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自衛隊がファンタジー世界に召喚されました【避難板】
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0002†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/12(火) 23:06:47.977565ID:OEAbHEGKK
大陸の沿岸部

洞窟をを利用した粗末に設置された天然のドックに1隻の潜水艦が停泊していた。
天然のドックといっても粗末な木製の桟橋が掛かっているだけだ。
094型原子力潜水艦『長征7号』は、中華人民共和国海軍が運用する弾道ミサイル原子力潜水艦である。
NATOコードは晋級。
海南島の亜竜湾海軍基地を出港して約半年。
当初は、日本国が実行支配する魚釣島近海まで航行して、日米の反応をみて帰還する簡単な任務のはずだった。
しかし、帰還中に何らかの異変が生じたのか本国への連絡はおろか、大陸の存在すら無くなっており、ひたすら大陸を探して航海を続けた。
そして、ようやく見つけた陸地は地球上のものとは明らかに違っていた。

呉定発中尉は最後の仲間だった乗員の墓穴を砂浜で掘り、埋葬を終えたところだった。

「副長達は・・・うまく行ったかな。」

すでに備蓄の食料は底を尽きた。
艦長を初めとする127名の乗員は、食料調達や周辺の偵察の際に化け物のような生物の襲撃や流行り病で次々と命を落としていった。
『長征7号』に立て籠り抵抗を続けたが、艦に装備されていた小銃や拳銃を持って、副長達12名が森に消えたのが3ヶ月前。
遂に呉中尉は最後の一人となってしまった。
残された武器は拳銃一挺。
弾丸は三発。
『長征7号』の魚雷やSLBMなどは使い途がない。
艦に戻って手製の釣竿で魚でも釣ろうか考えていると、銛や三ツ又の矛を持った人型の生物が海から上がって、呉中尉を取り囲もうとする。
人型の生物と言ったが、人は手足にヒレや水かきは無く、全身がうろこで覆われたりしていない。
何より頭部が魚のものだ。
拳銃を彼等に向けながら少しずつ後退する。

「魚野郎め、食われてたまるか!!」

呉中尉は食われていった仲間達の顔を思い浮かべながら最後の抵抗を試みることにした。

大陸西部
新香港

釣り針のように突き出た半島に守られた新香港は天然の良港である。
もとは大陸で覇を唱えていた帝国を、異世界に転移した日本が降伏させ、帝国海軍最大の根拠地であるノディオンの街をを割譲させたのが始まりである。
爆買い等の観光で来ていた約十万人。
転移の影響で失業した中国人労働者約30万人や一万人の留学生、日本人配偶者などを加えて約45万人が住民を完全に追放したこの地に住み着いた。
異世界チャイナタウンと日本では呼ばれている。
日本大使館が設置され、日本本土から大陸への玄関口となっている。
その日本大使館から一台の車が大使相合元徳と駐在武官である渡辺始一等海佐が、新香港主席官邸であるノディオン城に緊急に呼び出されたのだ。

「最近、呼び出される懸案事項があったかね?」
「新香港の武装警察と駐屯している16普連の演習は終わりましたし、海警も特に問題はないですし・・・」

渡辺一佐にも思い当たることはない。
車が場内に入るとすぐに応接室に通される。
すでに林主席と数名の武官が待っていた。
林主席は立ち上がり握手を求めてきて、相合も応じる。

「相合大使、急な呼び出しに応じて頂きありがとうございます。」
「火急な呼び出し緊急な事態とお見受けしますが?」

「新香港設立から五年、我が市でも異世界人と中華人民を見分ける為に戸籍の登録を行っていましたが、最近無登録の人民が城壁外で発見されてましてな。
本人は中華人民共和国海軍南海艦隊所属の呉定発中尉と名乗っています。
どうやら日本の異世界転移時に巻き込まれて6年も放置されてたようですな。」
「なるほど、海警か軍艦の生き残りですか。」
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0003†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/12(火) 23:09:08.308074ID:0GsPn8NwK
転移直前に尖閣諸島に領海侵犯を繰り返していた中国側は海警船3隻と江凱II型(054A型)フリゲート常州。
中華民国の巡防船1隻が転移に巻き込まれて、日本の保護下に入っている。
そのまま新香港海警局の所属となったが、まだ取り零しがあったのかと渡辺一佐は考えていた。
だが林主席は首を横にふった。

「彼が乗艦していたのは『長征7号。』弾道ミサイル搭載原子力潜水艦で、どうやら核ミサイルが1基搭載されていたようです。」

相合も渡辺も絶句したが辛うじて言葉を捻り出した。

「これは本国通達事案ですな・・・」

冒険者のパーティーが地上に上陸して、近隣を略奪していたマーマンの群れを討伐していた。
シーフのマシューを先頭にマーマンがねぐらにしていた洞窟を安全を確かめながら入っていく。
洞窟の中は海に繋がっているが、巨大な黒い船が浮かんでいて放置されている。
リーダーのハリソンが船を見上げて呟く。

「たいへんだ、御領主様に知らせないと!!」

冒険者のパーティーは慌てて洞窟を飛び出していった。

新香港
主席官邸『ノディオン城』

日本大使相合元徳と駐在武官である渡辺始一等海佐が本国に問い合わせる為に急ぎ大使館に戻る為に退室した後、林主席は背後に控えていた武官に声をかける。

「常少将、現在遠隔地まで派遣できる部隊はいるかね?」

常峰輝武警少将は、林主席と転移前の在日中国大使、陸軍駐在武官だった頃からの付き合いである。
さらに今の日本側との会話の内容から目的地までの距離も勘案して返答する。

「陸自16普連との演習を終えた武警第6大隊から50名ほどなら、弾薬や車両の燃料の残りを集めさせて捜索に当たれます。」
「よし、疲れているかもしれないが出動させて『長征七号』を抑えろ。
自衛隊や米軍が出てきたら、『長征七号』は中国籍なのは確実だから新香港が接収すると主張しろ。
但し、武力による交戦は避けろ。
こちらには呉定発中尉という案内役もいるから先手は取れるだろう。」
「現地組織が介入してきた場合は如何致しますか?」
「反乱を名目に武力によって鎮圧だ。」
「畏まりました。
燃料、食料、弾薬の手配ができしだい出発させます。
現地までは2日ほどで到着すると思います。
しかし、何故日本側にも教えたのですか?
我々が密かに確保してからでもよいと思いましたが・・・」

林主席は武官全員に伝わるようにソファーから立ち上がって見渡す。

「我が新香港は、日本に軍事的、経済的に依存しているのが実態だ。
核兵器一発手に入れた程度で日本に対抗すれば、北朝鮮の二の舞になるだけだ。
だが高く売り付けることは出来るだろ?
先に教えるのは、我々は日本と敵対していないという意思表明だよ。
ただ、先に核兵器を抑えないとは一言も言ってないがな。」

日本大使館
大使館に帰還した相合大使は、本国に事態の説明と対応の指示を求めて執務室に籠っていたが、直ぐに自衛隊や文官の責任者を召集した会議室にやってきた。
事態の説明はすでに渡辺一等海佐が行っていたが、大使の顔色から本国から色好い返事が貰えなかったことを皆が察していた。
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0004†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/12(火) 23:10:31.172501ID:7mpBlSJMK
「本国は現地駐屯部隊で対処しろと通達してきた。
『長征7号』の確保、或いは無力化だ。
目標が原子力潜水艦である以上、無制限の破壊は禁じるとのことだ。
本国からの増援はすぐにはでない。
青木陸将、部隊の派遣を命じたい。」

第16師団師団長青木一也陸将は立ち上がって説明を始める。

「今回は即応を優先しますので、第16偵察中隊から先遣を出させます。
現在、出動待機しており命令次第出動出来ます。」

陸上自衛隊第16師団は、大陸駐屯の為に新設された部隊である。
本国の部隊は転移直後に大量に発生した失業者を背景に自衛隊経験者を大量に再雇用した。
失業者対策である。
偵察隊が中隊規模になるくらいの増員だ。
転移直後に起きた『隅田川水竜襲撃事件』や開戦の発端となった『横浜広域魔法爆撃』が、自衛隊の大幅増強を世間が後押しする結果となった。
海上からのモンスターの襲撃がある以上、終戦後各部隊は本国に張り付けになってしまったのだ。
第16師団は大陸の日本の権益を防衛するのが存在意義となった。
「まあ、宜しく頼むよ。
どれくらい掛かる?」
「現地までは6日といったところでしょうか。」

ハイライン侯爵領
海岸部
冒険者の一団から通報を受けたハイライン侯爵ボルドーは、馬に引かれた『ISUZU:エルフ』と書かれた車両の横扉を開いて、その地に降り立った。
日本との戦争の責任を取って隠居させられた父の後を継いだばかりの若者だ。
次の馬車からも数人の男達が降りてくる。
そして、馬に乗った武装した銃士達がまわりを固める。
先込め式の滑腔式歩兵銃を持てるのは、以前は騎士と呼ばれてた階級の人間だけで足る?
馬車から降りた人間だけで達には船大工や錬金術師と言った人間達だがドワーフといった妖精族が混じっている。
ボルドーは一団を率いて、洞窟に入っていく。

「これが・・・、異界の国の船か?
まさか上部まで鉄張りとは・・・だがこの船を手に入れれば奴らに対抗出来るかもしれない。」

軍事的にはたかが1隻程度では話にならないだろう。
だが船ならば生活の為の道具や武器が積まれていたはず。
圧倒的な技術格差が少しは埋まるかもしれない。
そうすればこの新興開拓地の民達を救える方法が見つかるかもしれない。
希望を見いだす。

「上部に手回し式の入り口があるそうです。
開けっ放しになっていたらしく、内部にはマーマンの死体が何体か。
乗員は停泊中に襲撃を受けたものと思われます。
洞窟の外に百個以上の簡素に造られた墓地も発見されています。」

銃士長が現時点でわかったことを報告してくる。

「うむ、職人達をかき集めてきた。
徹底的に調査を進めよ。」

客船『中華泰山号(チャイニーズタイシャン)』
下関寄港時に異世界転移に巻き込まれた同船は、新香港の公営企業の所属となっている。
かつては900人もの中国人客を乗せて、日本爆買ツアーを行っていたが現在乗せている乗客は新香港武装警察官50名と案内役の中国海軍中尉呉定発が乗り合わせている。
すでに出港から2日と半日。

「船長?
すでに到着予定時刻を2時間も過ぎてると思うのだが・・・」
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0005†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/12(火) 23:12:15.172854ID:beHDXhyRK
隊長の湯正宇大尉が心配そうな顔で船長に尋ねる。

「はっはは、もうすぐですよ、あわてない、あわてない。
もともと航路も無いとこ進んでるんだから時間が無茶なのね。
まあ、近くまでは前にも行ったことがあるから水深はわかってるけど、慎重に進んでるだけだから安心するよろし。」

実質、軍事組織に所属する湯大尉は時間に正確になっているが、船長は未だに中国人的大陸時間の感覚でいるらしい。
異世界に来てむしろ悪化しているようだ。
だか船長にも思うところはあるのだ。
普段は新京から日本への食糧を運ぶのんびりした航海ばかりなのだ。
突然に新香港政府から武警を運ぶよう命令されて、これはヤバイ仕事だと感じてはいた。
厳重な機密扱いが適用された。
新香港政府が隠し事をする相手など、日本政府や自衛隊以外に無いだろう。
慎重に航海を進めるしかない。

「いや、どうせ目標は逃げやしないだろうけどさ。
報告が遅れるから急いでくれよ?」

湯大尉からの苦情も大変疎ましく感じていた。

陸上自衛隊
中国人達が海上からハイライン侯爵領に向かっている頃、日本人共は陸路を輸送蒸気機関車で現地に向かっていた。
赤井照長一等陸尉率いる偵察小隊は30名。
車両は在日米軍から購入したM1126ストライカーが2両。
偵察用バイクが4両、軽装甲機動車1両の30名の部隊を貨物として列車に積載している。
隊員の小銃はM16。
大半の装備は在日米軍に在庫を掃き出させて調達した代物である。
これは、第16師団全般に行き渡っている。
自衛隊用の列車なので、ブリーフィング用の車両も備え付けられており、副隊長の酒井二尉と路線図や街道が書かれた地図を壁に貼って眺めていた。

「新香港から王都、日本の直轄領新京を結ぶ大陸横断列車を施設部隊や土建屋が総力を挙げて3年掛かりで完成させたばかりだが、道路の方もなんとかして欲しいな。」
「年貢の迅速な輸送の為の効率重視。
まあ、当時の我が国の食糧事情は切実でしたからね。
この大陸でもすでに炭鉱は小規模ながら存在したから蒸気機関車なんて使うことが出来たわけですが。」

改めて地図を見渡す。
すでに新香港を出発して三日目。
王都を経由し、現在も敷設中の南部線でいけるのが1日分の距離。
残りの2日は街道沿いに車両で移動となる。

「ヘリを使えればすぐだったんですがね。」
「北部方面の年貢輸送に重点を置かれて、こちらの燃料の割り当ても少ないから仕方がない。
化学防護隊も出発したらしいから安全だけは確保しとかないとな。」

ハイライン侯爵領
ハイライン家館
ハイライン侯爵領は、新興の開拓領である。
かつては百万を越える民を抱え、帝国でも屈指の領土を保有していた。
しかし、戦争に負けると責任をとって公爵から侯爵に降格。
当主フィリップは、隠居を申し渡され家督相続を強制された。
ここまではいい。
皇族、貴族全てが一律に処されたからだ。
だがハイライン家は領土を転封されて今の家名に変えられてしまった。
その上こんな未開拓地に一族や朗党、公都を追放された領民の運命を託さぜるを得なくなっている。
元ノディオン公爵フィリップはこの様な状況が憤死しかねないほど不満だった。

「ボルドーは何をしている!!
もう四日も帰っておらんぞあの馬鹿息子は!!」
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0006†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/12(火) 23:13:24.305274ID:mME15YEVK
傍らに控えていた家宰のリヒターが恭しく答える。

「お館様は海岸で怪しげな船が発見されたと兵を率いて巡回に出ております。」
「そんなことをしている場合か!!
この大事な時に・・・」
「何かありましたか?」

長年仕える家宰のリヒターに手紙をみせる。
現在、新京に造られた中学校なるものに留学中のハイライン家の長女からのものだった。
貴族らしい装飾後たっぷりの手紙だが、要約するとこうだ。

「最近、サークルなる集まりに入って宴席に招かれては姫様扱いをされて嬉しい。」
「将来卒業したら領内に学校や病院を造りたいな。」
「あ、お兄様元気?」

楽しそうで何よりだとリヒターは思ったが、前当主様は苦悩して手紙を握りしめている姿に困惑する。

「あやつめ、貴族の誇りと優位性を放棄するようなことを・・・、日本被れめ!!」

貴族の優位性とは青い血に由縁する統治機構の保障と財産に裏打ちされた教育や医療だろう。
それが平民に安売りされては貴族の存在意義が無くなるのだ。
先勝国が敗戦国の体制の存続を許したのは異例のことであった。
日本からすると統治するのが面倒だったからだ。
代わりに貴族や王族にも賠償の責を化し、年貢として徴収した作物から半分を日本に納めている。
貴族の財力は大幅に目減りし、かつてのような贅沢は出来なくなった。
民に重税を課そうとしても四公六民法で、税収が固定化されて、各領地の軍事力強化も抑えられている。

「姫様は日本の社交界に出入りし、将来の領内の夢を語っているだけではありませんか?」

リヒターの言葉はフィリップの耳に入ってこない。
「仕方がない。
ワシがヒルデガルドの教育について、ボルドーに一言言ってやる。海岸だったな。」
「こんな夜半にですか?」
「帰るのは昼になるかもしれん。朝食の用意は忘れるな!!」

颯爽と庭に出たフィリップは、お付の者の用意させた馬と腰に差して、護衛の騎士や兵士を連れて海岸に向かっていった。

ハイライン侯爵領
海岸地帯
黒い船の調査を続けていたボルドー達は、幾つかの頑丈な扉を苦労して開けながら残された品々を回収してその陣幕に持ち込んでいた。

「日本が使ってのとは些か型が違うが、短銃とライフル、弾は撃ち尽くした後か。・・・ふむ、よくできたナイフだな。」

ボルドーの興味は武器にあったが、こんなものは領地の発展に寄与しないだろう。
「食器に・・・電話か?
鉄のスコップは役に立ちそうだな、馬車に詰めろ。」

あまり良い収穫はない。
貴重そうな物は幾つかのあったが、領地で代用可能な物やどう動かしてもまったく作動しない機械の類いばかりだ。

「船の装甲はどうだ?」
「それが表面部はともかく、肝心な装甲自体は斧や剣で斬り付けてもまるで歯がたちません。」

銃士長のイーヴの報告にボルドーは眉を潜める。

「船は動かせそうか?」
「まったく、動かし方が判らないとのことです。
まだ幾つか開かない扉がありますが、中央部に特に厳重な部屋があって、斧で入り口を抉じ開けようとしましたが、斧の歯が欠けたそうです。
よほど貴重な物が隠されているのでしょう。」
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0007†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/12(火) 23:16:10.345391ID:lXzXqnYXK
「或いは危険な物か。
再現も無理だな。
後は・・・なんだと思うこれは?」

何本も並べられた棒状のものは533ミリ魚雷六本である。

「さあ、日本が使っていたミサイルではないかと思われますが・・・」
「あの空を飛ぶ矢か、実物は始めてみるな。
どうやって飛ぶんだろうなこれは?」
「皆目検討も付きません。
尻から火を吹きながら飛んで来るという話でしたが?」
「風車が付いているようだが、これで飛ぶんじゃないか?」

主従が検証を続けていると、馬を駆る音とボルドーを呼ぶ声が聞こえる。

「父上か、また厄介な・・・」

陣幕に入ってきたフィリップはボルドーを怒鳴り付けようとしたが、並べられた銃器や魚雷を見て冷静になる。

「おい、こいつはさっさと埋めるか、日本に引き渡せ。
きっと災いを呼ぶ。」
「来て早々なんですか?
父上ならこれを利用しろと言うかと・・・この日本の船を研究すれば・・・」
「日本じゃない。
その棒に書かれた紋章をみろ。
今は使われてないが、新香港の一部の奴等が使っていた旗印だ。」

五星紅旗、自衛隊に陣借りしていた中国人という部族が使っていた旗だ。
ノディオンを引き渡す調印式の時にいた忌々しい連中だ。
すると、陣幕の外で叫び声や味方のものと思われる銃声が聞こえる。

「ほれ、災いが向こうからやってきたぞ。
ものども出合え、出合え、狼藉者を斬って捨てい!!」

フィリップは剣を鞘から抜き、陣幕から出ていった。
ボルドーとイーヴも慌ててその跡を追って陣幕を出ていった。

新香港武装警察部隊
目標からややズレた海岸に上陸した武警部隊は予想以上の悪路に悩まされていた。
先頭に三菱パジェロ2両。
何れもサンルーフと屋根に銃架が備え付けられている。
窓にはアーマーシールドを張りつけ打撃武器からの防御を考慮されている。
各車両には五名の隊員が乗車しており、即応性と機動力に申し分はない。
問題は同行するヒュンダイトラック、トラゴ2両各7名乗り。
トヨタ・コースターGX26名乗りの三両だった。
上陸して侯爵領内の各村まではある程度の道が出来ていたのだが、それはとても狭い道であった。
せいぜい中型の馬車が通れることを考慮したものだろう。
燃料や弾薬、食糧を積んだトラックを置いていくわけにもいかない。
トラックの屋根には機関銃を装備した銃座がそれぞれ2基もあり、火力支援の為にも必要なのだ。 慎重にゆっくりと。
時には岩を木を人力や車両からワイヤーで牽引して、排除しながら進むだけで新香港を出発して五日目となってしまった。
途中、幾つかの村があったが全て無視した。
各村から伝令が出るより武警側の方が早いからだ。
マイクロバスに乗った湯大尉は、隣に座らせた案内役の呉中尉に地図を見せて話し掛ける。

「中尉、そろそろ1キロ圏内だ。周辺に見覚えはあるか?」

こんな深夜も近い時間に自分でも無理を言ってると自覚はあるが、さっきから中尉がブツブツ言い出して不気味なので話を振ってみたのだ。
まだまだ森林地帯だが地図では、海岸の側のはずだった。
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0008†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/12(火) 23:18:54.431935ID:bP13BlofK
「はい、間違いないです。
この臭い、間違いなくここです。」
「臭い?」

もう一度問おうとすると前方から無数の矢が飛んでくる。
車両の装甲は射抜けるものではないが、窓に関してはちょっと心配だ。

「大尉、前方警戒の成龍2が、設置中なのか移動するバリケードと武装した一団を確認。
攻撃を受けたので後退中。」

最後尾座席にいる通信兵が伝えてくる。
成龍はパジェロに着けたユニット名だ。
トラゴの方には長城だ。

「成龍1は、成龍2の後退を援護。小隊は降車!!
連中を殲滅してやれ。
長城2は待機。
長城1は、腹を奴等に向けて制圧射撃開始!!」

新香港武装警察の装備は、基本的に長年日本警察が押収した銃火器を供与されたものである。
一応はちゃんと使えるように整備や修理を行ってはいるが、些か不揃いなのと夜間用の装備がない点が弱点とはいえる。
銃座からの制圧射撃が行われる中、自らもバスを降りた湯大尉は背中にRPG−26携帯式ロケットランチャーを背負った隊員に命令する。

「長引かせる訳にはいかない。
RPGでバリケードを粉砕して、成龍1、成龍2を突っ込ませる。
合図と共に撃てよ・・・」

湯大尉はもともとは軍人でも人民武装警察官でもない。
学生の頃に学生の義務である軍事教練を受けて、兵役の経験があっただけだ。
叔母か日本に爆買いに出掛けるから荷物持ちとして動員されたら転移に巻き込まれてしまった口だ。
その後は、帝国との戦争が始まり日本政府が募集した第一外国人師団に志願して今に至る。
転移に巻き込まれて路頭に迷った親戚一同で一番の出世頭であり、今でも彼等の生活を支える大黒柱なのだ。
こんなところで死ぬわけには行かない。
だから弾薬の損耗を気にする上官達の顔を立てて出し惜しみするつもりもまったく無い。
各車両や隊員の配置を確認すると声を張り上げる。

「今だ、撃て!!」

その弾頭はバリケードに吸い込まれるように飛んでいき大爆発を巻き起こす。
爆風で目の前に福岡県警のシールが、飛んできたのを目にして苦笑してしまう。
当然の事だが、このRPG−26も日本警察の押収品である。

陸上自衛隊
偵察小隊
陸路を行く自衛隊偵察部隊の車両は予想以上に走りやすい道を進んでいた。

「急拵えの用だが、道が整備されてて助かったな。」

赤井一尉の言葉に酒井二尉も感心したように頷く。

「侯爵領に入って途中から急にですね。岩とか倒木が道の外に片付けられています。」

まるで我々のような車両が通ったことがあるみたいだった。
赤井一尉は各車両への無線マイクを手に取る。

「各車、良く聞け。
この調子なら夜明けには着けそうだ。
最低限の人員を残し、睡眠を取って鋭気を養え。
朝から忙しくなるぞ。」
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0009†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/12(火) 23:21:26.923680ID:Cl54X7CQK
もちろんこの時点では、原子力潜水艦捜索するという意味以上のものはなかった。
なにしろ相手は原潜だ。
ガイガーカウンターが強く反応するところに行けば直ぐに発見できる筈である。

「あとは遠巻きに化学防護小隊に任せればいいさ。」
「ですよね〜」

酒井二尉もまったく同感と楽観視していた。

たが先頭の偵察用バイクで先行していた隊員から通信が入ると、雰囲気が変わる。

『爆発音並びに銃声が聞こえます。
現地は戦闘中、戦闘中です。』

赤井一尉は受信機のマイクを持ったまま各車両に通信を繋ぐ。
たが先頭の偵察用バイクで先行していた隊員から通信が入ると、雰囲気が変わる。

『爆発音並びに銃声が聞こえます。
現地は戦闘中、戦闘中です。』

赤井一尉は受信機のマイクを持ったまま各車両に通信を繋ぐ。

「各員、よく聞け。
どうやら我々の上前を跳ねようとしている輩が現地にいるらしい。
総員、戦闘準備!!
目標を奴等に渡すな!!
原潜は日本が確保する。」

一旦、通信を切ると酒井二尉が進言してくる。

「敵は明らかに重火器を使用しています。
友軍なのか確認する必要があるのでは?」
「どのみち四時間はわからん。
それまでに確かめさせろ。」

移動速度を早めて三時間で戦闘があった地点に到着した赤井一尉一行は、困惑する物体を発見する。
それは爆発のような現象に引きちぎられた何らかの生物の尻尾であった。
暗視装置で周辺を確認していたら見つけたのだ。

「直径がメートル単位、長さが15メートルか?
くそ、何がいたんだここに?」
「爬虫類系ですね。
鱗とかあるし・・・ドラゴンでしょうか?」

隊員達の脳裏に転移直後に起きた事件が脳裏によぎる。

『隅田川水竜襲撃事件』
転移直後の混乱に陥っていた日本は、食料や燃料を統制的に管理することに連日のようにデモが巻き起こっていた。
そんな時に東京湾に水竜の群れが十二頭侵入。
隅田川を遡上し、各橋につがいと思われる2頭ずつが縄張りとし、近隣住民を餌にせんと上陸をしてきたのだ。
深夜から明け方の間の移動であり、日中は水底で眠ってたので対処に遅れたのだ。
勝鬨橋、佃大橋、中央大橋、永代橋、隅田川大橋、清洲橋の6つの橋で、駆けつけた各警察署や第9機動隊の警官が有らん限りの銃弾を叩きつけて、8匹を仕留めるが残りの4匹が北上しながら集結。
新大橋で第二機動隊が迎え撃ち、2匹を始末するが、2匹には防衛線を突破された。
両国大橋でさらに一匹を本所警察署が仕留めるが、総武線隅田川橋梁を破壊。
総武線車両が三両も川底に落ちる被害をだし、乗客・乗員300名もの死者をだした。
最後の一匹も総武線車両に押し潰されて死んだ。
最終的な死者は450名に及び、日本が異世界に放り込まれたと誰にも自覚させた事件。
この事件のあと、デモなどは潮が引くようにいなくなり、日本は異世界へのサバイバルに邁進できるようになった。
青ざめる隊員達を尻目に赤井一大尉は、銃声が聞こえる地点に目を向ける。
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0010†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 00:04:47.181065ID:jhTqX4ETK
「まだ、戦闘は続いてるな。
十分に注意して進むぞ、だが素早くだ。」

進行方向に手を振ると、レンジャ―の資格をもつ隊員三名を戦闘に隊員達が横に広がりつつ木々の間を縫うように前進を開始する。

「105mmを持ってくるんだったな。」

赤井一尉は隊員達を支援する為の105mm砲M68A1E4、「105mm低姿勢砲塔」を搭載しているストライカー装甲車MGSを持ってこなかったことを詫びているのだ。

「40mmでもいけますよ。」

ストライカーICV(兵員輸送車)の車長の牧田二尉がら通信が入る。
ストライカーICV(兵員輸送車)は、取り付けられたカメラの映像を車内のモニターで見ながら操作可能であり、射手が体を曝す事無く目標を攻撃できる。
また、熱線映像装置が組み込まれており夜間の戦闘も可能となっている。
今回は40mm擲弾発射器Mk 19が装備されている。
「よし、火力で圧倒してやれ。」

新香港武装警察
湯大尉は困惑していた。
最初にバリケードを破壊して、車両を先頭に掃射しながら前進した。
何十メートルもあった筈のバリケードが一部を除いてきれいさっぱり無くなっているのだ。
さらにあれだけ銃撃をかましたのに死体がきれいさっぱり存在しない。

「血とかはあるんだが、誰も死なないとかありえないだろう。」

困惑して地面を探っている湯大尉を呼びつける悲鳴が聞こえる。

「大尉!?
蛇がでっかい蛇が!!」

眉を潜める湯大尉が顔を上げる。
「なんだ蛇くらいで情けない声をだすな・・・」

さすがに歴戦の湯大尉は悲鳴はあげなかったが絶句して棒立ちになっていた。
長城1が巨大な蛇にとぐろを巻かれているのだ。
運転席がメキメキと音を立てて潰れていく。
三人は乗っていたはずだが、三人とも飛び出して逃げ出している。
銃座にいた二人もだ。

「グレネード!!」

思わず叫ぶと隊員が放った一発が燃料や弾薬を積んだトレーラー部に直撃して爆発して、海蛇も炎に巻かれて炎上して息絶える。

「ふん、しょせんはでかいだけの蛇じゃないか。」

燃料と弾薬を半分も失ったのは後で責任を追及されるかもと内心の震えを隠すように強気に言う。

「大尉・・・あっちにもっとでかいのが・・・」

成竜1と成竜2が銃架から銃撃しながら小まめに動いては、巨大な蛇の噛みつきをかわしている。
先程の蛇の数倍の長さだが、尾の部分が焼け焦げてなくなっている。

「奴等だ・・・みんな奴等に殺された・・・」
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0011†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 00:07:43.873376ID:ejcz+XQLK
案内役の呉定発海軍中尉が皆の恐怖を煽り立てるようなことを言ってくれる。
さらにその周辺に無数の半魚人達が笛の音色とともに、巨大な貝殻で作った鎧や兜を装備して現れる。
数は数百単位だろうか?
AK-74の弾丸を各隊員が横に薙ぐように撃ちまくるが、半魚人達も魚の骨や貝殻を削って造った投げ槍や弓矢で応戦しながら前進してくる。
弾丸の効果が無いわけではなく、数十体の半魚人が倒れ伏すが死んでいるのは少ないようだ。
後退する武装警察達はそれでも目標の洞窟を見つけると、長城2とマイクロバスを洞窟の入り口の前に停車させて、壁がわりにして抵抗する。
成竜1と成竜2はこちらには合流させずに来た道を戻らせた。
いざという時には任務失敗の報告をしてもらわないといけない。

「これで暫くはもつだろう。」

隊員達の中には矢や投げ槍が手足に刺さったり、切りつけられたりと負傷した隊員が出ている。
不思議と死者は出ていない。
半魚人達が地上では動きが鈍いのが理由だろう。
応急措置が必要だったが、半魚人の攻撃は終わっていない。
車両の隙間から銃撃して、交戦している隊員もいるのだ。
だがなんとか、一息付けると思った湯大尉だが、海蛇が長城2に体当たりをすると、長城2が一メートルも真横に移動させられた。
海蛇は長城2の銃座からの攻撃で後方に這いながら退くが、ここが突破されるのは時間の問題だ。
銃撃もあの分厚そうな皮を傷つけるが致命傷は与えられていない。

「燃料は仕方がない、弾薬と食料を洞窟に運びこめ。」

隊員達が長城2の三番扉を開けて中の物資を洞窟に運び出していく。
だが洞窟の中には先客がいたようだ。

「なんだ新香港の連中も存外にだらしないな。
マーマンども片付けてくれると期待してたのじゃがな。」

洞窟の中で銃士隊を3隊に分けて、立ち撃ち、膝撃ち、伏せ撃ちの構えを取らせている。
この地形では効果的な陣形だ。
しかも、武警側は大半が両手に荷物を抱えたままだ。

「我々も少しは学ぶのだよ、理解したかな?」

苦汁を飲ませ続けられた新香港の武警に圧倒的に有利な立ち位置にたったので得意気な顔をしている。
ドヤ顔の元ノディオン公フィリップの後ろで困り顔をハイライン侯ボルドーが宥める。

「我々もここに逃げ込んできただけなのにこれ以上敵を増やすのやめて下さい父上・・・」

話は少し遡る。
フィリップが陣幕を出ると剣兵、槍兵達が異形の者達と、そこかしかで斬り結んでいた。
数が違いすぎるので、劣勢に立たせられている。

「ボルドー、銃士隊を洞窟に集結させて、皆が逃げ込むのを助成せよ。」
「父上は?」

言うが早いがフィリップは剣を抜き去り、マーマンを二体切り捨てている。

「殿軍は老人の花舞台よ。」

年寄りの冷や水かと思いきや3匹のマーマンを相手に一歩も引いていない。
マーマンの繰り出してくる銛を避けて、右手で柄を掴んで引き寄せて、剣で首を刎ねる。

「急げ!!
あんまり長くは保たんぞ。」

フィリップの意外な活躍に惚けている銃士隊長イーヴは、先込め式銃で、フィリップに群がっていたマーマンの額を撃ち抜く。
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0012†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 00:12:33.675431ID:QZ/wP4/YK
「イーヴ、父上を守れ。
銃士隊は、洞窟前の敵を掃射。
その後は剣兵、槍隊は洞窟を制圧せよ。」

自らも剣を抜いて、血路を切り開く。
洞窟の中には黒い船を調査する為の魔術師や職人、人夫達が奥に残っている。
一番近い村は馬で数時間の内陸にあるからまだ無事の筈だ。
ならばマーマン達はここで撃退する必要がある。
だが気がついたら横でフィリップがマーマン達と斬り結んでいた。

「父上?
なぜ、こちらで戦ってるのですか?」
「ふん、さすがに儂も剣一本であれと戦うのは辛いは・・・」

フィリップの剣が指し示す方向に巨大な手足の無い爬虫類がこちらを睨んでいる。

「シーサペント・・・」
「まさか陸地までひっぱりだしてくるとわな・・・海岸は確かにすぐそこだが・・・」

あっというまにフィリップが先頭に立って洞窟前を制圧に走っている。
銃士隊はシーサペントを牽制するので手一杯で、どうにか生き残りが洞窟に逃げ込んだ時には約一名を除いて、息も絶え絶えだった。

「なんじゃ若いモンが情けない。ほれ、陣形を整えろ。
すぐに奴等がくるぞ。」

だが予想に反して外から奇怪な音や連続して発砲される銃声が聞こえてくる。
さらに侯爵軍でも領民でも無い格好の連中が乗り込んでくる。

「なんだ新香港の連中も存外にだらしないな。
マーマンどもを片付けてくれると期待してたのじゃがな。」

フィリップだけが事情を察し、憎まれ口を叩いている。

「我々もここに逃げ込んできただけなのにこれ以上敵を増やすのやめて下さい父上・・・」

ボルドーの苦悩は頭痛にまで昇華しようとしていた。

「まあ、聞け。
新香港の連中が来たこと戦力は激増した。
ここは争ってる場合じゃ無いから否応あるまい。なあにまかせておけ、儂に良い考えがある。」

銃士隊や武警隊員達が洞窟内に侵入しようとするマーマン達を狙い撃ちしている中、少し奥でフィリップがボルドーや湯大尉に作戦を説明する。

「まずシーサペントだが、あやつはマーマンの蛇使いに笛の音で操られている。
蛇使いさえ葬れば暴れだしてマーマン共にも襲い掛かるだろう。」

笛で操られていると聞いて、湯大尉は思わず呟く。

「インド人もびっくりだぜ・・・それから?」
「儂らは黒い船からミサイルといったかな?
アレを6本抜き取った。」

湯大尉はSLBMが抜かれたのかと最初は戸惑ったが、話を聞いてるうちに魚雷のことだと気がついた。
その違いを指摘し、疑問をぶつけてみる。

「魚雷には固定の鍵が掛かってたと思うのだがどうやって解除したんだ?」
「え?
解除の魔法で一発だったぞ。まあ、厳重な鍵だったらしく、連れて来た魔術師が一人魔力切れを起こしていたがな。」
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0013†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 00:29:05.284096ID:UN1uiv+RK
その後は別の魔術師が軽量化の魔法を掛けて、力自慢六人掛かりで外に持ち出したらしい。
この魔術師二人含む八名は疲労困憊で戦力にならないらしい。

「ミサイルだか魚雷だか知らんが、要するに火薬の詰まった筒だろ?
銃で狙い撃ちして爆発させれば、外の連中を一掃出来るんじゃないか?」

湯大尉はその光景をイメージしてみるが、否定的に首をふる。

「狙い撃つ為には洞窟入り口の半魚人共を掃討してからになる。それに陣幕の中の魚雷をどう撃ち抜けばいいんだ?
小銃で魚雷を撃ち抜いて爆発させられるのか?
博打的要素が強すぎて賛成できん。」
「御主等の肩掛け式大砲ならなんとかなるんじゃないか?」

フィリップに言われて武警隊員達の背中に目をやる。

「RPG−7が三本、RPG−22が一本・・・いけるか?」

他にアテもないので、その作戦を採用することにした。
洞窟がシーサペントの体当たりでも崩れない強固なことを確認して、後方に注意しながら洞窟内でRPG−7を発射する。
洞窟入口で爆発が起こり、ハイラインの兵士達と武警隊員達は、洞窟内部で倒れ付しているマーマン達に銃剣や槍でトドメを刺しながら前進する。
シーサペントが顔を洞窟に向けて、こちらを凝視している姿が目に入る。

「もう一発喰らわせてやるか」

RPG−7を背負った武警隊員の背中を叩くと隊員は発射の構えをとる。
だがシーサペントが少し顔を上げると、その口には魚雷が咥えられていた。
魚雷が一本洞窟に投げ込まれるが、狭い洞窟内では確実に衝突必至となってしまう。
RPG−7の発射された弾頭は止まらない。

「逃げろ!!」

弾頭が魚雷を直撃すると、一目散で逃げ出していた湯大尉、イーヴ達を爆風が吹き飛ばし岩肌に叩き付ける。
フィリップやボルドーが武警隊員や兵士達を助け出しながら爆発で一部が崩落を始めた洞窟のさらに奥に退く。
数名の武警隊員や兵士達が崩れて来る土砂に飲み込まれていく。

「まさか敵に先にやられるとはな。
わかっててやったのかな?」

湯大尉を肩に担ぎ上げているフィリップも困った顔で呟く。
イーヴを背負っているボルドーが応じる。

「放り込むのに手頃な鉄の棒としか思ってなかったのでしょう。
蛇使いも驚愕してると思いますよ?」

意識の戻った湯大尉は、武警隊員の無事を確認するが、四人が崩落に巻き込まれて戦死していた。
ハイラインの兵士達も7名が還らぬ人となっていた。
また、負傷して戦えない武警隊員14名。
負傷者を含む17名が小銃を失っていた。
搬送するさいに邪魔だと放棄させられたらしい。
フィリップの判断だ。

「RPGも全滅か。」

洞窟に入った武警隊員は40名が、負傷者14、戦死4。
小銃を保持している者は13名だけで洞窟内に敷いた防衛線で抵抗を続けている。
崩落が止まり更に狭くなった洞窟内だから少人数でも持ちこたえれるのだろう。
長城1、2の運転手や銃座にいた隊員は、車両から逃げ出すさいに拳銃以外持ち出せていない。
予備の弾薬が入った箱も崩落の時にそのほとんどを失っていた。
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0014†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 00:40:53.095708ID:caQ17AfnK
「こちらも似たようなものじゃ。
銃士17、兵士31、人夫や職人にも武器を持たせて40・・・、かつては二万の軍勢を指揮していた儂が今ではたった百名あまりか・・・落ちたものだ。」

その指揮下の兵士に自分達も加えられてることに気がつき湯大尉は愕然としていたが、負傷者を救護していた葉曹長が小声で呟いてくる。

「・・・大尉、これを・・・」

手渡されの放射能の上昇を示すガイガーカウンターだった。
今までほとんど反応がなかったので忘れていたが、ここに来て微量だか放射能濃度が上がっているようだ。

「そういえばこの奥にあるんだったな。許容被爆線量ってどれくらいだっけ?」
「今までは洞窟が天然の防護壁になって、放射能被害を抑えていたのかもしれません。」
「或いは九年のノーメンテで遂にガタが来たのかだな。」

湯大尉は、ふとこんな都市伝説を思い出していた。
日本と一緒に転移してきた千島列島と樺太のロシア人達は、日本からの援助と引き換えに千島列島と南樺太を返還し、北サハリンに引き上げていった。
陸自第5旅団は大幅な増強を受け第5師団に再建され、管轄を千島列島に移して各島の調査に乗り出した。
中千島の新知島に駐屯の調査に来た第5施設大隊は、同島で旧ソ連時代に建設された潜水艦隊基地を発見したという。
同大隊がその後、何を発見したのかは知らないが基地周辺は民間人等の立ち入り禁止区域に指定された。
一説によると、放棄されていた旧ソ連の潜水艦を日本が手に入れたのではないかと言われている。
だが1994年以来放棄されていたその原子力潜水艦は小規模だが放射能漏れをおこしていたという。
洞窟をさらに奥に進み、洞窟内の海面に浮かぶ『長征7号』の姿を確認した湯大尉はこの艦を持ち帰っていいのか疑問を覚えてきた。
銃声が段々大きく聞こえてきた。
だいぶ押し込まれているのだろう。
マーマン達の鎧や盾は確かに頑丈だが、仕留めることは難しくない。
だが狭い洞窟内、積み重なった死体自体が魚肉の壁となって銃弾を防ぎ、その屍を乗り越えながらマーマン達が前進してくるのだ。
もはや全滅は時間の問題と覚悟せざるをえない。
そこに指揮官として、胸に装着していた秋葉原で購入したトランシーバーが通信を受信する。

「こちら成竜1の王少尉、聞こえるかどうぞ?」

「湯大尉だ。成竜1、作戦は失敗だ。
退却して新香港の指示を仰げ、どうぞ。」
「成竜1、その命令に対し、意見具申。
我々は自衛隊と合流した、どうぞ。」

その言葉に湯大尉は希望を取り戻す。

「成竜1、現在位置で指示を待て。」

締めの言葉を言わずに湯大尉は、フィリップやボルドーを呼び出した。

陸上自衛隊
偵察小隊
赤井一尉率いる陸自偵察小隊は行軍中に、銃架や窓から射撃しながら山道の坂道をバックしてくる三菱パジェロ2台を発見する。
所属は車体に書かれた『新香港武装警察』の漢字で確認。
追跡しているのが数百体のマーマンだと理解すると、戦闘開始の号令を掛ける。
ストライカーICV(兵員輸送車)2両の40mm擲弾発射器Mk 19が火を吹き、武警車両に迫っていたマーマンの一群を粉砕する。
こちらに気がついた別の一群が、陸自側に進軍してくるがマーマンは山登りが余り得意で無いらしく歩みは遅い。
既に森の中に布陣していた偵察隊隊員達は、山道に密集しているマーマン達にM16の弾丸を集中させる。
山道をバックし続けてきた武警隊員達も車から降りて、40mm擲弾発射器Mk 19で散り散りになったマーマンを狩っていく。
マーマン達は銃弾の攻撃に訳もわからずに右往左往し、身を伏せる術も知らない。
巨大な貝殻で造った鎧や盾も最初の銃弾は受け止めるが、2発目、3発目と削られていき粉砕され、屍となっていく。
そこかしこで、手榴弾が爆発する音が響き渡る。
あまりの派手な浪費ぶりに、赤井一尉は弾薬の残量が心配になってきた。
ちょうど、木陰で射撃をしていた酒井二尉に話し掛ける。

「ちょっと数が多いな。
なんだってこんなに海の種族が陸地に集まってるんだ?」
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0015†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 00:47:16.855072ID:aQo9GKQGK
「異常ですね。
何か連中にも譲れないものがあるんじゃないですか?」

ようやく逃走をはかるマーマンは無視して、前進してくるマーマンを掃討していった。
掃討後に合流した王少尉から事情を聞き出すことになる。

「洞窟と無線は繋がるのか?
その魚雷を爆破する作戦はこちらが引き継ぐ。
洞窟内の人間は原潜に乗り込み、立て籠って崩落に備えろ。」

準備の間にフィリップから得た情報もトランシーバーで伝えられ、作戦に組み込まれていく。
赤井一尉と酒井二尉は状況の確認を行う為に山裾まで徒歩で降りていく。
双眼鏡から確認すると、シーサーペントは陣幕から魚雷を一本くわえるところだった。

「40mmは陣幕を狙え。
AT4 (携行対戦車弾)は直接、シーサーペントの魚雷を狙え。
酒井、蛇使いとやらは確認出来たか?」
「ターバンを頭に巻いて、法螺貝吹いてる奴がいます。
たぶんあれでしょう。」

3名の隊員が、在日米軍から購入したAT4 (携行対戦車弾)を準備する。

「貝殻で造った王冠みたいのを被った奴もいるな。
あいつが指揮官か。
まとめて吹き飛ばしてやる。」

マーマン達もまだ洞窟入り口付近を中心に500は陣取っている。
山道から40mm擲弾が連続で発射される。
山裾からはAT4 (携行対戦車弾)が3発。
陣幕の中に吸い込まれる40mm擲弾が着弾すると土煙が巻き上がり、直後に魚雷四発を誘爆させる。
大爆発の炎が周囲のマーマンの大軍を飲み込み、生き残った者達も衝撃波で立っていられるものはいない。
照準器で狙いを定められたシーサーペントがくわえる魚雷は最初の一発目のAT4 (携行対戦車弾)が直撃して爆発し、頭を完全に吹っ飛ばす。
続いて2発目、3発目が着弾して、シーサーペントの巨体を爆発で切り裂いていく。
炎上したシーサーペントの無数の肉片がマーマン達に降り注ぐ。
近くにいた蛇使いも巻き込まれて潰されている。

「掃討戦に移行する。
弾薬が無くなるまで殺れ。
海に逃げる奴は無理にやらなくていい。」

森林を利用して隠れ潜んでいた偵察隊員達は、逃げ惑うマーマン達に向けて引き金を引き続ける。


『長征7号』艦内
戦略原子力潜水艦内部に逃げこんだ湯大尉、フィリップ、ボルドー一行は、巨大な爆音の後に岩や土砂が『長征7号』に降り注ぐ音を不安げに聞きながら座り込んでいる。

「天井崩れたりせんじゃろうな?」

フィリップの言葉はこの場の全員の気持ちを代弁している。
だが湯大尉はそれを認めるわけにはいかない。
誰かがパニックを起こして馬鹿をやらかさないように士気を鼓舞する必要は感じていた。
今は呉中尉が艦内を点検しているので、湯大尉が説明の為に立ち上がる。

「この艦は海中を何百メートル沈んでも大丈夫に出来ている。
安心してくれ。」

あまり海軍艦艇の知識に付いては自信がない。
拙い説明で伝わったか不安は残る。
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0016†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 00:55:19.115515ID:2ojKdjs1K
「なんと最初から沈むことを前提に造られた船なのか?
頼りないのう・・・」

フィリップの指摘にボルドーは神に祈り始め、イーヴは自決を試みみようとして、周囲に抑え付けられている。
その光景に湯大尉も天を仰ぎ見ていた。
武骨な天井とパイプしか見えなかったが・・・
呉中尉が艦内にあった防護服を着て現れると、全員が艦の角に身を寄せて固まる。
防護マスクを脱いだ呉中尉は、呆れた顔で聞いてくる。

「大陸の人間は潜水艦について知らないんですか?」
「大陸の海軍は潜水艦を探知することも出来ずに殲滅されたからな。情報としては知ってても、実物を見たことがあるのはここの連中が最初じゃないかな?
新香港海警局も保有してないからな。
今までは・・・ところで放射能漏れはどうなった?」

「原子炉に通じるパイプが軽く傷ついて小さな穴が開いてました。今は塞いでるから大丈夫ですよ。まあ、応急処置ですが。」

そう言って右手に持ったガムテープを見せてくる。
それを見た瞬間、湯大尉は呉中尉に向けて拳銃の銃口を向けた。

「いや、詰め物を固定するのに使っただけですよ?
隔壁もちゃんと閉めましたから・・・」

陸上自衛隊
偵察小隊
赤井一大尉は偵察隊員と武警隊員10名が洞窟の入り口に到達した。
マーマン達の掃討はほとんどは死亡している。
だか王冠を頂く大柄のマーマンが巨大な三ツ又の矛をこちらに向けている。

マーマン達の王であろう。
すでに傷だらけて体の至るところが流血している。

「オマエ達モアノ船ヲ求メテキタノカ・・・」
「人の言葉がわかるか・・・その通りだ。
お前達にはあの艦は何の価値もあるまい。
なぜ、こんな戦いになった?」
「アノ船ハ我ラノ王国ノ入リ口ニ鎮座シ塞イダ。
我ラハタダ王国ニ帰リタカッタダケダ。」

なんという無駄な戦いだったのかと赤井は愕然とする。

「我々はあの艦をどかして持って帰ろうとしただけだ。
無駄な戦いだったな。」

「ソウカ、多クノ同族ニ助ケヲ求メ、命ヲ失ワセテシマッタナ。
ケジメヲ・・・」

トライデントを構えて、王は自衛隊員達の前に突き進んでくる。

自衛隊隊員達は誰も撃てなかった。
たが王は一太刀の前に斬り伏せられた。

「遠からんもの音に聞け!!
我こそは、ノディオン前公爵フィリップ!!
先帝陛下より賜りし宝剣にて、敵王撃ち取ったり!!」

『長征7号』から出てきたフィリップ、ボルドー、湯大尉達だ。
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0017†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 01:00:10.982772ID:hoGxG4EYK
「日本軍諸君。
援軍大儀であった!!」
「父上、もう少し空気をお読みください。」


日本国直轄領
新京特別区
大陸を統括する総督府のある新京は完全に人口的に造り出した町だ。
現在では皇都が灰塵と化したことにより王都に次ぐ規模を誇る都市となっている。
南区には自衛隊の第16師団の司令部が置かれ、第32普通科連隊、第16特科連隊が駐屯して防衛を担当している。
そして貴族達に賦役を命じて建設した巨大な外壁が新京を守っている。
港湾部には日本本国に食料や鉱物資源を送り込むための大規模な港が建設された。
また、備蓄倉庫、工場、労働者の為の住宅地を形成するコンビナートとなっている。
空港までここに作られているので、自治体の名称は港区になっている。
文字通りの意味で日本の生命線である。


新京国際空港にチャーター機で訪れて新香港からやってきた林主席は、新香港武装警察長官常峰輝武警少将を随員に駐新京新香港領事館職員に用意された馬に牽引されるキャンピングトレーラに乗り込む。
通称、キャンピングキャレッジ、もしくは家馬車と呼ばれる最近イチオシの馬車兼住居の車両だ。
内部は応接仕様になっており、林主席と常少将はソファーに座りながら領事館職員から渡された新聞をテーブルに広げて目を通していく。

『日本人大陸移民210万人突破!!本国人口1億千九百万人時代の到来!!』

これは論評する気は無いので、次の記事に目を通す。

『百済市の市長選出。課題は45万人高麗国の大陸への窓口になれるか?』

高麗国は日本と一緒に転移してきた旧大韓民国の巨済島、南海島、珍島の3島が日本に観光や仕事でに来ていた南北朝鮮人15万人を取り込んで建国した国だ。
その高麗国も大陸に進出してきた記事だ。
百済市も南部貴族の港町を接収して出来た町だが、現在の住民は近代的な生活をおくれないと批判が政権に殺到しているらしい。

『北サハリン、日本企業との提携で豊原市から稚内までのパイプライン開通。
近日中にサハリン3の開発に着手。』

北サハリンの基幹事業の油田開発は、日本に輸入が増加することになる。
日本本国は既に一般乗用車はほとんど走っていない。
だがようやく人口九百万の北海道だけは、転移直後レベルまで回復する見通しとなった。
高い食料生産が日本で最も裕福な地としてな地位に押し上げたのだ。

「次は我々の東シナ海油田だな。
沖縄経済と結び付き、日本から見放されないようにしないといけない。」


『新香港政府、ハイライン侯爵領への貿易港建設の契約』

最後のは『長征07号』を崩落した洞窟から運び出す為に結ばされた契約だ。
港の建設には侯爵領の住民が雇われる。
ノディオンを追放された住民への謝罪と公共事業の意味も込められている。

「なかなか痛い契約だったが、将来に期待させてもらおう。
地球的な港では無く、この大陸のレベルに合わせたものとは日本からも言われてるからな。」
「しかし、『長征07号』は惜しかったですな。
損傷が酷くて、潜水が不可能とは、皮肉が聞いています。」

まったく、常峰輝武警少将の言う通りで、修理の目処さえ立たない有り様だ。
核兵器は日本に引き渡すのは取り決め通りだったが、『長征07号』を新香港の戦力として期待していたのだ。

「まあ、他にも使い道は色々あるだろう。
電力事情の多少の足しにするとか、ミサイルのプラットホームとかな。」
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0018†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 01:08:17.877027ID:3fNGgiLVK
そこはこれから官公庁が集中する中央区にある大陸総督府の城での会議で決められることになる。
大陸総督府の城には連日のように大陸各所から貴族や街の代表者が陳情に訪れている。
開発の誘致や日本人とのトラブルの裁定、本領安堵の免許更新、再発行、モンスター退治の自衛隊の出動の要請など多岐に渡る。
総督府の執務室には多数のファンタジー小説やオカルト雑誌が本棚を埋め尽くす。
少しでも現状を理解してもらう為と頭を柔らかくしてもらう為だ。
他には江戸幕府に関する資料が本棚の一角を占めている。

