に、ならない。
六月も中旬に差し掛かろうというのに、肌寒さすら感じる。
船見さんは最初に夢の話だと言っていた。
血のスープの話。
死体を触った話。
自らの足にナイフを突き立てた話。
毒を飲み、もがき苦しんだ話。
ーーーどれも描写が鮮明すぎる!
まるで本当に経験したかのようなリアリティがあった。
渇いた喉から、なんとか声をしぼり出す。
「…………この話は、私以外の誰かに……」
「綾乃にしか話してないよ」
「どうして!?」
反射的にイスから立ちあがり声を荒げる。
なぜ私にだけ? なぜこのタイミングで?
理解が、追いつかない。
船見さんはスッと顔を上げ、私と目線を合わせる。
彼女の顔からは笑みが消えていた。
「話さなきゃ、いけない気がしたから」
窓の外からは先ほど聞いたホイッスルの音と、何人かが不満を漏らすような声が聞こえた。