「もし、もしね。さっき私が話した嘘みたいな話。それと同じような話を綾乃が知っていたらさ。聞かせて欲しいんだ」


その口調は、普段の彼女と変わらない、優しいものだった。
船見さんはなにかに気づいている。
そして先ほどの『スープの夢』の話。
私にはそれが作り話だとは到底思えなかった。

ーーー彼女も、私と、同じなのか。

彼女も、名状しがたい狂気に追われていたというのだろうか。


「私は……」


………どうすればいいの?
言葉は最後まで出てこなかった。
拳をさらに強く握る。

私は揺れていた。
誰も信じてくれないような与太話。
鼻で笑われるか、いたずらに怖がらせるだけか。
私一人で抱えるしかないと思っていた、あの日の出来事。

ーーーそれを、話してもいいの?