「まさか、首獲りの恩賞を求められるとは思ってなかったな・・・」

大陸に存在する統一国家である王国を傀儡にする男、秋月春種総督府は机の上で頭を抱えている。
新香港の主席との会談などより気が重くなる。
何しろハイラインの代表がこの部屋にこれから生首を持って来るというのだ。
日本の古い文献を漁り、このような文化があったことを知られてしまったのだ。

「今後もこのような事態が続いたらどうしましょうか・・・部屋が生首で溢れるような事態は、ちょっと避けたいのですが・・・ああ、ここがよろしいかと。」

秘書官秋山も困り顔で書類を渡してくる。

「元帝国皇族天領アンフォニーか。
男爵領になるのかな?
ハイライン侯爵領からも比較的近くて、将来的な南北線の駅建設の候補地の一つか。
まあ、申し分ないんじゃないかな?
地下資源に関してはどうだ?」
「亜鉛、石炭、鉛の二号鉱山。銅に関しては三号鉱山の採掘が開始されています。現在は第6鉱山開発地域に指定されてました。
これは総督府直轄ですが、鉱山町に関する利権はアンフォニー領統治機関に委ねられるでしょう。」

数字の割り振りはこの九年で見つり、日本の管理下になった鉱山の順番である。
ちなみにアンフォニーが現在の調査対象としては最新のものだ。
南北線は南部地域に植民都市百済との間に引く列車の一つだ。
首一つの恩賞として、ノディオン元公爵に与える隠居地としては惜しくも無い。
ハイライン侯爵の申請によれは、将来的にこの新京に留学中の妹に分家として相続させる予定となっている。
公安からの報告では、その妹君は親日で進歩的らしい。

「進歩的という言葉に多少違和感を覚えるが承認しよう。
安堵状の手配は?」
「完成しております。」
「よろしい。
現地の総督府支所と駐屯の第六分遣隊への連絡はよろしくな。
しかし、・・・やっぱり生首は勘弁してくれないかな・・・」


大陸総督府の城門に到着した林主席と常武警少将は家馬車から降りたところで度肝を抜かれる。

「新香港主席林修光閣下とお見受けいたします。
私はハイライン侯爵家の長女ヒルデガルドと申します。
この度は、父が新香港武装警察への援軍並びにマーマン王を討ち取った功績を認められてハイラインの代表として、大陸開発院に参上仕りました。
主席閣下とも御同席して頂ければ幸いなのですが、如何でしょうか?」

林主席としても金髪の美少女と同行することに依存はない。
ハイライン侯爵家と新香港の親密ぶりを日本側にアピールする良い機会でもある。
問題は人力車から車夫に手を引かれて降りてくる美少女ヒルデガルドの従者が、銀の皿に乗せられたマーマン王の生首を持っていることだろう。
ある程度の経緯を聞いているが、実際に見せられるとドン引きしてしまう。

「ご挨拶痛み入ります。
麗しき御令嬢と同行出来ることに依存はありません・・・ところで、その首は例の?」
「はい、マーマン王の御首に御座います。
ハイラインより、塩漬けにされて日本の宅急便で送られてきました。
総督閣下に献上する為に持参した次第であります。」
「そうでしたか・・・残念ですが我々は手続きに少々時間が掛かりますので・・・腐ってもいけませんから早めに総督閣下に献上することをお薦めします。」
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0019†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 01:16:37.523065ID:Mv+pzLzQK
「そうなのですか?
では、失礼して先に謁見させて頂きますわ。
主席閣下もまたのちほど・・・」

ヒルデガルドが職員や警備員を騒然とさせながら城門に入っていくのを見送り林主席は決断する。

「総督との会見は明日にしてもらおう。」
「閣下、お気付きでしたか?
あの従者と車夫、日本人でしたぞ。」

気力の抜けて脱力していた林主席に常少将が注意を促す。

「ふむ、何者か調べておけ。」

ハイライン侯爵領
海上自衛隊
多目的支援艦『ひうち』
「牽引ワイヤーロープ固定!!」「曳航装置、正常作動。」
「『長征07号』、岸から離れました。」

曳航装置は、航行不能となった船舶をワイヤーロープで接続し港や修理地などへ牽引し航行するための装置である。
多用途支援艦『ひうち』の曳航装置は、補給艦『ましゅう』や護衛艦『みねゆき』などの大型艦を曳航した実績を持っている。
乗員からの報告に艦長の明智三佐は満足そうに頷く。
海上にはこの作業の為に第16施設大隊を運んできた輸送艦『おおすみ』と、近海を警戒している護衛艦『しらね』が姿を見せている。
護衛艦『しらね』は転移前に除籍後舞鶴東港に係留保管され、標的艦となる予定であったが、転移後の戦力不足から現役に復帰。
再び偽装を施されて、新京地方隊の一翼を担っている。
『長征07号』、新香港海警局に入局して昇進した呉定発大尉が臨時の艦長代理として乗り込んでいる。
なにしろ新香港で潜水艦乗務経験者を集ってみたが二人しかいなかった。
彼等を加え、呉大尉は貴重な新香港サブマリナーとして、後進の教育にあたることになっている。

「もっとも本物の潜水艦なんて、手に入るのかね?」

呉大尉自体はあまり期待していない。
だが再就職出来たことには素直に喜んでいる。
『長征07号』は沖合いに停泊するフリゲート『常州』と合流して新香港に向かうことなる。


『長征07号』が着底していた場所をどけると全長100メートルを越える岩穴が海底に存在した。
『長征07号』はちょうどこの海底の岩穴にすっぽり嵌まっていたらしい。
海上自衛隊新京地方隊からかき集めた潜水士達が王国の入り口に侵入する。
途中で海底洞窟の方向が代わり、水の無い地底洞窟に到達する。
そこで彼等が目にしたものは、三千人規模が住んでいたと思われる岩を削って造られたと思われる海底都市と白骨化したマーマンの遺体だけだった。


「共食いの形跡が見られたそうです。
他にも座礁船から運びこまれたと思われる生活物資、財宝が確認されました。
何年も閉じ込められ、食料が尽き、死の王国と化したようです。」

撮影された映像をみせながら、ハイライン家の屋敷で赤井一尉が鎮痛な面持ちで探索の結果をボルドーとフィリップに報告する。

「いずれは縦穴を掘って、兵や冒険者を送って探索しよう。
財宝の権利はこちらで良いのかな?」

だが即物的なボルドーの言葉に赤井は頷く。

「財宝に関してはこちらは権利を放棄します。
あと、縦穴を掘るのは慰霊碑の建設の資材調達のついでまでですよ。」
「どうせなら祠や神社とやらも造っていかんか?」

フィリップの提案に赤井は考えてみる。
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0020†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 01:19:27.382068ID:byT1TBlUK
「総督府に可能かどうか提案を問い合わせてみますよ。」

赤井達が侯爵家での晩餐を終えて用意された宿舎に帰っていく。
その様子を窓から眺めボルドーはフィリップのグラスにワインを注ぐ。

「洞窟や船の乗員の墓から、異世界の銃や肩掛け式大砲は回収しました。
倉庫に隠しています。
研究するにせよ、使用するにしろ、ほとぼりが冷めるまでは封印ですな。」
「財宝も将来的な投資に使えるから回収は必須だ。
未開拓地はマーマンの王国のそばとは予想外だったが上手く始末して、港の建設費用も新香港に出させた。
今回一番利益を受けたのは我々だな。
アンフォニーには代官を派遣する必要があるな。
人選は近日中に決めよう。」

二人はグラスを傾けて乾杯する。

「今回のマーマンやシーサペントの討伐は父上が家を飛び出して、冒険者をしていた経験が生きましたな。
そういえば父上、総督府の総督閣下に手柄首を送りましたが日本ではああいった風習はとうに廃れてると聞きましたが?」
「こちらを古臭い懐古趣味な田舎者と侮ってくれれば今後もやりやすかろう。
あとはそうだな・・・単なる嫌がらせよ。
ところで、儂もお前に言いたいことがある。
ヒルデガルドの教育についてじゃが・・・」
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0022†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 13:36:39.533394ID:X9ZJRBbKK
大陸南部
ハイライン侯爵家が南部に港町を建設する計画は周辺地域に降って湧いた好景気をもたらしていた。
旧ノディオンの商人リュードは侯爵家の要請もあり、王都で開いていた店を畳んでハイライン侯爵領に向かっていた。
資産と家族の人数はそれなりにあるので馬車を七台仕立ててることとなった。
同様にハイライン侯爵領に向かう旧ノディオン住民達と合流し、馬車15台の大規模なキャラバンのようだ。
いずれも商人ばかりだから間違いでもない。
安全の為に傭兵も20人ばかりを雇っている。
いずれも十代から二十代の傭兵達なので、3人いる娘や妻や3人の妾に手を出さないか心配である。
だが三十代、四十代の傭兵など信用ならないから仕方がない。
この年代の傭兵は腕も悪いし、度胸も無い連中ばかりなのだ。
最近は街道もだいぶ整備された。
日本の連中が年貢や鉱物資源を輸送する為に整備したのだ。
街道の横には煙を立てて動く列車の線路が敷かれている。
この線路に沿えば日本の軍隊のいる治安のよい町や村に通じているわけだ。
だからといって完全に安全というわけではない。
南部地域は元々亜人の諸部族が多く住んでおり、帝国は彼等の族長に辺境貴族の称号を与えて支配領域の保障を与えていたのだが帝国は滅び王国にその力はない。
亜人達は各部族内部でも分裂や権力闘争が起こっているらしい。
王国の後ろ楯である日本も介入する様子は全くみせずに放置している。
そんなことを考えていると、リュードの近くで後方を警戒していた傭兵が胸を矢で貫かれて馬車から転がり落ちていく。
リュードは指揮を執る傭兵隊長にかわり大声を張り上げる。

「敵襲!!」

馬車のスピードを上げ、傭兵達は各々持ち場で警戒をして武器を抜き放つ。
だが森の中から放たれた数本の野矢が傭兵二人の命を奪う。

「山賊か?」

森の木々の間から馬車に並走して矢を射ってくるのは・・・

「ケンタウルスか!!」

森から街道に30騎ばかりが唸り声を上げながら躍り出てくる。

「まずい、女達を守れ!!」

傭兵隊長が叫んだ瞬間に体に矢を数本生やして馬車から転がり落ちる。
ケンタウルスの目的は女と酒だ。
なぜか人間の若い娘に目が無い彼等は、発情した顔を剥き出しにして襲い掛かってくる。
傭兵達も弓矢で応戦するが、その数をまた一人一人と減らしていく。

「冗談じゃ無い。
後払いの料金は少なく済むが、全滅されちゃ意味はない。
急げ、馬車のスピードを上げろ!!」

馬車の壁に貼られた『時刻表』によればそろそろ遭遇するはずだ。
馬車が1台横転し、亭主が刺され女房がケンタウルスに抱えられている。
助ける余裕はない。

「もうすぐ・・・もうすぐだ!!」

また、1台の馬車が車輪に槍を差し込まれて横転する。
あの馬車には年頃の姉妹を乗せていたはずだ。
後ろで怯える娘達を同じ目に合わすわけにはいかない。
その時、リュードが求めていた汽笛の音が聞こえてくる。

「来たぞ、日本の装甲列車だ!!
おいお前!!
馬で先導して救援を求めろ。」
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0023†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 13:38:55.752905ID:ta3i0G5sK
予めこちらの状況を知らせる為に馬に乗っていた傭兵の一人に命じる。
馬に鞭を入れて煙を上げる汽車に向かって走らせる。
ただ汽車は線路の上以外は動くことが出来ない。
だが装甲列車の機関車から、筒状の何かを口に着けた車掌がこのまま街道を走り抜けろという声が伝わってきた。
なんと大きな声だと驚くが、馬を操る手を止めるわけにはいかない。
キャラバンと機関車が対抗車線側にすれ違い、ケンタウルスの群れがそれに続く。

大陸東部
新京特別区
西区
許忠信は転移前は中華人民共和国国家安全部第十局(対外保防偵察局)に所属し、日本国内で外国駐在組織人員及び留学生監視・告発、域外反動組織活動の偵察などの任務に携わっていた。
転移後、新香港に移住したが日本後に堪能なことと、転移前の経歴を買われて新香港武装警察公安部の一員として、新京で中華料理店の皿洗いとして情報収集の活動を行っている。
先日、新京で林修光主席が遭遇した日本人の尾行を7人の同僚と行っていた。

「主任、李と田のチームが撒かれました。」
「くそ、またか・・・」

尾行対象は明らかに尾行を意識した行動を取っている。
唐突に建物の中に入り別の入り口から出ていったり、階段を登ったかと思えばそのまま降りてきたりを繰り返したりしてこちらの尾行チームが二組も撒かれたのだ。
尾行対象はハイライン侯爵家令嬢ヒルデガルドの従者斉藤光夫。
まだ、新京大学の四年生である。
今も学生街の一角の複雑な路地を歩いて、許と新人の王成明の尾行を受けている。

「他の連中との合流は無理だな。
まったく、どこまで行く気だ。」

ぼやいていると斉藤はビルの地下に入っていく。
何やら地下街になっているようだが、この時間はほとんどの店が閉まっているのは看板から伺える。

「一人ずつ入るぞ、先に行け。」
情報機関の人間として、些か不安を感じさせる王成明は転移前は日本に留学していた学生だった。
相当な日本被れだったが日本通だったこともあり、公安部にスカウトされたが情報部員としては三流もいいところだった。
王がビルの入って数分後、許も地下街に入る階段を降りていく。
たがその行く手を塞ぐ男がいる。
左目に眼帯、十字架を首から掛け、黒いパーカーにはドクロと羽がプリントしてあり、指には一つずつ指輪が嵌めている。
ズボンも黒いジーンズで靴は黒い安全靴だ。

「待ちな・・・あんたは同胞じゃない・・・ここから先を行く招待状は持ってないだろう?」

許は警戒して、背中のホルダーに隠した拳銃を使うか迷う。
しかし、黒い男は左腕を前へ伸ばし、鼻筋へ左手人差し指を合わせる、右肩をあげ右手をピーンと伸ばすという奇妙なポーズを取っている。
あまりに奇妙な動きに対応を躊躇してしまう。
許は中国人だ。
黒目黒髪で基本的に日本人とは見分けはつきにくい。

『だが一瞬で同胞では無いと見破られた。
こいつはただ者ではない。
王は通れたのか?
あいつどうしたんだろう・・・』

「我が左手に刻印されし、暗黒の炎に抱かれて灰となるか。
封印されし、左目に封印されし魔眼の魔力に魅入られるか・・・選ぶがいい・・・」

許は一目散に階段を掛け上がって逃げ出していった。

『奴は何を言った?
魔力だと、そんな馬鹿な・・・ついに日本人も魔力を手にいれたというのか?』

現在までに転移してきた人間で、魔法が使えるようになった事例は1例しか確認できていない。
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0024†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 13:49:44.308290ID:a7MhstvzK
在日米軍のパイロットで、皇都空爆を行ったB−52の編隊長だった男だ。
現在は行方不明で暗黒神の大神官となっているらしい。
まずはこの場を退き、本部に連絡してこの男を観測する準備を整えねばならない。

「行ったか・・・何者だ?」

黒い服の男の後ろから二人の男が現れる。
斉藤とこの場の取り仕切っている後藤だ。

「いや、それより黒川さん何してるんですか?」

後藤が床に目をやると、黒ずくめの男が苦悶の表情で転がりまわっている。

「中学時代の多感な自分を再現して身悶えして転がってるだけだ。
ほっといてやれ。」

「・・・まあ、それはいいとして・・・斉藤さんつけられましたね?
当局の奴等でしょうか・・・」
「それはそこの彼に聞けばいいさ。」

二人が振り返ると数人の男達に拘束された王成明がパイプ椅子に座らされている。

「き、貴様らはいったい何者だ!!」

斉藤が苦笑いしながら答える。

「何者?
おかしなことを聞くね。我々は君の同胞だよ。」

怯える王に後藤が扉を開けて部屋の中に招待する。

「ようこそ、我々の世界へ・・・」

数日後、行方不明だった王成明から郵送辞表が届けられた。
『僕は自分が行くべき世界を見つけました。』
と、書かれていたので新たな異世界転移かと物議を醸しだした。

大陸南部
ケンタウルス自治伯領
ケイトレン氏族トルイの町
ケンタウルス族は大陸において、大族長が自治伯爵として帝国に任命され、その武力を背景にそれぞれの氏族の縄張りを統合して自治伯領として存在していた。
大族長は世襲ではなく族長選挙によって選ばれる。
帝国が滅び王国にその統治機構が変わってもその盟約は存在したが、問題は王国がケンタウルス族を武力を背景に抑えることが出来なくなりつつあることになった。
このトルイの町のケンタウルス人口は五千人、人間は主に奴隷が千人ほど。
町は当然ケンタウルスに優しいバリアフリー完備だ。
族長の名前は町の名前そのままのトルイ。
後継者が跡を継げば町の名前は代わる。
その族長トルイは怒り心頭で客人を待っていた。

「遅い、エリクソンはまだか!?」

召し使いの人間の女達は投げ飛ばされる杯に怯えきっている。
トルイはケンタウルス族の中ではこれでも理知的な方だ。
人間の商人と組み獣の革や工作物に使える骨。
この地域の特産物である病気によくキノコやニンジンを各氏族から集め、商人に高値で売り付けて利益を得る。
周辺の鉱山で奴隷に採掘させている鉱物資源。
狩猟部族であるケンタウルスが町を築いていることからもその辣腕ぶりが伺えるだろう。
そして各氏族の族長には安値で卸した酒や奴隷女をあてがい機嫌を取ることにも長けている。
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0025†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 19:06:47.374016ID:ETfSB184K
そんなトルイが怒っているのは館の庭に並べられていた町の若衆の遺体30体ばかりが原因である。
遺体のほとんどは体に穴を開けられ、原形を留めていない者も多い。
若衆の遺族代表は館の中に。
他の遺族も館を取り囲んで騒ぎ立てていた。
そこに商人エリクソンがやってくる。
場所が場所だけに馬車が使えない。
うっかり使ったらケンタウルス族の中には襲ってきたり、嫁に欲しいとか言い出すものがいる。
少し高価だが地龍に車を曳かせた龍車で館の門を潜り、トルイのもとに参上する。
ケンタウルス自治伯領との折衝や交易の独占権を持つ帝国貴族シルベール伯爵は商場(あきないば)を割り当てて、そこで交易を行う権利を商人に与えて運上金を得ていた。
エリクソンはその一人でこのトルイの町の交易の独占権を持つ商人だった。

「これはまた・・・派手にやられましたなあ・・・」

事前に聞いてはいたが、勇猛なケンタウルス族がここまで一方的にやられるとは思ってもいなかった。

「貴様のいう通りにキャラバンを襲ったらこの様だ。
まさか貴様、我々を嵌めたのではないか?」

エリクソンは首を振って否定する。
確かに長年の商売敵のリュードに対する恨みからケンタウルス族を煽ったの間違いないが、失敗は望んでいない。

「冗談じゃない。
あのへんはあんたらが詳しいというから、襲撃を一任したんじゃないか。
日本の装甲列車が通る時に襲うとは思ってなかったしな。」

確かに若衆達が襲撃したのは予定より早い時間だった。
襲撃は夕暮れの予定だったが、昼日中に襲っている。
若い女の姿に興奮して暴走する若衆の姿がトルイにも目が浮かぶようだった。

「判った信じよう。」

トルイか手を挙げると、遺族達が退室していく。
エリクソンは安心してない。
トルイがこの程度でことを納める筈が無いからだ。

「貴様のことは信じるが、今回の件で族長会議での面目は丸潰れだ。
次の大族長を選ぶ会議での不利になる。
失った倍の日本人の首か、女を手に入れねばこの町での立場まで弱くなる。
貴様もそれでは不味かろう。」
「何をお考えで?」
「また列車を襲う。
ただし今回は装甲列車じゃなくて襲いやすいのだ。
一週間やるから考えろ。」

さても厄介なことになったとエリクソンは苦虫を潰していた。

大陸東部
新京特別区から海岸に沿って南に50キロ。
車両が通れるように舗装された道路の終点に大陸総督秋月春種が、秘書官の秋山や護衛のSPを引き連れて視察に訪れていた。
一行は先に完成していた市役所庁舎ビルの会議室に入る。
窓から見える光景はほとんど原野の土地でブルドーザやショベルカーが、整地作業を行っている。
会議室ではレーザーポインターでプロジェクターに映し出された画像や動画を解説する責任者の朝比奈順一部長の話を聞いている。

「市役所や駐屯地、港湾、電気、ガス、水道、通信、病院のインフラ設備も完成しております。
第一期の団地も現在は内装工事中。
病院、駅、学校に関しては、来年着工になります。」
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0026†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 19:09:08.365609ID:tYLm/t5kK
「まあ、上出来だろう。
最初の住民は新京からの異動組に単身赴任で来てもらうから家族はいない。
インフラ設備の職員や自衛官、警察官、役所の職員。
2月いっぱいはそれで済むはずだ。」

秋月の言葉に全員が頷く。
新京特別区の住民は来年の1月をもって、人口が二百万人を越える。
大半が団地や寮住まいだが、こちらの大陸で財を成した者が一軒家を建築する光景も珍しくもなくなった。
中には新京を飛び出して大陸の他の町に住民に混じって生活の居を移した者もいる。
だが日本本土からの移民希望者は新京の住民の20倍はいる。
そこで新京の開発も一段落した頃から新都市開発を進めていたのだ。
官民合わせて異動組が2月から3月に生活を始める。
その後は家族を呼び寄せて、彼等の穴を新着の移民で埋めていく。

「民間からの工場やスーパーの建築、一軒家の購入の要望も殺到しています。
新京からの引越し組も考慮して、移民組第一期の居住は6月あたりになります。」

秋山は新京からの要望も合わせた話を語る。
移民の問題は現時点で問題はない。
秋月は次の問題を提起する。

「次の案件は・・・これは大事だな。
この市の名前は何にするか一般公募か・・・」
「名称、由来、構想・・・まあ、新市民に夢と希望を抱かせる誤魔化しですな。」

秋山は容赦がない。
秋月はスルーして話を進める。

「大々的に募集してくれ。
締め切りは今月中だ。」
「手配致します。
ところでこの新都市開発計画とは関係無いのですがもう一件よろしいでしょうか?
例のアンフォニーの代官が決まりました。」

秋月は総督府執務室に飾られたマーマン王のホルマリン漬けを思いだしてうんざりした声で話を続けるよう促す。
わざわざ代官の任命に総督府が関与することは少ない。
わざわざこの場で議題にあげるのは、代官当人に大きな問題を抱えているからだ。

「どうも日本人のようなんです。」

秋月秘書官も困惑したように説明をはじめた。

大陸中央部
旧皇室領現子爵領
マッキリー
第四分遣隊分屯地
マッキリー子爵は帝国解体時は、男爵に過ぎなかったが日本との和平に尽力して昇爵と加増を勝ち得た人物である。
その子爵領では金、銀、銅、石炭、ニッケル、ボーキサイトが採掘されて大陸総督府が管理している。
ニッケル、ボーキサイトについては現在は唯一の鉱脈であり、重要視されている。
その為に混成部隊である第四分遣隊は300名と各分遣隊の中でも最大規模であり、1機ではあるが唯一汎用ヘリコプターMi−8、ヒップが配備されている。
石炭が採掘出来ることから、新京と王都を繋ぐ東西線東部方面の中間地点としての賑わいも見せている。

「浅井治久二尉、入ります。」

入室して敬礼すると、分屯地司令の朝倉三等陸佐の答礼を受ける。
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0027†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 19:10:36.669275ID:wWXf/Bj/K
「浅井二尉、二年間のお勤めご苦労だった。
君が補佐官だったおかげで任務は楽をさせてもらえた。
昇進は来年になるが先に一つ派遣任務を司令部から命令された。」

浅井二尉は一等陸尉に昇進後、来年創設される第七分遣隊90名の指揮官となる。
この分屯地には研修の一環として赴任していた。

「現在、建設中の第六分屯地のアンフォニーに新たな代官が任命され赴任する。
新領地ということもあり、現在新京で留学中のハイライン侯爵令嬢も視察として同行することになり、このマッキリーを列車で通過する。
貴官もこれに同行し一連の行動を視察せよ。
また、これは第六分遣隊の進捗状況を貴官の参考にする為でもある。」
「はっ、浅井二尉命令謹んで拝命致します。
また、この度のご配慮感謝致します。
第四分屯地での毎日は大変勉強になりました。
マディノの地でも精励していきたいと思います。」

二人は握手をかわし、朝倉は浅井に椅子に座るよう促す。

「しかし、代官の視察ですか。
たぶん監視せよと総督府あたりからの指示なのは判りますが、問題のある人物なのですか?」
「詳細はこちらにも伝えられていない。
総督府はよほど知られたくないらしいが、機密にも指定されていない。
民間絡みじゃないのかな?
とにかく明後日の1000時にマッキリー駅、王都行き『よさこい3号』で、令嬢を伴って乗車している。
これに同行せよ。」

明後日
昨晩の送別会で散々に酒を飲まされた浅井二尉であったが、習慣から朝6時に起床して身なりを整え分屯地を後にすることにした。
分屯地の受付では、カラシニコフ小銃を持った歩哨や警衛、受付の隊員達から

「浅井二等陸対し・・・捧げ銃!!」

の敬礼を受けて、少し涙目になってしまった。
駅には一時間早く到着して汽車を待っていた。
汽車は定刻通りに停車する。
鉄道公安官にAK−74を初めとする護身用の武器をほとんど預け、自身はマカロフ PM拳銃と予備の弾装1個を携帯して列車に乗り込む。
座席は指定席だ。
令嬢と新任代官は同じ車両に乗るよう手配されているのだ。
青と黒を基調とした騎乗服に身を包み、ポニーに結んだブロンドドの髪を靡かせている美少女だった。
歳は十代半ば。
透けるような白い肌を持ち、ぴっちりとした軍服が彼女の均整の取れたスタイルを強調している。

「レディ・ヒルデガルドさんですね。
お初に御目にかかります。
自分は陸上自衛隊二等陸尉、浅井治久と申します。アンフォニーまで同行を命じられました。
よろしくお願いします。」

貴族令嬢への敬称『レディ』と日本人風に『さん』付けしている完全に失敗な挨拶だが、浅井は気が付かずに握手を求める。
だがその手は若いリクルートスーツを着た男に握られる。

「お初に御目にかかります。
この度、アンフォニー領の代官として着任することとなった斉藤光夫と申します。
道中、短い間ですが宜しくお願いします。」

丁寧な挨拶だが目が笑ってない。
同時に周囲から敵意が一斉に向けられるのを感じた。
周辺の座席の若い男達が一斉にこちらを見てるのだ。
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0028†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 19:15:36.700780ID:dy5jfPyiK
「ああ、お気になさらずに。
彼等は代官所のスタッフと研修生です。」
「研修生?」
「お気になさらずに。」

強調されて困惑する浅井にヒルデガルドは、クスクスと笑っている。

「ヒルダでいいですわ。
楽になさって下さい。」
「・・・、お言葉に甘えて・・・」

ようやく座席に座ることが出来た。
ギスギスした車両はたいへん居心地が悪かった。
ヒルダとの会話には支障はなかった。
大貴族ほど日本語を学んでいるし、ヒルダは新京に留学出来るくらい優秀なようだ。
日本人の方が大陸での言語を学ぶのに苦労している。
大陸の統治に旧帝国の貴族や役人を排除出来なかった一因でもある。
会話は進み、旅程について話が進むとヒルダが浅井の赴任地について訪ねてくる。

「浅井様が赴任するマディノというと、旧マディノ子爵領の?」
「はい、『横浜広域魔法爆撃』で改易となったマディノ子爵の領地だった場所です。」
「確か金、銀、銅の鉱山があったかしら?
日本の鉱物資源の欠乏は切実のようね。」
「まあ、そんなところです。」

今度は浅井が斉藤達を睨み付けるが、斉藤は意にも介さない。

「姫様は新京の留学生ですからその辺りは授業で習いますよ。
我々が教えるまでなくね。
二尉殿は我々が大陸技術流出法に違反してないか心配のようですが、あの法律は木材を使った技術は規制してないし、農業に関しては奨励しているくらいですからご心配なく。」

確かに木材技術は日本としては眼中に無いし、食料生産の向上は望むところなのだ。

「単刀直入に言おう。
大陸総督府は今回の代官就任に注目している。
君たちが危険かそうじゃないかだ。
だいたい君らは一体何者なのだ?」

斉藤は自信満々に答える。
たぶん、用意してあったような発言だった。

「ただの就活中の大学生ですよ。」

そのどや顔をおもいっきり殴りたかった。
睨み付ける浅井をヒルダが話掛けてきて会話が変えさせられる。

「浅井様、前々から疑問だったのだけど、日本は、鉱山を発見したり開発するの早すぎないかしら?
どうやって見つけてるの?
あと、やたらと金、銀、銅に片寄ってるのは何故なのかしら?」

答えていいものなのか浅井は迷ってしまっていた。
金、銀、銅、それに加えて鉄が多いのは最初から帝国や貴族たちが発掘したのを接収したからだ。
それ以外、石炭、亜鉛、鉛、ボーキサイト、ダイヤモンド、ニッケル、カリウム、リチウムに関しては、帝国が設立した学術都市での調査記録に基づいている。
他にも色々発見はしているのだが転移当時の鉱山労働者の数が少なかった日本には手がつけられなかったのだ。
現在は鉱山労働者を教育、経験を積ませて順次鉱山に割り振っているのが現状だ。
同時に冒険者を雇って、未開発鉱山からサンプルを持ち帰らせたりしている。

「私は自衛官なので専門外のことはわかりませんな。」

お茶を濁すことにした。
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0029†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 19:24:33.204506ID:RUj9G9VMK
「自分も聞いていいですか?」

斉藤からの質問である。
身構えるが内容はたいした質問でじゃなかった。

「なんで分遣隊の隊員さん達は東側の装備なんですか?」


転移6年目
南樺太道
大泊郡深海村(旧サハリン州ダーチェ)

日本に返還された南樺太は食料増産を目論む日本政府によって、幾つもの開拓団が組織された。
中心となるのは転移前に廃業した農家や漁師達で、第三次産業に従事していた者達である。
もちろん一朝一夕に畑は出来ないし、漁船だって足りてるわけじゃない。
それでも南樺太に駐屯する陸上自衛隊第2師団の隊員達が手伝いに来ることもあって、ようやく東京への出荷が出来る規模の生産が可能となっていた。
そんなある日、人口四千人ほどの豊原市に隣接する深海村に三千人ほどの第二師団の隊員が展開していた。
動員されているのは豊原の第2普通科連隊、第2後方支援連隊。
住民達は普段は地引き網や開墾を手伝ってくれる隊員達が怖い顔をしてある倉庫のような建物を包囲しているのに驚愕していた。
隊員の中には村の娘と恋人関係或いは結婚した者も多いが誰もが家族にも理由を明かさない。
不安がる住民を代表して、村長と駐在が村の代表数人を引き連れ自衛隊の仮設司令部を訪れていた。
「お騒がせして申し訳ない。」

開口一番、第二師団団長穴山友信三等陸将が頭を下げてくる。
三等陸将は自衛隊の大幅な増員を受けて、予てより計画されていた将・将補の2階級制度を4階級制度にした為に出来た階級だ。
だが呼びにくいので部下達すらいまだに陸将としか呼称してくれない。

「穴山団長、我々としても朝っぱら自衛隊さんが大挙して押し掛けてきた困惑している。
村の中じゃ、ここにもモンスターが出たのかと怖がっている者も多い。
機密とかに縛られてるあんたらの事情も理解は出来るが、村の者を安心させる発表を欲している。
そこらを説明してくれないだろうか?」

村長は元は大阪の住民だ。
樺太開拓は様々な地方から集まった住民がいるため、極力標準語で喋っている。
北海道ではいまだに存在する『隣の町の人間が何を喋ってるか判らない』問題を南樺太にまで持ち込まない為だ。
故郷への郷愁を断ち切る為でもある。

「そうですな・・・、皆さんはニコラス・ケイジが昔主演した武器商人の映画を観たことがありますか?」

唐突に始まる映画鑑賞会。
ソ連崩壊によりウクライナで将軍の叔父を訪れた主人公は、叔父が管理する基地で膨大に保管されている兵器を売却して富を築いていく。

「この保管基地がですね。
実はこの村にもあったんです。」

名称は第230保管基地。
2008年、ドミートリー・メドヴェージェフ大統領が承認した「ロシア連邦軍の将来の姿」に従い、ロシアの各師団は一度全て旅団に改編された。
さらにもう一歩進めて、第230保管基地は平時には基幹部隊と装備のみ維持し、戦時に完全編成の第88独立自動車化狙撃旅団として展開する予備旅団の基地となった。
そして日本転移に巻き込まれ、日本政府の支援の代償に千島列島と南樺太を返還すると、各地に点在していたロシア軍北サハリンに集まり統合された。

「ところがですな問題はもう1つありまして、樺太にも千島にもロシア製、いや東側の武器弾薬を造る工場なんてこの世界にはどこにも無いわけです。
さらに新設の部隊を創設出来るほど、ロシア人人口に余裕があるわけでもない。
ならばいっそ我々に造らせてしまえと。
この保管基地はそのサンプルとして譲渡されたわけです。
これには同系統の装備をしている新香港の意向でもあるわけですな。
まあ、我々も武器弾薬の消耗は悩みの種でしたからな。」

安全が確認され、保管基地の地下倉庫の扉が開けられる。
そこには無数のロシア製兵器がところ狭しと鎮座している。
その規模には同行した村長や駐在はともかく穴山団長や隊員達も驚いている。
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0030†Mango Mangüé(ガラプー KK8d-CKty)2018/06/13(水) 19:31:18.349766ID:Nw0tsJQ+K
「とても旅団用の数じゃないな。」

自分達第二師団はずっとこんな連中と対時していたのだと冷や汗が流れた。

転移から九年目
大陸中央部
東西線『よさこい3号』

「その後、山口の第17普通科連隊にロシア製兵器の転換訓練が行われた。
大陸派遣を命令させて6っの分遣隊が同連隊から組織されて今に至るわけだ。」

あれだけ敵意を向けていた斉藤やスタッフ達が、浅井の話を聞き入っていた。
久し振りの本国の話も聞けたからというのもあるだろう。
次はこちらが彼等に聞く番と考えていると、全員の携帯から一斉に着信音が鳴り響く。
浅井や斉藤達だけでなく、車両に乗り合わせた日本人乗客からもだ。

「安否メールか。」

浅井が携帯から確認したのは、新京から出た日本人に配布された総督府からの安否確認を行うサイトに繋がるメールだ。
災害やテロが発生した時に一斉に送信される。
もとは警備会社が顧客サービスに使用していたシステムだ。
そして、内容も書き込まれている。

「テロ警戒か・・・君らは護身用の武器を持ってきたか?」

大陸中央部
旧皇室領現子爵領マッキリー

町の片隅で一頭のケンタウルスが弓を構えていた。
傍らには商人エリクソンから派遣された男が目標を指差して頷いている。

「あいつを殺ったら俺は一族に復帰できるとトルイの叔父貴は行ってたんだな?」

ケンタウルスはトルイの甥でセルロイ。
素行の悪さから一族を追放され、マッキリーの鉱山で荷車を運ぶ日雇い人夫をして過ごしていたが、ようやくチャンスが巡ってきた。
セルロイは一撃離脱の騎射の名手である。
ビルの路地から飛び出し、一騎駆けで目標の陸上自衛隊第四分遣隊隊長朝倉三等陸佐が軽機動車の後部座席に乗り込もうとするところを騎射する。

「往生せいや!!」

肩を射抜かれた朝倉三佐の部下達が離脱しようとするセルロイを銃撃で蜂の巣に変える。

「隊長!?」
「大丈夫だ。
肩に刺さったがこれくらいなら・・・」

だが朝倉三佐は青い顔をして口から泡を吹いて倒れる。

「これは・・・毒か!?
救急車だ、救急車を呼べ!!」

慌てる隊員達を尻目に見届け役の男は人ゴミの雑踏に紛れ込んで消えた。

大陸中央部
旧天領トーヴェ第5分遣隊分屯地
第5分遣隊は各分屯地の中でも最小で僅かに50名しかいない。
分屯地も小規模であるがT−72戦車、2К22ツングースカ自走式対空砲、2S19ムスタ-S 152mm自走榴弾砲などが1つずつ格納庫に鎮座している。
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0031†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 22:45:37.269377ID:nVu8DtK0K
専門の隊員も足りないので普通科から人数を借りて教育して運用したりしている。
現在、この分屯地には10名の隊員しかいない。
鉱山、居住区の警備、市街地の巡回、訓練中などで4個分隊が留守にしているのだ。

「先生、よろしくお願いします。」
「オウ、マカセロ」

分屯地の営門で警衛任務にあたっていた加藤二等陸士は信じられない者が街中からこちらに歩いてくるのを目撃する。
身長210センチほど、角の生えた兜からはタテガミを靡かせている。
肩鎧には一角馬の頭部を模した金属で造形されている。
鎧は蹄を模したデザインで全身鎧だ。
ベルトも蹄の形の紋章のバックルとなっている。
腰鎧も装着して、分厚い金属の盾と巨大なバスターソード。
それなりに強そうな騎士に見える。
問題は顔が馬だったことだ。

「獣人?」

疑問を口にしたところで、巨大な剣で脇から凪ぎ払われた。
馬の騎士は剣を見て不思議そうな顔をしている。
剣で斬り裂くつもりがケプラー繊維の防弾・防刃ベストがそれを防いだのだ。
馬の騎士は大して力は込めていなかったのだが、衝撃で五メートルは飛ばされた加藤はあばら骨が折れて気を失っている。
防刃ベストも穴だらけでもはや使い物にならない。
飛ばされていく加藤を警衛所から目撃した宮崎陸士長は即座に分屯地に鳴り響く警報のボタンを押す。
これで現在分屯地にいない部隊にも連絡がいく。
同時に受付業務にあたっていた前川一等陸曹が机の引き出しから、拳銃を取り出して受付ブースから発砲する。
馬の騎士よろめきこそしたが、盾や鎧に拳銃弾の穴を開けただけだ。
宮崎陸士長も壁に立て掛けているAK−74を窓口から発砲する。

「馬鹿な効いてない?」

今は亡き帝国の重装甲騎士団のプレートメイルすら穴だらけに出来る拳銃で相手にダメージを与えられていない。
だが警報を聞いて隊舎から出てきた隊員が撃ったAK−74も加わると、衝撃で仰け反っていたが盾を構えられると途端に防がれてしまう。
そして、その太い足からの瞬発力で銃口を定めさせない。
さらに三人の隊員が建物から出て来る。
一人が銃撃しながら牽制し、二人が加藤を担架に積んで建物に引き返しながら後退する。
警衛所から出てきた前川一等陸曹は今更ながら相手を誰何する。

「貴様、何者だ!!
何が目的だ!!」
「ダダノルロウノダバデアル。
ベツニオヌシラニウラミハナイガ、イッショクヒトバンノオンギ二アズカリオヌシラノクビヲショモウスル。」

人間の言葉に慣れて無いのだろう。
聞き取りずらいがなんとなく意味は理解できた。
問題は相手の目的だ。
現在、戦えるのは残っているのは普通科の5名。
残りは通信科1名、医官2名、飛行科1名、負傷者1名。
重火器のほとんどが持ち出されて分屯地には残っていない。
だが簡単に首を獲らせるわけにはいかない。
新たに駆けつけた二人も警衛所の反対側から銃撃を浴びせる。
隊舎の1人も玄関から発砲して、3方向から防御を崩そうと攻め立てる。
だが自衛隊側の誤算は彼らの考える鎧甲冑はあくまで人間の騎士のものを想定していたことだ。
馬の騎士の鎧兜盾一式の重量は、人間の騎士の物の四倍の重量があり、その分装甲も分厚くなっている。
それらを着こなしてなお軽いフットワークでこちらに接近してくる。
遮蔽物も利用してきてこちらとの戦い方も理解している。
そして獣人特有の痛覚の鈍さが多少のダメージを無視した戦いを繰り広げてくる。
銃撃を避けながら、隊舎の普通科隊員が壁に追い詰められていく。
隊員の持っていたAK−74が剣で破壊される。
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0032†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 22:50:54.753933ID:/vEeX7wAK
「マズヒトリメ。」
「舐めるな。」

普通科隊員の首が斬り落とされる。
だが斬り落とされる寸前、防弾・防刃ベストのアタッチメントに装着していた手榴弾のピンを引き抜いていた。

「サテツギハ・・・グホッ!?」

手榴弾の爆発に巻き込まれて、馬の騎士は爆風で転がってくる。
前川も宮崎もマカロフ PMの銃弾を浴びせまくる。
だが数発命中しただけで飛び退かれて

「ハッハハサスガニイマノハシヌカトオモッタゾ。
ケッコウイタカッタナ。」

血塗れの馬の騎士が起き上がってくる。
鎧がかなり破壊されたのを見て剣を鞘に納める。

「マアヒトリハヤッタシギリハハタシタ。」

天に向かって嘶くと、営門のゲートを潜って巨大な白馬が現れる。
この白馬も馬用の鎧が着せられている。
その白馬に颯爽と馬の騎士が乗り込む。
宮崎は後ろから銃弾を撃ち込もうとしたが、前川に止められる。
このまま戦えば死人が増えるだけである。

「アアマダナノッテナカッタナ。ワガナハアウグストス。
ソシテワガアイサイセレーヌデアル。
ソレデハサラバダイカイノヘイシタチ。!!」

去っていく白馬の馬の騎士に隊員達は戦う気力も無くして立ち尽くして見送るしかなかった。

「な、なんだっだんだアイツは・・・」

大陸中央部
東西線沿線

70騎のケンタウルスが線路に石や斬り倒した木を積んでバリケードを築いている。
エリクソンの金の力と日本への反発を利用して、各領地の貴族達にケンタウルスの通過を黙認させた。
そして、『よさこい3号』は間もなくここを通過して停車を余儀無くされる。
トルイはここに一族の戦士全てをここに集めた。

「男は首を斬れ、女は全部連れ帰る。
マッキリーとトーヴェの日本軍は動けん。この機を逃すな!!」
『『『おおぉぉ!!!』』』

機関車の汽笛の音が聞こえる。
バリケードに気がついてブレーキを架けている。

「車両の両側から矢を射る。
連中はまだ何が起きてるか知らないはずだ。
女は殺すなよ、突撃!!」

半数に別れたケンタウルスは弓に矢をつがえながら駆け出した。
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0033†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 22:58:59.161729ID:ZRTJCKkNK
『よさこい3号』車内
浅井は斉藤達が持ち込んだ物を並べて呆れ返っていた。
鉄道公安官の二人もこれが何のか理解できなかったらしい。

「てっきりおもちゃかと・・・」

女性公安官の建川は困惑している。
実際の物を見て浅井が思ったのは模型か夏休みの自由研究である。
「間違いなく使えるんだな?」
「使い捨てだがね。
まあ、4発が限界だが。」

斉藤は自信満々だ。
サークルのメンバーが組み立ている。
手順の確認を取っていると、前方車両から公安主任の久田がやってくる。

「来ましたよ、ケンタウルスがいっぱい。

マッキリーとトーヴェのテロと同様です。」
「安否メール通りだな。」

列車の乗員、乗客達はすでにテロの情報は伝わっていた。
各々が身を守る準備を始めている。
ヒルダが護身用のレイピアを抜いて宣言する。

「こちらも歓迎の準備は整いましてよ。」
「よし、戦える奴等を配置に付けろ。」

王都ソフィア
第17普通科連隊戦闘団司令部
王都にて各分遣隊を派遣する基幹部隊である。
すでに半数もの隊員を分遣隊に派遣したが、戦力の半分は集中してこのソフィアに駐屯して、近隣の盗賊や帝国残党、モンスター退治を一手に引き受けている部隊でもある。
その司令部に次々と訃報が届けられる。
所用で留守にしていた連隊長碓井一等陸佐は幕僚達からの報告の数々にこめかみに青筋を立てている。

「マッキリーで朝倉三佐が殉職されたとの報告がありました。」
「トーヴェで大林陸曹長の戦死に続き、加藤二等陸士が内臓破裂で死亡したとの報告がありました。」

机の上に被害などの報告書が山と積まれている。

「どこもかしこも馬、馬か・・・鉄砲玉に出入り、列車強盗とは恐れ入る。
最近、馬にケンカ売られるような事態はあったか?」
「南部で装甲列車がケンタウルスの略奪集団を攻撃した事例が二週間ほど前にありました。
その報復ではないかと思います。」
「その件は総督府が役人送って、シルベール伯爵と交渉中だろ?
交渉中に手を出して来やがったのか?
あと鉄道公安本部から要請の件はどうなった。」
「マッキリーの連中が朝倉三佐の敵討ちだと、Mi−8に普通科1個小隊が乗り込み現地に向かっています。」

自分の留守中でも対応していた幕僚達に満足する。

「だかこの出入りの馬頭はなんだ?
こんなのが今までノーマークだったのか?」
「その件に付きましては、王国外務省が総督府に取り次いで欲しいとの連絡がありました。
あちらが何やら情報を持っているようです。」
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0034†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 23:08:20.032544ID:SKsVleICK
大陸東部
東西線沿線

東西線、『よさこい3号』先頭車両は当然機関車である。
運転台には機関士と助手が交代要員も含めて四名が乗り込んでいた。
昔は三名で運用していたが失業者対策と労災の問題がそれを許さなかった。
機関士大沢は最初にバリケードを発見すると列車にブレーキを掛けて停車し、助手を車掌に知らせに行かせた。

「まずいな司令車から銃を持って来い。」

二両目の炭水車の梯子を登って、三両目の司令車に向かう。
司令車には列車乗務員の待機室や通信室、食料や水の保管庫、武器庫、発電機が置かれている。
話を聞いた車掌の岡島は

「鉄道公安本部に電話だ。」

もう1人の車掌平田が受話器を手に取る。

「こちら『よさこい3号』、大規模な襲撃を受ける可能性有り、線路上に石を積まれ進路を防がれた、救援を求む。
襲撃者はケンタウルスが数十頭・・・頭だよな?
数十人か・・・数十匹かな?」
「どっちだっていいさ。」

平田は武器庫から猟銃を取り出している。
何れも散弾銃でシトリ525だ。

「四丁を機関車に2丁は我々が使う。
森山くん達の2丁と後尾車両の建川さん、久田さんの分。」

銃を渡された車内販売員の女性、森山と川田にも銃が渡される。

「あの・・・やはり私達も?」
「訓練は受けてるだろ?
お客様と自分の身の安全は守るんだ。」

国鉄職員としての公務員の義務でもある。
機関車の運転台では機関助手達が炭水車の中や運転台の壁に身を潜めて手渡された銃に弾込めをしている。

「おやっさん・・・」
「情けない声を出すな。
一時間もしないうちに鉄道公安本部や自衛隊から援軍が来る。
それまで持ちこたえればいいだけだ。
開通当初は山賊だの帝国残党だのゴブリンだのが襲ってきて蹴散らしてやったもんだ。」

大沢の言葉に機関助手達が勇気付けられる。

「おやっさん来ました!!
左右に別れて、弓をこちらに向けてる!!」
「奴等は密集している。
狙いなんぞいらんから、通過する音が聞こえたら銃口だけ隙間から出して、とにかく外にぶっぱなせ!!
体を壁から出すなよ?」

大量の蹄の音が接近を告げている。
左右に2丁ずつ散弾銃。
ケンタウルスの集団が最初の一頭が炭水車に到達すると一斉に発砲された。
至近距離から互いに効果範囲がカバーしあうように放たれたため、ケンタウルス四頭が転倒、3頭が死亡し、1頭が後続のケンタウルス達に踏まれ死亡した。
攻撃されたことを悟ったケンタウルス達は一斉に上半身を後ろに捻り、前進しながら騎射を敢行してくる。

「おやっさあ〜ん!?」
「馬鹿、頭あげんじゃねえ。」
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0035†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 23:26:47.102350ID:X6MitRCKK
立ち上がろうとした助手の服をつかみ引きずり倒す。
トルイは倒された戦士達が起き上がらないことを憂慮を覚える。
だがまずは前進を優先させた。

「四騎ずつ残して前進だ!!」


司令車両では平田と岡島が銃眼から銃を射っていた。
司令車両はモンスターや武装勢力の襲撃に備えて窓はなく、壁は鉄板を貼り付けてある。
外の状況は外部カメラで確認できる。
狙いは外部カメラから確かめたので、機関車で不意打ちを受けたトルイ達は少し距離を取っていたが、右側で3頭、左側で2頭が撃ち殺される。

「あの穴に向けて一斉射!!」

ケンタウルスは何れも弓の名人である。
鉄張りしてある司令車両とはいえ、一ヶ所に20本もの矢がほぼ同時にに命中すれば、2、3本は壁に刺さって車掌達を驚かす。
平田は驚いて銃から手を離して後ろに転がっている。

「だ、大丈夫か。」
「ああ、当たってはいない・・・すまない。」

だがケンタウルス達の武器は弓矢だけではない。

「やれ。」

左右から3頭ずつが紐に球形の物体をくくりつけて投擲してくる。
車両に当たると同時に爆発する。
「爆弾!?」
「馬鹿な、そんな物が使えるのか?」

たが司令車両には穴は空いてない。
外側に幾つか燃えてる部分はあるが極僅かな損害だ。
だが銃眼や矢で開けられた穴から幾つかの物体が侵入し、壁や床を破壊した。
迂闊に壁際に近付けなくなった。

「外部カメラも破壊されたか・・・」

傷ついた穴にはケンタウルス達の馬力とスピードで威力を増した破城槌が両側から叩きつけら穴が拡大されていく。


最後尾車両
望遠鏡で前方車両の戦闘を覗き見てた斉藤は眉を潜める。

「まずいですな。」
「そうですの?」

望遠鏡をヒルダに渡すとサークルのメンバーを集める。

「諸君、あれはてつはうだ。」
「てつはう?」

ヒルダも混じって聞いてくる。

「「てつはう」は鉄や陶器の容器に火薬を詰め込み、導火線で火をつけて相手に投げつける擲弾です。
巨大な爆裂音をたてて爆発するので、人馬がその音に驚いたと記録されていますがそれほどの破壊力はありません。」
「何が不味いの?」
「ネタが被りました。」

斉藤とヒルダのまわりでもサークルのメンバーが座席を車両から取り外して即席の砲座を作っていた。
座席を2つ重ね合わせて紐で縛る。
問題は砲身だ。
だがそこに和紙を塗り作り上げた紙の筒を重ねた座席の真ん中にセットする。
すでに内部に火薬と導火線は仕込んでいる。

「ネタは被ってるからもう一工夫。やれ!!」
「座席、後で弁償が必要かしら?」

左右に2門ずつ。
座席の砲台は、紙砲の発射の衝撃を可能な限り固定して狙いをぶれさせないためだ。
紙砲の中に装填された日本版てつはうが四発発射される。
てつはうはこちらに向かってくるケンタウルスの集団内部の足元にそれぞれ着弾する。

「鎌倉武士なら馬がケガした程度かも知れないが、連中は人馬一体。
さて、どれほど効果があるか・・・」

斉藤が望遠鏡で確認すると、負傷して倒れたケンタウルスが八頭。
反対側も六頭が負傷して倒れている。

「死んでないみたいね。」
「動けなくなれば上等です。」

だが爆煙の中から10頭ずつのケンタウルスがそれぞれから飛び出してくる。
機関車や司令室への攻撃していたケンタウルスは留まっている。

「怒らせたみたいですから客車に立て籠りますよ。」
「紙砲はいいの?」
「どうせ試作品で一発しか撃てません。さっさと逃げますよ!!」

紙砲を補強していた座席はボロボロになっている。
紙砲がどうなったかは見るまでも無いだろう。
大急ぎで斉藤やヒルダ、サークルのメンバーは客車に乗り込んでくる。

「予定通りこっちに引き付けたから、浅井様は辿り着けたかしら?」
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This is Original

0036†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 23:32:36.865863ID:lrB+F5smK
四号車
浅井二尉は車両内部を姿勢を低くして移動し、司令車まで後一両のところまで来ていた。
持っている武器はマカロフ拳銃一丁と途中で取り外した座席。
四号車の屋根に連結部からよじ登る。
司令車は先程から爆発にさらされていたが意外に破損は少ない。
だが破城槌やてつはうが交互に叩きつけられて、穴が空くのは時間の問題だろう。
屋根の上から先ず右側のケンタウルスを始末することに決めた。
ケンタウルスの腰に紐で括りつけられたてつはうに、9mmマカロフ弾を三発命中させてあたり爆発させる。
そのまま破城槌を持っていた四頭に銃口を向けて発砲する。
重量物を持っていたケンタウルス達は回避行動も取れずに3頭を射殺、1頭が地面に倒れ伏す。
予備のマガジンに交換して、てつはうを持っていた2頭も始末した。

「残り6発・・・」

浅井の存在に気がついた左側のケンタウルス達が矢やてつはうを放ってくるが、屋根まで持ち込んだ座席を盾に移動し、司令車両の屋根に飛び付く。
だが幾つかのてつはうに仕込まれていた土器の破片が、座席の隙間から背中や足に当たる。

「痛・・・」

幸い刺さりはしなかったようだ。
叫びたいのを我慢して、手近にいた破城槌を持ったケンタウルス2頭に残りの弾丸を全部叩き込んで射殺する。
半分は八つ当たりだ。
槍に持ち変えたケンタウルスが屋根の上で転がる浅井を狙うが、屋根の扉を開いた平田が散弾銃で槍持ちを射殺し、岡島が浅井を車内に引き摺って中に入れる。

「状況は?」

ようやく一息付けるが休む暇はない。

「機関車両に8頭にこちらは四頭、最後尾車両に25頭までは確認できてます。」

司令車両には各車両からの内線から報告が来ている。

「こちらは悪い知らせだ。拳銃の弾がもう無い。」

岡島と平田は顔を見合せて苦笑する。

「ご安心をこちらも弾切れです。
でも預かってたものがありましたよね?」
「ああ、そいつを取り来た。」


機関車両
「おやっさん弾切れです。」
「俺も・・・」
「自分もです・・・」

機関助手達は猟銃を置いて、スコップを持つ。

「馬鹿野郎、撃ちすぎだ。」

だが大沢ももう二発しか持ち合わせていない。
まだ、この機関車両を攻撃してくるケンタウルスは7頭もいる。
だが司令車両の屋根から再び飛び出した浅井の手には、出発前に鉄道公安官に渡して預けていたAK−74が握られていた。
司令車から炭水車に移り、一頭ずつ撃ち殺していく。

「大丈夫ですか?」
「若ぇのを一人、死なせちまったよ・・・」

大沢が矢が数本刺さった機関助手の一人を床に寝かせて、他の二人は泣きはらした目をしている。
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This is Original

0037†Mango Mangüé(ガラプー KK15-CKty)2018/06/13(水) 23:43:46.930921ID:urQ5qPLsK
「おまえさん自衛隊だな、援軍かい?」
「自衛隊だが乗客です。」
「そうか、まだ続くんだな。」

車掌の二人もこちらに合流してくる。

「お前ら全員、シャベルとツルハシを持て!!」
「おやっさん、さすがにそれは無茶だ!!」

平田が大沢を止めにはいる。
銃弾が残っているのは浅井だけだ。
ケンタウルスにシャベルやツルハシで勝てるとは思えなかった。

「勘違いするな、俺達の相手はあれだ!!」

大沢が指を指した方向は線路の先、石や木が積まれたバリケードがそこにあった。

「機関車さえ動けば馬なんざ引き離せる。
援軍の到着なんか待ってられねぇ!!」

途端にシャベルを持って駆け出し、助手達もそれに続く。

「浅井さん、我々も行きます。
乗客を前の車両に誘導して下さい。」
「わかりました。
なるべく連中から見えないバリケードの向こう側から崩してください。
ああ、そうだ。
救援の連絡から何分たちました?」
「25分。」

車掌達と浅井も反対方向に走り出す。

ケンタウルス達は途中の車両のドアや窓を一つ一つ破壊していたが中には侵入出来ないでいた。

「狭ぇ・・・」

外部の扉を破壊して内部に入ろうとしたが、下半身の馬の巨体では壁に体を擦りながら進むことになる。
天井も低く、弓を縦にも横にも構えられない。
客室に通じる内部扉はさらに小さく、大柄なケンタウルスでは嵌まって動けなくなる者が続出した。
窓ガラスも強化ガラスで、頑丈でどうにか割っても破片で手を切る者がやはり続出した。
全ての車両がブラインドを締めていた為にどの車両に乗客がいるのかを確かめる必要があったのだ。
最後尾車両に一度は到達したが、もう一度分散して探索に当たっている。

「くそ、ラチが明かないな。」

族長トルイは予想以上の被害と時間のかかりように苛立ちを見せていた。

「族長!!
一番後ろの扉からなら直接中に入れるし、破城槌が使えるぞ。」
「でかした!!
さっさと破壊して、矢を叩き込め!!」

乗客達は最後尾にある10号車両を放棄して、九号車両に移動していた。
ケンタウルス達に見付からないように身を屈めてである。
10号車両の後尾連結部入り口は外部に剥き出しになっていたので破城槌で破壊された。
ケンタウルス達は麻痺毒を塗った矢を入り口から放つ。
応戦が無いのを確認すると、客室に侵入に成功する。
だがボックスシート、4人掛けの向かい合わせ式の座席の通路はやはりケンタウルス達には狭かった。
それでも一頭ずつ中に入り、通路を進むが、反対側のドアが開いた瞬間、鉄道公安官の建川と久田が猟銃で撃ってきた。逃げ場の無い先頭のケンタウルスは体に穴を開けて絶命し、後続のケンタウルスの進路を塞ぐ。
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This is Original

0038†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/14(木) 21:56:46.313623ID:JhOxsp1VK
逃げようとしたケンタウルスは座席に阻まれて方向転換が出来ない。

「だめだ族長、狭すぎて狙い撃ちされてる。
こっちは不利だ。」
「ふん、ならばこの車両には乗客はいないのだな。
応戦してる連中を引き付けておけ。」
「如何なさるので?」
「まどろっこしいことは止めだ。壁を直接ぶっ壊す。
まずはてつはうを1個ずつ車両に放り込んで連中の位置を確認しろ。
その車両にロープを窓枠にくくりつけて引っ張る。
端を破城槌をぶつけて剥がしやすくしろ。」


大陸南部
シルベール伯爵領迎賓館

シルベール伯爵家は長年の間、ケンタウルス自治伯領と帝国の仲介役としての役割を担ってきた。
帝国が滅びた後も、王国と日本国大陸総督府の代理人として彼等との仲介を任せられている。
その為に領内に迎賓館を設け、日本の大陸総督府の外務局長杉村をはじめとする代表団とケンタウルスの長老会議代表団との会談の場を設けていた。

「日本国が我が種族の若衆30名を一方的に虐殺したのは甚だ遺憾です。
謝罪と賠償を要求したい。」
「ケンタウルス若衆は日本国管理地域である鉄道線路沿線で略奪行為を働いていた。
これは明らかに犯罪である。
当方は犯罪行為に対し、実力を行使したに過ぎない。
要求を拒否する!!」
「帝国並びにそれを継承した王国では、ケンタウルス自治伯領内での人族に対する治外法権が認められている。
線路はともかく事件の起きた地域の沿線の街道は自治伯領の境界線に接している。
そして、確実に十数頭は自治伯領内で殺害されている。
これは法に反する行為ではないかね?」

南北線沿線の『ケンタウルス若衆によるキャラバン襲撃並びに装甲列車による撃滅』事件は、地域の名前を取って、ジェノア事件と呼称されることとなった。
当初は脳筋のケンタウルスなど力を背景にすれば容易く主導権を握れると思っていた。
総督府外務局は法を背景に弁護士の如く抵抗してくるケンタウルス長老会議代表団に意外な苦戦を味わうことになる。
なぜこんな会談が行われているのか?
傭兵やケンタウルスに多数の死者が出ていることからうやむやにするのは良くないと王国側から責任の所在を求める要請があったからだ。
総督府側は拒否もできたのたが、会談を受けたのはケンタウルス族に対する自治に対する介入が出来る機会と侮っていたことが大きい。
休憩を挟むこととなり、外務局員達は用意された迎賓館の部屋で予想外の苦戦に憤る。

「なんなんだあいつらは?
我々が想定していたイメージとはだいぶ違うぞ。」
「ケンタウルス族は粗野で野蛮、そう考えてましたな?
だが考えてもみて下さい。
彼等は帝国から自治権を勝ち取った種族ですぞ。
武力だけなら帝国は彼等の自治権など認めなかったでしょう。」

シルベール伯爵は仲介を担うが別に中立というわけではない。
伯爵の領地は年貢の他にケンタウルスと商人による交易に対する権利を認める運上金によって莫大な利益を上げて成り立っている。

「主な商品は傭兵、狩猟により得られる肉や毛皮、自治領特有の果実といった物です。
他にも医薬品や音楽を初めとする美術品、工芸品。
つまり野蛮な風俗とは別の文化的な側面があります。」

官僚達はシルベール伯爵の話に聞き入っている。

「ケンタウルスは性欲の強い種族ですが、腹上死は彼等の死因の上位にあたります。」

全員複雑な顔となった。
女性の官僚もこの場にいるのだから勘弁して欲しい話題である。
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0039†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/14(木) 22:00:58.921852ID:G5/m14EYK
逃げようとしたケンタウルスは座席に阻まれて方向転換が出来ない。

「だめだ族長、狭すぎて狙い撃ちされてる。
こっちは不利だ。」
「ふん、ならばこの車両には乗客はいないのだな。
応戦してる連中を引き付けておけ。」
「如何なさるので?」
「まどろっこしいことは止めだ。壁を直接ぶっ壊す。
まずはてつはうを1個ずつ車両に放り込んで連中の位置を確認しろ。
その車両にロープを窓枠にくくりつけて引っ張る。
端を破城槌をぶつけて剥がしやすくしろ。」

大陸南部
シルベール伯爵領迎賓館
シルベール伯爵家は長年の間、ケンタウルス自治伯領と帝国の仲介役としての役割を担ってきた。
帝国が滅びた後も、王国と日本国大陸総督府の代理人として彼等との仲介を任せられている。
その為に領内に迎賓館を設け、日本の大陸総督府の外務局長杉村をはじめとする代表団とケンタウルスの長老会議代表団との会談の場を設けていた。

「日本国が我が種族の若衆30名を一方的に虐殺したのは甚だ遺憾です。
謝罪と賠償を要求したい。」
「ケンタウルス若衆は日本国管理地域である鉄道線路沿線で略奪行為を働いていた。
これは明らかに犯罪である。
当方は犯罪行為に対し、実力を行使したに過ぎない。
要求を拒否する!!」
「帝国並びにそれを継承した王国では、ケンタウルス自治伯領内での人族に対する治外法権が認められている。
線路はともかく事件の起きた地域の沿線の街道は自治伯領の境界線に接している。
そして、確実に十数頭は自治伯領内で殺害されている。
これは法に反する行為ではないかね?」

南北線沿線の『ケンタウルス若衆によるキャラバン襲撃並びに装甲列車による撃滅』事件は、地域の名前を取って、ジェノア事件と呼称されることとなった。
当初は脳筋のケンタウルスなど力を背景にすれば容易く主導権を握れると思っていた。
総督府外務局は法を背景に弁護士の如く抵抗してくるケンタウルス長老会議代表団に意外な苦戦を味わうことになる。
なぜこんな会談が行われているのか?
傭兵やケンタウルスに多数の死者が出ていることからうやむやにするのは良くないと王国側から責任の所在を求める要請があったからだ。
総督府側は拒否もできたのたが、会談を受けたのはケンタウルス族に対する自治に対する介入が出来る機会と侮っていたことが大きい。
休憩を挟むこととなり、外務局員達は用意された迎賓館の部屋で予想外の苦戦に憤る。

「なんなんだあいつらは?
我々が想定していたイメージとはだいぶ違うぞ。」
「ケンタウルス族は粗野で野蛮、そう考えてましたな?
だが考えてもみて下さい。
彼等は帝国から自治権を勝ち取った種族ですぞ。
武力だけなら帝国は彼等の自治権など認めなかったでしょう。」

シルベール伯爵は仲介を担うが別に中立というわけではない。
伯爵の領地は年貢の他にケンタウルスと商人による交易に対する権利を認める運上金によって莫大な利益を上げて成り立っている。

「主な商品は傭兵、狩猟により得られる肉や毛皮、自治領特有の果実といった物です。
他にも医薬品や音楽を初めとする美術品、工芸品。
つまり野蛮な風俗とは別の文化的な側面があります。」

官僚達はシルベール伯爵の話に聞き入っている。

「ケンタウルスは性欲の強い種族ですが、腹上死は彼等の死因の上位にあたります。」

全員複雑な顔となった。
女性の官僚もこの場にいるのだから勘弁して欲しい話題である。
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0040†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/14(木) 22:16:50.281699ID:FAGZL4WMK
「なんでそんな物が列車にあるんだ?
ナイフと交換してくれ。」
「倒木が線路にあった時の為です。
後は・・・刺又が二本有ります。」

そこにヒルダと斉藤達もやってくる。

「連中の弓矢を三セットばかり奪いました。
扱ったことのあるのが姫様だけなので・・・」
「あら、私も使えるわよ。」

乗客の中から恰幅のよい主婦が名乗りを上げる。

「多少、ブランクがあるけどJK時代は弓道部だったから。
和弓だから勝手が違うかもだけど、心得がない人よりはマシでしょ?」

JKと言われて浅井、斉藤、久田が顔を見合わせるがヒルダが弓を主婦の市原に渡す。
狭い通路で使うのだから期待は出来る。

「てつはうもまだ2個あります。
直接、投擲する必要がありますが。」

色々とツッコミたいところがあったが、てつはうは土器で出来ているし火薬自体はすでに大陸でも流通しているので大陸技術流出法には違反していない。

「乗客の中に七人ばかり冒険者をしている日本人もいます。
今は貨物車から彼等の武器を持ち出させています。
日本刀や薙刀とか持ってきてましたね。」

転移から九年、大陸進出してくると六年も経過すると色んな日本人が出てくる。

「前方車両のドアを守らせてくれ。
乗客の移動は勘づかれないように頼む。」
「浅井さん壁が破られた!!
連中が入ってくる。」
「八号車両客室を放棄!!
鍵を掛けて、七号車両で抵抗線を作るぞ。」

通路ならケンタウルスも自由に動けずこちらが有利だ。
腕時計で時間を確認する。

「通報から45分・・・」

族長トルイは些か焦っていた。
連れてきた兵は自分も含めて70騎ばかり、既に戦死が18騎、負傷して戦えないのが16騎。
戦でもないのに半数がやられたことになる。

「大損害だ。
割には合わん・・・」
「族長、もう退くべきではないか?
今なら近くの村でも襲って首をとって日本人ということにしておけば面目は立つ。」

顔は焼いとけば問題はない。
女はその場限りになるが、事が済めば口を封じればいい。
日本人どもにも一矢を報いた。

「よし退くか、角笛を」
言い掛けたところで先頭の機関車が煙突から煙を吹き出し、下方からは水蒸気を噴出させ始めた。
バリケードからは数人の人間が機関車に駆け出している。
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This is Original

0041†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/14(木) 22:24:36.093944ID:wsxy+hnBK
列車の内部には5頭のケンタウルスが乗り込んだままだ。

「つ、連れ戻せ!!」

7号車両では突撃してくるケンタウルスを、久田と斉藤が刺又二本で押し止める。
狭い通路で走れないケンタウルスなら何とか押さえ込める。
座席の陰から浅井が鉈を振り回してるので勢いを殺したのも大きい。
市原とヒルダが弓でケンタウルスを射ると、後続のケンタウルスが前進できなくなる。
たがそこからケンタウルス達が矢を放ち久田に二本が刺さる。

「久田さん!!」

建川が久田を引きずりながら七号車両に移動しようとする。
だが久田が口から血と泡を吹き出している。
痺れる体で手だけ動かして、全員に六号車両に移動するよう指差す。
次にてつはうを指差した。
浅井達が六号車両に移動すると、サークルのメンバーがてつはうの導火線に火を着けて、七号車両に放り込んで七号車両のドアと六号車両のドアを閉める。
爆発音とともにドアが揺れる。
だがすぐにケンタウルスの姿がドアの窓から見える。
顔は血まみれだ。

「久田さんが・・・」

泣き顔の建川が敬礼しているので、浅井もそれに倣う。

「五号車両からは乗客が避難しているのでここらで食い止めたい。」

車掌の平田がシャベルを持ってやってくる。

「車両を切り離しましょう。」
「走行中に出来るんですか?」
「本来は配線やブレーキ管を外さないといけないのですが時間が無いから強引に切り離します。まずは連結機を切り離してから一つ一つ鉈で斬ります。」

平田が作業に入るが、岡島の声が車内放送で鳴り響く。

「バリケードに突っ込みます。何かに掴まりながら頭を守ってください!!」

全員が座席に捕まると何かに衝突したような衝撃が車内を揺るがしといく。

機関車
大沢達を乗せた機関車はゆっくりと加速を続け走り始める。
可能な限りに勢いを付けて、バリケードを吹っ飛ばして突破しないといけない。
機関助手達は必死に石炭を竈にくべている。

「いけ、いけ、いけぇ〜い!!」
手を振り回しながら声援する大沢の声に応えるように機関車の先頭部分がバリケードにぶつかり、粉砕しながら土砂を撒き散らす。
機関車周辺を駆けていたケンタウルス達が土砂を浴びて転倒していく。
機関車は震動しながらバリケードを突破してさらに加速を続ける。
「やったあ!!」

大沢は歓声を挙げるが肩に矢を受けていた。
そのまま崩れ落ちる。

「おやっさん!!」

「退け、退くんだ!!」

トルイは追い付いた兵達を一人一人に声を掛けて列車の追撃を止めさせる。
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0042†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/14(木) 22:35:08.650630ID:46+txUJcK
合流した29騎のケンタウルスは負傷した16騎を回収して、撤退しようとする。
死体も18騎。

「数が合わないな、列車の中か・・・」

証拠は残したくないが長居は危険だった。
どうせ東部地域にケンタウルスの集落は無い。
列車の中のケンタウルスの素性を洗っても自治伯との繋がりを思わせる物は持たせていない。
流れのケンタウルスが勝手にやったと言い逃れが出来る。
遠ざかる列車を尻目に引き換えそうとすると、奇怪な羽音が上空から聞こえてきた。

「なんだ、この音は?」

同時に森の中からこちらを囲むように斑模様の緑の服を着た集団が現れる。
木々の間から銃を構えているのが判る。

「バカな日本兵だと、どっから現れたのだ。」

日本軍が駐屯する主要な町には見張りを置いてあったはずだ。
例え日本の車がどんなに早くてもケンタウルスの伝令に勝てるはずがない。
たが現実に目の前にいるのは・・・


困惑するトルイ達の前に低空をホバリングするMi−8TB、ヒップEの機首の備え付けられた12.7mm機銃が火を噴いた。
族長トルイは一瞬にして、真っ先に肉塊となった。
同時に列車から七号車両以降が切り離された。
ケンタウルス達は車両に向かって逃げ出す。
そこなら攻撃を受けないと考えたからだ。
だが半包囲していた陸上自衛隊の第4分遣隊の隊員達が前進しながら銃撃を開始する。

「ケンタウルスの指揮官以外の生死を問わない。
まあ、無理に捕まえる必要も無いがな。」

隊長の進藤一等陸尉の命令のもと、ケンタウルス達は一騎、また一騎と駆られていく。
そこに切り離された車両が線路で止まっているが乗客はとうにいない。
そのことは『よさこい3号』から連絡を受けている。
ケンタウルス達はそんなことは知らないので車両に集まっていく。

「いいカモだな、馬か?撃滅しろ。」

切り離された列車の中にいたケンタウルス達は先頭車両から飛び出し、遠ざかっていた列車に追い付いていく。
一匹が手摺を掴もうとしたところで、ヒルダのレイピアがドアの隙間からケンタウルスの手の甲を貫く。

「しつこいですわよ。」

反対側の手摺に掴もうとした一匹も浅井が鉈で手首ごと切り落とす。
残りの3頭は斉藤が転がしたてつはうの餌食となった。


ケンタウルス達が掃討され、再び汽車が停車する。
隊員達によって、乗客が外に出てきて治療や事情聴取を受けている。

「おやっさんしっかり!!」
「いやだよお、おやっさん、いかないでよう!!」

泣き叫ぶ機関助手達を尻目に、浅井と斉藤達はケンタウルスの荷物を漁る。
大半はケンタウルスの肉体ごとミンチに混じっていたが、車両近くのケンタウルス達は背後から銃弾を受けただけだ。

「あった!!」
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0043†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/14(木) 22:36:27.085274ID:2unORdJuK
列車の内部には5頭のケンタウルスが乗り込んだままだ。

「つ、連れ戻せ!!」

7号車両では突撃してくるケンタウルスを、久田と斉藤が刺又二本で押し止める。
狭い通路で走れないケンタウルスなら何とか押さえ込める。
座席の陰から浅井が鉈を振り回してるので勢いを殺したのも大きい。
市原とヒルダが弓でケンタウルスを射ると、後続のケンタウルスが前進できなくなる。
たがそこからケンタウルス達が矢を放ち久田に二本が刺さる。

「久田さん!!」

建川が久田を引きずりながら七号車両に移動しようとする。
だが久田が口から血と泡を吹き出している。
痺れる体で手だけ動かして、全員に六号車両に移動するよう指差す。
次にてつはうを指差した。
浅井達が六号車両に移動すると、サークルのメンバーがてつはうの導火線に火を着けて、七号車両に放り込んで七号車両のドアと六号車両のドアを閉める。
爆発音とともにドアが揺れる。
だがすぐにケンタウルスの姿がドアの窓から見える。
顔は血まみれだ。

「久田さんが・・・」

泣き顔の建川が敬礼しているので、浅井もそれに倣う。

「五号車両からは乗客が避難しているのでここらで食い止めたい。」

車掌の平田がシャベルを持ってやってくる。

「車両を切り離しましょう。」
「走行中に出来るんですか?」
「本来は配線やブレーキ管を外さないといけないのですが時間が無いから強引に切り離します。まずは連結機を切り離してから一つ一つ鉈で斬ります。」

平田が作業に入るが、岡島の声が車内放送で鳴り響く。

「バリケードに突っ込みます。何かに掴まりながら頭を守ってください!!」

全員が座席に捕まると何かに衝突したような衝撃が車内を揺るがしといく。

機関車
大沢達を乗せた機関車はゆっくりと加速を続け走り始める。
可能な限りに勢いを付けて、バリケードを吹っ飛ばして突破しないといけない。
機関助手達は必死に石炭を竈にくべている。

「いけ、いけ、いけぇ〜い!!」
手を振り回しながら声援する大沢の声に応えるように機関車の先頭部分がバリケードにぶつかり、粉砕しながら土砂を撒き散らす。
機関車周辺を駆けていたケンタウルス達が土砂を浴びて転倒していく。
機関車は震動しながらバリケードを突破してさらに加速を続ける。
「やったあ!!」

大沢は歓声を挙げるが肩に矢を受けていた。
そのまま崩れ落ちる。

「おやっさん!!」

「退け、退くんだ!!」

トルイは追い付いた兵達を一人一人に声を掛けて列車の追撃を止めさせる。
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0044†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/14(木) 22:44:31.472428ID:G6BARJjIK
>>43は失敗
>>42の続き

ケンタウルスの腰ベルトに毒、毒消し、麻痺の薬が入った小瓶を手にいれた。

「これを機関士に」

斉藤の助言、毒を使うものは解毒薬も持ち歩いているはずという言葉に従い、賭けには勝ったようだ。
ケンタウルスの薬を人間に使ってよいかは迷ったが、このままではどうせ死ぬ。
投薬後、顔色や呼吸が正常に戻ったことから薬が効果は確かめられた。
大沢機関士はヘリで一足早く新京大学病院に運ばれることになる。
やはり人間には人間の為の医療の方が安心出来る。
精神的に

「浅井二等陸尉、よく持ちこたえたものだな?」

仮設テントの指揮所で、進藤一尉がその労を労う。

「二人も死なせてしまいました。
そして、乗務員や乗客の奮戦の賜物です。」

「二人とも公務員として、国民に殉じた。
御冥福を祈る。
国鉄と鉄道公安本部は激怒してたよ。
我々もだよ。
大陸総督府は自衛隊に報復を許可した。」
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0046†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/14(木) 22:54:03.044584ID:KglkmCjKK
大陸南部シルベール伯爵領
迎賓館

「つまり日本側は武力討伐を決意したと見てよいのですな?」
「その通りだ。
トルイ族長とこれに味方する諸兄等をことごとく粉砕して、その権利を剥奪させて頂く。」

列車襲撃、第四分遣隊隊長暗殺、第五分遣隊基地襲撃の映像をプロジェクターから見せられたケンタウルス長老代表達は眉を潜めていた。
どの事件も発生から半日もたっていないのに大陸南部のこの地まで伝わっているのだ。
情報伝達の速さの有効性は彼等も認識している。
杉村外務局長はケンタウルス自治伯領に開戦か、降伏かの選択を迫ったのだ。
だが、彼等の返答は予想に反するものだった。

「心得た。
トルイの町の討伐の先陣、我等が確かに承った!!」
「何?」

ケンタウルス自治伯領に対する問題をトルイの町限定の問題にすり変えられたのだ。
途端に年若い長老が一人、会議室から退出していく。

「我々はケンタウルス自治伯領全体に対して言ってるのだかな。」

長老を睨みをつけるが長老達はどこ吹く風とばかりに気に求めていない。

「帝国ならば連座制による処罰も有り得ただろうが、王国は日本からの指導により連座制の処罰を廃止している。
だからトルイの部族以外が処罰を受けるのは対象外と我々は考えている。
まあ、それでは日本側もおさまらないのも理解している。
ゆえに自治伯軍並びに日本軍の連合軍によって、トルイの町を制圧、関係者を処分する。
日本側は遠征に対する財政、兵站に対する負担が減るのでは無いかな?
もちろん露払いを含む血も我等が流そう。」

痛いところを突いている。
大陸に派遣している陸上自衛隊部隊は各地に分散しているし、少しは生産が可能になったとはいえ、弾薬や燃料の補給も遅れぎみである。
反対に大陸から本国への食料・資源輸送任務から人手は割けない。
今回はトルイの町限定とするのは、日本の苦しい懐事情からも一理あるのだ。
杉村は全権を委任されてる者てして決断する。

「わかった。
今回はそれで手を打とう。
だが次もあると思うなよ?」
「肝に命じて起きましょう。」

長老達はまったく悪びれていない。

「いや、話がまとまってよかった。
何にしろ遠征までは、連絡や準備で時が掛かるでしょう?
今晩は親睦のパーティーでも如何ですかな?」

自称仲介役のシルベール伯に杉村は首を横に横にふる。

「せっかくですが、こちらの部隊が投入されるのは明後日です。
忙しくなりそうなので、今晩はご遠慮する。」

杉村としてはケンタウルス達に先陣を任せる気はなかった。
密かに関係者を逃亡させることまで疑っていたからだ。
だがケンタウルス長老達まで首を横に振っている。

「そうですぞ伯爵。
我らも先陣を承ったからにはのんびりもしておられるぬ。
こちらの先鋒は明日には攻撃を仕掛けますからな。」
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0047†Mango Mangüé(ワッチョイ 71df-TqnL)2018/06/15(金) 03:18:13.237912ID:2fYYRrS50
>>661
誰でも多少は差別主義です。それこそ、凡夫だから、仕方ないことなんです。
アレクセイやゾシマだって逃れることはできません。

アレクセイはカラマーゾフ最後のスピーチで少年たちに語った。

「みなさん、僕はみなさんにここで、ほかでもないこの場所でひと言言っておきたいこと
があるんです」  略
「みなさん、僕たちはもうじきお別れしなければなりません。

ここ、イリューシャの石のそばで、第一にイリューシャのことを、第二におたがいのことを
今後けっして忘れないという約束をしましょう。

そしてこれから一生のあいだになにが起ころうとも、またたとえおたがいにこれから二十年
も会わなくっても、あのあわれな少年をここで葬ったことを、忘れないようにしましょう。

... わたしたちはたとえ重大な仕事で忙しいときにも、―― 名誉をかち得たときにも、あるい
はまた大きな不幸におちいったときにも、とにかくいかなるときにおいても、 かつてこの町
でお互いに心をかよわせ、
善良な感情に結び合わされた、そしてそうした感情があのあわれな少年にたいする愛の行為
をわたしたちにつづけさせ、
そのあいだに、わたしたちをも実際以上にりっぱな人間にしあげた、このことを決して忘れ
ないようにしましょう
.................................................................. 略
つまり、われわれが悪い人間になることを恐れるからなんです
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0048†Mango Mangüé(ワッチョイ 49df-Cu4h)2018/06/15(金) 05:20:05.623257ID:Cl6XuqKC0
現状
中国・韓国・北朝鮮
反日教育と領土欲を正当化する為の歴史捏造、軍事力を背景にした恫喝

ロシア 
火事場泥棒癖有り、軍事力を背景にした恫喝

日本
憲法9条を原因とした軍事小国、日米同盟だけが独立を担保。アメリカの国力低下により風前の灯。


将来(理想)
日本
反日教育を止めない限り特定アジアとの連携は机上の空論
アメリカに協力しつつ防衛体制を増強の1択(改憲は勿論、徴兵制止む無し)
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0049†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/15(金) 06:58:29.837284ID:dek4337fK
>>46
杉村は絶句する。
ケンタウルス達は交渉の最中もトルイの町を攻撃する兵を派遣していたことを暴露したからだ。

ケンタウルスの将ウォルロックの陣

大族長の末子ウォルロックはケンタウルスの兵士二千を率いて、トルイの町まで60キロの地点で陣取っていた。
ウォルロックは先ほど届けられた、シルベールに派遣された長老達からの書状を読んでほそく笑む。

「皆の衆、大族長からの命令が下った。
これより日本と連合して、トルイの町を攻め滅ぼす。
今晩には戦端を開けるだろう。
日本も明日には合流出来るようだが・・・町には兵は僅かしか残っていない。
金も女も獲り放題だ!!
日本の連中にはビタ一文渡すな!!」

ウォルロックの檄に兵士達は喚声を挙げて喜び応える。
同種族の集落を滅ぼすのに何の躊躇いも感じられない。

「トルイ族長はやりすぎたのだ。
我等の足元を脅かし、自治伯随一の裕福な財産と町を創り上げた。
それらを今宵、我等に献上してもらう。
全軍、進撃せよ!!」

大陸東部新京特別区
日本国大陸総督府

「舐められたものだな。」

秋月総督の呆れたような口調とは別に、総督府官僚、自衛隊将官、国鉄総裁、鉄道公安本部本部長のお歴々の顔が怒りに満ちている。
電話で武力討伐の決定を杉村に伝えたらこの始末である。

「青木君、現在の陸上自衛隊にトルイの町を連中より早く攻撃する手段は無いのだね?」
「残念ながら・・・夜明け前なら、第17普通科連隊戦闘団で運用させている列車砲が使えるのですが。」

第16師団団長青木陸将の言葉に秋月は渋い顔をする。
すっかり何でも屋と化している第17普通科連隊戦闘団は、2A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲を装甲列車に備え付けて、列車砲として運用している。
現在は王都ソフィアから全速で現地に向かっているが、自治伯軍の攻撃にはどうやっても間に合わない。

「ならば空自だな。
本国の許可は取り付けてある。
松本空将、F−2を爆装させて出動を命じる。
そうだな訓練飛行で北サハリンのTu−95がこっちに来てたな。
大陸にいる間の指揮権は総督府にある。
彼等にも出動命令を出そう。」

戦略爆撃機Tu−95は恒例の『東京急行』の為にサハリンの基地に待機していたところを転移に巻き込まれた機体だ。
今回は北サハリンへの訓練と大陸での同胞への物資を持ってきただけなので、爆弾は二発しか持ってきてなかった。
FAB-1500とFAB-500である。

航空自衛隊
新京基地

新京国際空港に併設されたこの基地には、再編成された航空自衛隊第九航空団に所属するF−2戦闘機25機が配備されていた。
そのうちの2機が滑走路を飛び立つ。

『ウルティマ1よりウルティマ2へ、ベア5が飛び立った。
引き離さないように気を付けろ』
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0050†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/15(金) 07:04:21.430340ID:HnLPJ1TfK
『ウルティマ2了解、ベア5をエスコートします。』

傍受される可能性も無いから、平文で交信が常態化している。
そして両機の後背から巨大な戦略爆撃機が後を着いてくる。
音速を越えれるF−2から観れば鈍足だが、マッハ0,8で追ってくる。
ウルティマ2に水先案内人を任せ、ウルティマ1は先行して現地に向かう。
帰りは新香港の航空基地に着陸するので、戦闘行動半径は無視してよい距離だ。
爆弾投下後は軽くなるのだから尚更だ。
戦闘機の燃料補給は二時間が鉄則だが、一時間余りでトルイの町の近郊まで辿り着いていた。

『ウルティマ1より、ソフィアSOC。
すでに戦闘が始まってるぞ。』

王都ソフィアの基地に配備されたソフィア管制隊に報告し指示を仰ぐ。
ウォルロック率いる兵団は、トルイの町の城壁に火矢を放って攻撃を仕掛けていた。
トルイの町はトルイ族長が対同族を意識していたのか城壁と水掘りに囲まれてケンタウルスお得意の弓矢による攻撃が有効に活かせない造りになっている。
だが50頭の守備隊と町から徴用した義勇兵100頭、人族などの奴隷兵450人程度は二千頭ものウォルロック軍を捌くのは限界だった。
そこに爆音を響かせて、F−2戦闘機が低空から侵入してくる。

ウォルロックの兵団に見せ付けるかのように城壁を飛び越えて、Mk82 500lb 通常爆弾を1基、大手門の裏側に投下する。
投下された爆弾の爆発は大手門を崩壊させ、水掘を渡る為の石橋も崩落させていた。

「やりやがったな日本軍!!」

ウォルロックの兵団の主力も大半が爆風に煽られ、或いは単に驚いて地面に転がったり、地に伏していたりという有り様だった。
大手門から侵入出来なくなれば、既に支隊に攻撃させていた他の門に兵力を振り直さなければならない。
文句の一つも言いたいところだが、主戦場だった大手門を守っていた守備隊主力を一撃で壊滅させたのだから何も言えない。
だいたい当の日本の飛行機械は遥か彼方まで飛び去っている。
敵の主力は片付けたのに何故か攻略には時間が掛かる事態となっている。

「まあ、被害は減ったからよしとするか。」

ウォルロックは気を取り直して攻撃の続行と部隊の陣形を組み直す指示を出す。
ようやく日付が変わり、一刻ほどの時間を掛け、攻城の為の陣形を組み直した。
だが今度は先ほどを上回る轟音が戦場に鳴り響く。

「今度は何だ?」

ウォルロックが闇夜に観たもの
先程の飛行機械の何倍もの大きさを誇る大型機だった。

『ベア5より、ソフィアSOC。領主の館らしき大きな建物を確認。
FAB-1500を投下した。』

機長の通信の直後に地表での爆発を視認した。
全長100メートル程もあった屋敷が跡形も無く吹き飛んでいる。
ケンタウルス達が好む藁が町の至る所に置かれていたせいか、町の各所に飛び火して大火災となっている。

「この町はもうダメだな。
『ベア5より、ソフィアSOC。
これより新香港に帰投する。』
早く帰って、ママのボルシチが食べたい・・・」

ウルティマ2も東門、西門を橋ごと破壊して帰投の態勢に入っている。
あまりにも巨大な炎の柱と爆風と爆音に敵も味方も戦いの手を止めて身を守っている。
吹き飛ばされた建物の破片も敵味方関係なく降り注いで犠牲者を増やしている。

「・・・嫌がらせか・・・」
「若、危険です、お退り下さい!!」
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0051†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 07:10:40.210450ID:+PNgmTS0K
側近達に押し留められ、本陣を後退させる。
爆音に驚愕、或いは恐怖して棒立ちとなり動けなくなった兵達が続出している。
逃げ出す者が皆無だったのは称賛に値しよう。
たが、せっかくの組み直した城攻めの陣形が崩れ、無駄になってしまった。
残った南門は逃げてきた住民まで抵抗に加わっている。
反対に味方は町から見える炎に怯えと略奪出来なそうな事態に士気が下がっている。
死にもの狂いとなった敵に被害が大きくなりだしていた。
翌朝、自衛隊の偵察隊員が使者としてバイクで、ウォルロックの陣に訪れる。
並みいる将兵達は憔悴しきった顔をしていた。

「なんと、そちらはもう攻撃の範囲内で歩兵達も一時間の距離に配置済みと・・・
せっかくだが大手門、東西門と橋はそちらの攻撃で使えない。
南門突破して既に市街の半分を制圧した。
出番は無いと思うのだが?」

「ご心配には及びません。
我々は崩壊した大手門側から進攻させて頂きます。」

装甲列車に固定された2A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲の砲弾が大手門と繋がっている城壁に直撃し崩壊させていく。
その距離は20キロ。
その距離を列車降ろされた普通科隊員達は、やはり列車からクレーンで降ろされた装輪装甲車であるBTR-60PBやBTR-70の二両に21名の隊員が乗り込み先発する。
トルイの町の水掘は日本の城の掘と違ってさほど深くもない。
BTR-60PBやBTR-70の二両は水掘に入ってウォータージェットで航行し、対岸に隊員を上陸させて戻っていく。
徒歩でこちらに向かっている隊員を迎えに行ったのだ。
隊員達は見張りを撃ち倒し、城壁の穴を確保して侵入していく。
トルイの町の北側は大半が焼き付くされ、空爆による死体が点在している。
主戦場は町の中央の領主の館を抜かれて、こちら側に迫ってきている。

「当初の予定通りだ。
人間は解放し、ケンタウルスは撃ち殺せ。」
「味方のケンタウルスもいる筈ですが?」
「戦場で流れ矢はよくあることだ。
なるべく気を付けろよ?
見分けが付けばだがな。」

後背から自衛隊による攻撃が始まり、守備隊の防衛ラインは突き崩されていく。

隊長が拡声器で呼び掛ける。

「人族なら我々に降れ。
諸君の自由と生命だけは保証する。」

降伏しても殺されるか、奴隷に戻るかしかなかった人間達が手近のケンタウルスを殺害してこちらに駆け寄ってくる。
督戦しようと弓矢を構えるケンタウルスは隊員達に射殺される。
戦いはトルイの町のケンタウルスが男女問わず最後の一頭の抵抗が終わるまで続いた。
自治伯軍は約二百名近い死者とそれに倍する負傷者を出していた。
自衛隊側には人的損害は皆無である。
負傷や気絶などで生き残ったケンタウルスは奴隷に堕ちることになる。
人間の奴隷達は自衛隊が確保した。
渋るウォルロック達に略奪の権利を主張して自治伯領から装甲列車に乗せて脱出させのだ。
ケンタウルス自治伯爵領最大の都市トルイは僅か2日の攻防で消滅したのだった。

大陸中央部
王都ソフィア
国務省

『よさこい3号』襲撃事件から7日目、代官就任の手続きと挨拶、さらには一連の事件の事情聴取を終えた斉藤とヒルダは、国務省の玄関先で乗り付けた軽装甲機動車に気がついた。
運転席からは浅井二等陸尉が手招きしていた。
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0052†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 07:41:10.321912ID:DKFeZVCDK
「駅まで送ろう、姫様は後ろな。」

荷物を積み込みソフィア中央駅まで車を走らせる。
本来は馬車が通る道なので、まばらに人が歩いてたりするのであまりスピードは出せない。

「お仲間は先にアンフォニーに?」
「はい、途中のジェノアで自衛隊さんから、奴隷・・・おっと、難民を引き取らないといけないですからね。」

トルイの町で保護した三百名の奴隷は、総督府がトルイの町を攻撃したことの正統性を得る為の道具であった。
同時多発テロに対する関係者の逮捕に向かったら、たまたまケンタウルス自治伯の『内戦』に遭遇したので救助並びに解放したというのがマスコミ対策の名目である。
この時点では空爆の情報は関係者にしか知られていない。
ろくに日本の民間人が存在しない南部地域からの情報伝達は遅いし、自治伯領自体が奴隷と商人以外の人族には閉鎖的だ。
商人達も馬車での移動を数ヶ月単位で行うので、日本の民間人が多い東部地域に伝わるまで数ヶ月は掛かるだろう。
北サハリンは軍事情報をいちいち民間に公開しないし、民間人もあまり気にしてないのはお国柄だろう。
ヒルダと斉藤には空爆の情報を教えてある。
その必要があったからだ。

「総督府の杉村外務局長が感謝してたぜ?
だがよかったのか、難民を三百人も引き取って貰って?
こっちももてあましてたのは確かなんだが・・・」

後部座席からヒルダが身を乗り出して話に加わってくる。

「問題ありませんわ。
新香港の出資で作られるハイライン港、ハイラインからアンフォニーまでの街道の整備、サークルの相澤が提案していたアンフォニーとハイラインの治水事業、南北線の線路敷設事業。
アンフォニーでの学校の建設なんてのもありますわね。
人手が足りないくらいでしたもの。
彼等には代金分働いてもらいますわ。
費用は新香港持ちですけど、人夫として購入した名目ですから。」

斉藤も苦笑しながら

「建前は大事ですからね。
総督府から新香港が渋らないように力添え頼みます?
国営放送と大陸通信社に難民が解放されて、自由を謳歌しながら労働に励む姿や難民の子弟が元気に学校で勉学に励む姿のドキュメンタリー番組を作らせる協力をするのですから」

「上と色々企んでるんだな。
で、新香港は何を得るんだ?」

「トルイの町改め、ウォルロックの町とその周辺地域の交易の独占権といったところかしら?
まあ、そのへんは父と兄に任せておけばいいですわ。
問題は残った既得権益の商人なのですが・・・」

「エリクソン氏は行方不明だ。
懸賞金付きで指名手配にして、残った財産は王国が没収してるよ。」

意外に八方丸く治まったとヒルダと斉藤もホッとしている。

「さて、アンフォニーまで着いていく筈だったんだが一連のゴタゴタの後始末でここでお別れだ。」

車はソフィア中央駅のロータリーに着いていた。

「道中楽しかったですわ。」
「機会があればまたお逢いしましょう。」
「今度こそ無事着いてくれよ?
いずれ遊びに行くの楽しみにしてるからな。」

改札の向こうに二人が消えるまで、浅井は見送っていたのだった。列車が出発し、二人は今後のことを話し出す。
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0053†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 07:48:49.058285ID:wkZzmX9OK
「さあ、夢にまで見た内政チートでウハウハ生活の始まりよ。
我等の野望の第一歩、最初に何から始めるのかしら新任代官殿は?」
「まずは領民に入浴と歯磨きの習慣化の義務付けですね。」
「地味ねぇ・・・」
「いや、これが結構大事なんですよ、例えば・・・」

王都ソフィア近郊
瑞X林地帯

「ハッハハ、モウカクシテタアジトニフミコマレタゾ。
アレハオウトノキシダンダナ。」

間一髪潜伏していたアジトから連れ出されたエリクソンは、汗もダラダラに垂らして一息つく。
アジト周辺には松明が移動してるのが見える。
まだ、捜索は続いているようだ。
白馬の馬の騎士アウグストスは脇に抱えたエリクソンを地面に投げ下ろす。

「か、閣下の御尽力で助かりましたが・・・これからどうする気で?」

「ココデオワカレダナ。
ドウセホカニモアジトヤザイサンヲノコシテルンダロ?
ワレハヤツラトオナジブキ、タタカイカタヲスルレンチュウトタタカエテ、オオムネツヨサヲマナンダ。
ソロソロカエルトキカモシレンナ。」

遠くを見るアウグストスにエリクソンは服の汚れを落としながら疑問を口にする。

「失礼ながら閣下のお姿では、船に乗るのも困難だと思うのですが・・・私ももうお力になれませんし、ケンタウルス達も最早あてには出来ないでしょう。」

「マアイザトナレバオヨイデカエルサ、ハッハハ。
イキテイレバマタアオウ!!」

白馬の馬の騎士はそう言って愛妻の背に乗って、颯爽と駆けていった。
独り残されたエリクソンはアウグストスの姿が見えなくなると北に向かって旅立つ。

「まずは新しい戸籍を手に入れないとな。」

大陸東部
新京特別区
大陸総督府

「まさか、八方丸く治まったなんて考えてるんじゃないだろうな?とんでも無い、本国が激怒してるぞ。」

秋月総督の言葉に自衛隊、官僚、公社の幹部たちが恐縮している。
特に交渉で翻弄された杉村外務局長は頭を垂れている。
秘書官の秋山が被害を報告する。

「『よさこい3号』の事件の調査、修理と線路の補修、点検、死亡した乗務員の後任人事。
最大で4日はスケジュールに遅延が出ます。
その間に本国で出るであろう餓死者や自殺者の増加。
損害は大きいです。」
「本国マスコミは我々の食糧調達の不備を非難している。
貴族達からもう少し締め上げてもいいんじゃないかとか、民主化に対する試みが全く行われていないとかな。」

総督の言葉に大陸各地で年貢を徴収し、本国に輸送する部門の局長が不満をぶちまける。
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0054†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 07:52:58.074766ID:f+Xy+nOHK
「馬鹿な・・・確かに検地の完遂は東部地域だけで他は自己申告。
本国に送れる食糧が不足しているのは間違いない。
だが現状の人手不足で、貴族達の締め上げはギリギリの線で行っている。
これ以上は、ストライキと反乱を招くぞ。」

今年になってようやく南部地域に手をつけれるようなったのだ。
未舗装の街道による移動と輸送の困難。
散発的に現れるモンスターや帝国残党に対する自衛隊の護衛部隊の編成。
同時に大陸に移民した日本人へのインフラの建設。
問題は山積みなのだ。
王国政府と民政を調整する局長も声をあらげる。

「民主化とか話にならん。
大陸の教育レベルがそれに追い付いてない。
第一、我々がそれをやらないといけない理由はなんだ?
コストばかり掛かって将来の商売敵でも作るのか?
人材も資源も無限じゃないのだ。
時間だって足りない・・・本国では今でも・・・」

最初は項垂れてた官僚達の目が血走っている。
秋月総督は本国から伝えられた決定事項を伝える。

「マスコミが世論を煽るのはいつものことだが、世論に圧されて大陸への強硬策を取られてはたまらない。
だから政府も我々と大陸に強硬策を取るフリをすることが決定された。」

全員が座席から立ち上がった第16師団師団長青木一也陸将に注目する。

「静岡県御殿場市の板妻駐屯地の第34普通科連隊を基幹とする第34普通科連隊戦闘団が大陸に派遣、駐屯することになる。
その家族も含めて約八千名を受け入れる。」

妙に人数が多いのは転移後に食糧配給で優遇を受ける自衛隊隊員の既婚率が高いのと、それを頼って両家の親との同居が多いからである。
秋月総督は多少不安そうに質問する。

「本国の部隊がファンタジーな大陸に馴染んで戦力化するのには少し時間が掛かるかな?」
「いえ、34普連は本国で最もファンタジーとの戦闘経験が豊富な部隊です。」

青木陸将の答えに王都から来ていた第17普通科連隊戦闘団団長碓井一等陸佐が横槍を入れる。

「ああ、陸将・・・あれはファンタジーとは少し違うと思うぜ・・・」
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0056†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 07:57:21.427549ID:GUxRRtVdK
転移5年目
山梨県鳴沢村

人口六千人ほどのこの村は、日本転移後に人口が激増した。
食糧の増産と確保の為に村を出ていった住民の家族や親族が戻ってきたからである。
この傾向は日本中の田舎で見られていた。
この村でもジャガイモやキャベツ、トウモロコシの増産で比較的豊かな生活を送っていた。
だがこの豊かな地には忌まわしい歴史のある地域が存在する。
自殺の名所、青木ヶ原の樹海である。
転移後、大量の第三次産業の営業が不可能になったことにより大量の失業者が発生した。
その結果、何が起きたかというと全国の自殺の名所が例年に無い賑わいを見せる羽目になっていたのである。

「また、自殺志願者の保護かねぇ・・・」
「駐在さん達も大変だな・・・」

畑を耕し、農作業に従事していた農家の方々がパトカーで連行されていく若者を見ながら休憩している。
最早こんな光景は日常茶飯事で、取り立てて驚く話ではないが村の評判に傷が付くと眉をひそめていた。
だが樹海の向こうから呻き声が聞こえて振り返る。

「また、自殺志願者かね?」
「駐在さん達も大変だな ・・・」

完全に他人事のつもりだが樹海の外から出てきた人間の姿に顔を青ざめさせる。
顔は土気色、首が変なふうに曲がっていて腐臭を漂わせて、顔から蛆が沸いて出ている。

「こ、これは・・・ひょっとしてゾンビ?」
「ち、駐在さん助けて!!」

正確にはリビングデッドなのだが、日本人的には一律でゾンビである。
悲鳴を聞いた警官達がパトカーから拳銃を握って駆け付けてくる。
日本の各所がモンスターに襲われる事態が多発していた為に警官達も銃を抜くのも発砲するのもためらいはない。
だがそれは拳銃二丁で倒すことができる相手ならばだ。
ゾンビ程度、銃弾12発もあれば十分のはずだ。
弱点は頭部、映画ではそうだった。
そして、警官達は拳銃を構えてグールを狙うがすぐに回れ右してパトカーまで逃げ出す。

「逃げろ!!」

樹海の奥から数十体、数百体のグールが姿を現したからだ。
パトカーには先ほど拘束した自殺志願者がグールの群れを見ていた。

「ああは、なりたくないな・・・もうちょっと頑張ってみるか。」

パトカーに警官達が乗り込んでくる。

「こちら鳴沢PC02、青木ヶ原樹海から大量のゾンビが発生、応援を求む、至急応援を求む!!」


山梨県富士吉田市
富士吉田警察署

署長室では鳴沢村からの報告に対応策が練られていた。

「幸いゾンビ達は普通の人間が歩くよりは足が遅い。
地域住民を避難させつつ、遠距離から銃撃と車両による体当たりで足留めしろ。」
「現場の警官達の銃弾では足りないかもしれません。」
「河口湖交番と河口駐在所からもゾンビの発生が報告されました。
警官が応戦しながら、消防団や役場の人間が休館した富士急ハイランドに住民を避難させています。
あそこなら周囲をゲートや柵で取り囲まれて封鎖できるからです。」
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0057†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 08:00:30.426224ID:dkLj7L3pK
署長は現場の警官では対処が不可能と判断した。
県警本部の応援など待ってはいられない。
電話を富士吉田市市長に直接掛ける。

「署長の北村です。
すでに報告は聞いておられていると思いますが・・・
はい、現有の戦力では市民の安全を守るのは無理と判断しました。
自衛隊の出動の要請をお願いします。」


静岡県御殿場市
板妻駐屯地第34普通科連隊

県知事からの防衛出動の要請を受けて、隊員達が73式トラックや高機動車に乗り込み順次出撃している。
今回はゾンビの発生と事態が判明しているので、即応性が求められたので準備が出来た分隊、小隊単位で出発させた。

「連隊長、忍野村から第一特科連隊が出たそうですが、砲の類いが使えないのでこちらの到着を至急とのことです。」

幕僚の言葉に連隊長市川一等陸佐が首を傾げる。

「砲が使えないとはどういうことだ?」
「山梨県庁や農林水産省からの要請で田畑での戦闘は避けて欲しいと。
となると市街地で迎え撃つことになるのですが、やはりここでも砲撃は行えません。
1特連の隊員は小銃だけで応戦している模様です。」

それでも第一特科連隊は転移後の再編と増強を行っており樹海と隣接する山中湖村、忍野村、富士吉田市、富士河口湖村で掃討と警戒に当たっていた。
また、現在はゾンビの発生は確認されていないが富士山を挟んで静岡県側は普通科教導連隊が派遣されるて警戒にあたることになる。

「そして現在確認されているゾンビの規模なのですが、最大で二千体はいるとの報告です。
やはり映画のように噛まれると感染するらしく、樹海に何故かいたヤクザや自殺志願者がゾンビに変化したそうです。」

青木ヶ原の樹海は転移前の2010年には250人が自殺を試み、50名近くが実際に命を落としている。
転移後の失業者の増大から自殺志願者が大量に押し掛けて問題になっていた。
だがこれまではゾンビなどは発生したことは無かった。
同じように死体が安置される警察や病院、葬儀会場、墓場、もしくは殺人や事故の現場では発生していない。
大陸でも同様であるが、戦場や虐殺現場など死体が溢れ放置されているような場所では、死体が甦って人を襲うことは稀にあるという。
また、死霊魔術や暗黒神の神官の神聖魔法で故意に発生させることは出来るという。

「横浜の残党の仕業でしょうか?」
「連中は神奈川県警のSATと機動隊が全員射殺か逮捕したんだろ?
原因を考えるのは専門の連中に任せればいい。
我々のやることは掃討と国民の安全を守ることだ。
第一特科連隊の手が回らない鳴沢村に我々は展開する。
途中で連中と遭遇したら迷わず成仏させてやれ、以上!!」

幕僚達も車両に乗り込んでいく。
市川連隊長も高機動車に乗り込むが思わずため息をつく。

「この世界で発生する現象は日本も例外じゃないか、当然だな。
しかし、二千体か・・・よくもまあ白骨化もせずに・・・もう少し命を大事にしようぜ。」

各地の隊員達はそれでも危なげなくゾンビを討伐していた。

「頭を完全に撃ち抜けなんて、一発じゃ無理だよな。」
「車両で壁を作って分断して潰していこう。」

89式小銃で1体1体仕留めていく。
歩くよりは遅い相手に遠距離から攻撃出来る自衛隊は特に損害も出さずに任務をこなしていった。


富士吉田市
富士急ハイランド

市民の大半を収容した富士急ハイランドにも二百体近いゾンビが押し掛けていた。
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0058†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 08:06:11.895910ID:zJPMqtAhK
幸い柵や壁にゲート、外周に配置した車両で中への侵入は防いでいた。
そして、50名程度の警官が柵をよじ登ろうとするゾンビを拳銃で仕留めていくが、それほど豊富でも無い弾薬は底を尽き始めていた。

「よ、よく狙え!!」

また1体仕留めるが使用した弾丸は4発。
頭部に弾丸が命中したゾンビはよじ登ろうとしていた柵から落ちていった。

「課長・・・今のが最後の弾丸です」

富士急ハイランドの警備に駆り出されて指揮をとっていた総務課長の和田は残りのゾンビの数を確認させる。

「120体か、市民は鍵の掛かる施設に避難させたがまだ足りないな。
観覧車とか、絶叫マシーンにも乗せて発進させろ。
動いてる限り連中には捕まらん。」

この富士急ハイランドは、地球でも有数の絶叫マシーンを多数設置していた。
連続運転にしておけばゾンビ達が群がっても弾き飛ばされるだけだ。
元従業員の避難民の協力をへて、女子供老人を絶叫マシーンに乗せて稼働させていく。

「課長、正面ゲートが突破されそうだと・・・」

かつては数十万人の入場客を迎えるための大きく建設された正面ゲートはバスや車両で封鎖されていた。
だがゾンビ達は車両の下を潜ったり、屋根に登ってきて突破を試みていた。
警官達や青年団は警棒やバットやスコップで頭部を潰して防いでいたが押し寄せる数が増えてきて限界に達していた。
若い警官の一人が老人のゾンビに足首を噛まれて倒れこむ。

「高松!!」

同僚の警官がバットで高松巡査に噛み付いているゾンビの頭を叩き割り、高松巡査を後方に引き摺っていく。

「しっかりしろ、傷は浅い!!」
「いやだあ、ゾンビにはなりたくない・・・なあ、その前に・・・その前に・・・」

高松巡査と警察学校からの同期であり友人であった宮村巡査は目を閉じて決意する。

「すまん・・・」

バットを持っ手を握り締め振りかぶる。

「銃弾があればよかったな。
あれなら一発で逝ける・・・」
「全くだ・・・せめて早く逝けるように力いっぱいやるな。」

憎んでも無い相手どころか、友人を全力でバットで殴り殺して頭を潰す。
考えてみるだけで憂鬱な気分になる。
次の瞬間、殴り倒されてるのは宮村巡査だった。

「か、課長?」

高松巡査の困惑する声が聞こえる。

「馬鹿野郎、よく確認しろ。
高松巡査を噛んだゾンビは総入れ歯じゃないか!!」

宮村巡査が倒した老人のゾンビの口からは、あきらかに総入れ歯だった物体がプラスチックの物体が飛び出て転がっている。

「・・・」
「・・・」

高松巡査も宮村巡査も立ち上がり、ばつが悪そうな顔をしている。

「俺、もうちょっと頑張ってみるよ。」
「そ、そうだな」

二人は再びバットと警棒を持って、正面ゲートの防衛ラインに戻っていった。
和田総務課長も警戒杖を持って走りだす。

「押し戻せ、ここが正念場だぞ!!」


第一特科連隊が樹海越しにゾンビ達の流入を防いでる間に第34普通科連隊は街中をうろつくゾンビを蹴散らしながら富士吉田市の南端にある富士急ハイランドの正面ゲート外側まで進出していた。

「隊長、あれを!!」

部下に促され小隊長の木原二等陸尉は高機動車の助手席の窓を開ける。
双眼鏡で確認できたのは正面ゲートに押し寄せる百体以上のゾンビだった。

「小銃だけじゃきついな。
車を傍に着けて手榴弾をばらまく。」

高機動車がゾンビの群れに最接近し、窓から乗っていた隊員達が持っていた手榴弾を全部ばらまいて一目散に逃げ出す。
ゾンビの群れは高機動車を追おうとするが、手榴弾の爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる。

「やったか?」

だが爆炎の数十体のゾンビが四肢を損壊させ、体に炎を纏いながらもこちらに向かってくる。
後続の73式トラックから降りてきた隊員達もこの光景に戦慄している。

「数は減らしてこちらに引き付けることは出来たか。
小隊射撃用意、なるべく頭部を撃ち抜け・・・撃て!!」
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0059†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 08:08:26.184217ID:dvYOZDvTK
鳴沢村
いまだに封鎖し切れていない鳴沢村では駐在と応援に駆け付けてきた近隣の警官15名が奮戦していた。
すでに隣町の河口湖町まで自衛隊の部隊が到着しているのは無線でわかっている。
400体近いゾンビをこの人数で捌けたのは奇跡に近い。
住民は公民館に避難させて猟銃を持った村民が僅かに抵抗できているだけだ。
銃弾も無くなり駆け付けてきてくれた警官達含めて13人が奴らの仲間入りをしている。
生き残ったのは最初にゾンビの襲来を通報した駐在の二人と今だにパトカーから出してもらえない自殺志願者の今井だけだった。
その今井も拾ったシャベルでパトカーの中から必死に戦っている。

「し、死んでたまるかあ!!」

公民館からの猟銃の援護を受けて、三人はパトカーでゾンビを跳ねとばしながら逃げ惑う。
ちょうどそこに第34普通科連隊の高機動車や73式トラックが数台到着する。
隊員達が降車しながら射撃を始めてゾンビ達の数が減っていく。


自衛隊は富士スバルラインから北富士演習場を基準に展開し、封鎖ラインを敷いて掃討にあたっていた。


UA:N05C
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[2]
01/19 00:54
だがこの封鎖ラインが敷かれる前に負傷者を多数乗せたマイクロバスが、中央自動車道河口湖インターチェンジ入り口から高速道路に乗り込み岩殿トンネル上り側出口で不自然に蛇行したあとにガードレールに車を擦り付けて横転した。

横転したマイクロバスの中からいかつい顔をして、彫り物をしたガタイのよいゾンビ達24体が這い出てくる。
その群れは高速道路から大月市に侵入しようとしていた。
その光景はトンネル出口に設置してある道路公団のカメラで捉えられている。
通報を受けた大月市に防災サイレンが鳴り響く。


府中刑務所
富士吉田市や河口湖町、鳴滝村での惨劇の映像が、同拘置所での視聴覚室で流されていた。
観客は拘置所の囚人服を着た金髪碧眼の青年だ。

「なるほど興味深い。
一つ質問なんだが青木ヶ原の樹海とやら戦場か何かかね?
なんであんなに死体が放置されてたんだ?」
「あそこは自殺の名所と呼ばれててな。
転移後の混乱でますます数が増えて手がつけれなかった。」

背広にサングラスの無個性な中年が答える。
もう一年もの付き合いになるが青年は彼が笑ったり怒ったりするところを見たことがない。

「だからといって一地域に数千人も・・・交通機関の発達のせいか・・・で、何が聞きたい、佐々木主任調査官殿?」
「いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように、どのくらいだ。」
「要点をまとめた簡潔な質問の仕方だな。
まあ、アンデットのことは学術都市や魔術師ギルドでも詳細はわかっていない。
研究したがる人少ないのだよね。
死体の扱うの嫌だし。」

それに関しては青年も佐々木も同感であった。

「だが、長年の変人共の研究の成果はある程度蓄積されている。まずは『どこで』だな。
これは答えるまでも無い。
すでに現場で事態は起きてるからな。
次は『なぜ』は目的かな?
まあ、日本に対立する以外に無いだろう。
一種の騒乱だしね、これは。
ああ、諸君はあれをリビングデッドと考えてるのだろうが少し違う。
あれはワイトだ。
『どのように』は屍に邪悪なる魔法で悪霊を込めて作り出す屍人さ。
君等は屍人をなんでもゾンビと呼ばれる種で分類してるだろ。
実に乱暴な分類だ。
ところで・・・これ、『何を』に被らない?」

地球ではフィクションの中だけだった存在の分類なんてマニアしかやらんだろうなと佐々木は考えていた。

「つまり事態を引き起こした『だれか』がいることになる。
ああ、心当たりは無いよ?
ご存知の通り、私はもう一年近くここに拘留されてるからね。
だから『いつ』と聞かれると、事件の発生前の数日の間だろう、としか答えられない。」


山梨県
大月市
岩殿山トンネル出口の高速道路から降りた屍人の一団は、国道139号線から市街地のある大月駅方向に向かっていた。
途中の住民達は家の中で息を潜めているか、駅の方向に避難している。
避難民に誘導されるように屍人が追いて行ってるのだが、桂川を渡る高月橋に大月警察署の警官隊がパトカーで封鎖して待ち構えていた。
同時に近所の自衛隊山梨地方協力本部大月地域事務所から、三人しかいない自衛官が89式小銃を構えている。

「私は空自の人間なんだけどね。」

所長の大下三佐が溜息を吐く。
燃料不足でロクに活動出来ない空自の隊員がこういった機関への出向が増えていた。
反対に陸自の隊員が機関からの原隊復帰が増えていた。
事務所の他の隊員も空自でレーダーサイトなどで働いていた者達ばかりだ。

「来たぞ!!」

警官の声に自衛官達がパトカーを盾に小銃を構える。
警官達も拳銃を構える。

「目標、数18・・・撃て!!」


府中刑務所
「次はなんだっけ?
多分君たちが一番気にしてるのは『どのくらい』か、これは終息までの時間や拡大する規模と解釈できるな?
普通、大陸ではあんな大規模なアンデット災害は起きないんだ。
戦場跡は司祭や神官達が浄化するし、放置されてた虐殺現場だって死体の悪霊数十体が存在して屍人が1体作り出される程度。
普通の闇司祭や死霊魔術師が魔力を込めても1日1体が限界じゃないかな?
私なら30体はいけるけど。
だからあの場所の悪霊の数とそれに魔力を注ぎ込んだ術者の力は異常だ。
少なくとも大陸には存在しない。」
「こつこつ毎日作り上げていたんじゃないか?」

佐々木主任調査官は自分で言っておいて、それは無いなと思っていた。
話に聞くかぎりでは、不可能では無いが毎日死体に囲まれて根気のいる作業だと思った。
第一、樹海近辺は県警や自警団がパトロールをしているのだ。
そんな死霊軍団がうろついて見つからない筈がない。

「腐敗した集団と四六時中いるわけだからな。
先に病気になりそうだ。
報告書も見せて貰ったが、噛まれた負傷者からは屍人になった者はいないのだろう?
君達のレンタルビデオからゾンビ映画を見せて貰ったが、我々の世界とは少し違う。
君達の世界では、噛まれたら死んでゾンビになる。
この世界では噛まれて死んだら屍人になる。」
「それはどう違うんだ?」
「一口噛まれた具合じゃ人間死なないよ。
と、いう意味だ。
その後、病気か殺人か事故か老衰か。
別の死因で死んでから屍人になる二次的な現象だ。
ああ、屍人に噛まれまくって死んだらさすがにその場で屍人だけどね。
これは病気の類いじゃなく呪いの類いなのさ。」

つまり加速度的に屍人が増加するわけではなく、今回の事態が終息すれば一段落ということだ。
あとは噛まれた負傷者達を拘束或いは監視すれば解決である。
長い時間が掛かるが、仕方がないだろう。

「だから早く治療してあげたまえ。
そうすれば屍人になることも無い。」
「治療出来るのかよ!!」

青年は初めて佐々木主任調査官の表情が変わったところを見て興味深そうに笑いだした。

「ああ、僕なら出来る。
だから現場に連れて行きたまえ。
たまには外の空気も吸いたいしね。」


大月市
中央自動車道
岩殿山トンネル出口
山梨県県警交通機動隊のパトカーや白バイが横転したマイクロバスを包囲していた。
さらに到着した山梨県警機動隊員が慎重に拳銃を構えながらマイクロバスに侵入する。
中には食い散らされている死体や食い散らされすぎて動けなくなっている屍人がいる。

「1体クリアー」
「こちらも1体クリアー」

安全を確認してから中に刑事達も入ってくる。
まだ、どうにか確認できる死体の顔から身元を洗っているのだ。
今だに高月橋の戦いは続いているようで、銃声がこちらまでこだましている。

「あ、こいつ前科者だ。甲州会系石和黒駒一家の小池だ。」
「こっちもですね。やはり石和黒駒一家の小宮山です。」
「連中が樹海で何をしてたか聞き出す必要があるな、令状をとれ。
こいつら樹海で何をしてたんだ?」


高月橋から反対側の道には岩殿山城跡に続く坂道が存在する。
住宅が幾つかあるがすでに住民は避難しており、山道も通れば警察の警戒線を抜けることも可能だった。
そんな山道を7体の屍人が岩殿山を越えて賑岡町に到達していた。
賑岡町は避難地域に指定されていなかった。
地元の寺円法寺は先日亡くなった老人の葬儀が行われていた。
集まった参列者も老人が多く。
転移後に日本に存在した宗教団体は、『彼等』の神々が創世した地球とは別の世界であることから、その団体としての存在意義を多いに喪失していた。
それでも神道に関して言えば日本列島が存在していれば基本的に問題がなかった。
仏教は葬儀という生活に密着した世俗的な団体としてどうにか成立していた。
円法寺の住職円楽は転移前は大学生として青春を謳歌していたが、就活中に日本が転移した。
その結果、就職を希望していた会社が軒並み営業停止になったことから実家の寺を継ぐこととなった。
それなりに修行して、先年亡くなった父の跡を継いで住職にもなった。
だがはっきりいって生臭坊主もいいところで、石和温泉で芸者遊びや隣町のスナックでホステスを口説いていたりした。
そんな円楽も葬儀の為にお経を唱え、木魚を叩いていた。
だが参列者達が急に騒ぎはじめた。
お経を止め、注意しようと振り替えると寺の敷地に屍人が乱入したのだ。
参列者達は逃げ出すが本堂にいた円楽はその場から動かなかった。
正座で足が痺れていたからだ。
寺は壁に囲まれていて、参列者達は右往左往逃げまわっている。
やがて本堂に集まって追い詰められていく。

「住職!?」
「お坊さん助けて!!」
「ひぃー」

参列者達が次々と彼に助けを求めてくる。

『おいおい、どんな無茶ぶりだよ。
無理に決まっているだろ。』

聖職者は心の中で悪態をついていた。
型通りの儀式や経文を唱えることは出来るが、仏僧でありながら信仰とはほど遠い人生を送ってきた自分に出来るわけがない。
だが襲われる参列者達、自分に迫ってくる屍人をみて思わず経を唱えはじめていた。

「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是 舎利子 是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中・・・」

般若心経を無我夢中で唱える。
ふと目を開けると屍人達の動きが止まっている。
参列者達も不思議そうに見ている。
だが円楽の口が止まると屍人達がまた動き出す。

「無色 無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法
無眼界 乃至無意識界 無無明亦 無無明尽
乃至無老死 亦無老死尽 無苦集滅道 無智亦無得」

慌てて般若心経を再び唱えると屍人達の動きも止まる。
止まるだけだ。
やっくりと経を唱えながら円楽と参列者もお堂から離れて門から逃げようとする。
だが門を離れて経が聞こえない距離になると屍人が追ってくる。
参列者達は円楽が引き付けている間に逃げ出して円楽は一人になってゆく。
参列者達から警察に通報はいっただろうからもう少しの辛抱の筈だ。

『まるで達磨さんが転んだだな。』

追い駆けっこは続いていた。
やがてヘリコプターが2機が、大月自動車学校に着陸した。
佐々木主任調査官と金髪碧眼の青年、そして10名ほどの黒装束の小銃を持った男達が降りてくる。

『た、助かった・・・』

円楽は安堵の気持ちがあったが様子がおかしい。
武装した男達は全員が青年に銃を向けている。
自衛隊なのか警察なのかも円楽には区別がつかない。
青年はそんな自分のおかれた状況を無視してこちらを凝視していた。

「これは驚いた。
彼の唱える呪文が屍人の動きを封じている。」
「あれはお経だ。
魔法ではない。」

背広の男が解説している。
『そんなことはいいから、早くなんとかしてくれ〜』

喉がもう限界に近かった。

「確かにあの呪文、経だっけ?
『力ある言葉』になってないな。
魔力の高まりも感じられない。
どれ一つ、門を開いてあげよう。」
「何をする気だ?」
「彼に僕の魔力をちょっと分けてあげるだ
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0060†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 08:15:13.391844ID:bixcXcOoK
けさ。」

青年は円楽の背中に手を当てると、呪文を唱えはじめた。
円楽の体が何かの力が溢れるような感覚。
その瞬間、般若心経が『力ある言葉』になった。
屍人から離れる悪霊の姿が、佐々木や武装した隊員、様子を伺っていた住民達の目にもはっきりと見えていた。
悪霊の離れた屍人はただの死体に戻っていた。

「仏様・・・」

その光景をみていた住民達が手を合わせている。

「ど、どうなったのだ。」
「驚いた。
ちょっと背中を押すだけのつもりだったんだが・・・この世界に30番目の神『仏様』の降臨したようだ。」
「なんだと?」
「君らがこの世界に来てから三回目かな?
まあ、詳しいことは今後の研究次第だろう。
それより、そこの聖職者さん・・・気を失ってるよ。
大事なサンプルだ、丁重に扱いたまえ。」

青年と佐々木は大月市の負傷者の有無を確かめると、事後処理を警察に任せて再びヘリコプターに乗って富士吉田市に向かった。
ヘリコプターの中から岩殿山で酌んだ湧き水で青年は聖水を造り上げている。

「これを負傷者の傷口に塗れば呪いから浄化される。
散布すれば土地も浄化されていくよ。」
「お前さんそんなことも出来るのかよ。」
「貴族の義務でね。
神殿に多額の寄進をしたら名誉司祭の枠を貰ってしまったのさ。
で、ちょっと興味出たんで学んでみたのさ。」

信仰とはほど遠い聖水に佐々木は不安になった。

「後は発生源になんらかの祭壇か、魔方陣とかあるはずたから破壊すれば完全に終わりかな?」
「樹海中を探すのか?」
「屍人がやってくる方向を辿ればいい。
死体の方が先に尽きるかもしれないがな。」
「自衛隊には苦労を掛けそうだ。術者もそこにいるのか?」
「私ならとっくに逃げてるね。」


転移九年
府中刑務所
佐々木統括調査官がいつものようにノックもせずに入室してくる。
刑務所の牢屋とは思えない72畳ほどの広さ。
ベッドからソファーに台所、本棚やVHSビデオテープからDVD、大型テレビにパソコンまで置かれている。
テーブルには水晶玉が置かれてい。
金髪の青年はベッドで寝ているが、ソファーに座った佐々木は構わず水晶玉に話掛けている。

「起きてるか?」
「ああ、問題ない。
今日は何か御用かな佐々木統括調査官殿?」

水晶玉から声がする。
青年は普段は水晶玉に意識を移して、肉体の時間を停止させて保存している。
それでも完全に停止しているわけでなく、1日に30分だけ肉体が老化するらしい。
年間で7日と半日程度だ。

「退官の挨拶に来た。
今後、二度と会うことは無いだろう。」
「ああ、少し待ちたまぇ。」

水晶玉が色を失ったように黒くなり、青年が目を覚まして起き上がる。

「何かと世話になった相手に玉の中からでは失礼だからな。
しかし、定年までは少し早いのではないか?
退官したらどうするのかね?」
「早期退職というやつさ、大陸で農業にでもチャレンジしてみようかと思う。
今なら政府からの支援と指導があるからな、体力のあるうちに始めようと思ってな。」
「それはいい。
日本人農家なら免税処置もあるんだろ?」
「年金が破綻してるから、早期退職による上乗せも加えて土地と一軒家と農地の現物至急さ。
まあ、軌道に載せる迄が大変なんだろうがな。」

青年は会話しながら自らの手でお茶を用意している。

「そうそう、途中までは円楽さんも同行する。
彼は修行として、冒険者になるそうだ。
岩殿山で三年籠っていたから何をするかと思えば・・・
日本人が魔法を使えるかの研究は政府も諦めてるしな。」

あの事件のあと、円楽に再び仏の力が発動することは無かった。
円楽自身に魔力がなかったからと考えられている。
その後、修験者の修行の場としても名高い地元の岩殿山に三年籠ってすっかり逞しくなっていた。
その後は青木ヶ原の樹海のアンデットにお経が効果があることがわかり、自衛隊の祭壇探しに協力をしていた。

「その祭壇も先日、破壊できた。
ワイトが取り憑く死体の方が先に尽きたので探し出すのは難儀したようだが。」
「で、犯人はわかったのかい?」
「国家の最高機密に指定されたよ。
公安調査庁の上級職の俺のところにすら情報が降りてこない。」

この部屋の会話は全て録音、録画されているので迂闊なことは言えない。

「そろそろ時間か、名残惜しいが君との仕事は楽しかったよ。」

一服し、佐々木はソファーから立ち上がり握手を求める。

「私もですよ、貴方との協力の間の司法取引で懲役が21年減刑された。
残りは772年分頑張ってみるよ。」

彼に与えられた待遇と減刑は彼からの情報提供によるものだ。
若くして帝国宮廷魔術師団団長だった青年の知識はこの世界に放り込まれた日本には貴重なものだった。
たとえ青年が横浜みなとみらいを焼き払った戦犯の一人だったとしてもだ。

「じゃあな、マディノ子爵ベッセン君。」


静岡県御殿場市
板妻駐屯地
駐屯地に設置されている掲揚ポールから、第34普通科連隊の連隊旗が下ろされていく。
下にいた隊員が連隊旗を外すと、綺麗に畳んで収納ケースに納めていく。
その光景を第34普通科連隊の隊員一同、東部方面総監、第一師団団長、防衛大臣などの自衛隊関係者。
静岡県、山梨県の両知事、御殿場市、富士吉田市の市長、河口湖町町長、鳴滝村村長など自治体の長が招かれて見守っている。
周辺には隊員の家族が皆集まっている。
駐屯地の周辺には地元や周辺自治体の住民達が、34普連との別れを惜しんでいる。

「向こうでも頑張れよ!!」
「世話になったなあ!!」
「吉田のうどん持っていきなさい!!」

隊員達も長年慣れ親しみ、守り抜いた地を離れるのを惜しんでいる。

「総員、板妻駐屯地に対し、敬礼!!

乗車!!」

1200名の隊員が一斉に割り当てられたBTR-80装甲兵員輸送車、73式トラック、高機動車に乗り込んでいく。
これより横須賀に向かい集結している3隻のおおすみ型輸送艦に乗艦し、大陸に渡ることになる。

「大臣、経験豊富な彼等が大陸に行ってこの地の守りは大丈夫なのだろうか?」

見送る富士吉田市市長が不安を口にする。

「ご心配には及びません。
34普連の隊員で実家が農家や漁師など政府指定の仕事を行っている隊員200名ほどが、54普連の隊員と入れ代わっています。
先日、事態の原因である祭壇も破壊しました。
事態は終息し、現有戦力でも十分に対処出来るでしょう。」
「そうか、全員が大陸に行くわけでは無いのですな、安心しました。
じゃあ、あとは一連の事件の犠牲者への慰霊碑に対する予算の分担ですな。」

知事や市長など、自治体の長がその場で話し合いを始める。
大臣はそんな彼等を呆れるように見ながら、駐屯地の建物に入っていく。
トイレに入り、SPがトイレの外で待機している間に用を足そうとチャックを下げたところで声を掛けられる。

「大臣・・・」
「うおっ!?」

大臣の声を聞いてSP達が拳銃を背広にコートを着た男に向ける。
SP達はトイレに誰もいないのを確実に確認していたのに、どこから入ってきたのかわからない男に困惑している。

「ああ、いいんだ。
知り合いだ、問題ない。」

大臣の執り成しでSP達がトイレの外に戻っていく。

「脅かすな、手に掛かるかと思ったぞ。」
「あとでちゃんと手を洗ってくださいね。」
「だから掛かってねぇって・・・何の用だ。」
「例のホシ、山形の酒田で見つけました。
うちでやっていいんですね?」
「構わん、見つけたら即殺れ。
後処理にうちの部隊も出そう。」

会話の間に用を足し、手をしっかりと洗ってから出口に向かう。

「おまえ、どっから入ってきたんだ?」

振り返って問い質すがすでに男はトイレにはいなかった。


山形県酒田市
酒田港
黒装束のいかにも特殊部隊の隊員のような格好で、五人の男達が一台のハマーを包囲した。
彼等は公安調査庁の実働部隊で、普段は地元の警備会社で一般業務に当たっている。
すでに所轄の警察署が現場を封鎖し、私服の調査官達が車両でハマーの前後を塞いで動けなくしている。
周辺のビルには狙撃チームも待機している。

「アメリカ空軍中佐チャールズ・L ・ホワイト!!
貴官を破壊活動防止法、米兵12名の殺害並びに脱走、女性8名の猟奇殺人容疑で逮捕状が出ている。
大人しく車から出て地面に伏せろ!!」

転移後に法改正によって、公安調査庁の職員にも特別司法警察職員して、逮捕状、捜索差押許可状等を裁判所に請求したり、発付された令状を執行する権限を与えられていた。
ハマーから出てきた白人男はアメリカ空軍の軍服を着たまま、アメリカ人的な『What!?』なジェスチャーを繰り広げている。
神経を逆なでされて、隊員のMP5の引き金に掛かる指に力が少しこもる。

「青木ヶ原で少し遊びすぎたかな?
あの後は結構大人しくしてたのだが・・・だが駄目だね、撃ちたいと思ったら、さっさと撃たないと。」

一瞬で距離を詰められ、隊員の一人が羽交い締めにされて全員が銃撃を躊躇う。
人間にはあり得ない早さであり、狙撃チームの銃弾も外されてしまっていた。

「護りを!!」

チャールズが『祈りを』唱えると、同時に隠し持っていた装置のボタンを押す。
爆弾が積まれていたハマーが爆発して隊員や調査官達が吹き飛ばされる。
破片でその場にいたほとんどの人間が怪我をするが、不可視の力に護られてチャールズは掠り傷、羽交い締めにされた隊員は打撲ですんでいる。
そのままMP5を拾い上げて、隊員や調査官達を射殺しながら、桟橋の船に向かう。
ハマーの爆発の煙で狙撃も不可能になっていた。

「お前たち素人だな?
本職の自衛官やSATならここまであっさりとやられないぞ。」

隊員を『麻痺』させて肩に担いで盾かわりにする。
転移後に大増員を行った自衛隊の矛先が真っ先に向かったのは民間の警備会社であった。
何しろ自衛隊を任期満了で退役した元自衛官が大量に就職しているのだ。
公安調査庁も実働部隊を創るのに彼等に目をつけていたのだが、軒並み引き抜かれた後になっていた。
次に目を付けたのが元警察官であるが,警備会社にいる元警察官は概ね2種類に分類される。
天下りか、元問題警官である。
警察で不祥事を起こして追放された人間を公安調査庁はスカウトして訓練を施してきたのだが、練度不足は結果となって現れていた。
路地に封鎖の為にパトカーを停車させていた所轄の警官達が拳銃で発砲してくる。
半分パニックになっており、肩に担がれた隊員の姿も目に入っていない。
チャールズからすれば、下手に訓練を受けた人間よりこっちの方が厄介だった。
だが路地からベンツが飛び出してパトカーごと警官達を弾き飛ばす。


「中佐、こっちだ。」

チャールズは車に乗り込むと、南米系と思われる男が車をバックさせて路地を戻る。

「いい車だな、どうしたんだ?」
「組長さんの車、前に分獲ったやつさ」

車なら桟橋までものの二分で到達した。
隊員を海に放り込み、元ロシアの貨物船に乗り込み出港する。
船員達は日本で不法就労し、恩赦でも相殺出来ない罪を犯した者達だ。

「海自や海保には気を付けろよ。
まあ、それどころじゃないだろうがな。」

チャールズは甲板に飛び出すと『祈り』を空に向かって唱え続ける。
すると、別の外国船籍の船からワイト達が飛び出してきて警察はその対処に追われることになる。
待機していた巡視船もワイト退治の為に動員されて貨物船を取り逃がすことになる。

「凄いな、死体は用意させていたが、一瞬でゾンビとか創れるものなのか?」
「私には120万の怨念が取憑いていたからな。
まだ、ストックが118万ほどある。
さあ、我らの背徳と腐敗の都の建設だ。
大陸に向かうぞ!!」


だがいつかはこの日本に戻ってくる。
汚れた異世界人こと地球人の根絶を・・・それこそが我等の神の望み・・・
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0062†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 08:43:07.682181ID:+B45tqEgK
大陸東部
新京特別区
大陸総督府
日本本土で第34普通科連隊が出発した頃、総督府では受け入れの為の局長会議が行われていた。
秋月総督は会議の結果の報告を受ける為に執務室で書類に判を押す仕事に追われていた。
内線が鳴り、受話器を手に取り秋山秘書官の入室を許可する。

「失礼します。
局長会議の報告書と関連資料をお持ちしました。」
「御苦労だった。
連中また目を血走らせて会議してたろう?
そろそろまとめて健康ドックに送り込んだ方がいいかもしれん。」
「精神科のカウンセラーか、保養地への出張も必要かもしれません。」

雑談をかわしながら秋山は書類に目を通していく。

「最終的に第34普通科連隊戦闘団となりますので、人員約2000名。
家族も含めますと1万五千人の移民計画の前倒しになります。」

転移後に自衛隊には食料配給が優先されていたこともあり、婚活に不自由しなくなった。
さらに隊員の両親や妻の実家も含めて同居が増加していたことがこの人数になってしまった原因だ。
「扶養家族が多いな。
どさくさにまぎれて親戚とかも捩じ込ませてるだろう。
よく本土の役人連中が認めたな?
まあ、それは我々も同じだからとやかくは言えないが、こちらでの新生児の増加も予想より多い。
来年2月からの新都市植民計画を半月ほど前倒しだな。」
「政府がこのような状況を認めたのはやはり、本土の食料事情の悪化にあるようです。
一時は60%にまで伸びた自給率も年々低下しているとデータにあります。」
「やはり化学肥料の枯渇が響いてきたか。
むしろ今までよく持ったものだ。」
「気候が天の恵みを得るのに最適な環境だったのは間違いありません。
ただし、リン鉱石、カリ鉱石などを利用した化学肥料の恩恵が無いと一億におよぶ国民を食わせるのは無理があります。」

転移前は輸入に頼りきりであった。
カリ鉱石はフィノーラで見つかり採掘に成功したが、リン鉱山は発見できていない。

「まあ、大陸に来れば飢えから救われるからな。
『新浜市』の創立と同時に『竜別宮』計画も進めるよう関係各位に通達してくれ。」


大陸東部地区
旧マディノ子爵領
戦犯マディノ子爵の領地だったこの地は王都ソフィアに徒歩で3日ほどの距離にある。
子爵自体は有能な領主でたり、魔術を使った治水工事や農地開発、病気の治療などを行っていたせいで領民の支持は厚かった。
だが現在は王国から派遣された代官が統治している。
当主が戦犯として断罪されたので改易となり、一族は散り散りとなった。
戦犯の領土なので、年貢は総督府の基準を違反し七割という高いものになっていた。
街の近郊のアンクル村では近隣の農村の村長や豪農といった有力者が集会場に集まっていた。

「このままでは村人は女房や娘を売るしかなくなる。」
「もしくは一家揃って首を吊るかだな。」

皆が頭を抱えている。

「他の領地では、年貢は四割で済んでいるそうだ。
やはり、前領主様のせいで・・・」


「バカ、貴様!!
お館様の御恩を忘れたか!!」

殴りあいになりそうな会合の代表者達をこの村の村長モンローは宥めて、今日は解散させることにした。
家に戻ると娘のジーンが心配そうに見ている。

「お父さん・・・」
「大丈夫だ・・・この村は守って見せる。」

そう言って書斎に籠りだした。

「もうこの手しかないな。」

筆を取り書を書き始めた。


マディノ代官所
王国より派遣された代官エミリオは困窮する大貴族の3男である。
年貢による収入が半分以下に減ったが、人間生活レベルはなかなか落とせないので蓄えが激減している状態だった。
エミリオは三男ながら文官としてそれなりに才能を示したのでマディノ代官に任命された。
マディノの地は王国からの悪感情の強い。
この地から搾取することを王国は目溢しして、収益を伸ばしたエミリオの内政家として評価を与えていた。
そして、実家には過剰に搾取した年貢の一部を横流ししていた。
自己申告で四公六民が実質は七公三民である。
そんな我が世の春を謳歌していたエミリオはこの世の終わりのような顔をしていた。

「検地ですか?」

エミリオの正面には大陸総督府検地局ソフィア支部第3測量課課長藤井八郎が名刺を渡してくる。

「はい、畑の面積と収量の調査に参りました。
課税台帳の整備に当たるものでして今月はこちらの領内で測量や戸籍の調査も合わせて行わせて頂きます。
あ、作業自体はこちらで行いますので軒先と過去の資料を提供して頂ければ結構です。
あ、ご心配なく
自己申告による1割程度の誤差は『修正』すれば済むことなので、そちらに責任が及ぶことではありません。」

藤井としても多少の水増しによる利権を大袈裟に騒ぎ立てるつもりは全く無く、常識の範囲と日本に納める分を確保してくれれば文句は無かった。
だがエミリオは首筋が冷える思いを感じていた。
水増しの範囲は1割どころか3割に達している。
すでに王国国務省からの命令書や委任状を見せられているので断るのは不可能だ。
だが今は藤井に気がつかれわけにはいない。
努めて冷静に振る舞う必要があった。

「いつ頃から始めるのですか?」

「15日に調査団がやって来ます。
まあ、5、60人ほどですかね?
そのあたりは後日また通知しますので宜しくお願いします。
宿泊に関しましては閉門措置になっている前領主館が使えるそうなのでそちらを貸して頂きます。」

藤井が帰った後で執務室で頭を抱えている。

「1割だと・・・残り二割分どうすれば・・・、15日でどうしろと言うんだ・・・」

傀儡政府と化している王国は、日本との協定違反の責任を自分に押し付けて、ギロチンに掛けられてその首を総督に献上させられるかもしれない。
噂によると総督府にはマーマン王の首やケンタウルスの族長の剥製が飾られているという。
猟奇的な趣味を持った総督に愛でられる自分の剥製や首を想像して、胃が痛くなってきた。
とりあえず代官所の役人達を集める。

「どの村にも畑の開墾をさせて、それっぽく見せかけさせろ。
その間に恐らく年貢を免れる為の隠し畑がどの村にもあるに違いない。
それを探し出せ!!」
「見つけたらその村人の処置はどうしましょうか?」
「ギロチンに決まってるだろ!!
女子供は売り飛ばせ!!
忘れるな、この地は日本の都市を破壊し、3万の民を死なせた戦犯マディノ子爵の治めていた地だぞ。
どんな嫌がらせを受けるかわからんのだ。
調査団には賄賂や女をあてがい、機嫌を取らねばならない。
報復として皇都がどのような惨状になったのかを思い出せ!!」

その言葉に役人達も震えあがる。
僅か数時間の攻撃で人口200万を誇った帝国皇都は、七割に及ぶ死者を出して千年皇都の歴史を灰塵のもとに晒して消滅したのだ。

「エミリオ様の仰ることは最もですが、我々だけでは日本に対するおもてなしの方法がわかりません!!
ですが、最近この地の盗賊ギルドを壊滅させて吸収した新興ギルドのギルドマスターが日本人らしいのです。
彼の意見を聞いてみるのが良いのでは無いでしょうか?」
「それはいい。
我らが日本人を重用しているアピールにもなるな。
それで、そのギルドとマスターの名はなんといったかな?」
「『石和黒駒一家』の黒駒勝蔵というそうです。」


王都ソフィア
検地局ソフィア支部
マディノから戻った藤井は調査団に参加するメンバーを召集して、ミーティングを始める。

「今回の調査の第一の目的は畑の収穫量を正確に調べることです。
第二に現地で産出される金、銀、銅の鉱山の開発と徴用。
第三に現地住民の人口や生活実態の調査。
第四に陸上自衛隊が新たに建設する分屯地の視察と測量になります。
自衛隊からは浅井二等陸尉に御同行して頂きます。」

制服を着た浅井が規律し、敬礼する。

「御紹介に預かりました浅井です。
今回自衛隊から施設の人間を中心に10名ばかりと車両の提供をさせて頂きます。
自分が来年からマディノの分遣隊長に就任することになっていますので、全力で皆様のサポートをさせて頂きます。」

出席者から拍手を受けて席に座る。
今回は鉱山開発局や大陸鉄道の測量隊も同行する。

「今回は検地局さんの幹事で助かりますなあ。
前回はうちでしたから。」

鉱山開発局の松本がそんなことを言い出すので浅井が首を傾げる。
「今回はですか?」
「ああ、浅井さんは初めてでしたな。
この調査団は毎月組織されてましてね。
今回で60回目なんです。
最終的大陸全土1500領邦全部を回ることが目標なんですけどね
で、複数の部署の人間が合同で行うので交代で仕切る部署を幹事として設定して進行するわけです。
自衛隊さんも何度か担当してますよ。」

松本の説明を浅井はなるほどと聞いている。
浅井は先月の事件に巻き込まれ本来の任務から外れていた。
そこにちょうど次の任地での調査団の計画があったので捩じ込まれたのだ。
松本の説明が終わったので、藤井が説明を始める。

「我々、公務員からは40名ほど。
期間中の生活支援の為に10名のヘルパーさんが同行します。
あとは現地で何かを調査したいと言い出す他機関の人間か、商売を考える民間資本の調査隊員。
だいたい60名ほどになります。ね。
で、ヘルパーさんの代表さんがこちらの市原涼子さんです。」

浅井は列車襲撃事件の時に弓矢を取って奮戦していた市原女史の姿を見て驚く。

「あら、自衛隊さんの代表は浅井さんだったのね、お久しぶり。
元気してた?」
「はい、前回はいろいろお世話になりました。」
「おや、お二人はお知り合いですか?」
「えぇ、私と浅井さんは戦友と言ってよい間がらでして・・・」

その後、列車襲撃事件の浅井や市原の武勇伝を誇張混じりに一時間喋りだした。
今回のミーティングはそれで解散となった。
貴重な教訓を残して


アンクル村
村に即席で造られた市場で人々が様々な物を売っている。
ジーンはこの光景がもう見られないくなるかもと胸が締め付けられる思いを感じていた。

「勝蔵さん・・・」

ジーンはお目当ての人物を見つけて駆け寄っていった。
ほうとうという麺料理を屋台で作って、道行く人に売っていた角刈りにサングラスの男は眉をしかめる。
この男がマディノの地の盗賊ギルドを倒し、新たな顔役となった石和黒駒一家の組長黒駒勝蔵である。

「あんまりあっしらに関わってはいけないと行ってあるでしょう。」
「でも他に頼れる人がいなくて・・・お願い勝蔵さん、お父さんを助けて・・・」
「村長に何が・・・」
「お父さんが日本の課長様に直訴をしようと・・・」

勝蔵はジーンが何を言っているのか理解出来なかった。
直訴や課長という言葉は理解できるが、『課長に直訴』がどんな一大事が理解できない。
だがジーンのような大陸の村人にとって、日本の課長という役職は貴族の伯爵様くらいの雲の上の人間のような絶対的権力者のような認識なのだ。

「もう少し、詳しく、落ち着いて話してくだせぇ。」


だがジーンから聞き出す前に兵士の一団が現れて勝蔵を取り囲む。
「石和黒駒一家のギルドマスター黒駒勝蔵氏ですね。
お代官様が貴公のお力を借りたいとお呼びになっています。
御同行して頂きたい。」

兵士達の隊長がそう語りかけてきた。
勝蔵としても土地の支配者と懇意にすることは悪い話ではない。
だがジーンが顔を青ざめさせている。
兵士達がジーンを見てひそひそ話合っている。
その話を隊長も聞いて頷いている。

「娘、今度日本から来る要人の接待役を申し付ける。
今すぐ同行してもらおう。」
「お、お父さんに相談してから・・・」
「娘、逆らうか!!」

殺気だった隊長の目前に突然刃が姿を現した。

「やめなせぇ
嫌がってるでしょう・・・」

勝蔵が屋台に隠していた白鞘の日本刀を突き付けたのだ。

いつ抜いたのかわからなかったが、隊長は逆らわれたと激昂した。
「貴様も逆らうか!!
えぇい、斬ってしまえ!!」
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0063†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 08:48:48.614797ID:Bex1/esvK
10人ほどの兵士が槍や剣を向けてきた。

「やれやれ余計な殺生はしたくなかったんですがね。」

勝蔵は白鞘の柄と持つ手にサラシを巻いた。
剣と刀を突きつけあった二人は、共に同じことを考えていた。

『『誰か止めてくれないかな?』』

黒駒勝蔵としては、日本人として大陸で優遇される立場ではあるが、日本に対して些か後ろ暗い立場である。
せっかく基盤を築いた新天地で、現地の統治機関と揉め事を起こすのは得策では無いのは理解している。
村長の娘の危機に咄嗟に刀を抜いたが、もっと穏便な方法はなかったのかと後悔していた。

『ま、そんな方法が考えられるようならヤクザなんかやってないか。』

覚悟を決めて刀に構える。


マディノ代官所アンクル村番所の兵士長リカードも日本人と事を構えると後々厄介そうなことに気がつき、どうしようかと悩んでいた。
冷静さを欠いて刃を抜いてしまったが後ろにいる五人の部下達の手前、引っ込みがつかなくなっていた。

「お辞めください、こんな往来で物騒な。」

間に村長のモンローが入り込んできた。
最初にリカードの側に近づくと、こっそりと銀貨七枚の入った袋を渡す。

「娘がご迷惑をお掛けしたようで、今日のところはこれで御勘弁下さい。」

十分だった。
銀貨を見せれば部下達も納得する。
あとでこの金で酒でも奢れば問題は立ち消える。

「ふん、今日は村長の顔を立てて引き下がってやろう。
だが、黒駒の勝蔵、お代官様がお呼びの件には応えてもらうぞ。」
リカードが剣を納めたので、勝蔵も刀を鞘に納める。

「いいでしょう。
夕方になりますがよろしいてすかい?」
「お代官様にお伝えするが、なるべく早めにな。
あと、娘も同行するように、いいな!!」

再び刀を抜こうかと思った勝蔵をモンローが肩に手をあてて、首を横に振り抑えさせる。
リカード達がいなくなってから勝蔵はモンロー達に疑問を口にする。

「いいんですかい?
お嬢さんを日本の役人達に差し出すなんて・・・」

気の毒そうな顔をして言ってみたのだが反応がおかしい。
まるで勝蔵の言ったことが理解できないみたいだ。

「ああ、マスター黒駒は娘が性的奉仕させられると憤っていられたのですか?」
「違うのかい?」
「いや、どうですかね。
でも日本の方々は村娘どころか、娼婦だって買わないじゃないですか・・・
たぶんリカード様もそこまで考えてなかったと思いますよ。」


事務所にしている酒場に戻る途中で、勝蔵は村長の言った意味を考えていた。

『日本の役人はそこまで堅物な連中だったか?
むしろこういう場所に出張してきたら羽目を外す連中ならいっぱい見てきたが・・・』

本土の石和温泉をシマにしていた黒駒一家は、そういった連中の要望に応える為に歓楽街に綺麗所を集めるのも商売にしてきた。
だから村長の言ったことがいまいち理解出来なかった。
マディノを新たなシマとしてからも現地の盗賊ギルドを倒し、酒場や娼館の経営に乗り出したが勝蔵自身は市場などのショバを守るのを好み、あまり関わっては来なかった。

「あ、組長お帰りなさい。」
「おう今帰った。
そうだ、ちょっと荒木の奴を呼んできてくれ。」
「へい、わかりやした!!」

酒場の若いのに娼館を一手に任せている荒木を呼びに行かせる。
あまり使わない酒場の奥のオフィスで待っていると荒木がやってくる。

「組長、お呼びで?」
「おう、ちょっと聞きたいことがあってな。」

荒木は本土ではITヤクザとして荒稼ぎする遣り手だった。
詐欺や金融サイト関連のプログラム組んだり、書類作成、事務仕事の効率をあげるプログラム作成。
メイド喫茶やエロサイトの運営と架空請求など多岐に渡っていた。
しかし、日本がこの世界に転移すると第三次産業が壊滅状態となり、海外サーバーの消滅や通信の制限、金融の破綻、娯楽への出費の減少などですっかり組の末席に落ちぶれてしまっていた。
そんな荒木を勝蔵が新天地に招いて辣腕を奮って貰っていた。

「このマディノにもよ、鉱山開発やら自衛隊の分屯地建設やらでそれなりに日本人も住んでるだろ。
連中は客としてはどうなんだ?」
「うち以外はさっぱりですね。
たまに来てもリピーターが付きません。」
「原因は?」
「女の質です。
栄養の問題からか、貧相なスタイルの女が多いのはまあいいんですが・・・
こっちの人間、あんまり風呂とか入らないでしょ。
臭いとかきついんですわ。
化粧もケバいかな?
あと、衛生状態の問題から病気とか警戒されてます。
これが新京やリューベックだとまた事情が違うのですが。」

日本人向けのインフラが整備された新京特別区は当然として、大陸人て日本人の商業の最前線であるリューベックも衛生やインフラの設備の整備が進んでいるらしい。
もう一つの理由として、新京やリューベックに住んでいる、もしくは訪れる大陸人の大半は貴族や商人といった富裕層やその従者達で清潔に出来る余裕を持っている人間達だ。

「衛生管理や十分な栄養、講習によるテクニックや化粧の仕方なんかは日本で蓄積のあるうちの娼館は他を圧倒しています。
ただ、イメージの問題でやはり日本人客は少数に留まっています。
日本人あまりに女を襲わない、口説かない、買わないので、こちらの人間は日本人が性的なことに興味が無いと誤解されている現象が起きてるって話です。」

荒木の話に色々と合点がいった。
失礼と自覚しつつも先程一緒にいた村長の娘ジーンと比較しても思い当たるフシがいっぱいある。

「どうも俺は話をややこしくしただけだったか?
いや、あの兵士達は随分余裕が無さそうで焦ってる様子だったが・・・」

話を聞かされた荒木は心当たりを勝蔵に話し出す。

「組長、それはこのマディノが今年最後の検地の対象になったからですよ。」
「ああ、団体さんが来るって話だったな。」

日本の異世界転移によって、全国にいた暴力団組織や任侠団体、或いは半グレといった連中は一度にそのシノギを失った。
社会に寄生虫のような生き方をしていた者達は宿主が病になると真っ先に切り捨てられる立場に変わったのだ。
戻るところのある者達は組織から離れ、残された者達は少ないシェアを奪い合い血が流された。

それは、石和黒駒一家も例外では無く、困窮した先代の若頭だった勝蔵の兄は、組長だった父に黙って鬼畜に手を染めた。
当時、石和からほど近い青木ヶ原の樹海では、異世界転移により困窮や絶望を拗らせて自殺が激増していた。
それらの遺品を漁って売り飛ばすというものだった。
それだけなら良かったのだが、新鮮な死体から臓器摘出までやらかしていたらしい。
最初は鼻白んでいた組員達だが回を重ねるごとに参加者が増えていき、『青木ヶ原事件』に巻き込まれて大月市で盛大にやらかしてしまった。
若頭だった長男と主だった組員の大半を失い、残った組員達も逮捕されると他組織が次々と石和に乗り込んできた。
憤死した父に変わって、組から離れて自衛隊にいた次男が組長になる為に戻ってきた。
それが黒駒勝蔵である。

「荒木、代官様に呼ばれてるからお前も着いてこい。
難しい話は苦手だからな。
任せるかもしれん。」
「わかりやした兄貴、任せて下さい!!」

勝蔵に心酔している荒木は勝蔵に信頼されてることが判ると、つい昔のクセで『兄貴』と呼んでしまう。
組の片隅で燻っていた自分を拾い上げてくれた大恩があるのだ。
帰ったら嫁に報告して呆れられるのが日常となっていた。
マディノに向かう街道を4台の車両が走っていた。
例によって舗装が土のままの街道では余りスピードが出せない。
マイクロバスが2台に検地局が派遣した官僚達が分譲している。
先頭を走る自衛隊の高機動車には、浅野二等陸隊と施設科隊員5名が乗り込んでいる。
マイクロバスの後方には樺太から持ち出したロシア製戦闘工兵車IMR−3とそれを牽引する74式特大型トラックが走行している。
IMR−3は、T-72型戦車をベースとしており、全長9メートルのIMRには、ブルドーザーのブレードがアタッチメントのある収縮ブームが装備されている。
ほぼどんな場所でも道路の敷設が可能であり、地雷原でもガンマ線のある場所でも問題はない。
二名の乗員が車内で3日間暮らすことが可能で車内では水を沸騰させたり、食べ物を温めたりすることが可能でトイレも備え付けられてる優れものだ。
チェルノブイリ原発事故発生直後では原子炉近くで活動できる唯一の車だった。
あいにく低速しか出せないので、74式特大型トラックに牽引させることなったのだ。
74式特大型トラックには施設科の隊員9名が乗っている。

「だが必要あったかな?」

大陸での自動車のスピードは、時速30キロに制限されている。
大陸の住民が車を避けてくれないのだ。
馬車は使用されているが、自動車はよりスピードが出るのを理解出来ないのだ。
車を見たことがある者が少ないのも大きい。
マディノの地は新京からは東に約400キロ、王都ソフィアからは西に約1600キロの位置に存在している。
本当は新京の総督府本部の連中が派遣されるのだが、連中は新浜市創設の式典の準備に追われて忙しい。
そこで王都ソフィア支部にお鉢がまわってきたのだ。
汽車で中央部東端の駅があるザクソンまで移動し、食事と休憩のあと、深夜0時発長距離列車に乗り込み18時間掛けてマディノに到着した。
マディノの駅は大陸鉄道で一番新しい駅で、この駅の完成とともに、マディノの鉱山開発や自衛隊の分屯地建設が始まった。
列車から車両を降ろし、宿泊先のマディノ子爵旧邸に一行は向かう。


「仮眠時間は残業に当てはまらないらしいから、仮眠8時間、勤務時間8時間、休憩2時間といったとこかな?」
「ここからは残業ですか?
おっ藤井課長、出番ですよ!!」
「おっと、マイク、マイク!?」

マイクロバスから漏れ聞こえる演歌の曲と藤井課長の歌声に高機動車に乗り込んでいる浅井は苦笑する。

「まるで慰安旅行だな。」

付近の住民や通行人は、突然流れる曲と藤井課長の歌声に不思議な顔をして振り向いて来るのはちょっと恥ずかしい。
子爵旧邸では代官エミリオをはじめとして、兵士や近隣の町や村からかき集められた娘達が総出で出迎えてくれた。
娘達は何故かメイド服を着ているがデザインは統一されていない。
「いや、もう20時ですか?
こんな時間に申し訳ない。」

油が貴重な地方都市ならすでに寝静まっている時間帯なのだ。
現に兵士や娘達の中では船を漕いでる者が見受けられる。
本当に申し訳なさそうな顔をする藤井課長に対して、代官エミリオは揉み手をしながら調査団一行の前に進み出る。

「いえいえ、皆様長旅お疲れ様でした。
ささやかながら歓迎の食事を用意させて頂きましたので、今日のところはごゆっくりお休み下さい。」

この揉み手という動作は日本では歓迎の意を現す作法らしい。
アドバイザーとして石和黒駒一家から派遣された荒木という男からの指南である。
荒木はギルドの評議員の一人であるらしい。
また、荒木は大量のメイド服まで用意してくれた。
娘達や兵士達は多少見栄えを良くする為に日本製石鹸やシャンプーをギルドから提供されて磨かれている。
これらは大陸の人間にはなかなか手に入らない高価な品だった。
調査団には女性もいるので兵士やエミリオ達にも清潔を心掛けさせないと進言もされた。
ギルドマスターの勝蔵と違い、気の利く荒木をエミリオは重宝していた。
調査団一行は割り当てられた部屋に案内されて館に入っていく。
その様子を館の離れから見ていた勝蔵は荒木に疑問を口にする。

「なあ、あのメイド服をどうやって手に入れたんだ?
うちの組の在庫だけじゃ足りなかったろ?
あとなんでデザインがバラバラなんだ?」
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0064†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/15(金) 08:55:00.004017ID:Y/hiubHeK
「南部のアンフォニーで代官してる友人が大量に新京に発注してたんですよ。
自分のところ以外でも周辺貴族に大々的に売り出して行こうと画策しているらしいのです。
先にちょっとお借りしただけなのであまり汚さないで欲しいのですけどね。」

調査団の一行は疲労も有り、車両を警備する自衛隊の隊員とお手伝いの市原以外は早々に就寝してしまった。


一日目の夜はこうして何事もなく終わりを告げたのだった。



二日目
アンクル村
村長のモンローは山の裏手の巨像に祈りを捧げていた。
前マディノ子爵ベッセンが造り上げた神像で、管理はモンローに任されていた。
代官所の役人どころか、村の人間もほとんどその存在を知らない。
マディノの危機の際には動き出して救ってくれるゴーレムとの話である。
どのようにすれば動き出すのかモンローも知らない。
マディノの地が危機的状況になった時に動くとしか聞いていない。願わくばこの神像が動き出す時が来ないことを・・・


旧マディノ子爵邸
朝食を済ませた公務員達は車に持ち込んでいたタイムカードをレコーダーに挿入して勤務時間に突入する。

「さて、お仕事の時間ですよ。」

マディノの地には金、銀、銅の鉱山があり、大陸総督府が管理している。
日本の技術者や作業員が現場を取り仕切ったり、重機の使用を行う関係で家族も含めた300名前後の日本人がこの旧子爵領にいた。
単純なスコップやツルハシで鉱脈を掘り起こす作業は大陸の現地住民を雇用している。
この二日目に出来るのは簡単な事務作業だ。
普段は鉱山町にいる日本人がこの日は退去してマディノの町に押し掛けていた。

「いや、盛況ですな。
検地局ソフィア支部第3測量課課長藤井八郎です。
今回の調査団の団長を兼任させて頂いております。」

藤井は宛がわれた子爵執務室で来客を出迎えている。

「マディノ地区出張所所長の榊原です。
今回はよろしくお願いします。
まあ、この機会に予防接種や書類の更新、本国や他地区との情報の取得、娯楽の補給などを済ませてしまおうといういい機会ですからね。
交代で来てますから明後日には落ち着いていますので。」

百人規模で日本人が住んでいるからには総督府としても出張所を設置して対応していた。
パソコンやファックスがあるので書類などはどうとでもなる。
医師や警察官も常駐しているが、人手不足なので対応は遅く、総督府の調査団はこれらをいっきに解決する為の応援の役割も求められている。

「はっはは、お任せを。
で・・・、例の件は?」
「はい、こちらがこの地の検地報告書です。
しかし、代官所の連中が聞いたら怒りますな。
検地なんてとっくに終わってるんだと知ったら。」

藤井は渡されたDVD−ROMをノートパソコンに挿入して内容を目に通す。
大陸総督府の共有ファイルにコピーして、プリントアウトする。

「大陸の人間に見せる部分の整理が出来たら完成ですな。
ふむ、年貢率は71%ですが公的には42%、ぼってますな・・・
まあ、住民も住民ですな。
隠し畑の割合も含めると年貢率は59%にまで下がると。
我々が隠し畑を知っていることは代官所の連中には内緒です。
連中がどの程度探しだして申告してくるか見物ですな。」

報告書に目を通す藤井は苦笑するしかない。

「隠し畑の摘発や開墾の成功で今年から大量に我々に対して年貢の増加が出来るようになりましたとの言い訳の材料にするつもりでしょう。
すでに四公六民法の違反、税収の横領。
すでに詰んでいるのに御苦労なことです。」

この領邦に限らず大陸東部地域の大まかな検地は完了していた。


それは大陸の人間には預かり知らぬやり方で五年掛かりで行われていたのだ。
出張所の所員による修正も入っている。
検地局が現場に来ているのはアリバイ作りと新たに開墾された畑がないか調べる為だけなのだ。



リボー村
調査団が書類仕事に追われている間にも代官所の役人や兵士達は各農村で隠し畑の捜索や即席の開墾を農民に課していた。

「そんな、賄賂は支払ってたじゃないですか・・・」
「やかましい、こっちの首も落ちそうなんだよ。
お前達もタダで済むと思うな!!」

農民達も兵士や役人が血走った目に気圧されて隠し畑を白状する。
中には抵抗して暴行されている者もいるが、ギロチンに掛けられた者はいなかった。
労働力の低下を恐れた為である。
開墾作業は村の広場や空き地を次々と農地に代えていった。
何を植えるかはまったく考慮されていない。
村から連れて行かれた娘達は調査団に余計なことを言わないよう人質の意味合いもある。
彼女達は調査団が連れてきた市原女史の指揮のもと旧子爵邸が調査団が居住しやすいように掃除や料理の指導を受けている。
親元にいるより好待遇なので不満に思っている者はいない。
農作業より辛くなく、入浴を奨励され、綺麗な服を着せられて、三食食事つき。
しかも親元にいるより健康的で美味しい食事が賄いとして与えられている。
調査団が帰還するのが怖くなるくらいである。

旧マディノ子爵邸
「本国の若い娘達より素直で扱いやすいわ。
でも素直なのは階級社会の鎖に縛られてるからと待遇のせいよ。
だから勘違いしちゃダメよ、浅井君。」
「階級そのものな組織の人間に何を言ってるんですか市原さん。」

そんな市原女史まで何故かメイド服を着ているので浅井は目を背けている。
ケンタウルスによる列車襲撃事件の後に知己となっていた二人は今回もマディノの地で同行することとなっていた。
浅井も今日のところは屋敷と周辺への警備機器の設置作業を監督している。
監督といっても本職の施設科隊員に口出し出来ることはない。

「ソーラーパネル、通信機器の設置は今日中に終わりそうですな。
あとはドローンの発着場かな?」「ドローンなんて何に使うの?」
「このマディノの地の航空写真を作るそうです。
地図を作る上で必要だとか。」

鉱山町から駅までの道路を造る作業も期待されている。
戦闘工兵車IMR−3はそちらに動員されて工事を始めている。

「そうだ浅井君、勤務時間が終わったら近くの酒場に行きたいんだけど隊員さんと一緒に飲みに行かない?」
「ボディガード代わりですか?」
「か弱い女性をボディガードするのは男の甲斐性でしょう?」

浅井はケンタウルスの群れに矢を放ち、薙刀を振り回して奮戦していた市原女史の雄姿を思い出す。

「か弱い?」
「昔の冒険者仲間がやってる店なんだよね。
盗賊ギルドを倒して吸収し、冒険者ギルドをこの地に立ち上げた日本人なんだよね。
一応、マディノで仕事するなら挨拶くらいしとかないとね。」

『か弱い?』という疑問の言葉をスルーされた浅井はため息を吐いて了承する。
肉体労働に勤しむ部下達をアルコールで労う必要もあるからだ。
ギルドとは商工業者の間で結成された各種の職業別組合のことである。
領主や代官などの認可のもとに商人ギルド・手工業ギルド(同職ギルド)などに区分される。
各領地内までが管轄であり、他領のギルドとの横の繋がりはない。
これが大陸の商業の発展を阻害しているのは間違いないが、商人の力や富の一極集中を恐れた帝国はギルドを保護する政策を行っており王国も引き継いでいた。
盗賊ギルドは各領地の闇経済を取り仕切る公的なマフィアである。
冒険者ギルドは冒険者の相互扶助や情報収集などを行うための拠点であり、依頼された仕事の斡旋を取り仕切っている。

「ようするにハローワークですね。」

この大陸では身分制度が確立しているので、転職という行為はほとんど行われていない。
武装した自由人を統率、管理する為の組織が冒険者ギルドになる。
ところがこのマディノの冒険者ギルドに60人近くの日本人大規模パーティーが登録を行った。
冒険の地としてマディノは不向きである。
これまでの冒険者は多い時期で30名程度であり、ギルドは半年で乗っ取られてしまった。
酒場の扉を開けた市原とお供の一行は、冒険者達の注目を浴びていた。

「聞いてたほど日本人はいませんね。」
「みんな冒険にでも出てるんじゃない?」

4、5人の職員にいる程度だ。
冒険者の日本人は見当たらない。
カウンターにいる職員に市原女史が話し掛ける。

「ギルドマスターの黒駒勝蔵君いる?
市原が来たって伝えてくれる?」
「黒駒勝蔵?」

名前を聞いて浅井の方が戸惑っていた。

「お久しぶりですな、市原さんと・・・浅井二等陸尉。」

執務室に通された市原は意外な成り行きに浅井の方を見ている。
部下達は酒場のホールのテーブルでビールを飲ませている。
ちなみにこのビールは当然密造酒である。

「お久しぶりです、黒駒陸曹長。
習志野以来でしたかね?」

勝蔵は日本転移後に自衛隊を除隊した変わり種であり、浅井にととては習志野での空挺レンジャー課程の時に助教をやっていた先輩でもある。
自衛隊増強の為に元隊員の再雇用でも『実家の稼業の都合』で戻ってこなかった。

「まあ、実家の稼業ってやつがこれでしてな?」

そういって、壁に立て掛けられた代紋を見せてくる。

「挨拶に来ただけだったのにびっくりよ。
大袈裟な部屋に通されて・・・」
市原は呑気にお茶菓子にかじりついているが、浅井は公務員がヤクザと交流を持つことが後々何か言われないか気になっていた。

「まあ、今回の調査団の接待はうちがアドバイザーとして絡んでるから今さらなんですだけどな。」
勝蔵の言葉に頭を抱えたくなった。


三日目
旧子爵邸から発進したドローンは、領邦の端から撮影を始めた。
空から見れば隠し畑や畑の大きさなどは一目瞭然なのだ。
そうとはわからない代官所では日本の役人達が検地の調査にいつ出掛けるのか首を捻っていた。

「どこの村に行くのか予定は出てないのか?」
「はい、少数の視察の人間は出ていますが基本的に書類か、パソコンという魔導具を眺めてばかりです。
あとは・・・兵士達が何故か、道路工事をしています。」
「まあ、あんまり出歩いて貰いたくないから好都合だが、連中は仕事する気はあるのか?」

代官のエミリオとしてはこのまま調査期間が過ぎ去って欲しかった。
そんなエミリオだが昨日突然恋をした。
今までにも何度か顔を合わせているが、身綺麗にして着飾った彼女は別人のようだった。

「この想いを詩にして彼女に贈らなければならない!!」

どうも調査団にたいした動きは無いので創作に耽る時間が出来ていたアドバイザーの荒木は詩にも造詣があるらしく、日本で流行っていた歌を教えてくれた。
昨日まで普通と思っていた彼女が水着に着替えたら魅力的に見えて恋をしてしまったという歌である。

「水着というものが何かはわからぬが服飾の一種だろう。
正に今の私にぴったりの状況じゃないか。」

同意を求められた部下達は困り顔で頷いて早々に退散した。
当然、邪魔をしちゃ悪いからである。


旧マディノ子爵邸
浅井は『石和黒駒一家』の件を藤井課長に相談することにした。

「問題ありません。
本国ならいざ知らず大陸で自主独立でこちらの意向に逆らわない組織が存在するならヤクザでも構わないというのが総督府の見解です。
まあ、健全な会社組織に代わってもらうのが一番ですけど、普通の民間人にいきなり武装化と実力行使は無理ですからね。
彼等に露払いと地均しをしてもらうのは悪くないと思うのですよ。」

浅井としては公務員とヤクザの癒着として問題にされないかを聞きたかったのだが大袈裟な話になって帰ってきた。

「確かに来年から貴方も領地の管理する側になるのですから気を付けて下さいね?
今の段階では心配する必要はありません。
彼等は単なるオブザーバーで代官所が雇用しただけで、我々は単なる客ですから。」

気をとり直した浅井は自分が担当することになる分屯地の工事現場に来ていた。
今は民間の業者が重機を入れて作業に当たっている。
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0065†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-uJV7)2018/06/15(金) 10:23:31.444530ID:CY3ptVntK
相沢菜々子(あいざわななこ)
1996年7月7日生まれ 福岡県出身 身長173p B80 W59 H88
2018年JSA(日本スイムスーツ協会)キャンペーンガール。SUPER GT GT500クラス「カルソニック IMPUL GT-R」の「2018 カルソニックレディ」に就任。

北向珠夕(きたむかいみゆ)
1999年12月14日生まれ 青森県出身 身長170p B86 W62 H85
2018年旭化成グループキャンペーンモデル。『ミライ☆モンスター』(フジテレビ系、毎週日曜11:15〜)の次回予告を担当。

夢乃(ゆめの)
2000年1月28日生まれ 東京都出身 身長173p B87 W59 H91
2018年東レキャンペーンガール。ドラマ『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(TBS系、毎週火曜22:00〜)に出演中。

水野瑛(みずのあきら)
1995年4月15日生まれ 神奈川県出身 身長172p B82 W60 H86
2018年なぎさイメージガール。早稲田大学に通う現役女子大生タレント。
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0066†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/15(金) 12:55:31.229432ID:GSbX5ucMK
>>64
同行してきた施設科の隊員が調査終了後にこのマディノに残り、細部の工事に携わることになっている。
浅井も現場監督から工事状況の説明を受けていると、施設の隊員が駆け寄ってくる。

「浅井二尉、街道から武装した一団が騎竜に乗ってマディノの関所を通過したのをドローンが確認しました。
旗は立ててるので、どこかの貴族の騎士団かと思われます。
数は40、馬車も多数。」
「騎竜のタイプは?」
「中型獣脚類型、デイノニクスです。」

竜にも大小様々な種類がいる。
ある程度は恐竜にそっくりなので、その分類法や名称が当て嵌められていた。
獣脚類は二足歩行をするティラノサウルスやヴェロキラプトルのような竜である。
デイノニクスは中型の獣脚類で、人が背中に乗れるサイズであり騎竜として運用されていた。
馬よりも繁殖力は低く、維持費も高価でありこれほどの数はなかなか揃えられない。

「代官所に確認を取れ。
旗を立てて関所を通過したのなら賊の類いではないだろう。
調査団本部と出張所・・・連隊本部にも伝えておけ。」

自衛隊の隊員達は拳銃だけで各所で任務に当たっている。

「貴族なら我々と揉める恐ろしさを理解してるだろが念の為だ、全員に小銃の携帯を命令する。
ドローンで監視を続けろ。
動きがあれば報告しろ。」


リボー村
見慣れない武装した一団が村の広場に集まっていた。
村の代表の村長が用向きを伺いに罷り出る。

「村長か?
我はグルティア侯爵家の竜騎兵団団長マッシモである!!
所用でマディノの代官所に向かう途中であるが、今宵はこの村に逗留する予定である。
騎竜兵団40名、歩兵120名の糧食を提供せよ。」

村長は騎竜に怯えながらマッシモに返答する。

「恐れ入りますがこの村は王室天領にして、日本国租借地にあたります。
お代官様に急ぎ早馬でご許可を頂きますので、しばしお待ちを・・・」
「手続きの問題か?
ならば心配することはない。
代官エミリオ・グルティアは我が甥に当たる。
否と言うはずがない。
なあに、食糧の運び出しなら兵達に手伝わせよう。
者共、食糧の運び出しを手伝ってやれ!!」

その強引な運び出しは略奪と呼ばれた。


4日目
調査団の高機動車に乗って代官エミリオと調査団の藤井、浅井の三人がリボー村に到着したのは明け方のことだった。
無数の馬車や騎竜が村の広場を陣取っり、騎竜や馬たちが大量の餌を貪っている。
兵達は野営の準備をしている。
さすがに竜騎兵団団長のマッシモは村長の家に滞在していた。


「マッシモ様はまだお眠りになってますが・・・」
「お、起きたら教えてくれ・・・」

夜を徹してきたのにあんまりな話だったが、明け方に来れば当然と言える。
申し訳無さそうな顔の村長や脱力しているエミリオを見て、浅井と藤井は顔を見合わせる。

「私らは車で寝てましょうか?」
「そうですね、朝飯は缶詰とパンだけですが・・・」

朝食の席でエミリオはようやくマッシモと会談が出来た。

「叔父上・・・先触れも無く、突然の来訪驚きました。
この村で食料を徴発したようですが、ここは天領にして租借地。
せめて、私に一声掛けてからにして欲しかった。」
「すまんな、兵達の食料も尽き掛けてたのもあるが、騎竜達は二日も食わせて無くてな。
暴走されても困るしな。
兵や村人達を喰わせるわけにもいかんからな。
まあ、些か強引だったことは認める。
代官所の方で補償しといてやってくれ。」
「あの叔父上、兵糧は如何したのですか?」
「食いきった・・・兄上が過剰に護衛の兵を着けたのでな・・・」
すなわちエミリオの父親のグルティア侯爵のことである。
確かに竜騎兵40騎は過剰な護衛戦力だ。

「なにゆえそのような戦力で?」
「最近、この近辺でケンタウルスの軍団による襲撃があったそうだ。
補給線は大事だとマイラが進言してそうなった。」
「ああ、マイラが帰ってたのですか。」

マイラとはグルティア侯爵の末姫であり、エミリオの妹にあたる。
最近まで新京の学園にいたはずだ。
何年も顔を合わせてない妹の話にエミリオは思いを馳せているが、マッシモが微妙な顔をしてるのに気がついた。

「マイラが補給について口出しした?」

ようやく話の妙な点に気がついた。
政に関わることは十代の貴族の子女に出来ることではない。

「日本の教育を受けて帰ってきたマイラの知識に対抗できる一族や家臣がいなくてな。
内政を一手に担いだしたのだ。
なにより恐ろしいのが領内の衛生環境の改善だ。」
「衛生環境の改善?」
「新京の清潔な環境を覚えてきたら、領内での悪臭や汚れが我慢ならないらしくてな。
流行病や赤子の早死も大幅に防げると主張したのだ。」
「悪い話では無いように聞こえますが?」
「手近な改善としてお湯を使った消毒や毎日の入浴が奨励されたのだが、結果として薪の大量消費による禿げ山や荒れ地となった林が幾つも誕生してな。
薪の値段の高騰、川や井戸から水を汲み出す重労働の増加など負担が万民に平等に訪れた。
そして、禿げ山に対する植林事業に対する初期投資が莫大なものになっててな。
マイラ曰く、十年百年先を見据えた事業らしいが、先に我々の方が干上がりそうだ。」
「誰か止める者はいなかったのですか?
父上や兄上とか・・・」

「マイラが持ち込んだ髪を洗う液体や歯を磨くクリームに奥方等が真っ先に魅了されて陥落したな。
領民の女房達の間にうちの女房含めて流行になってて手が付けられん。
で、これがまた馬鹿高いんだ。」
「まさか、ここ最近までうちにタカってたのはそれが原因なんですか!!」
「日本の商人から購入するしかないからな。
最近ではヨガなる健康法まで流行り出して、スコータイから講師まで招いてる始末だ。
まあ、そんなわけで今回も頼むよエミリオ、一族のよしみじゃないか?」

エミリオはそういえばアドバイザーの荒木から提供された『試供品』とやらに村娘達が喜んでいたのを思い出した。

「まさか・・・」

背筋が凍る思いを味わっていたが、マッシモの更なる言葉が追い討ちを掛けた。

「あ、いい忘れてたけど、糧食この村だけじゃ足りないから隣村にも接収の部隊向かわせてるからよろしくな。」
「叔父上!!」

人口九百人程度のリボー村に兵員合わせて160名、馬80頭、騎竜40騎の糧食を用意できるわけがない。
エミリオの大声は扉の向こうまで聞こえてくる。
紹介されるのを待っていた藤井と浅井は顔を見合わせる。

「盛り上がってますが私らのこと忘れられて無いと良いのですが・・・」

藤井が懸念しているとリボー村の村長がやってくる。

「お待たせして申し訳ありません課長様。
ですが村の方でもマッシモ様の兵団に憤った若者が6人ばかり南側の村に向かったと・・・徒歩ですが、一番近くの村でも夕方には到着するかと・・・」

浅井は近隣の地図をカバンから取り出す。
等高線まで書かれた詳細な地図に村長は驚いているが、故意に隠してるわけでは無いので気にはしない。
マディノの町を中心に北西、北東、南東、南西のほぼ同じくらいの距離に村が置かれている。
そこから街道が分岐し、東西南北にある外郭の村へと続いている。
この大陸の領地としては、随分正確に配置されている。
代々、高名な魔術師を輩出するマディノ子爵家の几帳面な性格と魔力による力押しで開拓した村々だった。
このリボー村は領地外郭の東に位置している。

「マイクロバスが東のアンクル村と北のノーヴァ村。
74式特型トラックと高機動車が南のドゼー村。
出張所と駐在所から借りた車でこのリボー村に調査隊が昨夜から入ってます。」
「各村は概ね百から二百戸」

明日の夜までには調査が終わるのでそのまま続行。
終了後はアンクルとノーヴァの隊は予定通り北東内郭のギース村に集結。
リボーの隊は北西のドルク村に移動。
ドゼーの隊は南東内郭のドーマ村に移動。
事態の変化を見守りつつ業務を遂行します。」

藤井の指示を浅井が無線機で伝えていく。
予定は変わっていないが、進行を早めるように指示したのだ。

「代官所のお手並み拝見と言ったところですかな?」
「我々はどうしますか?」
「この村の調査隊と合流して同行しましょう。
検地や測量も手伝いますよ。」


マディノ領
西南内郭の村リゲル
リボー村を発った若者がリゲル村に到着すると、やはり大量の食糧を馬や騎竜が食い漁っていた。

「くそう・・・ここもか・・・」

即座に村長の家に向かうと村の有力者達や血気盛んな若者達に決起を促す。
すでに強引に糧や種籾、家畜まで奪われた直後だけに村民も乗り気だ。

「せめて年頃の娘達がみんな日本の調査団のお世話に出払ってたのは幸いだったな。
連中なら無体なことはしまい。」
「だが竜騎兵なんぞ相手にしていたらあっという間に全滅だぞ。」「その通りだ。
だが竜に乗ってないなら俺達でもなんとかなる。
この村にいるの竜騎兵と歩兵50名程度だ。
明日の夜にでも酒を飲ませて寝込みを襲ってふん縛っちまえ!!」

若者達は血気盛んだが村の有力者達はもう少し冷静だ。

「他の村にも決起を促す檄文を送るべきだ。
数を揃えれば危険も少ないし、要求も通りやすいからな。」


5日目
マッシモの竜騎兵団本隊はマディノの街まで到着していた。

「明日にはリゲルとドルク村に送った別動隊が合流するが、本隊だけでも食糧の積込みを行いたい。」

マッシモとしては調達出来た食糧を早急にグルティアに持って帰りたかった。
マディノの民の自分達に対する反感を肌で感じ取っていた。
逆にグルティアの兵士達も帝国が滅んだ戦犯扱いのマディノ子爵の民達を侮蔑していた。

「さっさと仕入れて、早急に退去する。
これが双方に取って一番良いと思うのだ。」

マッシモの申し出をエミリオは渋っていた。
グルティア側の要求を飲めばマディノの地から食糧の貯えが無くなるのだ。
当然、商人に売って民が生活を潤すことも出来なくなる。
日本の調査団が来ている今しかない。

「叔父上、申し訳無いが今回の件は無かったことにしていただきたい。
いや、今後もだ。
我々はもう限界なのだ。」
「すまんなエミリオ。
お前の言いたいことは理解しているがこちらも主命でな。
マディノ兵では我々を抑えることは出来ない、抵抗するな。」

マディノの兵士達は各村に派遣されている者達を合わせても100名程度。
この代官所には50名もいない。
代官所はすでに内部に入り込んでいたグルティア兵によって制圧された。

「準備が出来たら早々に引き揚げて拘束も解く。
エミリオの失点にもなるから王国や総督には訴えるなよ?
一族が処罰されるのはお前も見たくないだろ?」

牢に入れられたエミリオをはじめとする代官所の役人や兵士達の蔑みの目がエミリオに突き刺さる。
だがその視線はマッシモの一言で氷解した。

「お前が我々に逆らわずに食糧を差し出してれば牢に入れられずに済んだんだ。
民達が食えなくなると抵抗するから・・・」

役人や兵士達の目は一転してエミリオを尊敬、或いは憐れむ視線に代わっていた。
マッシモからのせめてもの餞別だった。
代官所の広場に出ると本隊の兵士達に命令する。
マディノの兵士や役人達はチョロいなと思ったが自分の部下達はあんなのでは騙されてくれない。

「さあ、食糧を根こそぎ徴用せよ。
別動隊が合流すればいっきにグルティアに帰還する。
もう二度と来ることは無いだろうから持ち逃げするぞ!!」

貴族の私兵集団としては情けない宣言にマッシモ自信が脱力してやる気が見受けられなかった。


代官所の倉からは小麦や野菜の入った袋が持ち出されて馬車に積載されていく。
さらなる食糧を調達するべく兵士達が代官所から街に躍り出ていった。
兵士達は飲食物を扱う店や行商人や民達の倉からも持ち出される。
もちろん旧子爵邸の日本人達には手を出さないよう厳命されている。
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0067†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/15(金) 14:40:45.916613ID:g6k/mQ0IK
だが中には羽目を外そうと考える者達もいた。
騎竜兵が歩兵4名を連れて裏通りを歩いていると、小綺麗な酒場兼娼館の姿が目に入った。

「ちょっと寄っていくか?」
「いいんですか?」
「うむ、酒場を兼ねてるなら食い物もある筈だからな。
これは客に扮して調査の必要があると思わないか?」
「そうですね、行きましょ、行きましょ。」

騎竜兵と兵士達は店内に入って驚愕する。
最近はグルティアの女達も綺麗になっていい匂いをさせるようになっていたが、この娼館の女達は格が違った。
洗練された薄化粧の仕方、十分な栄養に基づいて育った豊満なボディ。
仕草の一つ一つが可愛らしくて、兵士達は舞い上がっていた。
自分の財布の中の状況も忘れて・・・

「金が支払えないとはどういうことですかい?」

一時間ほどでヘロヘロになった兵士達を黒駒勝蔵が視線で威嚇する。
床に正座させられた兵士達の周囲には石和黒駒一家に所属する組員や冒険者達が部屋の四方から取り囲んでいる。

「我々はグルティア侯の・・・」
「関係ありませんな。
代金分の身ぐるみ剥がさせて頂きますね。」

下着姿で放り出された兵士達は這う這うの体で逃げ出していた。

「あれは仕返しに来ますね。」

荒木が迷惑そうな顔で予測する。
「そうだな。
女達は子爵邸にお手伝いに行かせろ。」
「我々は?」
「自分等のシマを守れなくて何がヤクザだ。
もともとは一本独鈷でやってた俺達だ。
余所者にイモ引くわけにはいかんからな。
チャカとヤッパ、兵隊を集めろ。
出入りに備えてな。」

嬉々として組員達が酒場を飛び出していくが、冒険者達は勝蔵の言葉がいまいち理解できなかったのか動きが鈍い。

「え〜と、自分達の縄張りを守れなくて何がギルドメンバーか。
我々は独立勢力である。
余所者が怖いと退くわけにはいかない。
武器と戦える者を集めて迎え撃つぞ・・・です。」

荒木の翻訳に納得して冒険者達も飛び出していく。
勝蔵は訳されて照れ臭そうだ。

「まずはお代官さまのご意見でも伺って来るかな?」
「お供しやす兄貴!!」

武器も集まってくるお馴染みのトカレフ、日本刀、長ドス、ロングソード、棍棒、金属バット、フレイル、弓矢、ボウガン、コルト・ガバメント、ベレッタM92、M1ガーランド、U.S.M1カービン。
残念だがトカレフ以外の銃は一丁ずつしかない。
事務仕事や地回りに退屈を覚えていた勝蔵は久しぶりの喧嘩に高揚している自分に苦笑していた。

「スコータイの連中ももう弾丸の在庫が無いそうです。
今回の喧嘩が終わったら暫くお蔵入りですな。」

荒木がトカレフとU.S.M1カービンを手に取り呟いていた。


調査団一行は7つの村の調査や測量をどうにか終えて、マディノの街に戻ってきていた。
鉱山局の松本が車両を入れた庭先で出迎えてくれる。

「お帰りなさい、あなた方が最後でした。」
「状況は?」

浅井は高機動車から降りて間髪入れずに問いただす。

「グルティア兵と石和黒駒一家が町の各所で睨み合ってます。
代官所はグルティア兵に制圧され、逃げ延びた兵士や役人がこちらに・・・
また、やはり石和黒駒一家が女性達の保護を求めるとこちらに押し付けてきました。
現在、市原女史に面倒みてもらってます。
鉱山街の日本人達は避難所に誘導しました。
駐在が数名と自警団が警戒に当たっています。
我々も含めて三勢力がこの町で睨み合ってる状態です。」

松本の言葉に浅井は首をふる。

「4勢力です。
各村で蜂起した一揆軍800がこちらに向かっています。
自分はこれより旧子爵邸防衛の指揮を執ります。」

駆け出して行ってしまった浅井を藤井は目で追ったが松本が話し掛来た。

「藤井課長、問い合わせのあった石和黒駒一家のことなんだが、総督府から連絡があった。
連中は移民じゃない密航者だ。」


グルティア騎竜兵団と睨み合う石和黒駒一家は、日本人の組員40名、ギルドに加盟した傭兵や冒険者30名を戦力としていた。
ギルドホームである酒場や娼館や事務所としてのギルド本部、組員寮を街の一角に集めて守りやすいようにしている。

「代官所の役人や兵士達にこちらとの合流を呼び掛けましょう。
代官が竜騎兵団に拘束されてるのならば連中を仲間に入れれば錦の御旗はこちらのものです。」

荒木の提案に勝蔵は悪くないと思っていた。
武力はともかく大貴族の権力と戦うには石和黒駒一家の公的な力はあまり強くない。
だが代官所の残党の証言があれば十分に渡り合える可能性があった。

「兵士は一緒に戦ってもらうとして、役人に死なれるわけにはいかないからな。
安全なアジトを提供しよう。
そのへんは荒木に任せる。」
「へい兄貴。」

細かいことは荒木に任せて、区画の入り口に築いたバリケードを視察することにした。
十数人の組員や傭兵達がここを守っている。

「組長、グルティアの連中に動きは無いです。
竜騎兵が15人、兵士が50名がこちらと睨みあってますわ。」

若頭、もといサブギルドマスターの北村がここの指揮を取っている。

「誰かギルドマスターって、呼んでくれないかな・・・」

少々悩みつつも双眼鏡で敵陣を観察する。

「やっぱり連中も銃を持ってるか。
撃ち合いになったら不利かな?」
「マズルローダー(前装式)ってやつだから、一発撃ったら弾込めに時間掛かるんでしょう?
でも歩兵の二人に一人、竜騎兵は全員持ってますな。
はい、これが実物。
娼館で身ぐるみ剥いだ奴から代金代わりに貰ったもんです。」

グルティアの紋章を付けた前装式弾込め銃を手渡されて観察する。
そして、銃を持ってない若い組員に渡す。

「一発しか撃てないから大事に使え。」
「は、はい!!」

今から弾込めの仕方なんて教えても意味が無いだろうとそこは割り切ることにした。
屋根から双眼鏡から観察した組員が声を掛けてくる。

「組長、何台かの馬車が街の外に出ようとして戻ってきました!!
なんか街の外にえらい人数が集まってます。
兵士じゃないですが、あれは農村の連中です!!
手に農具や棒きもって馬車を威嚇してます。」
「なんだ一揆か?
連中も仲間に出来そうか?」
「いや、無理だと思います。
旗みたいのに打倒代官とか、こっちの言葉で書いてます!!」


「なんということだ、強硬突破しかないかな?」

竜騎兵団団長マッシモは追い返された馬車からの報告にうんざりした声をあげる。
マッシモの目的は戦闘ではなく、商品価値のある食料をグルティアまで送り届けることにある。
幸い一揆軍は代官所がこちらの一味と思い込んでるので、代官所残党と組む様子はない。
だが馬車の通れる街道に陣取られてるのは面白くなかった。
さらにさらに街中では街の権益を代表する自衛組織がこちらと対時している。

「まったく難儀なことを・・・だが・・・その程度の戦力で我らを止めることが出来ると思っているのか?」

一揆軍は7つ村の若者を中心に約800人ほどに膨れ上がっていた。
街から4方向に伸びる街道に200名ずつ、馬車や土を掘り返し、木を倒壊させて進路を塞いでいる。

「本当は今すぐにでも村に乗り込みたいのだが、竜騎兵とまともにやり合うわけにはいかないからな。
封じ込めて少しずつ削り取るつもりだ。」

一揆に唯一参加してないアンクル村な村長モンローがここにいるのは、いざという時の仲介役になる為と一揆に参加した村が免罪を勝ち取れない時に遺された家族をアンクル村で保護してもらう為だ。
モンローは一揆の代表になっているリボー村の村長に蜂起を辞めて解散するように促していた。

「甘いぞ、竜騎兵は馬の騎兵とはわけが違う。
この程度の障害はモノともしないぞ。」

何よりモンローはこの蜂起に反対なのだ。

「だが街にいる娘達が心配な親がいきり立っている。
これでも自制しているんだ。」
「日本人達は女に興味はないという噂ではないか。
それに彼等に保護されてるなら代官所やグルティア侯爵家も手出しは出来ない。
落ち着かせるんだ。」
「だからと言って、このままでは何も事態は解決しないじゃないか!!」

そこに街を見張ってた若者が飛び込んでくる。

「大変です、竜騎兵団が街から出てこちらに向かって来ます。」
「弓で迎え撃て!!」

農民の集まりといえ、畑を狙う害獣や狩りをする為に弓くらいは持っている。
武芸者のように練習しているわけでは無いが、数十本もの矢が竜騎兵10騎ばかりに飛んでいく。
だか竜騎兵達が駆るデイノニクス達は軽々と矢を避け、鱗は弾きながら前進してくる。
盛った土や倒木も意に介さず飛び越えていく。

「蹴散らせ!!」

農民の一人が文字通りデイノニクスに蹴り飛ばされるとパニックで総崩れになっていく。
軽く噛まれた農民はそのまま放り投げられ仲間たちに当たって互いに動けなくなる。
鍬や鋤を持った農民数人が一匹のデイノニクスを狙うがその場で一回りされて尻尾で弾き飛ばされる。
これでもなるべく殺さないように剣や槍、銃の使用は控えているのだ。
倒木はデイノニクス二匹に食わえられて排除し、後から来た歩兵達が盛り土を破壊して街道を均していく。
竜騎兵達の前進は留まるところを知らなかった。
街から竜騎兵が数を減らしたことを双眼鏡で確認した石和黒駒一家は、代官所の奪還に乗り出そうとした。
案内役の代官所の兵士や役人もいる。
僅かばかりの竜騎兵など銃弾で黙らせればいい。
だが竜騎兵と石和黒駒一家の間に高機動車2両が立ち塞がり、RPK軽機関銃の銃口がこちらを向いていた。
高機動車から浅井二尉が降りてくる。
勝蔵も組員を抑えて前にでる。

「どういうことで?」
「我々は基本的に王国内の争いに関与しない。
我々に火の粉が振り掛からないか、公的な機関からの要請がない限りな。
まして相手は出ていこうとしているんだ。
大人しく出ていかせればいい。」
「ここは日本の管理区域じゃなかったので?」
「正確には来年からな。
租借してはいるが正式には王国の領地だ。」

統治機関の代官所も今年限りの予定なのだが今はまだ存在している。

「アレを行かせれば来年のここの領民は苦境に晒されますが、それでも我々を止めるので?」
「前者は答える権限はない。
だが、石和黒駒一家を停めるのは大陸密航の容疑者として拘束する為だ。」

駐在所のパトカー2両も封鎖線に加わっている。

「なるほど・・・なら日本人でないギルドメンバーや代官所の兵士達は関係ないと?」

手を振って大陸系のギルドメンバーや兵士を先に行かせ、自衛隊側も素通りさせる。
だが若頭の北村や荒木は納得が行かない顔をしている。

「あいつらじゃ勝てませんぜ。
敵は銃を持っているがあいつらには持たせてません。」
「かといって強引に押し通ればモロともに銃弾の餌食だ。」

浅井は日本人だけになったところで話を再会する。

「黒駒さん、あんたらは日本の移民局の許可を得ずに大陸に渡ってきたのはすでに判明している。
その経緯を説明してもらおう。」
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0068†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/15(金) 14:48:58.106151ID:eZ8E1dcUK
「大した理由じゃない。
青木ヶ原事件で外道仕事がバレて地元に居場所を無くした。
大半の幹部組員が死ぬか、逮捕されて残されたこいつらを見捨てることも出来ずに組を継いだ。
だが・・・日本では大組織に狙われ、地元を追われた。
で、紹介状を貰ったので綺麗所を温泉街に斡旋する仕事で知り合ったタイ人マフィアの密輸船でタイ人の植民都市スコータイに渡ってこの地に来てみたのさ。」
「紹介状?」
「ベッセン、その名を総督府に照会してもらいな。
そうすれば俺らのことは不問になるから。
まあ、そんなわけで密航かも知れないが、密入国じゃないんだ。
ああ、なるべく上の人間に掛け合ってくれよ、訳ありな名前だから。
そうだな経済難民というのが一番近いかもしれない。
日本人ではあるが、すでに王国に国籍を移したのさ。
つまりあんたらは王国の民に銃口を向けていることになる。」

日本人が難民になる発想はほとんどの日本人には理解しずらい。
帝国は大陸に一つしかない国家だった為に国籍の概念はなかったが、王国は総督府からの提案を受けて採用した。
帝国に比べて半分以下となった財政を改善する為に税制の効率化をはかる意味があった為だ。

「だ、だが日本の施政権がこの街に及べばやはりあんたらは国を捨てた犯罪者として逮捕されるぞ。」
「だがそいつは来年からなんだろ?
まだ、年は明けてないですぜ。
さあ、そこをどいてもらおうか。」
「だいたいその銃器はどこから手にいれたんだ。」
「あんたら植民都市造る際に厳重に刀狩りみたいなことしたんだろ?
タイマフィアも移民するのに足手まといになるから買い叩いたのさ。
元はタイ王国陸軍の横流し品さ。」

そう言いながら封鎖線を駆け抜けていく。
不問にならなかったらならなかったで、この街は大陸系組員に任せて隣の領地の事務所に拠点を移せばいいだけの話だ。
別に石和黒駒一家の縄張りはこの街だけではないのだ。
すでに竜騎兵団と大陸系組員の市街戦は始まっている。

「代官を救出したら我々に救援要請を出させろ。
公的な機関からの要請なら我々も動ける。」

浅井が聞こえるように大声で伝える。
後ろ姿の勝蔵は片手を上げて応えていた。
方針を転換するようだが、せめて自衛隊としては介入の余地を残しておかないといけない。
このままでは石和黒駒一家の影響力だけがこの領地内で大きくなる。

「連隊司令部の一番偉い奴を出すよう通信しろ。
総督府の偉いさんに紹介状の真偽を確かめないといかん。」

浅井は高機動車の無線機を担当している隊員に告げた。


建物の屋根や窓から銃撃を始める石和黒駒一家に竜騎兵団も応戦する。
しかし、竜騎兵団は銃撃戦を市街地で行うという経験はない。
通常は突撃と同時に発砲して距離を詰めてから槍や剣で敵陣を蹂躙するのが役目だ。
激しき揺れる騎乗中は弾込めは不可能でもある。
障害物だらけの市街地では、歩兵の小銃の方が弾込めが出来る分有利だ。
たが歩兵達が一発撃って弾込めしている間にトカレフの銃弾が5発も6発も飛んでくる。
負傷してもがいていると盗賊ギルドや傭兵出身の大陸系組員に路地に引きずり込まれて武器を奪われていく。

「一揆軍なんぞより余程手強いな。」

不利をを悟ったマッシモは、食料を積んだ馬車を先行させて街からとにかく脱出させる。

石和黒駒一家の強みは市街地でのゲリラ戦だ。
野外ならば形勢は逆転する。


「深追いはするな。
街から出たなら門を閉じたり、馬車で封鎖しろ。」

自らもベレッタ自動式散弾銃を発砲しながら勝蔵は大声を張り上げなから指揮をとる。

「代官所にまだ竜騎兵一騎含む30名ばかり立て籠っています。」

荒木が息を切らせながら駆け寄ってくる。

「攻め落とせそうか?」
「駄目ッス、代官所はさすがに掘りと土壁が合って近寄れません。
正門と裏門に橋が掛かってますが・・・何より弾がもう有りません。」

さすがに在庫が底を尽き始めていたのは以前から問題となっていたが、出入りでケチるわけにもいかなかった。
代官さえ抑えて、大義名分を掲げれば石和黒駒一家に取っては勝利なのだ。
ふと、勝蔵の目に入るものがあった。

「なあ、俺にあれが乗りこなせると思うか?」
「兄貴、なら出来ます!!」
「ちょっと試してみるか、富士吉田では何度か慣らしたもんだが、要領が同じならいいんだが・・・」


一揆軍が竜騎兵団に蹴散らされ追い散らされる乱戦の中、街道の先にから土煙を上げながら何かが接近してくる。

「何だ?」

一揆軍を突破した先頭の竜騎兵は土煙に人の形をした影を認めて、槍を突き立てるとそのまま持ち上げられで街道の外に放り投げられた。
土煙が晴れると神の像を象った4メートル前後の全高を持つ巨像が動いている。

「ゴーレムか?
だが一体だけだ、対ゴーレム戦用意!!」


一揆軍からもゴーレムの姿が確認出来る。

「おお、あれは・・・先代の子爵様が用意した神像、この領地が危機の時に動き出すと言われてたが・・・」

モンローの言葉に農民達が共に戦おうとゴーレムのまわりに集まっていく。

「行くぞ!!」

一揆軍の反撃の進撃と同時にゴーレムは前方を歩いていた農民を踏み潰した。


代官所の堀を渡る為の橋をデイノニクスを駆る勝蔵が疾走する。
富士吉田市の牧場で一通り馬には乗れるようにったが、騎竜はやはり勝手が違う。

「前進出来ればいい!!」

橋の上で時速40キロで走り抜けるデイノニクスに代官所の立て籠っていたグルティア兵の前装式弾込め銃が数発発砲される。
しかし、その快速で狙いを外され空を切り、強靭な鱗が運良く着弾した鉛弾によるダメージを減衰させてしまう。
デイノニクスはそのまま門扉にぶつかる直前に門扉の金具に足を掛けて、そのままスルスルと屋根まで駆け上がっていく。
屋根から代官所の庭先に降り立った。
群れを作る性質のあるデイノニクスはすぐに代官所内の別のデイノニクスのいる場所に向かう。
グルティア兵達は味方の騎竜かと思い、阻止行動をとってこない。
即ち立て籠っている敵将のいる場所だ。
手綱とデイノニクスの首にしがみついているのが精一杯だった勝蔵は、敵騎竜と騎竜兵の前で停止したデイノニクスから滑り落ちる。

「こ・・・この気持ち悪いじゃないか・・・」

吐き気を堪えて、自棄っぱちっで背中に背負ったベレッタ 自動式散弾銃を適当に構えて撃ち放つ。
穴だらけになって倒れた騎竜兵を目撃し、代官所のグルティア兵は降伏した。


門扉が開き、荒木や北村が代官所に雪崩れ込むと真っ先に囚われていた代官所の役人や兵士達が解放された。
軟禁を解かれた代官エミリオも勝蔵に肩を貸して中庭に出てくると組員や代官所の役人や兵士達が歓声を上げる。
そこに浅井二等陸尉と調査団の団長である藤井が現れる。

「さあ、あとはあんたの仕事だ、お代官様。」
「わかっている。
王国代官として日本国自衛隊に、よ、要請する。
この領内を荒らして回ったマッシモ・グルティア率いるグルティア騎竜兵団の撃退と奪われた食料の奪還を!!」


マディノの町から高機動車2両が竜騎兵団の追跡を開始する。
だがすぐに目標を視認することが出来た。
さすがに40台もの馬車が固まって街道にいれば嫌でも目立つ。

「なんでこんな所で停まってるんだ?」
「二尉、街道の先で騎竜兵団が交戦中!!」

高機動車の後部でドローンから配信される映像を見張っていた隊員が浅井を呼び掛けてくる。

「一揆軍か?」
「いえ・・・これは・・・二足歩行ロボット?」

要領を得ない隊員の発言に浅井もモニターを確認すると、確かに二足歩行の巨大な像が動いていた。

「ゴーレムって奴か・・・」

グルティア兵達が一斉に銃撃した後に竜騎兵達が槍や剣で切りつけている。
デイノニクスも爪や牙を突き立てているが、まるで歯が立っていない。
尻尾を掴まれて振り回されている光景が目にはいる。
その周辺では一揆に参加した農民達が倒れていたり、逃げ回っている。

「先にアレを片付けないとけないか、やるぞ!! 」

銃架にRPK軽機関銃を装着して高機動車から銃撃が開始させる。
車両から降りた施設科隊員もAK−74で射撃する。
無数の銃弾がゴーレムに撃ち込まれるが多少ヘコませる程度で前進が止まらない。
そのヘコみもすぐに修復していく。
後方からの突然の攻撃にグルティア兵達は慌てるものの、マッシモが号令を駆けて落ち着かせる。
すぐに高機動車の元に駆け寄って忠告してくる。

「それじゃあ駄目だ。
ゴーレムは、魔力を込めた宝石を体のどこかに埋め込まれている。
それを破壊するんだ!!」

さすがにマッシモは家臣団に組み込まれて士族に族籍変更が行われているとはいえ、貴族の子弟だったこともあり日本語を学習している。
討伐の第一対象に忠告されて浅井は舌打ちをする。

「どこかってどこだよ!!」
「だいたい頭部、胸部、腹部がセオリーだ。」

銃撃は当然胴体を集中して狙っている。
弾込めを終えたグルティア兵達も攻撃に加わる。

「あそこまでヘコめば・・・、行け!!」

竜騎兵4騎がデイノニクスの腕に取っ手を持たせて持ち上げさせた巨大な金属製破城鎚を携えてゴーレムに火線に注意しながら突撃する。
巨大な杭のような穂先を持った重量400キロの金属製である。

「撃ち方やめ!!!」

銃撃が止まり、ヘコみが戻る前に破城鎚がゴーレムの腹部を貫く。

「外れか、いかん、退け!!」

貫通して背中まで穴が空いたゴーレムの傷が塞がっていく。
刺さったままの破城鎚がそのまま余分な部分が切り落とされる。
そのまま落とされた破城鎚を握られて振り回されて、まだデイノニクスに取っ手を握らせていた騎竜兵二人が騎竜ごと投げ飛ばされる。
そして、何事もなかったかのように前進を再会する。

「兵を街道から外させろ。
さっきから見てると、奴は進路を妨害するものにしか攻撃しない。」

浅井の指摘通りで蹴散らされた農民や竜騎兵、排除された倒木や盛り土も全て街道のゴーレムの進路上でだ。
しかし、後続の馬車を街道の外に出せるほど、街道の周辺の森は広くない。

「先頭の馬車から転回して、町に戻れ!!
負傷者は最後尾の馬車に乗せて満載になったら順次、その場で転回して発車しろ。
竜騎兵は足止めに徹しろ!!」

町には石和黒駒一家と代官所の兵士達が待ち受けてる筈だが、馬車に積まれた食料を無視出来ないのは同様だった。
まだ竜騎兵は30騎ほど残っているが、ゴーレムを倒す決定打に欠けていた。
転回しようとする馬車を浅井が引き留めている。
馬車の兵士達に片言の大陸語で説明しているがなかなか理解してもらえない。
ようやく日本語がわかるマッシモが来て双方胸を撫で下ろしている。

「何をしている?」
「命令しろ、馬車に一揆に参加した農民も乗せてやれ。
そうすれば町に入る通行手形の代わりになるぞ。」

確かに先程まで戦闘を行っていた武装集団がいる町に入るには手土産が必要ではあった。

「積み荷を放棄せるわけにはいかない。
負傷してない農民は走らせろ。」

マディノの町では次々と引き返してくるグルティアの馬車に困惑していた。

「何があったので?」
「わからん・・・」

勝蔵とエミリオも戦力を集めグルティア兵を町の広場に集めて、馬車を制圧して食料を奪還していたが、グルティア兵の抵抗の無さに戸惑っていた。

ようやく馬車に乗っていた農民に状況を説明してもらったが、町の外では爆発音がして全員が振り返る。
その後に銃声が鳴り響いている。

「手榴弾・・・でも倒せてないのか」

町の門を高機動車が後進しながら竜騎兵と退避してくる。

「門を閉じろ!!」

だが閉じられた門には一向にゴーレムがやってこない。
門の内側で待ち受けていた自衛隊、グルティア兵、石和黒駒一家、マディノ代官所の兵士達は拍子抜けする。
高い塔から見張りをしていた隊員が無線機で叫んでいる。
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0069†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/15(金) 15:24:42.809232ID:YGaTanWkK
「ゴーレム、進路を変更!!
街道を外れて東の外壁に向かってます!!」
「なんだと!?」

ゴーレムは街道から来ると信じすぎていた。


UA:N05C
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[8]
01/19 01:14
「東の外壁が破られたぞ!!」
「なんでそんなところから・・・あそこには・・・旧子爵邸がある?」

エミリオの言葉に全員が顔を青ざめる。

「まだ、調査団が!!」
「村の娘達やうちの女の子達もそこにまだいやしたね。」
「そんな、ジーンにまだ詩を贈ってないのに・・・」
「え?
うちの娘達がいるところなんですか?」
「街道開いたみたいだし、我々は帰っていいかな?
いや、なんでもない・・・」

全員から睨み付けられてマッシモは黙る。
全会一致で迎撃に向かうことなったが根本的な問題が解決してない。

「どうやって倒すか?」

デイノニクスの爪や牙、銃弾や手榴弾、破城鎚でも効果は薄かったのだ。
移動を開始するが打開策は見つからない。

「待てよ、あれがあったな。
打撃が効かないなら押し返すか?」

浅井は旧子爵邸と連絡を取った。

ゴーレムは僅かな抵抗を排除して旧子爵邸の門を破壊せんと破城槌を構えると、邸内の庭先でロシア製戦闘工兵車IMR−3のエンジンが唸りをあげる。

「いいのかなあ?」
「いいんじゃないですか、二等陸尉の許可は出てますし。
今さら調査団や女の子を退避させる時間もないですから。」

車長である松田曹長と宮本一曹が各種の装置の点検を行いながら会話をしている。

「よっしゃあ、800馬力の突撃を見せてやる。
速度最大、ブレードは奴の胴体を狙え!!」

何度も破城槌を叩きつけられた門が開門されると、IMR−3がゴーレムに対して突撃を敢行した。
最初の一撃でゴーレムは、ブルトーザブレードに破城鎚を叩き着けるが、そのまま数メートル後方まで弾き跳ばされていた。

「軽う!!」

「こっち40トンはありますしね。
もう一度行きます!!」

浅井は勝蔵、エミリオにマッシモ、モンロー村長等がこの戦いを遠巻きに見守っていた。
弾き跳ばされていたゴーレムに巻き込まれると危ないからだ。
だが何度も弾き飛ばされてもゴーレムはヘコんだ部分を修復して邸内に入って行こうとする。

「穴掘って落とすのはどうでしょう?」

モンロー村長の提案で全員で町中に穴を掘り始めた。
IMR−3の燃料だっていつまでも持つわけではないのだ。
戦闘工兵車が目の前にあるのにスコップによる人力で掘らねばならないのには浅井は些か納得がいかなかった。
幸い一揆軍の他の街道を塞いでいた農民600名も町に入って合流したので、人手だけは腐るほどあった。
彼等も一揆に参加した筈なのに何故か町中て穴を掘る作業に従事する羽目になったのか納得のいかない顔をしている。

「深さは6メートルは必要か?」
「這い上がれないくらいだとそれくらいかな、半日は掛かるか?」
すでに作業開始から一時間は経っている。
穴は1メートルほどだ。

『二尉殿、さすがに疲れました。
誰か代わってください・・・』

松田曹長からの悲鳴が無線機から伝わってくる。
何度もゴーレムを弾き飛ばす有利差は代わっていないが、3分に一回は激突を繰り返しているので、中の人間が参っているのだ。

「もう少し頑張れ、7時間くらい。」

対時中に交代要員等送れるわけがない。
無線機からは返答は返ってこないが、IMR−3は順調にゴーレムを弾き飛ばしているので了解されたと解釈することにした。
気の毒そうな皆の思いが一致するが、荒木が空気を読まずに発言する。

「鉱山町の連中から重機と人手を借りて来ればよかったのでは?
鉱夫達も穴掘りのプロですし」

全員が気まずい顔になるが鉱山町に伝令を出すこととなった。
作業開始5時間目、すでに日付まで代わっているがようやく作業が完了した。

「ご苦労だった松田曹長!!
あとはそのデカぶつを穴に落とすだけだ。」
『あの・・・浅井二尉、あいつ動かなくなったんですが?』
「いつから?」
『3分前くらいか・・・』

竜騎兵数騎が近寄って槍で突ついて反応を伺っている。

「何が起きた?」

理解に苦しむ浅井にマッシモが推論を述べる。

「ゴーレムは内蔵した魔力で動いてるから、それが切れたんじゃないかな?」
「じゃあ、何で突然動き出したんだ?」

「そんなことは知らん。
それよりどうするのだ?
共通の敵がいなくなってしまったが再戦するのか?」

誰もが疲れきっていて地面で寝ている者も多い。
自衛隊も石和黒駒一家もグルティア兵も銃弾が枯渇している。

「食料の持ち出しは4分の1です。
それで矛を収めましょう。
叔父上も主家に顔を立てないといけないですからね。
ですが金輪際、グルティア侯爵家とは縁を切らせて頂きます。
残りの4分の3は農民に割り当てる。
年貢も他領と同じに引き下げる。」

代官エミリオの決定だった。

「よろしいので?」
「もう誰も戦えないし、私は解任らしいからな。」

旧子爵邸から調査団の藤井課長が2つの封書を見せていた。
一つはモンロー村長から渡された直訴状。
もう一つは代官エミリオの不正を理由に代官を解任、王都に召還する上意書であった。

「最初から決まっていたのだろ、そんな上意書が用意されてたなんて、とんだ茶番だったな。
だがそれを正式に見せられるまでは私が代官だ。
グルティア兵の持ち出しと帰還、一揆軍の免罪を承認する。」

20日目

この日をもって、マディノは正式に日本の管理区域となった。
代官所は閉鎖され、日本人による町役場が開設された。
同時に自衛隊の第9分屯地も誕生した。
初代分隊長は浅井治久一等陸尉が就任した。

「経験豊富な浅井一尉にこの町の防衛を任せられること頼もしく思っているよ。」

式典に参列した秋月総督のお言葉に恐縮してしまう。

「しかし、なんだかイチャイチャしている大陸人の多い町だね?」
町を視察している時にも思った疑問である。

「周辺の村娘が一斉に美容に目覚めまして、綺麗になった村娘達に若い男が次々と求婚する婚活ブームになっているのです。」
「ああ、石和黒駒一家が化粧品や洗浄剤の売買で利益をあげていると聞いていたがそんな副次的な効果が出てたか、ちょっと不味いな。」

石和黒駒一家は正式に移民してから組に加わり、今回の騒動時も別の領地で活動していた日本人を責任者に大陸系組員にマディノの事務所を任せて隣接するイード男爵領に夜逃げしていた。
看板も石和黒駒商事と変えて経営を引き継いでいる。

「ヤクザの企業舎弟大陸版かよ。」

と駐在が呟いていたのを覚えている。
グルティアの馬車に便乗して一夜のうちに逃げ去っていた。
越境されては手出しが出来ない。
まるで事前に用意していたような手際だった。
「まあ、それはいずれ手を考えましょう。
大陸技術流出法に抵触していますが、それは警察の仕事です。」

大陸においては自衛隊にも司法警察職員としての権限は与えられているが、越境してまで行えるものではない。
あとは警察か、別の部署の人間が対処するのだろうと浅井も理解している。

「グルティア侯爵家については?」
「放置です。
今更ですが王国に対する内政干渉にあたりますし、カードとして取って置きます。
それにあれは良いテストケースでした。」
「テストケース?」
「性急な内政改革のもたらす混乱と弊害。
新京に留学生に対するよい実例として教科書に追加です。

我々も今後どうなるか見守ってますよ。
内乱でも起きたら介入して改易か、東部地域から国替。
日本の統治下になるまでが計画です。
前代官エミリオ殿は・・・横流しの罪状で一年の牢暮らしのあとに斬首刑が決まりました。
彼本人はほとんど着服してなかったのですが、各方面から蜥蜴の尻尾切りされたのでしょう。
嘆願書を出すなら総督府を通じて行いますか?」
「お願いします。」
「こちらからもお願いします。
なんか首斬ったら総督府に送るとか言ってるんですよね、勘弁してくれないかなあ。」

秋月総督は町中にモニュメントのように立ち尽くすゴーレムを目にする。

「あのゴーレムは領地を外敵から守るように配置されていたそうです。
ただ、五年も放置されていたので内蔵魔力が枯渇し、子爵館まで補充に動き出したのだそうです。
道中数々の妨害にあって魔力が尽きて動かなくなったとのことです。
邸内に補充の為の台座があるそうです。」
「戦う必要はなかったと・・・、まあ、グルティアの馬車を足止めできたからよしとしますが。」
「いやいや、話には続きがありましてね。
あのゴーレム、領内にあと七台あるそうです。
近いうちに動き出すそうですから対策を考えといて下さい。」


秋山補佐官は秋月総督が後ろにいるのに気がついていたが、無視して自分の仕事を遂行していた。
公安調査官と大陸研究の博士と話し込んでいる。

「ゴーレムに使われている金属ですが地球には無い産物ですね。
大陸でも一般ではあまり使われてません。」
「一般で無いというと?」
「魔法のアイテムとかで使われてます。
この大陸でもあまり産出されない輸入品だそうです。
北部や西部の上流階級ではそれなりに出回っているそうですが。」
「調布の『協力者』の証言と一致します。
彼は学術都市の研究予算で輸入して開発したそうです。
そうでなければ政治的予算的に不可能だったと。
毎年魔力を補充にしてたそうですが、我々に拘束されてままならず放置していたとのことです。」

実に迷惑な話であった。

「何者かに魔力を補充されて使われるのが心配です。
新浜に新設した研究所に持ち込みますよ。」
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転移10年目
大陸南部スコータイ市

スコータイ市は在日・訪日タイ人九万人、在日・訪日ラオス人3千人とそれぞれの配偶者となった日本人を加えて約10万人の人口を誇る都市である。
大陸南部の貴族領を接収して建設されており、漁業と観光が盛んな土地となっている。
住宅などは以前からあった建物を改修して使っている。
軍事的には日本から購入した中古車によるテクニカルによる軽車両部隊と小型船舶を改造した哨戒艇による400名程度の軍警察がある。

「だからですね。
うちも最近は日本に武器を完全に管理するよう釘さされちゃって、昔みたいな横流しなんて出来無くなっちゃったんですよ。
石和黒駒一家さんには昔からお世話になってるから、力になりたいのは山々なんですがね。
呂栄のファミリーならまだ余裕はあると思いますから話を通しときますよ。
はいはい、今後ともご贔屓に。」

達者な日本語で別れの挨拶までこなして電話を切る、チュンマイはため息を吐く。
先月の石和黒駒一家が関わった事件でチュンマイのファミリーは警察の手入れを食らった。
幸い普段からの心付けが効いたおかげで、賄賂は少なくて済んだ。
スコータイは些か黒社会に属した人間が多いのが玉に瑕だ。
だが地球系の武器の枯渇は彼等にも深刻な問題であり、昔ながらの剣や槍を大陸で集め始めていた。
もしくはこの大陸で入手可能な資源で出来る火器の研究である。
最近では裏稼業より冒険者やタイマッサージの貴族への人材派遣の方が儲かるくらいだ。
カジノやムエタイの興行による賭けも盛況だ。
日本の業者による高級住宅を建築する者も出てきている。

「親方、海賊ギルドの方からの依頼どうしますか?」
「あん?
ああ、日本の移民船襲うからスケジュール寄越せって話だったか?
正気とは思えないが金貰っちゃたしなあ。
適当に教えてやれ。」

スコータイは大陸の黒社会と地球系黒社会の窓口になってしまっている。
その取り次ぎで利益を得たチュンマイはもうすぐ日本式高級住宅の完成が待ち遠しく、完成予想図の書かれた書類を見て笑顔を見せている。
微笑みの国の住民はやることがおおらかだった。


日本から大陸への航路を1隻の船が航行していた。
旅客船『いしかり』、約700名の日本人移民客を乗せて航行している。
日本が大陸に建設した新京特別区の港に向かっているのだ。
『いしかり』は館山の港を出航して、航続距離六千海里を燃料の九割を往復で消費するというわりとギリギリな航海をしている。
片道8日間の航海で余計な寄り道をする余裕は無い。
ブリッジでは船員達が中継ブイや海上観測基地、周辺船舶からの情報を収集しながら航海を続けている。
安全だった地球と違い、海賊や海のモンスターがいつ出現するのかわからないのだ。
周辺海域の把握はより重要性を増していた。
最も並みの大きさのモンスターでは、15000トンの『いしかり』の巨体に押し潰されるだけである。
船長の平塚は双眼鏡で水平線の彼方を眺めているが、別段船長の仕事として必要は無い。
周辺の警戒にはレーダーがあれば十分だし、銃火器を持たせた武装警備員が黙視で監視の任務にあたっている。
それよりも月末に会社に提出する船員の給与・諸手当・食料品の収支報告書。
船内で販売されたタバコ、ビール等のアルコール飲料、レストランや自動販売機の売上金の報告書を作成するのが急務なのだが、いまいち気分が乗らなかったので海を眺めていたのだ。

「せっかくこんな大型船の船長になったのに陸の管理職と変わらないじゃないか。」

他にも航海中における水、食料、燃料の在庫の確認報告書も控えている。
そこに副長の大谷が声をかけてくる。

「船長、前方500海里先を航行する『きたかみ』が複数の船舶が接近してきたと連絡がありました。
約27時間後に我々も通過します。」

『きたかみ』1日早く館山を出港した旅客船だ。
『いしかり』同様700名もの移民を乗せている。

「ふん、また海賊か?
『きたかみ』はどう対処したと?」
「未確認船団が正面左右から挟む様に航行してきたので、最大船速で正面の船団の間に突入し振り切ったそうです。」
「なんだそれは格好いいな、我々もやるか!!」
「馬鹿言わないで下さい。
回避ルートを航海科に作成させてます。」

冗談の通じない奴だとがっかりしながら、『きたかみ』から送られてきた未確認船団の情報を確認していた平塚はその動きに眉を潜める。

「1隻だけ最大15ノットだしてるのがいるな。
帆船のわりにたいしたもんだ。
こいつは帝国海軍の軍船だな?
海賊にこんな技術力のある船が用意出来るわけがないからな。
まだ、生き残りがいたのか。
24時間後に武装警備員を完全武装でデッキで待機させろ。
海保にも連絡しとけ。」

すでに『いしかり』は南硫黄島を越えて日本の海上保安庁の保護下からは外れている。
しかし、引き返す選択肢は存在しなかった。
乗客達はそんなブリッジや船員達の危機感を知らずに思い思いの時を過ごしていた。
1週間を越える航海は暇を持て余すのに十分な時間だ。

「しかし、新浜って町は今年出来たばかりなんですよね?
いきなりそこに植民させるのは厳しいんじゃないですか?」

山梨県大月市の円法寺の元住職円楽が同行者である退官した公安調査官佐々木洋介に尋ねてみる。
二人はこのまま大陸に移民するが船内では数少ない知己だ。
互いにオセロを指しながら雑談に耽っていた。

「はい、自衛官と警察官約五千人、市役所、税務署、保健所など各種役所の公務員とその家族だけで4万人、事前に造られた保育所、幼小中高大の学校とその教職員一万人とその家族。
病院、電気、ガス、水道、、国営放送、電話、鉄道各局の職員とその家族約10万人。
その他諸々約18万人が準備段階ですでに新浜市民として入植してますからな。
民間資本も進出して従業員とその家族を入植させていきます。
その分新京の住民枠が空いたからまずはその穴埋めが今年の移民の役割ですよ。」

最も定年の退職金代わりの農地と住宅を新浜に用意して貰っている佐々木とその家族は別枠だ。
この船にも佐々木の家族枠で、妻や息子一家、娘一家と他親戚が数人など15人も乗せている。
ただし、第一次産業に従事する者は本国に残している。
これから退官する公務員は退職金代わりの大陸に家、農地を用意するから移民しないかという選択肢が与えられることになっている。
移民の抽選枠を行列を作って待っている一般人からしたら噴飯物だろう。
経済力がある新京市民が引っ越して来るならともかく、普通の移民が新浜に植民出来るのは7月半ばからになるだろう。
移民するにあたって日本国内にある財産を現金に替える者も多く、そういった身軽な人間は羽田からジャンボ機で新京まで飛んでいる。
佐々木の場合は家族の多さや自家用車や引越荷物の多さから船を選択した。

「ところで先程から船員達の動きがおかしいですな。
航海が始まっての三日間とは顔付きも違う。」
「佐々木さん、職業病が出てますよ。」

引退した官僚の悪い癖だ。


海上保安庁
第三管区西之島海上保安部

西之島海上保安部は海上保安庁が第三管区方面最南端を守る海上保安庁の拠点である。
火山活動が停滞して10年も立つと、政府機関が施設をおきはじめた。
当初は生態系の『生命の実験室』とか騒がれたものだが、転移でそれどころでは無くなってしまった。
その海上保安部では、『いしかり』や『きたかみ』からの通報で海上保安官達が対策を練っていた。

「海賊船団?
参ったなあ、近くにうちか、海自の艦はいないのか?」
「新京地方隊所属護衛艦『いそゆき』がドック入りの為に大陸間航路を航行中です。
こちらに『いしかり』の安全圏までの護衛を依頼しましょう。」

はつゆき型護衛艦『いそゆき』は2014年3月13日に除籍の扱いを受けていたが、その後の2014年7月23日にJMU舞鶴事業所へ回航。
実艦艦的改造を施され、所要の試験に使用されていた。
その後はスクラップとして売却され、舞鶴から解体業者に向けて回航はれる予定だったが日本が転移してしまったので戦力を増強するために修復して護衛艦としって復帰したのだ。
だが就役から45年以上が経つと老朽化がひどくなっていた。

「だがそれでもまだ遠いな、他には?」
「護衛艦じゃなくて、支援艦なのですが・・・、現在大陸に向かっているところです。
『いそゆき』よりは丸一日早く接触できます。」

部下から渡された資料を見て驚く。

「新造艦?
今までどこで造ってたんだこんなの?」
「こいつなら75口径30mm単装機銃が2基装備されています。
木造帆船ごときには負けませんよ。」


海賊船団
旗艦『漆黒の闇』

「ふ、振り切られただと・・・」

艦長のピョートルは思わず床に膝を付ける。
視線の先では旅客船『きたかみ』の姿が小さくなっていく。
海賊船『漆黒の闇』は六年前の帝国海軍壊滅時に建造中だった最新鋭の軍用帆船だった。
開戦前の交渉中の間に日本から入手した帆船の技術がふんだんに使用されている。
未完成のまま隠蔽されて3年を掛けて建造。
一年を掛けた訓練を得て海軍から海賊となった。
近辺の海賊を従えて過去最大の海賊艦隊となっての作戦だった。
いきなり自衛隊や海上保安庁の巡視船は荷が重いからまずは移民船を襲ったのだが、正面から切り込まれて逃げられてしまった。
包囲に参加した艦船は20隻に及ぶ。
たかだか民間の客船があんなに早い上に小回りが効くとは予想を上回っていた。
だが嘆いてばかりもいられない。
スコータイに大金をはたいて手に入れたの大陸間の航路スケジュールによると16時間後にもう1隻の客船がこの航路を通る。
たが日本が使用する通信装置や索敵装置でこちらの動きが知られている可能性が高い。

「包囲じゃ駄目だな。
斜線に陣形を固めて船と船を鎖で繋いで逃げ道を塞ぐ。」

気を取り直して新たな作戦を考える。
問題は日本の索敵装置で回避ルートを取られた時だ。
海賊船団を作戦に動員出来るのは今回限りなのだ。
海賊達も日本の軍艦ではなく、民間船を襲うからと従ってくれたのだ。
日本の船が手に入れば劇的な戦利品なのだ。
船自体の価値も高いが、日本人の人質は高い身代金を要求出来る。
また、若い女なら日本の苦渋を舐めさせられた貴族達が金に糸目を付けずに買い取ってくれる。
こちらの方がリスクは低い。
日本側は全力で取り戻しに来るだろうが後は日本と貴族の問題にすぎない。
ピョートルと各船の船長の間には目的と意識に大変な差があるが、さらに違う目的がある物がいる。


ドーラク船長の船『食材の使者』は帆船ではない。
推進力は巨大な脚である。
海底に足を付けて歩いているのだ。
風任せの帆船よりは速度は遅いが安定した速度が出せる。

「ピョートル船長に連絡しろ。
我々が日本の船をこちらに引き付ける。
陣形は作戦どおりで良い。
ただこちらの速度に合わせてもらうから場所はこちらが指定してした位置にしてもらうがな。」

各船は手旗信号で連絡を取り合う。
「『食材の使者』号、急速潜行!!
進路、日本の客船!!」

海中に沈んでいく『食材の使者』号に敬礼するピョートルに副船長が疑問を口にする。

「よくあんな連中仲間に出来ましたね?
頼りがいはありそうですが・・・」
「海軍時代のツテでな。
何度か演習に参加して貰ったものだ。
それにしても海中を行ける艦か。
さすがの日本もこれには対処出来まい!!」

今度こそ日本の一刺報いるのだと、ピョートルは意気込んでいた。
帝国海軍は海戦すらさせて貰えずに壊滅した。
何故かどの港も軍船が停泊している時に攻撃されて壊滅している。
まるで事前に港のどの位置にどの時間どの船が停泊しているかが判っていたごときの正確さであった。
どんなに哨戒の船を出しても回避されて、発見できずに港ごと砲撃を受けて軍船はその数を減らしていった。
後で索敵装置や通信装置の存在を知ったがそれだけでは無い何かを感じていた。
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0072†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/15(金) 21:52:57.990404ID:kVtPQVwVK
だがこの平時の定期航路なら・・・ピョートルの決意の固さがこの作戦を決行させたのだ。

「日本の船を手に入れる。
そこから判ることはきっと大きいだろう。」


ブリタニア海軍
タイド型給油艦『タイドスプリングス』

ブリタニアとは、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの在日住民や訪日同国人、彼等の配偶者となった日本人が建設した大陸の都市である。
英国系一万九千人、カナダ系一万三千人、オーストラリア系一万三千人、ニュージーランド系四千人、その他合わせての約五万人の人口を有している。
海軍が中心でありANZAC級フリゲート2隻を保有している。
空軍も組織されAP−3C対潜哨戒機1機やエアバス A400M中型輸送機アトラス1機を保有している。
何れも日本に来日、或いは近海を航行中に転移に巻き込まれた兵器と乗員達である。
今回新造された給油艦『タイドスプリングス』は、2012年に英国が韓国・大宇造船海洋に発注した新型給油艦4隻のうちの1隻である。
2016年より順次就役するはずだったが日本とともに転移した巨済島の巨済市大宇重工業玉浦造船所で一番艦として建造されていた。
転移による混乱と資源不足を得て放置状態となっていたが十年近くの遅れをえてようやく就役したばかりの艦だ。
二重底構造の軍用タンカーである。
海上保安庁から旅客船『いしかり』の護衛の要請を受けたが、艦長のチャールズ・ブロートン中佐は困惑していた。
状況を確認の為に艦を停止させていた。

「普通、海賊からの護衛任務とかを給油艦に振るか?
海上保安庁はこんな無茶苦茶な要請をしてくるところだったか?」
「大陸の海軍や海賊の船ならこの艦の武装でも十分に対処可能ですからね。
まあ、行くしか無いでしょう。」
幸いタンクに油は積んでいない。
急ぎの任務もありはしない。
副長の言葉に頷き、ブロートン中佐は命令を下す。

「機関再始動だ。」
「両舷始動!」
「両舷始動ー!」
「針路、速度そのまま、旅客船『いしかり』とのランデブーポイントを目指す。」


旅客船『いしかり』

「レーダーに船影、多いぞ。」

レーダーのディスプレイには19隻の輝点が表示されている。

「海保や海自の艦じゃないのか?」

平塚船長がレーダー担当の航海士に確認をとる。

「南西2−2―0から向かって来ます。
海賊の船団です!!」
「全船員に通達。
海賊船団をレーダーに捉えた。
だが今の速度なら十分に逃げられる。
各員、乗客を不安にさせないようにベストを尽くせ。」

放送では乗客にも聞こえてしまう。
メモを取った大谷副長が各部署を回るのだ。
だがそれより早く船は捕捉されていた。


私掠船『食材の使者』

ドーラク船長は窓穴から顔を出して、頭上に広がる海面を確認する。
目標の日本の船舶がこちらに向かっているのが目視出来る。
海底に視線を移して、程よい浅さなのに満足する。

「来たな・・・、歩脚を海底に固定、第一脚・・・、鋏め!!」

ドーラク船長の号令のもと、『食材の使者』号は第2・第3の対の脚を海底に挿し込み固定させる。
そして、海面に向けて放たれた第一脚の対をなす鋏が『いしかり』の船底を挟み、錨代りにその動きを大幅に制限し減速させる。
通常の錨は海底土砂に食い込み、海底面を擦ることで成立する。
だが『食材の使者』号も減速どころか加速させていた『いしかり』の重さと馬力に引き摺られている。
揺れる船内に船員達は船壁の手摺りに掴まって対処している。

「なんというパワーと固さだ。
木造船なら完全に船底を切り裂いているものを・・・、こちらが引き摺られているか?
だがこれで船団が追い付ける。」


旅客船『いしかり』

突然の船底からの衝撃と強制減速に船員や乗客達は身を投げ出されていた。

「海底に何かいます!!」
「馬鹿な、なんだというんだ。」
相手が海底にいる為にその姿を確認することが出来ない。
だが複数の船影が目視で確認出来る位置まで近づいていた。

「速度低下、24・・・、23・・・22・・・」
「距離6海里といったところか?」

平塚船長は助け起こしてくれた男に命令する。

「無賃乗船を拒否する。
丁重にお引き取り願え、高嶋隊長。」
「参ったなあ、隊員は銃を持たせただけの警備員なんですがね。」

船に乗船している武装警備員は七名。
隊長の高嶋こそ元自衛官だが他の隊員は警備会社の社員に過ぎない。
隊員達に実戦の経験は無い。
弾薬の浪費を会社が嫌がって射撃訓練も年2回の研修の時にしか出来ない。
高嶋は勝田駐屯地に勤務していた際に大洗町海賊襲撃事件で実戦を経験して負傷している。
家族の要望で退役し、大手警備会社に雇用された。
この当時、自衛隊、海保、警察を初めとする各武装機関の増員により、過去に除隊、退役した退職自衛官を大幅に復帰、採用させた。
転移当時警備業者約9,200社、警備員約53万人を擁していた警備業界は6万人近くの人員を失い、新たに一般人の雇用を創出した。
だが警備業界が考えていた新世界に対応する為の武装警備員の構想は大幅に後退した。
そんな中、自衛官から業界に入社した高嶋のような人材は重宝された。
政府は民間の武装組織の存在に眉をひそめたが、現実問題日本の長い海岸線や輸送ルートの防衛を現行の自衛隊や警察力だけでは不可能と判断した。
だが試験的な段階であり、信頼のおける業界第二位の会社に創設を許可した。
まだ、危険の少ない船舶の警備から訓練を終えた隊員とともに高嶋は隊長として乗り込んでいたが隊員達の練度は自衛官や警察官には及んでいない。
この船に保管されている武器はベレッタM92拳銃、SKB MJ−5散弾銃が隊員の人数分ある程度だ。
弾薬は予備の弾倉が人数分ワンセットだけだ。

「速度17まで低下、以後安定!!」
「後続より1隻早いの来ます!!」
「四の五の言ってる場合じゃないな。
わかった隊員を配置させる。」


海賊船団
旗艦『漆黒の翼』

「よし、『食材の使者』の連中がやってくれたか、それでも早いな。
安心しきってるだろうな日本の船は・・・、船首に大砲を用意!!」

これまでの帝国が使用してきた大砲は、鋳造の青銅製前装式滑腔砲である。
開発責任者だった人物の名前をとって、ライヒワイン砲と呼んでいた。
だが船首に台車に乗って運び込まれた大砲は施条後装砲である。

日本をはじめとする地球系都市国家からかき集めた情報をもとに帝国でも再現可能な技術で完成させた試作品である。
この一門を造り上げるのに五年の歳月を掛けた。
最大射程はこれまでの十倍、有効射程は六倍にまで飛躍した。
ピョートル船長は『いしかり』まで、5海里の距離までに近付くと、この新型砲の発射命令を出した。

「当てる必要は無い。
連中に大砲が届くと認識させることが出来れば十分だ。」

発射された砲弾は『いしかり』の前方3キロの地点に着弾した。
『いしかり』は驚いたのか回避の為にジグザグに動きだし、さらに距離が縮まっていく。

「素晴らしい!!
この大砲をピョートル砲と命名する!!」

気をよくしたピョートル船長はそのまま命名の経緯を書いた手紙を伝書鳩をアジトに向けて飛ばさせた。

「しかし、これでも連中に取っては200年も前の技術とは・・・」

副船長は新型砲の威力に驚愕しつつ、海自の艦船の大砲やミサイルとの差を痛感している。

「まったく、たった200年の間にどれだけ技術を発展させてきたんだろうな。
おかしいだろあいつら・・・
まあいい、こんな機会はそうそう無いんだ。
接舷攻撃用意と露払いの射撃開始!!」

右舷に集まった船員達が小銃で射撃を始めた。
『いしかり』からも武装警備員達が発砲して反撃してくる。
同時に『漆黒の翼』からバリスタに鎖が括りつけられた鉤爪が複数発射されて、『いしかり』の船縁に引っ掛かる。
鎖は『漆黒の翼』に固定されていて、船自体が重りになっていく。
船体が軽い『漆黒の翼』は曳航される形になるが激しい揺れが襲う。
そのまま『いしかり』の真後ろまで流されて行くが、離されなければ十分だった。
そして、『漆黒の翼』の両側から海賊船団でも『漆黒の翼』に次ぐ船脚を持つ『生より出でし蒼白の武神』号と『正義を操りし月夜の咎人』号が『漆黒の翼』を追い抜き、『いしかり』の両舷の船縁にバリスタから鉤爪の付いた鎖や網を打ち出している。
残りの16隻も追い付いて来ているが、突如として最後尾にいた『理に牙剥く不死の双子』号が爆発炎上した。

「なんだ?」

ピョートル船長が望遠鏡で確認をとると、忌まわしき飛行機械が大空を飛び回っていた。

「ヘリか?
くそっ、こんな時に」


旅客船『いしかり』

その光景は苦戦中の『いしかり』からも確認出来た。

「船長、ヘリから通信!!
あの機体はブリタニカ海軍の給油艦『タイドスプリングス』所属機、コールサイン、ハンター3です。」
「救援に感謝すると伝えろ。
給油艦だと?」

なぜ給油艦が救援に来たのか平塚船長は困惑していた。


3隻の海賊船から網や鎖を伝って乗り移ろうとしてくる海賊達を武装警備員達は懸命に撃退していた。
銃弾の弾丸だけではじり貧になると、消火ホースを持ち出して放水で網や鎖にしがみつく海賊達を海に叩き落としていく。
一分間に2,000リットル、送水圧5キロの放水は容易に人間を吹き飛ばす。
おまけに海水をポンプで組み上げて転用できるので無尽蔵に放水が可能だ。

「ポンプで汲み上げている間だけ銃器で対処しろ。」

マニュアルどうりに今のところ対応できている。
武装警備員と言っても所詮は民間人。
いきなり人間を射殺する覚悟などあるはずがない。
放水による迎撃は意外にいいアイデアかもと高嶋は思えた。

「苦肉の策だったんだがな。
普通は1隻相手に十数隻もこないから、銃弾もそんなに支給されなかったからな。」

海賊の数が想定を越えていたから考えた策だった。
後方の海賊船団に目をやると、爆発する海賊船の姿が飛び込んできた。

「騎兵隊のお出ましか、もう一踏ん張りだぞ、お前ら。」

ブリタニア海軍
対潜哨戒ヘリ 三菱 SH-60K『ハンター3』

SH-60Kは海上自衛隊がSH-60Jを基にして、三菱と防衛庁で独自に、哨戒能力の向上を目指した哨戒ヘリコプターである。
転移後も少数ながら生産され、ブリタニア海軍の『タイドスプリングス』の搭載機として配備された1号機である。
転移後も少数ながら生産され、ブリタニア海軍の『タイドスプリングス』の搭載機として配備された1号機である。
最後尾にいた『理に牙剥く不死の双子』をAGM-114M ヘルファイアIIを直撃させて葬ったところだった。

「次、2隻目!!」

いっきに船団を飛び越えて、『いしかり』に接近中の先頭の船に二発目のヘルファイアIIを発射して命中させる。
これでヘルファイアIIは使いきったが船団はまだ17隻もいる。
炎上する海賊船を避けるように船団は左右に分かれていく。
SH-60Kは、浮上して斜めに傾くとのスライドドアが開く。
ベルトで体を固定した射撃手が74式車載7.62mm機関銃がドアガンとして発砲を開始する。
銃弾の雨に晒された海賊船は甲板から降り注ぎ、床を貫通して二つ下のデッキまで血で染め上げる。
各海賊船からも矢や小銃がSH-60Kに向けて放たれるが、海上を舞う機体に当てることも出来ていない。
2隻目も血祭りに上げるが弾薬が不足してきた。

「こちらハンター3。
弾薬が尽きた、一旦母艦に戻るがなんとか持ちこたえくれよ。」
『了解、早く戻ってきてくれよ。』


海賊船『漆黒の翼』

ブリタニアのヘリが去ったことにより、ピョートル船長は胸を撫で下ろした。

「やっと行ってくれたか・・・、被害報告!!」
「『理に牙剥く不死の双子』、『暗黒の支配者』、炎上!!
『残虐非道の歌姫』、『黒薔薇を持つ悪女』沈黙、航行不能の模様!!」

船の名前を聞いてピョートル船長は頭痛がしてくる。

「4隻もやられたか・・・
しかし、どうして海賊の連中は船の名前を豪華に飾り立てるのだろうな?
「まあ、色々と拗らせやすい職業ですから」

副船長はピョートルも同類だと思っていたが言葉にはしなかった。

「まあ、いいヘリが引き揚げたから当分は戻ってこない。
今のうちに」
「ヘリが戻ってきました!!」

言い終わらないうちにヘリがこちらに向かってくる光景が目にうつる。
その新たに現れた同型のヘリの胴体には『海上自衛隊』と書かれていた。
その後方の水平線の彼方からはつゆき型護衛艦の『いそゆき』が姿を見せていた。


はつゆき型護衛艦『いそゆき』

緊急連絡を受けて、現場に急行していた護衛艦『いそゆき』は、すでに十数隻の船舶をレーダーに捉えていた。
それでも旅客船『いしかり』にあまりに近接しているので攻撃を躊躇っていた。
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0073†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/15(金) 22:00:12.451765ID:EJw5wiLgK
だが五キロの目視圏内ならば、誤射はありえない。

「まずは『いしかり』の周囲に群がる海賊船を掃討する、水上戦闘用意!!」

艦長の石塚二等海佐の命令のもと、砲雷長兼副長の神田三等海佐が指示を叫ぶ。

「水上戦闘用ぉー意!」

各部署の乗員はすでに終えた戦闘の準備を頭の中でおさらいしながら覚悟を決める。
艦内に戦闘配置発令の警報音が鳴り響く。

「主砲、打ちぃ方始めぇ!!」
「打ちぃ方始めぇ!!」

艦首、62口径76mm単装速射砲がほぼ一秒間に一発ずつ発射されながら旋回していく。
木造の帆船などほぼ一撃で粉砕される。
15秒後に砲撃が止まると、海域に残っているのは『いしかり』と連結した『生より出でし蒼白の武神』号と『正義を操りし月夜の咎人』号、『漆黒の翼』の3隻だけだった。

「は、早すぎるだろ・・・」

ピョートル船長が船員達と後方から現れた日本の軍艦に対抗する為に船尾までピョートル砲を積んだ台車を転がしている間に後方の海賊船団は壊滅状態になってしまった。
さらに『いしかり』の真上に陣取ったSH-60Kが『生より出でし蒼白の武神』号に対して、74式車載7.62mm機関銃のドアガン攻撃を敢行している。
さらに反対側のスライドドアが開き、ラペリング降下で5名の隊員が降りてくる。
高嶋警備隊長は彼等を援護するように警備会社隊員に射撃や放水をさせる。
降下した隊員達は89式小銃で『正義を操りし月夜の咎人』号、『漆黒の翼』から乗り移ろうとしてくる海賊達に銃弾を食らわす。

「海上自衛隊『いそゆき』警備班長の緒方三曹です。
通信で連絡は受けてますが、船員、乗客に負傷者はいらっしゃいますか?」

海上自衛隊では転移前から各護衛艦ごとに海上阻止行動(MIO)を想定した立入検査隊というの臨検を専門とする部隊編成していた。
これは乗員から選抜され、普段は、各職種の任務に就いていた。
転移後は、海賊や帝国残党、モンスターとの戦闘が頻発した為に専門の常設的な部隊として各艦ごとに警備班が編成された。

「おかげさまでなんとか支えきれそうだ。
だが連絡した通り海中にも何かがいて、『いしかり』の航行を阻害している。」
「そちらは『いそゆき』が現在対策を考えてます。」

だがそこに船壁からよじ登って来た人影が現れた。
緒方がすかさず89式小銃で蜂の巣にして海中に叩き込むが、手応えに違和感を感じていた。
幾つかの弾丸が鎧のような硬いもの当たった時のような着弾音だったのだ。
高嶋と緒方が船縁から船壁を確認すると数十の人影がよじ登って来ていた。
彼等を一様に巨大な物体を頭部に被っていた。

「参った、敵は人間だけだと想定していたよ。
「自分もです。
ボルタリングの選手も真っ青な連中だな。」
「あれは螺貝族という海棲亜人ですね、資料で見たことがあります。」

二人の会話に割り込んできたのは元公安調査官の佐々木だ。
背後には円楽元和尚が錫杖を持って付き添っている。


「人間のような両腕を持ち貝の蓋の部分に目のついています。
下半身は軟体動物のようなぬめつく体躯で、船壁に張り付いているのですよ。
銚子のラブホテルでオーナーが殺害され、地回りのヤクザに犯人として射殺された事件でその存在が確認されました。
貝殻の突起物からサザエから進化した亜人と考えられてます。
通称、『サザエサン』。
なんです、その人を胡散臭い不審者のような者を見る目は?
ああ、連中がどんな風に自称してるかは不明ですよ?
交流なんてまったく無いどころか学術都市にすら記述が見つからないのですから。
貝殻部分は固いですがそれ以外の部分に銃弾を当てれば普通に死にますよ。」

高嶋も緒方も突然現れた佐々木に不審な顔と目をしているので、身分を明かすと納得された。
まあ、半分は

『冗談がきついぜ』

と、思っていた。

「貴方の会社の創設者と私の元職場は同じ内務省特別高等警察の流れを組む従兄弟みたいなものじゃないですか。
あんまり邪険にしないで下さい。」
「そんな古い話、私のような下っぱが知ってるわけないでしょう?」

高嶋は佐々木を扱いにくそうだが、螺貝族に対抗する為に拳銃を渡す。
『いしかり』警備隊員と『いそゆき』警備班員は、『漆黒の翼』の海賊と船を挟んで銃撃戦を繰り広げている。
『正義を操りし月夜の咎人』号は、SH-60Kによる74式車載7.62mm機関銃のドアガン攻撃ですでに沈黙している。
反対側の監視をヘリに頼んで三人は船壁の螺貝族を上から狙い撃ちしていく。
頑丈な貝殻の頭部は銃弾を完全に防げていないが、幾分かの被弾経始の効果はあるようだ。
銃弾を掻い潜ってデッキに上がり込んだ螺貝族を円楽元和尚が錫杖を叩き付けて海に落とす。
佐々木の話を聞いていた円楽元和尚は疑問を一つ思い付いていた。

「帝国も交流が無かった螺貝族と海賊を誰が結び付けたのかな?」


護衛艦『いそゆき』
『いそゆき』は、戦闘海域から4キロの地点に陣取っていた。
艦載砲の有効射程が約18キロなのに対してここまで艦を近づけたのは、『いしかり』を拘束する謎の水中の脅威を探る為だ。
当初はソナーを放って探っていたのだが『いしかり』の周辺に巨大な岩塊のような物があって、座礁してるようにしか反応しないのだ。
周辺に雑音となる海賊船も多い。
まずは海賊船を排除し、さらに詳細な情報を得る為の切り札を投下する。
石塚艦長の命令が下される。
「サイドスキャンソナーを投下せよ。」
「サイドスキャンソナー投下!!」

サイドスキャンソーナーとは、艦船の後部から海中に曳航させて音波を送受信することにより、海底地形や、海中、海底にある様々な物体を高精細な映像として可視化するシステムである。
転移前は海洋調査艦や掃海艦艇に搭載されていたが転移後は周辺海域が劇的に変化した日本や未調査海域である大陸で必要性を認められて増産されて護衛艦にも配備されていたのだ。
投下されたサイドスキャンソナーからの映像がモニターに可視化される。

「これ、なんだと思う?」

石塚艦長の言葉に全員が怪訝な顔をする。
代表して砲雷長兼副長の神田三佐が私見を述べる。

「僭越ながら・・・でっかいヤドカリではないかと・・・貝殻は・・・サザエ?」

サイドスキャンソナー担当の乗員は、映像の縮尺を間違えたのかと、コンソールの確認をはじめだした。

「なるほど、さすが異世界だな。
ヤドカリもあんなにでかくなるのか?」
「宿の貝殻の巨大さもツッコミどころ満載ですが、この部分・・・船の形してませんか?」


神田三佐がモニターの指でなぞった部分を皆が注視する。

「まさか連中は・・・貝殻に船を掘ったのか?
船の気密性とかはガン無視か・・・」

石塚艦長の辿り着いた結論に全員が唖然とするなか、『いしかり』から届いた螺貝族の介入が拍車を掛ける。

「螺貝族の船・・・船かな?
空気のいらない潜水できる何かですか?
反則もいいところだ。」
「だが方針は決まった。
幸い目標は足場を固定しようとして動きが止まっている。
有線誘導の短魚雷でハサミ、貝殻の船体部分、本体を直接狙う。
左舷、魚雷発射用意。」


『食卓の使者』
螺貝族(日本側名称)のドーラク船長は膠着状態の状況に苛立っていた。
誰も手が出せない海中は膠着状態だが海上がそうでは無いのは一目瞭然だからだ。
次々と沈没してくる海賊船や海賊達は味方が一方的にやられていることを示している。

「離脱するか・・・だが、最低でもピョートル船長だけでも救出してないとアウグストス将軍に顔向けできない。」

せめてピョートルの身柄だけでも抑えようと部下を『漆黒の翼』に派遣しようとした時に海中に今までと違う『波』を感じた。

「何か来るか!?」

護衛艦復帰の為に改装された『いそゆき』は、97式短魚雷の使用が可能となっている。

「二番、四番、六番連続発射!!」
「二番、四番、六番連続発射!!」

『いそゆき』の68式324mm3連装短魚雷発射管から三発の97式短魚雷が次々と発射される。
『いしかり』を固定する為に身動きが取れない『食材の使者』号はハサミを外して防御体勢を取る。
即ち殻に閉じ籠もったのだ。
目標を失った二番魚雷は『いしかり』からの誘導に従い殻の蓋になるように引っ込むハサミを追って炸裂する。
さらに元々本体を狙っていた六番魚雷も直撃する。
97式短魚雷は成形炸薬弾頭が用いられている。
これは、潜水艦の耐圧船殻の強化・二重化に対抗するのが目的だ。
強固なハサミの甲を貫き爆発の効果を内部に伝える。
たが『食材の使者』号は自らハサミを切り落として難を逃れる。
カニやヤドカリの仲間は、天敵に襲われたハサミや脚が掴まれるとトカゲの尻尾のように自切して逃れることが出来るのだ。
本体は難を逃れたが、貝殻部分の船舶部分にも四番魚雷が直撃する。
最初から内部が注水状態の『食材の使者』号であるが、爆圧で大半の壁が吹き飛ばされて螺貝族のほとんどが死亡する。
内部奥深くにいたドーラク船長は咄嗟に自らの貝の中に閉じ籠もって死を免れた。

『食材の使者』号が使用していた巨大サザエの殻は崩壊状態で最早使用不能だった。

「ここまでか・・・総員退船!!」

生き残った船員は海中に脱出していく。
十人にも満たないが彼らは海中でも生存が可能だ。

「やれやれ、泳いで帰るしかないか。
何年掛かるやら」

『食材の使者』本体も巨大サザエの貝殻から脱出している。
あのサイズの本体が入る巨大貝殻など数十年に一度に成長するかどうかだ。
ドーラク船長と螺貝族の生き残りは、『食材の使者』本体に張り付き戦場から撤退した。


『食材の使者』号という錨代わりの物体が無くなり、旅客船『いしかり』はいきなり加速状態となった。

「うわっ!?」
「何かに掴まれ!!」

さすがに船に慣れた高嶋は転がる佐々木の足を掴まえて、片手を手摺り掴まってバランスを取る。
緒方三曹は床に伏せて、円楽は念仏を唱えてバランスを取っている。

ブリッジでは平塚船長の檄が飛んでいる。

「多少無理をしても海賊船から距離をとれ!!
この揺れで負傷者が出ているかもしれない。
船員、乗客の点呼を取れ。」

ようやく自由に動けるようになった『いしかり』だが、まだロープや網、鎖など多数で『漆黒の翼』に括り付けられている。
そのロープや網も船員達が斧で断ち切っている。
たが最後の一本の太い鎖だけはどうしても歯が立たない。

「どきなさい。」

円楽元和尚が四歳くらいの子供を連れている。

「剛、ちょっと父さんに仁王様の加護をくれ。」
「いいの?
父さん普段は人前では使うなと言ってるじゃん。」
「多くの人の命が掛かってるから仕方がない。」
「しょうがないなあ 。
ゴホン、ナマサマンダバ サラナン トラダリセイ マカロシヤナキャナセサルバダタアギャタネン クロソワカ。」

剛少年から流れ出る力が円楽に剛力の力を与える。
船員から受け取った斧で4度、5度打ち据えて砕く。
『いしかり』から『漆黒の翼』が離れていく。

「父さん、疲れたよ。」
「はっはは、修行だ修行。
いい経験になったろ?
港に着いたらきっと船会社が御馳走を用意してくれてるぞ。」

汗だくの息子を労うと唖然と見ていた船員に口止めをする。

「今のは貴殿の中の御仏に誓って内緒ですぞ?」

船員は無言で頷くしかなかった。


『漆黒の翼』
ようやくピョートル砲に弾込めが終わったピョートル船長達は『いそゆき』に照準を定める。
先程まで船が激しく揺れていたので弾込めすらままならなかった。
これまでは帝国の大砲は一キロの距離も飛ばせなかった。
だがピョートル大砲は六倍の有効射程を手にいれた。
この事実は『いそゆき』は知らないだろう。
安全距離を保ったつもりなのか、四キロの距離まで近づいて来ている。

「まだ少し遠いが・・・撃て!!」

祈る気持ちで撃った執念の1弾は『いそゆき』の艦首に見事に命中した。
それは異世界に転移した地球の軍艦が初めて被弾したという象徴的な出来事だった。


黒煙の中から護衛艦『いそゆき』が姿を現した。
ちょうど艦首の舳先に砲弾が直撃したのか、僅かに炎上する艦首から破砕した穴が見受けられる。
だが艦載砲は旋回してこちらにその砲口を向けていた。
様々な動作確認を行っているようだ。

「どうやらさほどの被害でもなかったようだな。」
「残念です、でももう一撃当てれれば・・・」
「無駄だ、今当たったのは運が良かっただけだ。
次は当たらんよ、敵が次弾まで待ってくれてもな。」

ピョートル船長は次の弾込めをしながら命令を下す。

「総員、退船。
退船後は日本に投降しろ。
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0074†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/15(金) 22:06:39.751928ID:0EoukobhK
付き合ってくれた海賊達と違って、帝国海軍残党の我々は捕虜として扱って貰えるだろう。」

海賊は捕まったら一族郎党死刑が王国の法律で決まっている。
だがこの船の船乗りは帝国に所属していた水兵達だ。
日本側も残党軍の将兵を捕虜として扱ってくれる。
その点は信用できた。
生き残った船員達がボートを海上に落としたから海に飛び込んでいく。

「船長は・・・」
「俺はこの船の船長だぞ?
だいいち、このピョートル砲の性能を連中に知られるわけにはいかない。
欠点も長所も含めてな。
連中からみればはるかに劣った兵器なんだろうがな。」

実のところピョートル砲は試作のこの一門しか存在しない。
試作品特有の雑さは調べればわかってしまうだろう。
わからなければ日本も帝国軍相手に慎重にならざるを得ず、量産までの時間稼ぐことが出来るだろう。
『いそゆき』は艦載砲をこちらに向けたまま有効射程距離外まで距離を取ってきた。

「速いな、航行も異常無しか。
余裕を見せ付けやがって・・・」

副長も帝国式の敬礼のあと、海に飛び込んでいった。
『いそゆき』が距離を取ってくれたおかげで時間は稼げた。
一人になったが訓練の成果があったらしくピョートル砲の発射準備が完了した。
双方の砲口を火を噴いたのはほぼ同時だった。
ピョートル船長は自らが撃った砲弾が海面に着弾する光景を見ることなくピョートル砲や『漆黒の翼』号と運命を共にした。
ピョートル砲の砲弾は『いそゆき』に届くことなく海面に着弾した。


護衛艦『いそゆき』

「敵船撃沈!!」
「火災鎮火、ダメコン班向かわせます。」
「艦内の点検完了、戦闘、航行異常無し。」
「艦内に負傷者無し。」

各部署からの報告に石塚艦長は勝利したことを断定するが、実感はなかった。

「近づき過ぎたな。
まさか当てられるとは思わなかった。」
「邦人保護の為に『いしかり』に接近する必要がありました。
また、未知の海中戦力との遭遇、新型砲の投入。
イレギュラーが多すぎです。
しかし、軽微な損害で敵の新戦力を洗い出せたのは大きいと思います。」

砲雷長兼副長の神田三佐の言葉に無理矢理納得することにした。

「司令部の連絡は終わってるな?
海上に漂っている海賊達を逮捕、拘留せよ。」
「はっ、ちょうど『タイドスプリングス』もこっちに近ついで来ているので手伝ってもらいましょう。」


旅客船『いしかり』

『いしかり』では螺貝族の掃討が終わりつつあった。
警備会社社員や斧を持った船員、『いそゆき』の警備隊班が一匹ずつトドメを刺してから死体を海中に放り込んでいく。
その中でも比較的元気な一体を船倉に放り込んで佐々木が椅子に座って眺めていた。
銃弾を数発体に受けて、頭部の貝殻の突起物は何本か折れている。
螺貝族とはいまだにまともな交流が無いので言語がわからない。
だが海賊と共同戦線を張っていたなら意志の疎通が出来ていたはずだ。
佐々木は旧マディノ子爵ベッセンから習った大陸共通語で語りかける。

「あ、言葉通じます?」
「くっ、殺せ・・・」

そんなこと言われて佐々木は戸惑わされた。
だがどうやら相手も大陸共通語が使えるようなのには安心した。

「いや、その前に聞きたいことがあるのでご協力いただけませんか?」
「これでも誉れあるレムリアの騎士だ。
敵の慰み者になるくらいなら潔く死を」

最後まで言う前に顔の横に銃弾が通過して頭部の貝殻に当たった。

「いいから人の話を聞きやがれこの雌貝め!!」

どうやら貝のくせに性別が別れているらしい。
咳払いしてから紳士的な口調に戻す。

「まず今回の件で疑問なんですが、なぜあなた方が人間の海賊と組んで我々日本に敵対的行動を?」
「何故だと?
貴様らがそれを言うのか・・・
貴様らが生存する列島には以前、全ての海洋に存在する王国、諸部族を統轄するレムリア連合皇国とそこに君臨する海皇陛下がいらした。
だが10年前のある日、突如として海都とその周辺地域がまるで塗り替えられたように見たことが無い島々と海底に変わっていた。
いや、海の水自体が異質で我々に馴染まなかった。
今はだいぶ薄まってきたがな。」

佐々木には思い当たることがあった。
元マディノ子爵ベッセンにこの世界の地理を解説してもらった時のことだ。
日本が転移した地域には幾つかの島があったらしい。
だが調査の結果、その全てが消え去っていた。
海底探査船の調査によると地球から転移してきた海底とこの世界の海底はまるで元からそうであったかのように切れ目などの境界線が見つかってないのだ。

「日本が転移したように、海都も転移した?
どこに・・・、まさか・・・」
そこから先は口に出すことは恐ろしくて出来なかった。
螺貝族の女騎士の話は続いていた。

「海皇陛下と海都が消失して、海の王国や諸部族は戦乱の十年となり、多くの血が流された。
いまだに戦いは続いている。
お前達に復讐を企てた者達もいたが、お前達の海に阻まれて叶わなかった。
海都の一億三千万の民もどこに消えたのか・・・」
「一億三千万の民!?」

佐々木の驚きの声を螺貝族の女騎士は聞いていない。

その数に驚くだろうと思っているだけだ。
佐々木にはその数字が偶然とは思えなかった。

「女騎士殿、貴女は騎士を名乗る以上、正規軍に所属していたのでしょう。
ならば貴女を捕虜として対応します。」

退官した自分にはそんな権限は無いが口添えくらいは出来る。
色々と謎が残るが海の勢力図の把握も必要だろう。

「退職金に色を付けてもらいますか。」


給油艦『タイドスプリングス』

『タイドスプリングス』の甲板では、武装した乗員に囲まれ、より手錠を掛けられた海賊達が一ヶ所に集められて一人一人身体検査を受けていた。
金属探知機で隠していたナイフや釘は直ぐに発見された。

「20隻もの船団だったのだろ?
意外に生き残りは少ないな。」

艦長の艦長のチャールズ・ブロートン中佐は疑問を投げ掛ける。
千人近くの船乗りがいたはずだが、この艦で拘束したのは30名余り、『いそゆき』も似たようなものらしい。

「あれが原因じゃないですか?」
乗員の指さす方向の海面には鮫が群れをなして集まっていた。

「知ってるか?
日本の周辺海域にいた魚介類が物凄い勢いで繁殖してるらしい。
食糧難からあれだけ乱獲したのにな。」

中佐の脳裏に生態系を犯す外来種という言葉がよぎった。

「我々もそうなんだろうな、きっと・・・」

新京特別区
大陸総督府

『旅客船『いしかり』襲撃事件』の報告書を読んでいた秋月総督は机に置くと溜め息を吐いた。

「護衛艦『いそゆき』は新京港のドックに入りました。
本土より取り寄せる部品がありますので1ヶ月は動かせません。
まあ、この機会に整備とか色々行うようです。
旅客船『いしかり』は簡単な修理のあとに、再び本国に向けて出航しました。
スケジュールの遅延は許されないからとのことです。」

傍らの秋山補佐官が説明を行っている。

「まあ、その件はいいだろう。
海上船舶の安全距離の基準を10倍に引き上げる。
帝国残党軍の新型砲についての調査と対策もあるからな。
こちらからの技術情報も転移10年目となれば漏れが出てきている。
情報関係の各部門に対策を講じさせろ。
そして、問題がこいつだ。」

机の上に置かれたもう一冊のレポート冊子を手に取る。

「佐々木元公安調査官のレポートはまだ表に出せる代物じゃありません。
暫くは機密事項に指定しながら要調査です。
問題はどう調査すべきか未だに不明な点が数々有ります。」

秋山補佐官の言葉に頷きつつも考えさせられ内容だった。

「しかし、海皇のご尊名は驚かされたな。
終末の獣は本当に我々の故郷に転移したのか?」
「今となっては知るよしもないことですし、必要も無いと思います。
我々はこの世界で生きていかねばならないのですから。
さて総督閣下、そろそろ在日泥婆羅国民団代表との会見のお時間です。
去年のの第八都市建設計画で相当根に持ってますから気を付けて下さい。」
「あれ俺のせいか?
アングロサクソンの悪魔どもが合体して出し抜いてくるなんて予想できなかったろ。
規定の人数揃えれなかった連中も悪いんだからな。
全く・・・、いつになったら落ち着くんだろうな。」
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0076†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/15(金) 22:13:39.537195ID:PjrSQJm2K
大陸東部
龍別宮町

龍別宮は元の名をリューベック。
リューベック伯爵領の伯都が置かれた町だった。
リューベック伯爵家が皇都大空襲の際に直系の一門がほぼ息絶えて断絶状態となっていた。
五年前に隣接する天領だった地に日本が新京特別区を建設すると、そのままリューベック伯爵領を割譲させた。
その際に名を龍別宮町と改められている。
市ではなく町なのは日本人人口が一万人にも達していないからだ。
新京特別区は日本人の居住区や産業を集中させている。
また、貴族からの名の留学生という名の人質と日本との折衝やご機嫌伺いの為や逗留する当主一門。
それらを世話する従者などの家臣も新京に入ることが許されていて、御目見(おめみえ)という免状が発行されていた。
それ以外の商人や職人、人夫などの平民や彼等との取引を望む日本人商社や日本人冒険者はこの龍別宮に拠点を構えて在住してい。
そして、この龍別宮に配置換えとなった第48普通科連隊や第16普通科連隊が駐留している。
新京特別区を防衛する出丸的役割を期待されている。
他にも警察署や公安の他にもうひとつ武装機関がある。
法務省捕虜収容所管理局である。
自衛隊も平成16年に「武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律」「捕虜取扱い法」が制定された。
だがこの法律はジュネーヴ条約の存在を前提に制定されている。
そして、自衛隊には捕虜の扱いや捕虜収容所の運営の経験はなかった。
日本本国から囚人が大幅にいなくなったことから、矯正局の刑務官達が暇になったことも大きい。
さらに当然のことながら、この世界の国々には別の「捕虜取扱いの慣習」が存在した。

「マイヤー殿、メルゲン子爵家より身代金の支払いが完遂しました。
子爵家より迎えの馬車が到着しています。」
「おう、松山管理官殿、長らく世話になったな。」

収容所とは思えない貴族らしい服を着た男が四年間住み慣れた部屋の片付けを自ら行っている。
メルゲン子爵家第2子であるマイヤーは、帝国ではそれなりの砦の守備隊の隊長を任せられた男である。
帝国がその旗を降ろした後も抵抗を続けていた。
抵抗の場所が大陸南部の辺境であり、日本側にも放置されていたのだが日本の歓心を請おうとする周辺貴族に砦が攻撃されて日本に差し出されたのだ。
収容されてからは日本語や自ら身の回りの整理をする術を学ばらされた。

「身代金だって安くは無いのだから、ここに戻ってくるようなことはしないで下さいよ?」
「はっはは、日本と戦って箔がついたからな。
今なら仕官や結婚も引く手あまただよ。
それに帝国への義理はもう果たしたさ。」

血縁関係を重視する貴族としては、帝国の為に戦ったマイヤーを見捨てることは沽券に関わる。
だから分割で身代金を払ってでも解放させようと行動したのだ。
そして、今でも帝国を懐かしむ世代からはマイヤーのような勇名を持つ男は取り込んで起きたい人材である。
二人はマイヤーの私物が保管された部屋で、私物の返還を行っている。
龍別宮の捕虜収容所は、リューベック城を改装して使われている。
城壁や廊下では小銃を持った収容所管理官が巡回している。
松山管理官は門の外まで付き添うことになっている。
だが先に自衛隊の73式中型トラックが数両入ってきた。
停車した車両の荷台から何人もの手錠で繋がれた男達が連行されていく。

「新入りか、何をしたんだ?」
「旅客船を海賊船を襲った連中ですね。
一応、正式な帝国海軍の残党で、私略船の免状持ちです。
何より・・・」
「俺と同じ貴族の子弟か。
まあ、帝国が無くなって五年も立てば平民や士族の兵士は逃げ散ってるよな。
残っているのは忠誠が染み付いたあんな連中ばかりだ。
だが血族が残っていればあんたらの損にはならないからな。」

身代金は莫大な物で、被害者や遺族への慰労金を支払っても有り余る。
そこで本国に送る食料を購入する資金の足しにしている。
これも帝国や王国の慣習に合わせた結果である。
ちなみに同じように捕虜になった筈の平民や士族は鉱山送りとなって自力で稼いでもらう。

「人権団体が見たら何を言い出すやら・・・」

松山管理官は微妙な顔をする。
本国で刑務所に勤務していた時も小煩かったものだ。
当時の囚人達はまだ生きているのか心配になった。
第2更正師団、彼等今でも戦地で戦っているのだろうか?
マイヤーとは正門の前で別れた。
メルゲン子爵家の家臣達が馬車を仕立てて一礼して、マイヤーを馬車に乗せて出発する。
一人になった松山管理官はリューベック城の傍らに建てられた第一更正師団の戦没者を奉る神社の慰霊碑を見て溜め息を吐いた。
彼等の出自が出自だから参拝者はほとんどいない。
戦没者の遺族や師団の僅かな生き残り、そして彼等と共に過ごした自分達刑務官だった者達だけだ。
「明日、掃除しに来るか。」

天気が良いことを願っていた。


捕虜収容所から解放されたマイヤーは、実家の家臣達が用意してくれた馬車に乗り込む。

「ふむ、いい車だ。
何という名だ?」
「トヨタ カローラ フィールダーと申します。」

執事の一人のパトリックが答える。
もちろん車のエンジンは切って、馬で牽引している。
ガソリンは貴重で滅多に手に入らない。
だが馬車なのに揺れが少ないのは大事なことだ。

「この後、駅まで行きまして列車で新京に向かいます。
新京にはメアリー様とクルツ様、アンナ様、マルガレーテ様がメルゲン家新京屋敷にてお待ちになっております。」

メアリーは母でクルツは長兄でアンナはその妻だ。
マルガレーテはクルツの娘、つまり姪となる。

「マルガレーテには苦労を掛けたと聞く。
何か土産を用意出来ればよかったのだが。」

解放の為の折衝は日本語が使えるマルガレーテが未成年で学生の身で一任されてしまった。
日本円を稼いでいる稼ぎ手でもあったらしい。
あいにく解放されたばかりで手持ちがない。
年頃の婦女子に渡すお土産など、全く思い付かなかった。

「御身の御無事なお姿こそが何よりの御土産と存じ上げます。
御嬢様は連日様々な贈り物を貰ってますので馴れておりますし
若様はマイヤー様が学んだ日本語の能力で御仕事をしてくれることを望んでいます。」

マルガレーテは学校で日本語を基礎から学んでいるがクルツは執務の合間に駅前の私塾で学んでいるが時間が足りなくて成果が上がっていない。

「うむ、居候では肩身が狭いからな。
存分に働かせて頂こう。」

龍別宮駅から東西線で約100キロ、約一時間。
馬車は三日間掛けてパトリックが乗って新京に帰ってくる。
新京中央駅のホームに降り立つと感慨深げにあたりを見渡す。
前に来たのは捕虜になって連行された四年前だ。

「線路が増えてるか?」

ホームの天井には『京浜線開通まであと36日』と書かれていた看板が吊られている。

「ふむ、式典とか何かやるのだろう?
顔を出してみよう。」

新京特別区西区にある貴族街にある屋敷に到着すると、家臣一同と家族、近郊に住んでいる知人が集まっている。
地面に膝を着いて、再会の挨拶をする。

「母上、兄上・・・ようやく帰ってこれました。
この身を身請けするのに多大な負担をお掛けしました。」
「貴方が無事ならそれでよいのです。
しっかり食べてた?
これ美味しいわよ、収容所じゃあ満足に食べさせて貰えなかったでしょう。」

母親の愛情は辟易するが数年ぶりの再会だからしっかりと受け止めた。
マルガレーテもドレス姿で出迎えてくれた。
来客と旧交を温めて一段落すると、長兄のクルツが日本産ビールをグラスに注いで持ってきてくれた。

「あいにく父上は王都から離れられなくてな。
来週こちらにやってくる。
まあ、その間までは休暇を取って見聞を深めてくれよ。」
「はい、兄上。
しかし、そんなに日本関連の仕事は多いのですか?」
「まだ、公表はされていないが南部の本領の近くに泥婆羅、印度、不丹という部族が天領アルスターを割譲されて新都市を建設することが決まった。
日本企業が建設を受注するのでメルゲンにも資材の発注が行われる。」
「なるほど、忙しくなりそうですな。
しかし、日本の連中はそんなに外様部族の都市国家を建設して寝首を掻かれないの不安にならんのですか?」
「ふむ、我々もその点は疑問に思っていた。
そこから切り崩せるのではと、我々も各都市を調べてみたことがある。
そこでわかったことがあるのだが、日本以外の各都市はどれも男女の比率がおかしい。
年少者も驚くほど少ない。
十数年もすれば人口が減り続けるだろう。
その歪な構造の為か、経済もそれほど有力な地元企業が存在しない。
日本企業が大半を牛耳ってるな。」
「日本に敵対行動を取っても締め上げられるのがオチと言うわけですか。」

現在の王国貴族も大半は日本の傀儡のもと自領の勢力を伸ばすことに専念している。
王国の権威はとうに失墜しているのだ。
大人同士の会話中にマルガレーテが加わってくる。

「叔父様、その・・・拘留中は退屈しませんでした?」
「いや、日本の連中は以外に紳士的だったし、向こうの野球やサッカーといった競技もやらせて貰った。
馴れてからは何度も看守達の軍を打ち破ったものだ。」

夜は久方ぶりの家族との団欒の一時だった。
翌日の夕方、屋敷に一通の手紙が投函された。
長ったらしい文書を要約すると

『マルガレーテ嬢を誘拐した。
返して欲しければ指定の場所までマイヤー殿一人でこられたし
なお、外部にこのことを漏洩すればマルガレーテ嬢の安全は保障しない。』

長兄夫妻はそのまま卒倒したのでマイヤーも途方にくれてしまった。


新京大学

大陸に唯一存在する大学機関である新京大学は、本国で定年による退職や派閥争いで燻っていた人材を大量に引き抜いて設立した。
地球系各都市や大陸からの留学生も多数在籍している。
その大学のトップたる総長室に、総督府からの使者である秋山補佐官が訪れていた。

「海棲亜人の生態を含む総合的な研究依頼ですか?
なるほど、無理です、お引き取り下さい。」

新京大学陸奥正則総長から、けんもほろろな返答をされるが秋山は引き下がらない。

「御予算の問題でしたら総督府から」
「違います。
単純に人手が足りない。
この大学が設立されてから毎日どれだけの発見や調査が行われてるかご存知ですか?
モンスターを含む大陸独自の動植物の研究、大陸の書物の解読と翻訳。
農業の現地に合わせた品種改良、鉱山地域の探索、風土病の治療法の研究、エトセトラエトセトラ」

最後の『エトセトラエトセトラ』は陸奥総長が口に出して言っている。

「いくら研究バカの集団と言われた我々だって限度がある。
終いには怒るぞ、コノヤロー!!」

なんだか暴れだした陸奥総長を秘書や同席した教授達が妙に手慣れた動作で羽交い締めにしている。

「ああ、さすがに刺す又はやりすぎだと思いますよ。」
「失礼、歳のせいか怒りっぽくなっててな。」

興奮冷めやらぬ様子で言われて秋山はドン引きしていた。

「最近の若い研究者や教授は冒険者に混じってダンジョンでモンスターと戦うことに意義を見いだしたり、古代遺跡の研究に人手も少ないからと居を構えて帰ってこなかったりと大変なのだ。
しかし、なんだ?
総督府筋は今まで海棲亜人国家の存在を全く認識してなかったのかね?」
「残念ながら・・・帝国並びに王国、貴族や王国軍から資料、証言からも記述は見付かっていません。
あの学術都市にすらです。
仲介者と見られるアウグストス将軍とやらも遺された帝国軍の名簿や現在の王国軍にも存在しませんでした。
海賊や残党軍に聞いても常に馬の仮面を被っていたと人相書きすら作れません。」

もしかすると資料が無いのは皇都大空襲による影響もあるかもしれないが、ここは黙っておく。

「ふ〜む・・・厄介だな。
ところで今思い出したのだが、海棲亜人国家の調査をやっている連中がおったよ。」
「それは素晴らしい。
ぜひお会いしいのですが!!」
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0077†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/15(金) 22:22:44.122201ID:Fp5ZUF9IK
だが陸奥教授は渋い顔をする。

「この大学の人間じゃないから難しいな。
新香港の人民武装警察海洋研究所の習麗媛少佐だ。
たぶん今は、ハイライン侯爵領にいると思うぞ。」


竜別宮町

多くの人々が行き交う繁華街をマイアーは歩いていた。
マルガレータを誘拐した者達が指定した廃倉庫まで後少し。
一人の男がマイヤーとぶつかってくる。
大陸人だがマイヤーは舌打ちをして男の腕をひねりあげて地面に顔を押し付けた。

「イタタ・・・、旦那、勘弁してくだせぇ!!」
「スリか?
今は忙しいのだ、失せろ!!」

人の上着のポケットに手を入れた男を蹴り飛ばして目的地に足を速めた。
ポケットの中の財布として使っている巾着袋は無事だった。
少し開けられたのか銀貨が一枚、小銭入れからポケットの中に落ちていたくらいだ。
気を取り直して目的地に向かう。
廃倉庫の前で二人の男が待っており、無言でマイヤーを案内する。
途中で武器らしき物は持っていないかだけの身体検査を受けた。
ポケットに入っていた巾着も調べられたが異常はなかったの返してもらえた。
倉庫の中ではテーブルに地図を広げて五人ほどの男達がこちらを伺っていて、頭目とおぼしき男が声を掛けてきた。

「久しぶりだなマイヤー隊長。」
「ウォルフ将軍?
あなたがマルガレータを誘拐したのですか?」

かつての大陸東部で軍団長として名を馳せていた50代半ばの将軍の姿に驚く。

「いや、うちも家内が誘拐されてな。」
「・・・失礼しました。」

将軍も半年前に捕虜収容所から出所したばかりだった。
領地の大半を売却して身代金を捻出し、帰還する為に出迎えにきた細君が誘拐されたらしい。
机の上のに目をやると、この街の地図と見覚えのある建物の図面だった。

「貴殿等二人にはこの捕虜収容所と化したリューベック城より同志達を奪還する為の情報の提供を御協力頂きたい。」
「それより人質は無事なのか?」

ウォルフ将軍の質問に男は頷く。
誘拐されたのは後妻であり、一門では蔑ろにされてるにも関わらずに身代金を捻出してくれた。
苦労を掛けたとウォルフ将軍は頭が下がる思いだった中での誘拐だったのだ。
怒りを込めた眼光は往年の鋭さを見せて睨み付けている。

「もちろんです。
ご不快かと存じ上げますが、人質を捕らせていただければ事が露見した際に我々から脅迫を受けたと言い訳が成り立ちましょう。
御婦人方は丁重に保護させて頂いております。」
「何が知りたい。」

マイヤーは投げ遣りに呟く。
マイヤーの見るところ、リューベック城の捕虜の大半は辛い戦いや意外に清潔で文化的な拘留生活で再び日本と戦う気はさらさらない。
おまけに身代金は分割だが支払されている。
そのせいで、ここで脱走して逃げ出せば金を工面してくれている一族のこれまでの努力を無にする行為なのだ。
彼等にはそれが見えてなかった。

「リューベック城の兵の数と配置を。
帝国軍でも有数の指揮官だった貴男方なら必ず観察し、脱走の為の算段も講じていたはずだ。
それらのお話も伺っておきたい。」

確かにウォルフもマイヤーも頭の中で脱走や暴動の計画を立案したことはあった。
指揮官として当然の義務だが結論は不可能だった。

「まあいい、やってみるがいいさ。」


マイヤーに腕を捻られたスリは、倉庫にほど近い場所に停車したトラックの近くで日本人の男から金貨を貰っていた。

「それで暫く普通に暮らせるだろ。
官憲に捕まるような真似はするなよ。」
「旦那達も官憲なんじゃあ?」
「官憲にも色々いるんだよ。」

このスリは大陸人で本物のスリである。
石和黒駒一家から紹介された協力者として工作活動に使役している。
スリの協力者を帰したあと公安調査庁新京調査局の調査官平沼はトラックの荷台に入る。
そこは局の移動捜査室だった。
同僚達が聞き入っているスピーカーの前におかれた椅子に座る。

「成功だ。
あのスリは金貨分の仕事はしてくれたみたいだ。」
「捕虜収容所の襲撃計画か。
関係部署には通達しよう。」

平沢が雇ったスリはマイヤーと接触した際に小型の盗聴器を仕込んだ銀貨をポケットに忍ばせたのだ。
スリの男からすれば、わざわざ銀貨を相手のポケットに入れる妙な仕事だった。
監視カメラの存在は大陸でも知られている。
その存在で犯罪行為を抑止することを目的に公表したのだ。
だが盗聴器の存在は知られていない。
平沢のチームは捕虜収容所から出所した者に不穏な人物が接触しないかを監視する任務に携わっていた。
だいたい出所した人物を1ヶ月単位で監視対象としていた。
だがその成果はあまり芳しいものではなかった。
漸く当たりを引いたとマイヤーの盗聴器からもたらされた情報に公安の面々は嬉々としていた。

「連中の戦力も口を滑らせないか。
監視を強化しろ。」

必要な情報を聞き出したあとにマイヤーとウォルフ将軍も事が終わるまで軟禁されることとなっていた。

「こっちは人質が取られてるからな。
1週間経っても解放されてなかったら救出してやろう。」
「ご、御婦人方は・・・」

新人の松井が聞いてくる。

「ん?
そうだな女性もいるから五日くらいにしておくか。
うちの実働部隊にも準備させとけ。」
「はい、自分が通達します。」


竜別宮捕虜収容所

捕虜収容所に収容された『漆黒の翼』副船長だったアルバートは割り当てられた個室で目を覚ました。
この収容所では捕虜一人一人に個室が割り当てられている。
大部屋の中に二段に積まれた筒状の部屋だ。
筒のなかには寝具の他に照明灯、換気扇、目覚まし時計、ラジオなどが備えられている。
外部はカーテンで仕切れるようになっている。
アルバートが最初にこの光景を昨夜初めて目撃した時には、都市部によくある地下墓地のそれを思い起こしていた。
だが考えてみれば海軍で軍船での生活も似たようなものだった。
起床は日本から与えられた時計が指している朝7時という時間までに起きるように義務付けられている。

「随分、遅くまで寝かせて貰えるのだな。」

すでに太陽が昇っている時間の筈だが、そこまで遅寝していいらしい。
大陸で普通の人間は日の出と共に起床するのがものだ。
個室から出ると、部屋の隅のブースで報告書を書いていた大部屋の管理官の遠藤が教えてくれる。
昨日は検査や書類の作成で収容所生活の説明は省かれていた。
大陸語で会話できる管理官が少ないのも原因だ。
幸い遠藤は大陸語を習得しているので、いい機会だと説明してくれる。

「管理官が8時に交代だからな。
朝の点呼が締めの仕事になるように合わせてある。
まあ、刑務所ではないからな。
早く起きてる分には構わないが、まだ寝てる者もいるからなるべく静かにな。
収容者同士のトラブルにはこちらも余り関わる気はない。」
「起床時間と同時に洗顔、歯磨きに使用する洗面所が開放される。
朝食は九時までに食べてくれ。
午前中に部屋の掃除、日本語の学習が義務付けられている。
午後からは就寝の21時までは自由時間だ。
運動や読書が許可されている。」

書籍は日本語学習用の参考書か、管理官が寄贈した検閲を受けた漫画や小説、雑誌、リューベック城に残されていた蔵書である。

「ちなみに仕事を引き受けて貰えれば報酬も出る。
身代金に加算することも可能だ。」
「仕事?」
「大陸の書籍の日本語の翻訳だ。
こればっかりはこちらも人手が足りなくてな。」

ここの捕虜達は貴族や裕福な士族の出身者が多く、識字率も悪くない。
日本語さえ覚えておけば釈放後も職に困ることはないだろう。
優秀なら日本の専門機関に就職を斡旋してもよかった。
語学に堪能な人間は日本人、大陸問わず貴重なのだ。

「先に日本語を覚えないといけないな。
それと実家に身代金を無心する手紙も書かないとな。」

貴族の五男坊として士官学校に入学してから実家にはほとんど帰っていない。
グルティア侯爵領のみんなは元気だろうか?
アルバートは懐かしき故郷に思いを馳せていた。


陸上自衛隊
竜別宮駐屯地
第16普通科連隊

公安調査庁からの情報が伝えられると、連隊長の君島一等陸佐は渋い顔をする。
今年から16普連は新香港の駐屯地から竜別宮に配置が変更になった。
1ヶ月掛かりで駐屯地の装備や住居などを引っ越ししたばかりで隊員達の生活も落ち着いたとは言い難い。
引き継ぎと駐屯地管理の為に重迫中隊をまだ新香港に残しているのが現状だ。
となりの第16特科連隊も同様だろう。
そんな中でも日々の任務は果たさないといけない。

「明日はデモ警備の要請が入っていたな。」
「はい、『大陸総督府の勧告で職を失いそうな各教団の異端審問官』により抗議デモです。
デモの規模は二百名ほど、第五中隊が担当します。」
「変な事覚えてきやがったな。」

駐屯地幕僚の魚住三等陸佐の言葉に君島一佐は頭を抱える。
デモ隊に対して竜別宮警察署の人員が足りていない。
大陸総督府警察は機動隊の編成が終わっていない。

「第二中隊は・・・害獣駆除で出払っていたな。」

訓練を兼ねて定期的な街周辺のモンスターの駆除だ。
ついでに食料調達も兼ねた大事な任務だ。

「第三中隊も西部のエジンバラ男爵領での選挙実施における選挙監視任務で出払っています。」

エジンバラ男爵は親日派の貴族だったが、国替えで3年前に東部から西部に移封されたばかりだった。
だが領内で苛政を強いた為に一揆によって打ち滅ばされてしまった。
新京にいた子弟は無事だったのだが、後を継ぐべき嫡男が何を拗らせたのか

『新男爵は選挙による投票で決めよう』

等と言いだしたのだ。
これに新京にも一定数存在する日本人の『民主主義推進派』が同調して無視できなくなったのだ。
総督府もあくまで実験的としてこれを認めた。
いや、押し切られたのだ。男爵領なら人口は一万人程度、影響は少ないとみたこともある。

「爵位の選定とか襲爵とか、王国の仕事だった筈だが完全に忘れられてるよな。」
「ケンタウルス自治伯の前例もありますから全くの荒唐無稽というわけではないのですけどね。
あっちは有力者だけの投票ですが」

公平な選挙が行われる為に駆り出される方はたまったものではない。

「第四中隊は非番、本管もここを留守にするわけにはいきません。」
「第5中隊で決まりだな。
全く少しは大人しくしてくれんのかな、この大陸の連中は・・・しかし、公安調査庁の連中もたまにはまともな仕事をするんだな。」

その暴言には魚住三佐も大いに同意できた。
公平な選挙が行われる為に駆り出される方はたまったものではない。

「第四中隊は非番、本管もここを留守にするわけにはいきません。」
「第5中隊で決まりだな。
全く少しは大人しくしてくれんのかな、この大陸の連中は・・・しかし、公安調査庁の連中もたまにはまともな仕事をするんだな。」

その暴言には魚住三佐も大いに同意できた。


竜別宮町郊外

「同志諸君!!
我々は有益な情報を得て、リューベック城に幽閉された同志達の救出の目処を建てた。
ここに集まってくれた勇敢な90名の幾人かは作戦の過程で倒れるかもしれない。
だが城にいる500名の同志が救出できればその犠牲は決して無駄にはならない。
城にいる同志達はいずれも有力諸候の子弟達だ。
彼等を故郷に戻せば諸候達が決起する日も近いだろう。
大陸全土で反抗作戦が決行されれば大陸にいる日本軍だけでは対処が不可能となる。
これは帝国再興の為の偉大な一歩なのだ。
諸君等と奮闘を期待する。」

町中で平和的抗議活動を行う異端審問官達は日本から学んだ『断食による抗議』を行って、日本軍と警察を引き付ける手筈になっている。
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0078†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/15(金) 22:35:21.650478ID:6Pc5GutFK
「リューベック城の守りは意外に薄い。
守備隊は50名程度しかいない。
武器も日本軍や警察に比べれば軽武装だ。
だが郊外にある駐屯地には二千四百、町中にある警察署には三百の兵がいる。
態勢を立て直して援軍にこられたら一溜まりもない。
我々も敢えて部隊を四つに分ける。
収容所に正面から侵入する第1班。
地下下水道の抜け道から侵入する第2班。
街中で敵の援軍を遅滞させる第三班。
収容所の外部から陽動を仕掛ける第四班。
さらに収容所内部にも暴動を起こすことを前提に捕らえられた同志も存在する。
いずれも危険な任務だが・・・勝利とともに再び謁えることを願う。」

全員にコップ一杯のワインが配られる。

「今は亡き帝国の為に!!」

全員がコップを掲げてワインを飲み干してから地面に叩き付けた。
人手が足りないのでマイヤーとウォルフもこの場に連れてこられていた。


公安調査庁
移動捜査車両

「全部丸聞こえなんて気の毒に思えてきたな。
収容所の通常ローテーションの管理官の人数もよく調べてきたが」

平沢調査官が盗聴の結果の感想を述べる。
竜別宮捕虜収容所と連絡を取っていた松井が会話に加わってくる。

「収容所の方でも非番の者も総動員して150名態勢で待ち構えるそうです。
自衛隊からも1個中隊が入城したそうです。」
「歓迎会の準備は出来てるようだな。
我々も参加させてもらおう。」


竜別宮捕虜収容所近郊

リューベック城は町の外郭に出丸のように本丸が建築されている。
その城壁と水堀が街全体を囲み、周囲は森林が生い茂っていた。
さらに奥深い森の中に枯れ井戸が放置されている。

「この枯れ井戸がリューベック城の地下水路に繋がっている。
城の地下水路からリューベック伯爵専用の厠にある秘密の入り口を通じて城に入ることが出来る。」

案内人の男はリューベック伯爵領内で帝国軍から伯爵家に対する取次役兼顧問としていた赴任していた一人だ。
伯爵家が忠誠の証として帝国に公開していた隠し通路を明かされていた。
本来なら皇帝、軍上層部、リューベック伯爵にこの隠し通路を有事の時以外には口外しない誓いを立てていた。
だが今となっては誓いを立てた三者はいずれも存在しない。
そして、帝国復興を志す彼にとっては今がまさに有事の時だった。
見張りを二人ほど残して、一行は井戸から地下水道に入っていく。
全員が汚水による臭さを覚悟したが、思いの外無臭だった。
いや、些かの薬剤特有の匂いは感じられた。
隠し通路に繋がる地下水道は煉瓦や土壁によって整備されている。
しかし、水が流れていない。
代わりに本来なら水が流れている水路の場所に太い金属製のパイプが数本敷かれている。
床や壁も途中からコンクリートに代わっている。

「これは・・・?」
「日本の連中が道路や建築物に使っているコンクリートというものだな。
地下水道も日本の手が入っていたようだ。
見ろ、電灯も設置されている。」

灯りはついていないが日本側が水道管や電気ケーブルのメンテナンスの為の通路用に設置したものだ。
普段は節電の為に切っている。
釈放されたマイヤーやウォルフからの情報はあくまで内部からのものであり、外部といえるあたりの情報はほとんどなかった。

「侵入に気が付いているなら灯りが着くはずだ。
このまま進もう。」

幸い通路自体の方角や距離などは変化してなかった。

「ここだ。
なんか、鋼鉄の扉がついてるが・・・」

前にみた時は扉は木製だった。
扉を開けようとノブを回した騎士は絶望する。

「か、鍵が掛かっている!!」

以前は隠してある扉だからわざわざ鍵なんてついてなかった。
その向こうの元リューベック伯爵専用厠、現在の地下通路メンテナンス扉にはニューナンブM60拳銃を構えた20名の収容所管理官達とM16自動小銃を構えた自衛隊普通科1個分隊が待ち構えていた。

「来たみたいですね。」

遠藤管理官達は災害対策用の土嚢を扉の前に積んで封鎖している。
あくまで管理官達の縄張りなので自衛隊の隊員達は前には出ない。
この隠し扉の存在は収容所側でも把握していた。
地下水道工事の際に地下水道側から発見したのだ。
近代化したトイレは設置したので、用済みとなった伯爵専用厠は撤去してメンテナンス用通路にしたのだ。
公安調査庁からの情報をもとに張り込んでいたらノコノコとやって来てくれた。

「ここから来たということは、あの井戸から来たのか。
外の部隊に連絡を取れ。」

自衛隊の班長達の会話を横に聞きながら、遠藤は扉が抉じ開けられるのを待っていた。
せいぜい体力を消耗して突破してくれればいい。
逃げ帰ってくれても結構だった。
出口の井戸はすでに自衛隊によって包囲されてるからだ。


枯れ井戸の前で見張りをしている武装した男達はそれなりに戦場の経験はあった。
場の空気が戦場のそれに換わったのを察して、互いに声も掛け合わずに剣を鞘から抜く。
確実に何かが近づいてくる気配を察したのだが相手の姿を確認できない。
たかだか獣だったら仲間に知らせることも出来ない。
すでに大声を張り上げたくらいで届く距離でもない。
一人がそれでも己の勘を信じて仲間に知らせようと枯れ井戸に入ろうとした瞬間、体に激痛が走り倒れ伏した。
仲間が倒れたことにもう一人が驚くが、複数の激痛が体を襲い絶命した。

「対象1、クリア。」
「対象2、生きている。
これより拘束する。」

隠密行動用戦闘装着セットを装着した自衛隊の隊員が闇夜の森林から突然現れる。
まだ、息のある男は南部の蛮族や森の猟師が獲物を狩る際に草木や土を身に纏い接近するのを思い出していた。
足元の約5歩ほどの距離にまで近づかれていたのだ。
これは勝てないことを悟る。

「降伏する。
要求を言ってくれ。」


竜別宮捕虜収容所の反対側の森林では囮として小銃を持った残党軍の兵士達が散開していた。
彼等の任務は収容所に銃弾を撃ち込み、管理官達の目をこちらに引き付けることになる。
散兵しているのは日本の戦術を学び、一度に殲滅されない為だ。

「ジャックの姿が消えた。」
「マケインもだ。
どうなっている?」

この森に侵入しているのは20人。
通信道具を持っていない彼等は散開しつつも互いの位置が確認出来る距離を保っていた。
最初の最後尾にいた三人が消えたのは気がつかなかった。
次に両端の二人、四人と姿を消していく。
森の中に潜んでいた隠密行動用戦闘装着セット着用の普通科小隊による待ち伏せだ。
地に伏し、樹々に隠れながら残党軍の兵士達が近くに来るのをひたすら待っていたのだ。
十分な暗視装置は用意できなかったが、敵味方の見分けは用意だった。
敵は全員帯剣しているからだ。
暗闇の森林を利用して背後から手が伸びる。
残党軍の兵士の口が塞がれ、粘着テープが貼られて声が出せない。
そのまま喉をナイフで掻き切られる。
騎士として訓練を受けた彼等は近接戦、白兵戦なら日本軍にも負けないと思っていた。
所詮は銃火器に頼った軟弱な兵士達だと思っていた。
だが暗闇の森林での戦い方など知らない。
自衛隊はテロ・ゲリラなどの脅威に対処するにあたり、火器を有効に利用できない状況が生起するとの想定で、近接格闘術を編み出していた。
2008年にこれまでの自衛隊格闘術を見直し、全部隊で導入された自衛隊格闘術(新格闘)は、日本拳法・柔道・相撲・合気道・柔術を源流とする。
徒手格闘、銃剣格闘、短剣格闘からなる自衛隊の隊員の白兵戦能力を甘く見ていた。
自衛隊格闘術(新格闘)では、これまでの日本拳法を基本とした徒手格闘に、大幅に投げ技や絞め技を追加している。
一瞬で地面に叩き付けられて声を出せない者。
三角絞で頚動脈を絞められて意識を落とされる者達が脱落していく。
そして、この森林には60名もの陸上自衛隊隊員が潜んでいた。
銃火を交えない戦いが続く。
だがやがて闇に目が慣れ、奇襲を悟った者達は自衛官の攻撃を跳ね除けていく。
彼等にも地球でいうところのレスリングや拳闘のような武術は使えるのだ。
距離を取り脱落する仲間を置いて先に進む。
結局のところ、森林を抜けることが出来たのは四人だけだった。
すでに待ち伏せを食らった以上、リューベック城に銃弾を撃ち込む行為に何の意味があるかはわからない。
だが彼等も兵士である以上、初期の目標を達成することだけを考えていた。
堀の手前で小銃を構える。
城壁の上で歩哨をしている管理官を探すが先に城壁からのサーチライトが彼等を照らし出す。
城壁の上には管理官では無く、自衛隊の小隊が残党軍の生き残りにM4カービンを向けていた。

「撃て!!」

残党軍の兵士達は蜂の巣にされて地に倒れ伏していた。


森林の銃声は城の全域に鳴り響いていた。
正面の大手門から侵入を試みる一団は仲間の奮戦を信じて行動するのみだった。
大手門に至る橋には常駐警備車(三菱ふそう)が2両陣取っている。
確認出来る管理官の数は30名ほど。
普段は携帯しないニューナンブM60を全員が腰に挿している。
豊和M1500を持っている管理官も5名ほどいる。
いかにもこちらが来ることがわかっている布陣だ。
車両の中や城壁にはまだ多数控えているのだろう。

「マドゥライ、頼むぞ。」
「お任せあれ。」

優秀な元宮廷魔術師のマドゥライが残党軍の切り札だった。
数少ない宮廷魔術師の生き残りであるマドゥライは日本への復讐の為に残党軍に参加していた。
マドゥライの存在は同志の中でも秘匿しており、この場に来てから存在と役割を知った者が大半だ。
有能な魔術師だが、この大手門で侵入前から騒ぎを起こすわけにはいかない。
マドゥライの魔法『姿隠』と『消音』を全員に重ね掛けする。
『透明』の魔法は魔力の膜で対象を覆い隠し、姿を見えなくする魔法だ。
対象が大きければ大きいほど魔力を消費する。
武器や鎧、服も対象に含まれるので、出来れば全裸で使用するのが望ましい。
敵地に乗り込む20名の男達はこの魔法に賭けていた。
少しでもマドゥライの負担を減らして大勢を送り込み為に全員が服を脱ぎ始めた。
護身用に短剣一本だけを携えていた。
その光景をJGVS-V8個人用暗視装置を88式鉄帽に装着して監視していた隊員が無線で報告する。

『シマフクロウ04より、敵を発見・・・送れ』
『こちら本部、シマフクロウ04、敵の位置、詳細は?
・・・送れ』
『こちらシマフクロウ04、位置は368、敵の数は20名、装備は・・・全裸?・・・送れ』

伝えた方も伝えられた方も困惑している。
だがシマフクロウ04こと、川崎一曹は何が悲しくて男の裸なんぞを偵察しないいけないかと落ち込みそうになる。
だが驚くべき光景に注視せざるを得なくなる。
唯一服を着た男が何やら杖を両手持ちにして呪文を唱えると男達の姿が消えていくのだ。
途中、魔力に限界が来たのか魔法使いが倒れる。
姿が消えたのは11名だけだった。

「誰だ!!」

川崎一曹が近寄りすぎたのか発見された。
服を着る時間も惜しいのか、8人の全裸に短剣を持った男が木を盾にしながら駆け寄って来る。

「く、来るな!!」

別の意味な恐怖を感じて発砲しながら後退する。
一人、二人と倒れていくが川崎一曹は一目散に逃げていく。
逃げながら『透明』化したとの情報だけはなんとか本部に無線で伝えた。
その間に『姿隠』の魔法が掛かった11人は大手門に向かって駆け出した。
管理官達も自衛官達もその姿を視ることが出来ない。
まだ、川崎一曹の報告も届いていなかった。
残党軍にとっての目的は捕虜の解放である。
大手門で暴れまわることではない。
一人でも殺害したら騒ぎ立てられて城に入る道は閉鎖されるだろう。
持続時間は七千を数える間だ。
だが城門は普通に下りていた。
問題はもう1つある。
仲間と相談が出来ないのだ。
声は『消音』の魔法で掻き消されているのだ。
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This is Original

0079†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/15(金) 22:59:13.260136ID:dgbch8VLK
仲間が同行していることを信じて、門の横の扉を通過する管理官や自衛官の背後から付いていき城の中に入る。
だが彼等はICカードをセキュリティゲートのセンサーに反応させて通過していく。
大半の自衛官が捕虜収容所の外に配置されていたのはこのICカードが人数分用意出来なかったからだったりする。
当然、招かれざる客の分などない。
残党軍の兵士の一人は姿と音を消しても通る人間を赤外線で感知するセンサーに引っ掛かり、警告チャイム音とともにフラップドアが閉まって弾き飛ばされてしまう。
突然の警告音に驚いた受付の矢島・野宮の両管理官だが、入館受付用のノートパソコンのモニターに『透明化』の情報がちょうど届く。
すぐにシャッターのボタンが押され閉じられていく。
強引に五人ほどがセキュリティゲートを強引に押し通り、閉まるシャッターの下を潜り抜けていく。
矢島管理官はすぐにインフルエンザ対策として設置されていたサーモグラフィの赤外線カメラをシャッター前に向けると、モニターに五人の姿が映し出された。
『姿隠』の魔法は日本にも認識されている。
術者は帝国にも厳重に管理されており、大半は学術都市に記録が残っていた。
現在もそのほとんどが学術都市に在住か、貴族のお抱えになっていて行方の追えない魔術師は両手の指ほどの人数だ。
戦中は第一更正師団が数十人も殺されている。
それだけに対策の研究は行われていた。
野宮管理官は机の下の豊和M300を取り出してモニターを視ながら横薙ぎに撃ち続ける。
見えないと思って背を向けていた残党軍兵士は二人が撃たれたところで、残りの三人が地面に伏せるが矢島管理官がニューナンブM60で一人を撃つ。
互いに連携が取れないので野宮管理官が豊和M300の五発の弾丸を撃ち尽くすと残った二人が短剣を手に駆け出すが互いに勢いよくぶつかって吹っ飛び合う。
銃声を聞いて続々と管理官達が集まってくる。
最初にフラップドアに弾き飛ばされた残党軍兵士はその管理官達に踏みつけられて気を失って、二時間後に突然気を失ったまま全裸で姿を現して驚かせることになる。
撃たれた五名は見えないので生死が確認出来ない。
ただモニターで『居る』

残りの残党軍兵士二人も銃弾の雨に晒された。
だが龍別宮捕虜収容所に残党軍兵士は五名が侵入に成功した。
サーモグラフィも何台もあるわけではない。
捕虜収容所の攻防が始めたって約一時間。
すでに残党軍側は三割以上の人員が戦闘不能になっていた。
全裸の男達に追われていた川崎一曹は最初こそ動転して逃げ回っていた。
それでも逃げながら一人ずつ倒している間に全員を拳銃で射殺か、ナイフで重傷にしていた。
途中で魔力切らして気を失っていた魔術師マドゥライを引きずって大手門まで戻ってきていた。
大手門でも戦闘があったらしく、自衛官や管理官達が慌ただしく周囲を警戒している。
銃剣で地面を刺したり、棒切れで地面を叩いて何やら探っている。
同時に管理官の一人がインフルエンザ対策のサーモグラフィを台車に乗せて動き回り、周囲を探っている。

「何をしてるんですか?」
「敵が透明化魔法で侵入を試みて来たのでその対処ですよ。
どうやら体温までは消せないようなのでこいつを使ってるんです。」

川崎一曹の問いに受付にいた矢島管理官が答えてくれる。
日本で流行っていた病気もそうだが、大陸での未知の病原菌の対策は急務だった。
防疫の為に持ち込んだサーモグラフィが敵の侵入を阻止するのに役立つとは思ってなかった。
だがこの時点ですでに五名の侵入者がいることには気がついてなかった。


枯れ井戸を包囲するように展開していた自衛隊は、地下水道跡から侵入しようとしていた残党軍を追い詰めていた。
すでに外に討って出てきた三人の男を射殺している。
その後は地下水道跡に籠城して出てこない。

「全員出てくるまで待つんだったな。」

小隊長の杉之尾二等陸尉が困った顔で部隊を待機させている。
地下水道跡は電気、電話、水道、ガスなどのライフラインをまとめて設置している共同溝となっている。
そこで戦闘を行われて、ライフラインが破壊されると困ると収容所側から要請があったのだ。
だが敵対戦力の排除は優先的事項だった。

「まあいい。
来ないならこっちから行くぞ。」
最初に前衛に立ったのは自衛隊隊員ではなく収容所の管理官達だった。
彼等はガス筒発射機を持って、井戸穴に集まった。
、M79グレネードランチャーを参考にして開発されたガス筒発射機は催涙弾を地下水道跡共同溝に向けて発射する。
転移前の銃刀法の関係でガス筒発射機と呼称されているが、もうガス銃でも良いのではないかと議論のマトになっていたりする。
狭い地下水道跡共同溝で催涙ガスは残党軍の兵士達に襲いかかる。

「目があ!!」
「なんだこの煙は!?」
「奥に退け!!」

カプサイシンを主成分とするOCガスを浴びて、皮膚や粘膜にヒリヒリとした痛みが走る。
咳き込んだり涙が止まらなくなる者達が床に倒れこんでいく。
効果時間はおよそ30分。
ガスを見ていち早く半数の兵士はさらに奥に逃げ込んで難を逃れる。
その穴を埋めるように花粉症も防げる00式個人用防護装備防護マスクを装面した自衛隊隊員達が地下水道跡共同溝に侵入する。
倒れて体を掻き毟ったり、目や鼻を抑えて抵抗できずに転げ回っている兵士達を拘束して手錠を掛けていく。
わずかに体を動かして抵抗する者もいる。
だが目も開けてられない状況では何の役にも立たない。
M16の銃床で殴り付けられて無力化されていく。

「おらっ、おとなしくしろ!!」
「抵抗してんじゃねえ!!」

拘束されたそのまま引き摺って、枯れ井戸から外に放り出されていく。
外には催涙ガスの解毒剤の入ったスプレー瓶を持った隊員が待機していて対応にあたっていた。


ガスによる煙で残党軍兵士達は拘束されて連行される仲間の姿が見えていない。
それどころかさらなる催涙弾が撃ち込まれてきて奥に追いやられる。
仲間がいるかもしれないので、残党軍兵士達は発砲を最小限に控えていた。
自衛隊側は前衛にバリスティック・シールド(個人携行用防弾盾)を構えた隊員が陣取り、散発的に撃ってくる銃弾を完全に防いでいる。
外壁やパイプも残党軍兵士の小銃弾では致命的な損傷に至っていない。
逆に自衛隊側の弾丸の方が威力があるので使えない。
膠着状態になるかと思われたが、隠し通路の扉が開いて奥まで逃げてきた残党軍兵士達に催涙弾が撃ち込まれる。

「こっちもか!!」

両端から撃ち込まれた催涙ガスで残党軍兵士達は逃げ場を失う。
日本軍が見えないにも関わらずに小銃を撃ちまくる。
だが効果が無いのか悲鳴一つ聞こえない。
隠し通路からはBS-RF ライフル弾用防弾盾が降ろされて壁が作られていた。
キャスター付きの防弾盾の向こうからは管理官や自衛隊隊員の姿を見受けられる。
地球の制式小銃でも防ぐ防弾盾の前には残党軍兵士が使っている帝国軍制式小銃など全く歯が立たない。
包囲は徐々に狭められ残党軍兵士達は拘束されていく。
こうして、地下水道に侵入した隊は全滅していった。


竜別宮町市街地

市街地と捕虜収容所を繋ぐ道路沿いの3件の小屋が建っていた。
捕虜収容所へ向かう日本の援軍を妨害する。
ウォルフ将軍とマイヤーは同じ小屋に入れられて拘束されていた。
同様にマイヤーの姪のマルガレーテやウォルフ将軍の細君リシアが別の小屋に拘束されていた。
だがマルガレーテはリシアの扱いに困っていた。
五十を過ぎたウォルフ将軍の奥方だから、それなりに年配の女性かと思っていたら22才の若奥様だった。
逆に拘束している兵士達も妙齢の女性に気を遣われてデレデレしている。

「人質に気を遣われてどうするのよ。」
「あらあら、明日には解放されるみたいだからそんなに怖い顔をしないの」

マルガレーテは子供扱いされている。
学校でも才女扱いで、サークルでも姫扱いだがここでは完全にオマケ扱いである。
小屋同士は互いに確認しあえる位置にある。
協力者の援助で建てたものもある。
日本の警察が援軍に行こうと小屋沿いの道を通ろうとしたら、人質を盾に引き付ける予定であった。
包囲されるのは望むところ。
道が使いずらくなるのは明白だった。
だから日本側はいきなり小屋の一つを吹き飛ばした。

「はっ?」

その光景を見ていた女達が監禁されている小屋の兵士達は呆気にとられていた。
だがすぐに額に穴が開いて床に体を転がせる。

「敵襲!!」

もう一人の兵士が叫ぶが壁越しに狙撃されて死体と化した。
森の中から狙撃したのは黒ずくめの男達だった。
公安調査庁の実働部隊だ。
今回の残党軍の作戦は事前に大半が公安調査庁によって盗聴されていた。
小屋の中にはすでにCCDカメラが設置されていて、人質と兵士達の位置関係は把握されていた。
よって人質のいない小屋も真っ先に事前に仕掛けられたプラスチック爆弾で吹き飛ばされた。
警察や自衛隊崩れの彼等は容赦がない。
だが人数は多くない。
新京なら1個小隊が編成されているが、ここでは分隊が1個ある程度だ。
第二分隊創設の予算は新浜に支部に持っていかれた。
だからこそ竜別宮支部はここが最前線だという実績が欲しかった。
第一班の狙撃が成功すると、小屋にトヨタ・ハイエースが横付けして、拳銃を構えた公安調査官達六人が小屋に突入する。
本来なら突入は第二班に任せたいところだが人手が足りないのだ。
小屋の中には兵士がもう一人生き残っていたが、手を挙げて投降の意思を示している。
二人が兵士の見張りを、二人が隣の小屋を窓から見張りに入る。


松井調査官は別室にいるマルガレーテ達のいる部屋のドアの前に立つ。

「マルガレーテさん、サークルの松井です。
お助けに参りました。」

他の調査官には聞こえないように声を掛ける。
鍵は掛けられてないのか、ドアが開くと二人の女性が喜色を浮かべる。
松井は自分の推しメンであるマルガレーテの救出に携われることを神に感謝していた。
このまま個人的に仲良くなったらどうしようかと頭の中は雑念が渦巻いていた。

「ありがとうございます。
怖かったの〜」

だが松井に抱きついてきたのは人妻のリシアである。
若くて美人なリシアに抱きつかれてだらしない顔をした松井にマルガレーテはちょっと引いていた。
だがすぐに気を取り直して隣の小屋を指差す。

「あっちに伯父様とウォルフ将軍が!!」

だが松井は精一杯のキメ顔で答える。

「大丈夫です。
すぐにあちらも解放されますよ。」

その言葉の通りに隣の小屋で小爆発が起こったかと思うと、銃声が鳴り響いて黒ずくめの男達が出てきた。
実働部隊の第二班だ。
あちらは女性がいなかったので人質がいても強引に突入したようだ。
小屋から出てきたマイヤーとウォルフ将軍の姿を見ると、二人の女性も小屋から飛び出して抱き付いている。
親子ほども年齢差がある将軍とリシアのキスシーンは濃厚で公安調査庁の男達もマイヤーとマルガレーテも困ってしまう。
なんつうか、エロい。
みんなでマイヤーに視線を向けて大人の対応を求める。

「し、将軍。
仲睦まじいところ水を差すようですが、まずは安全なところまで・・・」
「おうそうだな。
では日本軍諸君、我らを安全な場所までよろしく頼むぞ。
我等は可哀想な人質だったのだからな。
食事にはワインもつけてくれよ。
あ、風呂も用意してくれると嬉しいな。」

平沢調査官は大陸の人間は自衛隊も警察や海保、公安もまとめて日本軍と呼ぶのをやめて欲しいなと思っていた。
松井調査官が人質達をトヨタ・ハイエースに乗せて出発する。
その前後を実働部隊のパジェロが挟んで町に向かった。

「平沢さん・・・我々の車は?」
「ひ、人質を送り届けたら迎えに来るようあのバカに連絡しろ・・・」
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This is Original

0080†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/16(土) 01:18:44.706643ID:tkYM+Tb8K
東シナ海に点在していた8つのガス田は全て転移に巻き込まれており、日本が白樺、楠の開発を行っており、新香港側は平湖、冷泉、残雪、残雪北を管理している。
天外天、龍井に関しては共同開発となっている。
東シナ海ガス田は新香港の大事な財源でもある。

「問題はこちら。
元中国海洋大学、3,000トン局海洋調査船『東方紅2』。
同じく中国海洋大学所属の最先端の海洋調査船と言われた『海大号』。
所属が中国海洋大学になってますが、中国の海洋調査船は実際には国家海洋局などの元で統一的に運用されていると我々は考えていますので海事公務船として扱っています。
中国海洋大学自体、国家海洋局の肝いりで設立された組織でもあります。
転移前に学術組織の名目で尖閣諸島沖でワイヤーを垂らしたり、筒状のもとを投下していたりして調査を実施していた団体でもあります。
習麗媛少佐は海軍から国家海洋局へのお目付け役だったと見ています。
実際本人も軍所属の学者だったようですが。」

今となっては大した問題ではない。
国家海洋局どころか、中華人民共和国自体がこちらの世界には存在しないのだ。
新香港傘下の元では日本と揉めることは出来ないからだ。

「ハイラインの遺跡にはこちらからも調査隊を送り込め。
総督府から監督役の官僚を数人、大学にも人員の派遣を要請しろ。
自衛隊には護衛部隊の編成を命じる。」

だが秋山補佐官は渋い顔をしている。

「自衛隊は問題無いと思いますが、大学と総督府に人手が足りません。
大学はこの次期は卒業式と入学式がありますので。
総督府はサミットがありますから」

第四回アウストラリス大陸地球系国家首脳会議通称『G9』。
日本からは首相ではなく、総督が出席する。
同様に本国が存在する百済市やヴェルフネウディンスク市からも知事達がやって来る。

「今年の開催地は百済だったな。
ああ、気が重い・・・
調査隊は6月の出発を目処に人選を進めといてくれ。」
「自衛隊の先遣隊は入れておきましょう。」
「そうだな、任せるから頼む。」

秋月総督の頭は来る百済サミットに向けていっぱいになっていた。
今回は今後の王国に対する『指導方針』の検討。
ガンダーラ市の建設の協力の調整。
海棲人類に対する警戒。

検討すべき事案が山積していた。

「派遣隊の一部本国への帰還を打診すべきかもな。」


日本本土から西へ一万キロ
日本領綏靖島

温暖な気候の綏靖島は国後島程度の面積の無人島である。
その気候を生かして日本から持ち込んだバナナとマンゴーなどの南国フルーツの一大生産地となっている。
それ以上に多国籍軍総司令部と各国軍の基地が点在している。
そのうちの一つ。
ネパール隊の駐屯地では隊員達がお祝いの合唱を挙げていた。
ようやく新天地を家族に与えられると喜びもひとしおだろう。

ネパール隊司令であるシュレスタ中佐は微笑ましく見守っていた。

「苦労もあるだろうが、我々はこれさえあればなんとかなります。」

壁に掛けられたグルカナイフを誇らしげに指差す。
日本にいた3万を超えるネパール人からグルカ傭兵の経験者を掻き集め、若者をスカウトして鍛え直した。
ようやく形になったグルカ・ライフル大隊は戦場を蹂躙し、新たな祖国を得る為に闘い抜いた。

「近日中に彼等を迎えに行こう。
新天地にもモンスターがいるだろうからまだまだ彼等の力は必要だ。」

インド部隊を率いるシッダルット・カーン准将が提案してくる。
元インド海軍フリゲート、シヴァリク級『サヒャディ』の艦長を後進に譲り、インド部隊の司令官となったカーン准将は転移前から現役の軍人だった。
退役から復帰したシュレスタ中佐とは些かの確執がある。
だが二人ともいい歳をした大人であり、問題があればそれを棚上げする判断力を持っている。
シュレスタ中佐は取り敢えずカーン准将と握手をする。

「ミャンマーやブータン、スリランカの連中とも協議しないといけないですな。
アングロサクソン共と違って、我々は連帯感が薄い。
異世界に来てまで地球人同士の民族紛争は御免蒙りますからな。」
実質的にガンダーラの軍事を担うのは、インド人とネパール人だ。
だが他の三か国の住民にも配慮は必要だろう。

「我々を纏めたのは総督府の連中が面倒臭がったからじゃないかな?
私はこれからのことを考えれば喜びが半分、不安が半分だよ。
まあ、今はこの瞬間を祝おうじゃないか。」

棚から出した祖国の蒸留酒トゥンパをグラスに注いでカーン准将に渡す。
カーン准将もラム酒を持ち込んでおり、空のグラスを受け取って酒を注ぐ。
兵士達が作った密造酒だがこの島では文句を言う者もいない。

「では、我らが新たな祖国に!!」
「素晴らしきガンダーラに祝福を!!」

二つのグラスは合わされ、いっきに飲み干された。
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0081†Mango Mangüé(ワッチョイ 028e-5g47)2018/06/16(土) 01:30:58.731606ID:NyfNAPrB0
公式 https://tezos.com/
財団 https://tezosfoundation.ch/

Medium https://medium.com/tezos
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前スレ:tezos
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/cryptocoin/1516706395/
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This is Original

0083†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 01:49:05.426748ID:QDcLfdHmK
海底を這うように巨大な未確認物体が陸地を目指していた。
途中の幾つかの海域に突入しては引き返すのを繰り返している。
どうやらその物体の内部に知的生命体が活動できる空間があるようだ。

「ここまでは侵入出来たか。」

船長のイケバセ・グレは任務の達成に安堵のため息を洩らす。
水中だが・・・
自分達種族を阻んできたこの海はあまりに異質な特性を持っていた。
最初の年は境界線から海底を歩いて百歩も進めばどの種族も発狂して死に至っている。
医学的な毒による成分は確認出来ていない。
むしろその海域に生息していた異世界の魚介類を食しても支障は出ていない。
各種族の呪術師達はある種の呪いに似た結界だと主張していた。
だが歳月が過ぎて呪いの効果が薄れてきたようだ。
今では呪いの境界線から一万歩の距離に到達出来るまでになっていた。
各種族はこの海域の奥にある陸地への航路を探して挑戦続けてきたのだ。

「この十年、何度も挑戦を繰り返した結果だな。
我々はようやく奴等の領域に突入出来る二ヶ所目のルートを見つけた。」

一万歩どころか二百歩に満たない距離に上陸出来る陸地があったのだ。
調査に当たっていた乗員達は小踊りや歓喜の声をあげながら喜びを表現している。

「船長、このことを早く本国に報告しましょう!!」
「戦士達も連れてこないといけないからな。
だが一度浮上してこの目で確認したい。
しかし、奴等に感付かれてはまずいが今は夜だ。
海上監視の部隊を先に放て!!
『荒波を丸く納めて日々豊漁』号は半潜状態で浮上!!
日本の奴等に一銛報いる大事な偵察だ。
気を緩めるな!!」

イケバセ船長は一度本国に帰れば遠征になる為に暫く家に帰れなくなる。

「娘に何か買ってやらないとな。」

触手でキセルを取って口に咥える。
もちろん火は点けれない。
大事なのは気分なのだ。



大陸南部
アンフォニー
アンフォニー代官所
ヒルダは春休みを利用して、自領アンフォニーに静養を兼ねた視察に来ていた。
だが代官の斉藤光夫に急な来客を告げる早竜が到着したことを報告されて困惑していた。

「こんなとこまでよくこれたわね。
まだ、駅も完成してないのに」
「竜車で街道を走破して来たようです。
竜騎兵の護衛付きで」
「まあいいわ。
せっかくの学友の来訪だし歓迎の準備をして頂戴。
来訪の目的もよろしくね」
「グルティア侯爵領ですか・ ・・我々の目が入ってませんから新京の仲間に探らせますが、到着の方が早そうですな。」

その日の夜には件の令嬢を乗せた竜車が到着する。
竜車は輸送に使われる中型角竜として分類されるゲルダーに曳かれた二両編成だ。
竜騎兵、執事、御者、侍女達は斉藤に用意された宿舎に案内された。
そして、グルティア侯爵家令嬢マイラは公邸を兼ねた代官所の応接室に案内された。
貴族らしい長い挨拶をかわすとマイラが単刀直入に本題に入ってくる。

「ヒルダ様、私・・・結婚させられそうなんです。」
「あら、どなたと?」
「メルゲン子爵家の次男で、最近まで日本の捕虜になっていたマイヤー様です。」
「まあ、残党軍の方?」
「いえ、帝国軍時代に捕虜になったとかで勇戦を評価されていたそうです。
でも、私、結婚ってまだ早いと思うのです。」

なにやらモジモジとした仕草で不満を訴えている。
帝国が崩壊し、王国が日本の傀儡となって五年の歳月が流れている。
半分人質として新京に集められた貴族の子弟達は日本の教育を受けその影響を大きく受けている。
その後遺症ともいうべき問題が貴族社会で起きていた。
その一つが教育を受けた貴族令嬢達が結婚したがら無くなったのだ。
この大陸の貴族の女性の平均的な結婚は十代後半に行われていた。
だがさらなる教育を求めて進学を希望する者が増加していた。
教育を受ければ受けるほど、自領の発展に生かしたいと意気込んでしまう。
マイラ嬢もその一人だ。
基本的に能力は低くなく、経理や書類作成など官僚的能力が地元の文官など鼻であしらうレベルに到達しているのだ。
さらに領内の女性陣に清潔な環境や化粧品を勧めて、自信を付けさせて発言力を高めた。
マイラはこのやり方で支持を集め、地盤を固めて内政に口を出すようになったのだ。
ただ彼女は恐ろしく周りが見えていない。
『効率的で迅速な仕事』がいかに大勢の人間から仕事を奪うのか。
立場を無くした文官達は解雇され、或いは野に下った。
のんびりとした農村が突然の開発ラッシュに襲われた。
健康の為に清潔な環境を造ろうとして領民が負担を強いられる。
入浴や消毒の為に大量の薪の消費が森林の焼失や禿げ山の増加を招いた。
使用する水の増加により、調達にの為の労働が増加した。
化粧品の普及で妙な自信を持った女性が増え、男女間でギスギスした空気が流れるようになった。
値段も高価で庶民には見合っていない。
予算を得るために軍縮を求められたグルティア侯爵領の私兵軍は不満を募らせる。
最初の頃は彼女に同調していた女性達もマイラに対する不満の空気を察して離れていく。
ちょうどその頃、資金調達の為の他領に派遣された竜騎兵団が損害を負って帰還した。
グルティア侯も責任の追求より、原因の排除を決断したのだ。

「確かに投資による負担はちょっと大きかったと思うけど、将来的には絶対に発展の道が見えていたのに。」

その将来より今日明日に誰もが耐えられなくなっていたのが理解できていない。

「きっとマッシモ叔父上が私の功績になるのを妬んで父上を誑かしたのですわ。」
「まあ、今日のところは長旅で疲れたでしょう?
大学の卒業までは結婚は猶予があるから色々と考えることもあるでしょう。
部屋を用意したから明日からゆっくり語らいましょう。」
「お言葉に甘えてお世話になります。
すでに内政に携わって成果を挙げていたヒルダ様は私達の希望でしたから。」

荷物の整理もあるので、侍女にマイラを客室に案内させて向かわせた。
斉藤は集めた情報をまとめた書類をヒルダに見せる

「衛生環境の改善はうちでもやってるわよね?」
「状況と規模が違います。
グルティア領は長い歴史を誇ります。
それだけに領内の整備は一度完成されています。
再開発は負担しか残りません。」
「難民による住民が増加したアンフォニーは、切り開く必要がある森林が手付かずに残っていたものね。
衛生環境改善の問題は切り開いて余剰となっていた樹木の処理という形で凌げたし。」
「領民の意識の違いもあります。
突然生活環境の変化を強いられたグルティアと、一から自分達の町や村を建設する必要があったアンフォニーではモチベーションに差が出るでしょう。」
「開拓の経費も新香港に請求してるから、経済的負担も低かったしね。
まあ、彼女の愚痴くらいは付き合ってあげましょう。」

なんだかんだと可愛い取り巻きの一人だ。
邪険に扱う気はヒルダにはなかった。

「マイラ様の婚約者はガンダーラ建設に参入するメルゲン子爵家の担当者です。
せっかくだからこちらも一枚噛ませて頂きましょう。」

幸いガンダーラの建設予定地に資材を運ぶにはこのアンフォニーに敷設されている南北線を使わなければならない。
間もなく完成する駅舎があれば列車はアンフォニーにも停まる予定なのだ。

「宿場町建設なんて夢が広がるわね。」
「まあ、ほどほどに程度を見極めて行いましょう。
グルティアはちょうどよい反面教師になりましたから。
ところで姫様。
マイラ様はいつまで逗留の予定なので?」

肝心なことを聞きそびれていた。


大陸西部
エジンバラ男爵領
エジンバラ男爵は帝国崩壊時に成り上がった親日、王国派の貴族であった。
それに伴い所領のあった東部から豊かな実りのある西部に移封された。
親日をアピールする為に妻子は全て新京に居住させて自分は若い現地妻を持った。
だがちょっとハッスルしすぎたのか昨年お亡くなりになり、新京から嫡男のチャールズが跡を継ぐべくエジンバラにやってきた。
だがこのチャールズは日本の大学で色々と思想に被れたらしい。

「これからの時代、新しい領主は住民の投票によって選ぶべきではないか?」

最初のうちは一族、家臣、領民の誰もが相手にしてなかった。
だがそのうち妙な団体が現れて事態は一変した。
NGO団体『大陸民主化促進支援委員会』である。
荷物運びや護衛の傭兵を除けば全員が日本人で構成されている。
領民の大半は非政府組織と説明されても意味がわからない。
国に仕えてないのは神に仕える神官達か、反乱軍ということになる。
もちろんギルドのようなものがあるのは理解しているが、あれは国に認可を受けて税を払い、その庇護下で存在している組織である。
ましてや貴族や官僚でもない人間が政治活動を行うなど理解の範疇を越えていた。
これがもう少し知識層だともう少し理解されている。
だが日々の暮らしで世界が完結しているほとんどの領民には政治的権利など美味しいのか?
くらいにしか思われていない。

そして、自衛隊の部隊が護衛に来ると知られると誤解が加速する。

「つまり日本国の意向を反映している組織なんじゃないか?」

結果、次期領主を選ぶ選挙がトントン拍子に進んでしまった。
委員会のメンバーとして、野党だが参議院議員が紹介されたことも誤解に拍車を掛けた。
ちなみに議員本人は名前だけで大陸にすら来ていない。
総督府も一応は日本国に所属し、民主主義を否定することは出来ない。
でも大陸では現実的じゃないから遠くでやって欲しいという希望と一致して大陸西部で試験的に行うことなった。
今回は4回目にあたる。
民主主義至上主義者がうるさいのでまとめて厄介払いしたともいう。
そして日本人が活動する以上、護衛として派遣されたのが陸上自衛隊第32普通科連隊の第3中隊であった。
第16師団本部と調整して、施設から小隊、通信、衛生、偵察から分隊を借り受けている。
かわりに同隊の普通科隊員が同数が施設、通信、衛生、偵察に研修として出向させられた。
選挙監視に必要な人材と危険度が少ない任務と考えられたからだ。
任務は現地邦人の保護と安全に公平に選挙が実施されるよう監視を行うことである。
同隊はエジンバラ防衛の為に建設された砦の一つで、平時は警備の兵士以外は無人のリゲル砦に拠点を構えた。

「通信設備は早めに頼む。
だが優先すべきは寝床かな?
普通科の隊員は一丸となって掃除を行うぞ。
車両とヘリは砦内の広間に置いておけ。
即席のヘリポートは明日造ろう。」

丸山和也一等陸尉自ら陣頭に立ち、帚を持って埃を払っている。

「隊長お客さんです。」

駐屯地から遠く離れ、身内だけだと隊員も緩んでいる。
規律的に問題があるので一度引き締める必要があると思えた。
隊員が連れてきたのは妙齢の女性と若者達だ。
全員が日本人の民間人だ。
つまりNGO団体『大陸民主化促進支援委員会』である。
ちなみにこの砦での同居人となる。

「この度は我々の活動に御協力頂きありがとうございます。
私は『大陸民主化促進支援委員会』の大陸西部支部支部長近藤佐奈子といいます。
色々とご迷惑を掛けると思いますがよろしくお願いします。」

丸山一尉は些か拍子抜けしていた。
正直この種の団体と一緒に仕事をするのは気が重かった。
この手合いの団体は

『自衛隊ガー!!』
『民主主義ガー!!』
『憲法9条復活ガー!!』
と捲くし立てて来るのを予想していたからだ。
だが近藤女史は妙に疲れた憂い顔をしている。
それが丸山の好みに直撃していた。
だが気になるのはやる気に溢れたまわりの若い若者達た。
女史と若者達の温度差が大変気になった。

「そ、それで選挙の進捗状況は如何ですか?」
「聞きたいのですか?」
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0084†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 01:59:28.132354ID:NAQ2U3mPK
それを聞かなければこちらも任務を進めることが出来ない。
さすがに女史の背後にいた若者達も困り顔をしている。

「ちょっと聞いて下さい隊長さん。
・・・無理です・・・
この大陸に民主主義を芽生えさせるなんて私には無理だったんです。」

いきなり目の前で泣かれてしまった。
丸山はかつて絶対絶命に感じたオーガの群れとの遭遇戦で感じた恐怖を思い出した。
あの時は第1更正師団の督戦隊隊員として所属していた。
無数のオーガの群れに師団の隊員達は次々と喰われていった。
だが彼等は勇敢に立ち向かっていった。
丸山も一緒に突撃し、血路を切り開いた。
あの恐怖に晒された時にでも言わなかったことを口にしていた。

「お、おい・・・
誰か助けてくれ・・・」

女史の後ろにいた若者達が宥めに入ってくれている。

「失礼、支部長は些かナーバスになってまして。
今度こそ選挙を理想通りに成功させるのだと。」
「公平を帰すべき選挙で理想通りとか不味くないですか?
団体の思想が混じっても困りのですよ。」
「確かに仰る通りなのですが、前回の選挙では奴隷特区を創りあげるという失態を犯してしまいましたので・・・」
「おい、何仕出かしたんだよ、いったい。」

この民主主義促進の活動はあまり報道されていない。
総督府の意向もあるが、結果が毎回ロクでもないからだ。
前回までなら委員会が雇った警備会社や地元傭兵程度が付き添っていたのだが、今回は自衛隊部隊が派遣されたのはお目付け役を期待されてのことであった。
この部分は同隊には説明されてなかったりする。

「申し遅れました。
私は同委員会の事務局長を務めます青塚栄司と申します。」
「これはご丁寧にどうも。」

丸山一尉に名刺を渡してきたのは30代後半のスーツを来た中年だった。
小綺麗にしているので、若者達に混じっていても気が付かなかった。
但しその雰囲気はNGOの職員というより政治家の秘書のようだった。
そう値踏みする丸山の様子を察したのか、青塚は正体を明かす。

「薄々、判っておられるようですが、私は同委員会を後援する参議院議員北村大地先生の私設秘書の一人でもあります。
同委員会に対するお目付け役でもあります。」

北村議員は野党のタカ派の政治家である。
曰く、王国に対しての賠償の年貢取り立てが手緩い。
曰くケンタウルスとの紛争の犠牲者は交渉時における総督府の不手際が原因である
といった責任追求を訴えている人物である。
本人は親自衛隊議員らしいが、自衛隊側からは面倒な人物だと思われている。

「なるほど、納得がいきました。
しかし、近藤先生のあの様子だと議員先生が後援するのにあまりメリットはなさそうですな。」
「さすがに我々も最初から上手くいくとは考えてませんでした。
議会制民主主義の前に大陸の住民の教育が先決なのは理解しています。
そこでまずは教育の行き届いた人間を就任させる自治体の長を住民の直接投票によって選挙する公選制の普及を第一段階だと考えています。
いずれは自治領主から規模に合わせて知事や市長と呼称も変えれるようにするのが理想です。」
「名前を変えれば入れ物が変わったと認識させやすいですからな。
例え単なる誤解でも。」

丸山の皮肉を込めた指摘に青塚も頷く。
否定する気は無いようだ。

「ですが最初の一回目はまだ帝国が崩壊した直後で日本に対する反発も大きく選挙妨害や投票所が衝撃されるなどと、選挙自体を中止して撤退するなど無様なものでした。」

丸山にも覚えがある。
皇都大空襲や帝国海軍の撃滅。
その後の掃討戦で多数の帝国貴族、士族、兵士達が死亡した。
その遺族達の反発の大きさが日本が大陸を間接統治、或いは割譲させた区域から大陸民の追放を決意させた理由でもある。
考えてみれば当然だ。
自分達の国を崩壊させた相手にいきなり好感を持つはずがない。
特に大陸西部は主戦派の有力貴族の多かった地域であり、皇都大空襲では皇都に多数の貴族やその私兵軍が集結していてそのまま帰ってこなかった。
主戦派貴族は多数改易され、融和派の多かった大陸東部の貴族を転封させて反日勢力の弱体化を試みている。
現状でこの地域の牽制は新香港に丸投げしている。
このような地域での第一回目の失敗は想定の範囲だったのだろう。

「二回目の選挙はその翌年。
国王の勅命をもとに指定された男爵領で選挙が実施されました。
結果は男爵と腹違いの弟が当選しました。
しかし、結果に不満を持つ男爵が兵を率いて当選者とその支持者を襲撃し、血を血で洗う御家騒動に発展しました。
男爵も当選者も死亡し、男爵領はお取り潰しの憂き目に・・・
我々も抗争に巻き込まれて男爵領を脱出しました。」

丸山一尉、だんだん聞くのが怖くなってきた。

「三回目は?」
「三回目はある意味成功したと言えるかもしれません。
当選したの光と正義の教団の司祭で、多数派の信者の支持のもと他教団の弾圧や改宗を求める法案を作り実行しました。
そして、やり過ぎました。
狂信者とその教団に抵抗する為に他の教団が団結。
宗教戦争が始まりました。
そんななか、邪悪と認定を受けた星と知恵の教団の司祭の娘が処刑されることになりました。
そこに颯爽と現れたのは領主を引退させられていた男爵の息子です。
光と正義の教団の司祭を剣で斬り捨て、親友の良識派の神官を光と正義の教団の司祭に就任させて事態を納めました。
そして、幼なじみの星と知恵の教団の少女と結婚。
跪く領民達の懇願により、領主として就任し、二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし。」
「選挙って何だったんでしょうね。」

青塚は自分達の負の記録なのに興が乗ったのか語りたがりになっている。

「そして、極め付けが」
「あの、この話はまたの機会に。
そろそろ近藤先生が限界みたいです。
私も任務がありますので・・・」

青塚の後ろから顔面蒼白で今にも気を失いそうな近藤女史がスタッフに支えられて連れ出されている。

「ああ、これは長話を失礼しました。
明日は住民代表を百名ばかり集めて説明会を行いますのでよろしくお願いします。
なにぶん毎回何故か選挙の度に紛争になってしまうので、総督府側が今回初めて貴方方を我々の付けたのですから。」

丸山一尉は苦虫を潰したような顔を隠さない。
今までの話はほとんど聞いたこともなかった。
大陸西部は新香港に丸投げしているところがあるが、さすがに紛争に発展していて総督府が把握していないはずがなかった。

『総督府もわざと隠しているのか?』

確証はなかった。
総督府は民主主義の影響を最小に抑える為にあまり交通の要所ではない過疎化した領土で選挙を行うよう指定している。
面倒だから当分帰ってくるなという意味でもある。
とにかく今は目の前の任務をこなさないといけない。
明日の説明会には住民の1%以上が集まるらしい。
警備に専念しなければならないだろう。
NGOの面々から解放された丸山一尉は砦の櫓に登って近くの村を眺める。

「隊長、我々は明日からどうしますか?
普通科以外は設営の任務が残ってますが我々は・・・」

副隊長の福原二尉が尋ねてくる。
最低限の警備任務を除けば大半の隊員は暇だった。

「そうだな・・・
明日は説明会の警備はあるが、明後日からは訓練と愛される自衛隊として近隣の住民と親睦を深めてくれ。
住民に何か手伝えることはないかと聞き出すことは忘れずにな。」
大陸西部での住民との親睦は大事な任務の一つだった。


アンフォニー
マイラ嬢を客人として迎えたアンフォニー代官所では、現在実施している開発地区の視察などの便宜を諮っていた。
いすゞのファーゴの後部座席にマイラとヒルダを乗せて、助手席の斉藤が解説をしている。
運転席にはこのアンフォニーで財務を担当している後藤が座っている。
ファーゴは二頭の馬に曳かれているので馭者の役割をしている。
後藤が同行しているのは決算が終わったばかりで一番暇だったからだ。
だがヒルダ達と御一緒出来るならこ褒美と嬉々としている。
さらにグルティア竜騎兵が2騎が護衛と監視に付いている。
結婚を嫌がるマイラが逃げ出さない為にだ。
だがとうのマイラは逃げ出すどころではなかった。

「成功したらしたで既得権益とぶつかります。
その点、この地は新興の開拓地みたいなものですから、統治機関である我々の圧力でどうにかなります。
他の領地だったら社会構造とか常識的通念が立ち塞がってきます。
その意味では我々は運がよかった。」

暗に既存の利権との調整を怠ったマイラに対する指摘が二時間ばかり続いている。
すでに彼女は息をしていない。

「斉藤さん、もうそのへんで・・・マイラさんのHPはもう0です。」

後藤がたしなめてヒルダも止めに入る。
すでに白目を向いているマイラの顔を湿らしたハンカチで拭いてあげている。

「さ、斉藤?
貴方、わりと他の娘には手厳しいのね。」
「はい、私はヒルダ様一筋ですので
ところでマイラ様は御自分のファンからスタッフを募らなかったので?
そうしたらもう少し忠告してくれる人間がいたと思いますが?」

気をとり直したマイラは反論する。

「日本人をスタッフとして連れていったら、それこそ既得権益とぶつかったわよ。
仮にも侯爵家。
格下げになってもプライドは無駄に高かったのよ。
新京にスタッフ置いても連絡を取る機械が持ち出せないじゃない。
手紙なら往復で1ヶ月掛かるわ。
まあ、最近はグルティアにも石和黒駒一家が叔父の食客に入って、盗賊ギルドを粛清してたわ。
彼等を通せばもう少し早くなるかもだけど、マッシモ叔父は私を追い出そうとする急先鋒よ。
繋ぎを取るなんて無理だわ。」

打開策を見つけることが出来ないうちに目的地に到着した。

「ここがアンフォニー炭鉱。
総督府からは二号炭鉱などと呼ばれてますがね。
他にも亜鉛と鉛の二号鉱山。
銅の三号鉱山がありますが、この二号炭鉱こそがアンフォニーでは最大の規模です。」

アンフォニー炭鉱は露天掘りが採用されている。
坑道を作らず地表から直接、地下に向かって掘り進める方式だ。
地表から渦を巻くように掘り進めている。
そして採掘された石炭を運ぶ為にレールが敷かれてトロッコで運び出されている。
そこでは日本人技術者の指導の元、大勢の大陸人が働いていた。
日本人の技術者は老齢の者が多い。
かつての炭鉱労働者達が第二の人生とばかりに家族を連れて、後進を育成しつつ再び採掘の仕事に就いたのだ。

「炭鉱自体の利益は我々に供与されません。
ですがそこで働いている人間が得た収入が、生活を支える住宅、店舗、病院などに費やされます。
その利権はアンフォニーの財政を支える大事な収益になっています。」

トロッコから零れ落ちた石炭を眺めてマイラが驚嘆している。
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0085†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 02:09:11.417105ID:o+PFZmoyK
「これが石炭。
いえ、見たことはあるのです。
鍛冶屋が使ってるのはグルティアでも同じですからね。
北部では薪のかわりに使われますし。
でもこれほど大規模に採掘されてるとは思いませんでした。」

ヒルダも同様に手に取っている。
深窓の令嬢方には縁の無かった光景だろう。
だが代官である斉藤や炭鉱で働く日本人技術者達には不満があった。
重機を持ち込むわけにはいかないので、屈強な男達がツルハシやシャベルで炭層を掘り崩してトロッコに積まれていく。
馬や人力によるトロッコの輸送力にも問題があるので、その改善も今後の課題だ。
火薬を使った爆砕も大陸技術流出法の規制に阻まれ行われていない。
斉藤の想定や技術者の経験より炭鉱の規模が大きくなっていないのだ。
マイラが連れてきた中型角竜ゲルダーを見て、竜にトロッコを曳かせるの有りだなと斉藤は考えていた。
グルティアは中型竜の数少ない生産地である。
経済が悪化しているグルティアからなら安く買い叩けるかもと画策している。

「斉藤、また悪い顔してるわね。」
「また悪いこと考えてるんですよきっと。」
「意地悪そうだものね、あの人。」

ヒルダ、後藤、マイラからの評価は散々だった。
この炭鉱から運び出された石炭はドン・ペドロ火力発電所で使用される。
ドン・ペドロ火力発電所は、百済、スコータイ、ブリタニア、呂栄、サイゴン、ドン・ペドロ、アルベルトの地球系南部7都市に電力を供給している。

「この炭鉱だけでは要求される供給を満たせていません。
重機や火薬の規制が生産量の拡大を妨げています。」

斉藤がヒルダに目配せすると、ヒルダがマイラの手を取った。

「だからマイラも五月に百済で行われる地球系国家首脳会議通称『G9』、今年からは『G10』だったかしら?
貴方も私達と参加するのよ。」

首脳間の交渉だけでなく、せっかく集まる首脳や閣僚、高級官僚達と繋がりを持ちたい貴族や商人達も集まってくる。
ヒルダ達もそれに混じるつもりだった。
目標は大陸技術流出法の規制の緩和を各都市国家や各貴族に働き掛けて連携し、日本に圧力を掛けることだった。


エジンバラ男爵領
ハロルド村近郊
この村に住む選挙の立候補者と運動員を護衛する為に普通科一個分隊がパジェロをベースにした1/2tトラックと73式大型トラックで同行していた。
少し大袈裟な気がしていたが近藤先生のご助言のせいだ。
平民からの立候補者は貴重で、立場の弱さから真っ先に既得勢力から妨害行為を受けるというものだった。
公平を期すため、有力な候補者全員には自衛隊の隊員による護衛と監視として派遣されていた。
護衛が付くことからして公平さを欠いてるのではと自衛隊側も疑問には思っていた。
護衛対象のパルマ氏は近隣の村々で唯一の医者だった人物だ。
平民代表の立候補者は誰かいないのかと委員会に懇願されて、なんとなく立候補する羽目になった人物だ。
立候補といってもこんな僻地では正式な手続きや登録など出来るはずもなく、方々で立候補したことを名乗り上げるくらいだ。
民衆の方にも選挙を余り理解して貰えてないので領主になって欲しい人に票を入れると説明していた。
自薦、他薦問わずというやつである。
最終的に投票結果をもとに国王へ自治領主を推薦するという形になる。
そんな彼は73式大型トラックの荷台で疑問を口にしていた。

「聞けば聞くほど、私が立候補した経緯や委員会とやらの思惑はその・・・公平さとやらからほど遠くないかね?」
「色々あって疲れてるんですよ、あいつら。
平民層が選挙で貴族を降す。
そんな実積作りに夢中になっている。
まあ、犬に噛まれたと思って大人しく立候補しといて下さい。」
「民主主義とはそういうものなのかね?」

分隊長の岡本三尉が申し訳なさそうにパルマ氏に面倒を押し付けている。
パルマ氏はせいぜいが地元の名士レベルの人物である。
平民の中では比較的裕福であるが、大商人や上級士族ほどではない。
それでも地元の為になればと多少は選挙について勉強し、頑張ってくれてはいる。
最も地元民からは選挙にうつつを抜かしてないで本業に専念して欲しいと不評となってしまっている。
多少は整備された街道に車を走らせていると、横転した馬車を発見する。
双眼鏡で馬車と周辺を見渡した岡本三尉は隊員を降車させて、現場を調べさせる。

「死体が5体、いずれも男性。」
「賊の類いか?
周辺警戒を密にしろ。
御遺体を回収して村に届けてやろう。」

馬車に積まれていたと思われる荷物は残らず持ち去られていた。
遺体を衛生科の隊員と検分していたパルマ氏が慌ててやってくる。

「岡本さん、あれはゴブリンにやられた傷だ。
噛み傷がそれに酷似していた。
馬車を襲うくらいだからかなりの数がいたはずだ。
早くここから離れよう。」

だがその希望はかなわなかった。
粗末な矢が岡本三尉やパルマ氏の周囲の地面に突き刺さったからだ。
反応出来ていないパルマ氏の体を掴み、屈めさせながらM16自動小銃の銃弾を数発、矢が飛んできた方向に撃ち、隊員達に指示する。

「応戦しろ!!」

銃声に驚いたのか背中を見せて逃げる襲撃者達に普通科の隊員達が銃弾を撃ち込んでいく。
ものの数分の戦闘だったが襲撃者のゴブリンは五体の死体を残して散り散りに逃げ去っていった。
逃亡したのは十数匹はいただろう。

「このへんではよく出るのですか?」
「以前はそこまでは・・・御領主様や騎士団が定期的に演習や狩りと称して間引きを行っていましたので
ここ数年は行われて無かったので繁殖したのでしょう。」

なぜ行われなく無ったか?
パルマ氏は言いづらそうに目を逸らしている。
だが岡本三尉は察してしまった。
このエジンバラの旧主と騎士団を壊滅に追い込み、高い賠償金代わりに貴族から年貢の上前を跳ねて軍事力の増強を阻んでいたのは

「ああ、我々だったか。」

だがこのような状況が、大陸全土で起こっているのかと思うと不安になってくる。

「本部に問い合わせて、我々で討伐してよいか上申してみましょう。」
「連中は近くの地下遺跡を根城にしていると聞いている。
ご協力頂けるならこちらも案内を出そう。」

パルマ氏を送り届けた後で、リゲル砦に問い合わせると援軍まで送ってくれると返答がきた。
翌日の合流地点に行くと待っていたのは施設科が砦の補修に持ち込んでいたコンクリートミキサー車だった。
本来はコンクリート掩体の構築、道路舗装、土木建築作業等に使用する車両だ。
3トントラックに搭載されていて、電源部、エアーユニット部及びミキサ部が分割できる構造の2型である。
車両の護衛並びに増援として高機動車2両。
中古車屋から購入したバイクのホンダX4をオリーブトラブに塗り直し、銃架を設置したサイドカーを装着した2両が到着している。
増援の普通科隊員20名がこれ等に乗っていた。
岡本三尉は本部からの作戦指令書を一読する。
パルマ氏が用意してくれた案内人の猟師達の指示のもと、地下遺跡の入り口のある森を進む。
これにパルマ氏からの要請を自衛隊からの命令と勘違いして集まった地元の兵士達や自警団の若者達が後に続く。
地下遺跡は森の奥にあるが少し手を入れれば車両は通せるようだった。
肝心の地下遺跡については、規模は不明でダンジョン化しているという。
ゴブリンの数は不明。
他のモンスターの存在も確認されている。
確認出来ている一番の大物はミノタウルスだという。
車両が通れるように獣道をチェーンソーや鎌で切り開き、即席ではあるが整地を施して先に進む。
自警団の若者達が作戦に参加してくれたことは有難かった。
途中、遭遇する単独から数匹の小集団のゴブリンを駆逐しながら進んでいく。
やがて地下遺跡の入り口周辺まで一キロの地点で岡本は双眼鏡を覗き込む。

「ちょっとした砦みたいになっているな。
まあ、問題は無いが」

隊員達を散開させて入り口を囲むように接近する。
隊員達には数人の兵士や自警団の若者達がついていき、近接からの奇襲に備えさせている。
入り口周辺は丸太や土を積み上げて造り上げた陣地となっていた。
接近する敵を押し留めて槍や弓矢で貫き殺す為だ。
ゴブリン達は50を超す軍勢で待ち構えていた。
だが自衛隊の隊員達は遠距離から小銃を撃って陣地に隠れたゴブリン達を確実に仕留めていく。
岡本三尉もM16小銃に装着したM203 グレネードランチャーから40mm擲弾が発射して丸太の陣地ごとゴブリンを吹き飛ばす。
総崩れとなったゴブリン達は地下遺跡に逃げ込んでいった。
洞窟のようになっている地下遺跡の入り口付近を確保した隊員達はミキサー車をそこに停車させる。
その間に隊員達は地下遺跡の入り口に入り、階段や通路を抜けたところにいたゴブリンを始末していく。
地下の通路出口を確保すると、外や通路のゴブリンの死体を運び込み積み重ねていく。
隊員達が外に撤収するとミキシング・ドラムから生コンクリートが通り道であるフローガイドに流れていく。
そして目的の荷降し位置へ導くための樋であるシュートを通じて地下遺跡の入り口に流し込まれていく。
約10トンの生コンクリートが地下に降りていく階段を流れていく。
積み上がったゴブリンの死体が堤となって生コンクリートが溜まっていく。
通常、生コンクリートが固定するまで10時間が目安と言われているが今回持ち込んだのは投棄してよい粗悪品だ。
コンクリートを平らにならす必要もないが、概ね丸一日は見ておきたいところである。
だがゴブリン達が体制を立て直しても生コンクリートの流水階段は昇れない。

「10トンで足りたかな?」

足りなければもう一度流し込めばいい。
本部に要請すれば幾らでも送ってくれる。
作業を見守っていた兵士が声を掛けてくる。

「てっきり降りて戦うものだと思ってました。」
「安全で確実、安上がりだろ?
空気が無くなり窒息してもよし、食べ物が無くなって共食いや餓死してくれてもよし。
根性出して掘り進んでくる奴がいるかもしれないが確認できたらまた流し込んでやるさ。
監視はさすがにそちらに任せるよ?
我々も3ヶ月はこちらにいるみたいだからそれまでに結果は出るさ。
連絡はリゲル砦の丸山和也一等陸尉によろしくな。」

そういって現地語で書かれた丸山一尉の名刺を渡していた。
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0086†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 02:24:19.147201ID:pXWpkVVCK
リゲル砦
自衛隊宿営地
丸山一尉は各地から上がってくる報告に目を通している。

「フレーク村な給水作業は終了しました。
約3500トンを溜め池に投入しましたので当面は大丈夫でしょう。
現地でも作れる活性炭を使った浄水装置も寄贈しました。
近隣の村々にも衛生科の医官による衛生指導や診療所6箇所の建設指導。
大衆浴場や神殿等の公共施設の復旧や整備。
日雇いですが作業に現地住民を雇用を創出しています。」

福原二尉の報告に満足げに頷いている。
施設科に限らず隊員達の建築能力は高かった。
転移前は自衛隊を任期満了で除隊し、民間の土建会社に就職していた者達が多かったからだ。
彼ら出戻り自衛官達は大陸でのインフラ建設では水を得た魚のように活躍してくれる。
砦のまわりに宿舎まで勝手に造ったりしている。
最近では神社から公衆浴場、燻製工場まで造ってしまった。
地元住民からの評判は上々だ。
撤収する時はどうするのかはまだ考えていない。
土地の権利はリゲル砦に付属した土地である。
領主代行のチャールズ氏からは好きに使ってよいと、許可は取れている。

「住民からの不満は出てないな。
結構、結構、愛される自衛隊はこうじゃないとな。」

隊員達の頑張りには頭が下がる思いだ。
丸山自身も先週の説明会や部隊からの要請への対応に奔走している。
近藤女史や青塚事務長と各候補者の調査も進んでいる。
今のところ立候補に名乗りを上げているのは、前男爵の嫡男にして、領主代行のチャールズ。
各神殿の代表にして前に男爵の隠し子だったクララ司祭。
前男爵の弟であり私兵軍の兵権を握っているアレク団長。
前男爵の第三夫人の父親であるこのエジンバラ最大の商人のオリバー。
他薦の候補者達はほとんど相手になっていない。

「なんで一族ばかりなのかな?」
「近藤女史がパルマ氏のご出馬を願ったわけですな。」

まったく血縁が無いのはパルマ氏だけである。
委員会としては平民出身の自治領主を選出したいのだろう。
オリバー氏も平民ではあるが、前男爵家に近すぎるのが問題だった。

「前回の選挙は一応は平民が自治領主になったが、奴隷ギルドのマスターが当選したからイメージが悪いらしいな。」

福原二尉はその時の経緯が書かれた書類が渡され目を通す。

「委員会の人達が奴隷解放を夢見て、奴隷にも選挙権を与えてみれば奴隷達は一斉にマスターに投票して当選。
奴隷商人に対する奴隷を財産とする税金の免除の特区を設立。
『在庫』を抱えた奴隷商人達が移住してきて奴隷達の居留地が幾つも誕生と。
一応は地元住民に配慮された隔離された居留地である。
これってようするにあれですよね、アパルトヘイト・・・」

奴隷達もうっかり解放されて、着の身着のまま放り出される事態は避けたかったのだろう。
この時もやはり近藤女史は寝込んだらしい。
リンカーンを夢見てみれば南アフリカになったのだから無理も無いと言える。
民衆の民衆による民衆のための政治を目指したらアパルトヘイトに到達したなどとは笑い話にもならない。

「あの人むいてないんじゃないかな。
学会とかで自説をぶってればよかったのに」

丸山一尉は本気で心配になって来ている。
本人に聞かれたらまた倒れて寝込まれそうである。
微妙な空気を変えるべく、福原二尉は話題を代える。

「そういえば師団の衛生大隊隊長の白井三佐が休暇を取って本国に帰るそうですよ。
その前に必要な書類を整理したいから、隊員の自己診断書の提出を求めてきてます。」

今は隊員が方々に散っているのに迷惑な話であった。

「本国に戻るなんてよく許可が降りたな。
確か白井三佐って、医者の一族のボンボンだろ?」
「来月解体される最後の東京都文京区区長のお孫さんでもあります。
文京区役所で行われる新中央区への合併式の式典に出席するそうです。」

東京23区の人口も百万人に落ち込んでいた。
人口の激減により東京5区に再編されることになっている。
大陸や千島、南樺太への移民。
食料を求めて地方への回帰。
十年の時を掛けて東京は小さくなっていった。
すでに東区、南区、西区は再編を済ませている。

「我々の知る東京はもう無いのだな。」

その言葉は少しホロ苦かった。


エジンバラ男爵領
領主選挙の投票日が迫ってきた。
領内の投票所はエジンバラの名を冠する領都では領主の館、兵士の詰所、神殿で行われる。
周辺の町や村でも倉庫等を借りて実施される。
ダメなら施設の隊員の指示で小屋を建設したり、廃屋を改築して投票所にしている。
不正防止と開票の為に委員会の会員、自衛隊の隊員、領内の役人か兵士が動員されて各投票所に派遣されていて準備を進めている。
自衛隊の隊員達もPKOで、アンゴラやボスニアで選挙監視任務に当たった要員に講習を受けている。
問題は有権者に対して投票日前に配られる入場券や案内などの通知が書かれた書類の入った封筒が配り終えてないのだ。
郵便の制度は整っていない。
一般的に手紙は騎士団や巡礼の聖職者、冒険者や行商の商人達が副業として確実に運べる進路上の自治体拠点まで届けてくれる。
そこを中継地点としてリレー形式になる為に速達等は望むべくもない。
一応は飛脚のようなものはあるが高額で、町や村の拠点に送り届けるだけで個人宛には出来ていない。
それでも村や町にいる住民には自治体単位で渡せば問題は無かった。
問題は山中に家を建てて住んでいる狩人や炭焼き職人、木こり等といった職業の住民達だ。
彼等は家族で一ヶ月に一度くらいしか麓まで降りてこないのだ。
かくして甚だ不本意であるのだが、自衛隊の隊員達がこの郵送任務に駆り出されていた。
山中の獣道を3人の自衛官が進んでいる。

「こっちでいいのか?」

先頭を歩いていた隊員が立ち止まって声をかける。
すでに麓の車で行ける場所から行軍を開始してから五時間。
乗ってきた車には隊員を二人留守番に残している。
水筒で水を一口含んでから地図を見ている隊員に目を向ける。
地図は航空撮影から作製した簡易なものだ。
他にも複数の隊員が各地の山中で配達の任務に携わっていた。
この近辺の山だけでも五組は配達任務に駆り出されている。

「問題ありません。
あと三時間も歩けば着くかと。」
「意外に楽勝だったな。」

自衛隊体育学校の山間演習を体験していれば目的地がはっきりしているだけに体力的にも精神的にも楽である。
さすがに委員会のメンバーにはこんな山道を走破するのは不可能である。
約二時間四十分後、炭焼き職人とその家族が住む小屋に到着した。

「ボルガンさん、お手紙届けに参りました!!」

絶対に自衛隊の仕事じゃないと内心思っていたがおくびにもださない。
小屋からは夫人と思われる女性が出てきた。
こんな山の中ではお目に掛かれそうにない肉感的な美人だ。
山の中でも怪しい自分達のような人間を警戒してか、片手に手斧を持っていた。
豊かな森の食生活と山の中で生活する適度な運動がよいのだろう。
こんな山中で生活している以上、どこに泉や河川といった水源も豊富なのだろう。
町のご婦人方よりも清潔な様子が伺えた。

「まあ、遠いところ御苦労様です。
主人は明日の夕方には帰ってくると思いますけど。」
「いえ、御家族の方にでもこの封筒を受け取って頂ければ我々は十分ですので」
「いえ、居てくれないと困るの。」
「え?」

ちょっと期待しながらも固辞しなければならない。
何をとは聞いてはいけない。
あのエロっぽい仕草にほだされてはいけない。

「私も主人もうちの子達も字が読めないから
あなたたちに読んで貰わないと。」


「や、野営の準備をしていいですか?
あ、何かあった時の為の連絡先を書いた紙を置いていきますね。
責任者の名前も書いてますから・・・後で読み方や書き方も教えますので」
「食事くらいは用意するからよろしくね。」

夫人の背後から遊んで欲しそうな子供達がこっちを見ていた。
説明には時間が掛かりそうだった。

「今日は帰れそうに無いと連絡を入れといてくれ。
車は明日、同じ場所に来てくれとな。」

通信機を持った隊員に指示して、野営の準備を始めた。


リゲル砦
「つまりですね、この領内の識字率は約52%しかありません。
これまでの選挙区の中でも最低の数字ですな。」

委員会の事務長青塚氏の調査結果に近藤女史や丸山一尉は頭を抱えていた。
文字が書けるのは中産階級以上の人間になる。

「さ、最低でも名前を書ければ選挙にはなるわ!!
今回はいつもより状況が悪いだけで、他の領地も似たようなものよ。
地球だって中東やアフリカで同じような事例があるのよ。
地球では識字率が低い国では、選挙用紙に文字ではなくイラストやマークで投票が行われてたわ。
これを参考に他の領地でもこれで選挙自体は成功させたの。」
「候補者の写真の横にイラスト、マークが表記されてね。
有権者はそれを記入すればよいだけです。
ただ自薦の人はそれでいいとして、今回は他薦もありなんでしょう?
そちらはどうしたものかと。」

青塚事務長は捕捉しながらも問題点を指摘する。

「他薦、意味合ったんですかね?
どうせ泡沫候補しかいないんですし。」

丸山も何だか投げ槍だ。

「き、既成勢力の票を割れるじゃない。
他薦で今回名前を売れれば次回に繋げれるわ。」

相変わらずの理想がおかしな方向に行っている近藤女史の発言に二人に呆れ顔になっている。
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0087†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 02:40:24.124702ID:h0aUneuCK
「まあ、他薦の方々には賑やかしに頑張って頂きましょう。
他薦するくらいの人は字が書けるでしょう。
票は伸びないでしょうが。」

見も蓋もない青塚事務長の意見だが現実問題仕方がない。
この選挙にはもう1つ奇妙な側面がある。
候補者の大半を占める元領主一族がまるで演説などの活動を行わないのだ。

「まあ、チャールズ殿は自分の信任投票に過ぎないとしか思ってないとして、他の御一族の方々の動きがないのが不気味です。」

パルマ医師をはじめとする他の候補者達は本拠地の地元ではそれなりに支持者を集めているが、移動手段が無いので行動範囲が狭い。
地盤である町や村以外では知名度がまったく無い。
マスコミも発達してない選挙では無理もなかった。
領主一族の動向もあって、まったく結果の予想が出来ていなかった。
青塚事務長としては全くリアクションを取ってくれない旧領主一族は困った存在だった。

「当選されたら困るんだからいいじゃない。
もう少し大人しくしてて欲しいわ。」
「事はそう単純じゃないと思うんですがね。」

両者の懸念は平行線を辿っている。
だが丸山にはもう1つ懸念があった。
副隊長の福原二尉が入室してくる。
福原は青塚事務長や近藤女史がいることに眉をしかめるが、二人にも聞かせる必要があると考えた。

「王国府は敢えて公表してなかったみたいですが、総督府が追及したら吐いたそうです。
やはりこの西部方面では今年に入って村が4つ壊滅、12の村が襲撃を受けていました。
ゴブリンやオーク、或いはオーガや不特定多数のモンスターが確認されています。
西部以外でも被害が増加傾向にあります。」

ゴブリンの討伐作戦を指揮した岡本二尉から進言された懸念が的中していたのだ。

「よく連中が認めたな。」
「さすがに隠しきれないと思ったからでしょう。
スタルカ伯爵領の領都もカブトムシの虫人に襲撃されて、騎士団や神官戦士団が交戦した模様です。
冒険者ギルドも西部方面に討伐クエストを大量に発注していてます。」

冒険者ギルドには資源の調査の為に総督府がクエストを常時発注していたが、受注が減っていたのが疑問視されていた。

「予想以上に深刻だったな。」
「東部地域は第16師団、中央は第17旅団が大々的に討伐が決まりました。
西部地域に王国が戦力を集中出来るように負担を引き受ける為にです。
我々にも近いうちに撤収命令が出ますよ。
来月のサミットの議題にも上りましたからね。」

日本や在日米軍との戦闘で大陸における帝国軍は壊滅し、人間の戦力は大幅に減少した。
今は亡き帝国は獣人も傘下に納めて大々的にモンスターを狩り立てていた。
よくも協力出来たものだと考えられていたが、共通の敵の存在がそれを可能にしていたのだ。
だがこの五年近く帝国を引き継いだ王国軍に往事の力はない。
その間に繁殖して増加したモンスター達は、縄張りが手狭になってきた。
新たな狩り場を求めて人里まで姿を現している。
それも同時多発的にスタンピート現象(集団暴走)を起こそうとしているのだ。

「自衛隊だけでは手がまわらないかもな。」
「なんにしても今は目の前の選挙を片付けましょう。
それが我々に出来る最低限のことよ。」

偉そうに締められてしまい、青塚事務長も丸山一尉も苦笑してしまった。
丸山一尉も今後の方針を言ってみる。

「では我々は精々このエジンバラの安全に気を配るようにしましょう。
さしあたって出来るのはこの地域のモンスターの駆除かな?」

咳払いする福原二尉が問題点を指摘してみる。

「あまり弾丸を使うと司令部に睨まれるので知恵と勇気で補って下さい。」


とにもかくにも選挙は投票日を迎えたのだった。
大陸の一般庶民にとって統治機構から布告された内容は命令と同義である。
領主による布告に従うのは領民の義務である。
すなわち選挙の投票は領主からの命令と勘違いをした領民の投票は驚異的な投票率という数字になっていた。
まだ、投票開始前の早朝だというのに住民達は各地の投票所に列を成して集っていた。
強制参加の選挙だと住民が勘違いしていることに気がついていない日本人達は、報告を聞いて自分達の努力の成果と感激に浸っていた。

「これよ!!
これこそが私の求めてた光景よ!!」

楽しそうに叫び声をあげる近藤女史を目立たないところに放置して、丸山一尉と青塚事務長も満足そうに投票所を見つめている。
有権者達は黙々と投票所に入り、係りの委員会のメンバーや自衛隊の隊員、現地スタッフ等に質問を投げ掛けながらも順調に投票が行われていった。

「お日柄もよく、妨害も無い。
今回は平穏無事に終わりそうですな。」

青塚事務長も椅子に座り、お茶を啜りながらこの光景に見いっている。

「開始3時間で有権者の六割ですか。
この分だと夕方には当確をだせそうですね。」

各地の投票所から送られて来る投票数の集計を見て丸山一尉も頷く。
予想通りに昼過ぎには投票数は有権者の八割に達していた。
この頃には既に開票作業も始まっていた。
責任者である近藤女史、青塚事務長、丸山一尉は投票所の監督に終始し、開票作業には関わっていない。
だが開票作業に当たっていた委員会のメンバーや自衛隊の隊員達の間で微妙な空気が流れていることに三人とも気がついていた。
規則により開票作業の内容は口にしてはいけない。
だがその日本人達による微妙な顔、或いは苦笑したようすに思惑とは違った方向に進んでいるのは理解できた。
夕方になる頃には投票数は有権者の九割に達していた。
だがこの時点で有権者に対する得票率50%を獲得した者が現れた。
次期領主が決定した瞬間であった。
発表は領主代行を務めるチャールズの館で行われる。
丸山達三人も他の有力者や各町や村の町長、村長達も席を連ねていた。
発表の為に新京や新香港からマスコミの人間も招待されていた。
やがてチャールズが妹で虹と芸術の教団の司祭であるクララが発表のプレゼンテーターを務めることになっていた。
二人とも候補者だったのにプレゼンテーターを務められるのは落選が確定しているからだ。

「では、お兄様。」

司祭の服とも思えない虹色の祭服を着たクララが銀色のお盆に乗せた封書をチャールズに差し出した。

「ありがとう、クララ。」

チャールズは封書を受け取り、ペーパーナイフで封書を開き、書簡を取り出す。

「発表します。
第一回、エジンバラ自治領主選挙で当選を致しましたのは・・・」

誰もが固唾を飲みながら見守っているなか高々と発表された。

「陸上自衛隊一等陸尉丸山和樹殿!!」

沈黙が広間を包む。
誰もが驚きで拍手すら忘れている。
当の丸山一尉が一番反応に困っている。

「は、はい!?」

そして、隣にいた近藤女史がやはり気を失い丸山一尉にもたれ掛かった。
妙齢の女性を抱き抱えた新自治領主の姿が次の日の紙面の一面を飾っていた。


シュヴァルノヴナ海海底
海底宮殿
『荒波を丸く納めて日々豊漁』号船長イケバセ・グレは自らの種族が治める海底に建設された宮殿に他の船長達と共に集められていた。
同種族の船長は他に二人。
いずれも勇猛で知られた船長達だ。
もう一人の船長は他種族の女船長で、細長い体を水中に漂わせている。

「ウキドブレ提督が御入室します。」

宮殿内とはいえ、水中の中なので一同は漂っているのだが、彼等の種族的に居住まいを正して提督を最敬礼で迎える。

「遠路ご苦労だった。
諸兄等に集まってもらったのは他でもない。
諸君等の長年の苦労が実って、あの忌まわしき日本の幾つかの島への上陸が可能となったことが判明した。
ハーヴグーヴァ殿下は日本の本島攻撃の為の橋頭堡として、これらの島々を攻略することを決定した。
激しい抵抗が予想される為に各々の島に一万を越える兵士を各船長に与える。
万難を排して、作戦を成功させて欲しい。」

3人の船長は手を両肩と両腰に当ててひざまづく。
この作戦は海棲亜人連合の主導権争いにも影響される。
そんな作戦に他種族の者がいるのは解せなかった。
彼等の視線は唯一の他種族の女船長に向けられる。
ウキドブレ提督は彼等の視線の意味を察して、彼女の紹介を始める。

「彼女はザボム・エグ。
北方のフセヴォロドヴナ海から派遣された『革命の音階』号の船長である。
北方でも見つかった上陸出来る島には彼女の兵団一万が上陸する。
こちら来て貰ったのは4島同時攻撃の調整の為だ。
よく話し合って欲しい。」

さすがに北方まではシュヴァルノヴナの手は届かない。
日本の戦力を分散させる必要もある為の共同作戦になったのだろう。

「皆様と協力して忌まわしき日本に一鞭くれてやれるのを光栄に思いますわ。
麗しき死を日本に」

足に装飾品代わりに装着された鞭がザボム・エグの武器なのだろう。
その鞭を水中で振るって、勝利の誓いを立てている。
彼女の挨拶とともに総勢4万を越える大軍による遠征の会議が始まった。
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0088†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 02:54:50.815141ID:8di8KpZCK
エジンバラ領
リゲル砦
「大陸総督府補佐官秋山と申します。
さて、丸山一尉。
なぜ、私がサミットの準備で忙しい時にここに派遣されたか御理解して頂けてますか?」

ひ弱そうな(自衛隊基準)文官の視線に堪えかねて丸山一尉の体は小さくなっているように見えた。

「はい、自治領主に選出されてしまったからです。」
「貴官自身は立候補もしていないし、選挙活動も行っていないのに何故当選したのか困惑している。
そんなところですか・・・」
「はい、そんなところです・・・」

肯定する丸山に秋山が資料の山を突き付ける。

「これは青塚事務長が調査した住民の声です。
代表的なのを読み上げてみましょう。」

一枚の書類を手に取り、読み上げてみる。

「これは某山中で木こりを営む一家の夫人の証言です。
『隊員さんに字を教えてもらいました。
その際に貰った紙に書かれてた文字をもとに練習してたのですよ。
丸山さんの名前が書かれてたのでそれも練習してたら家族以外に書ける名前が他になかったの。』」

渡された紙とはクレーム対応や要望があった時の為に配布した大陸語で書かれた名刺である。
確かに人物名は責任者である丸山の名前以外に書かれていない。

「アンケートに答えてくれた4割の回答者がこんな感じでした。
何枚配布したのですか?」
「さ、三百枚ほど」

人口が一万人程度の領内で三百枚は結構な枚数である。
また、識字率の低い地域では文字の書かれたものを無駄にありがたがって残していく傾向がある。
学校などは無いので、集めた文字から必要に応じて生涯を通して少しずつ文字を学んでいたのだ。
ましてや今回は読んで貰わないと困るので自衛隊や委員会のメンバーが読み方を教えている。

「他には『支配者は強くなければならない。
今、この領地で最も強いのは誰かを考えれば自明の理である。
先日のゴブリン討伐の圧倒的武力がその証明である。』
『橋を建ててくれあり、小屋を修復してくれて助かりました。』
『日本人が統治してくれた方がハクが付いてまわりの町にでかい顔が出来る。』
まあ、貴官に落ち度は無いですね。」
「そ、そうですよね?」
「あれば、更迭の名目で本国送りに出来たのですが・・・チッ」

舌打ちされたことにもツッコメない。
いっそ本国送りにしてくれた方が気楽だった。

「総督府からの『判断』を伝えます。
丸山一等陸尉には自治領主の座を拝命してもらいます。
法的な問題ですが、各管理区域で似たようなことは既に行っていますのでクリアしています。
自治領主という名称は問題ですが、我々が大陸で民意を得ているプロパガンダに利用させてもらいます。
自衛隊も駐屯させて第9管理区に指定します。
この第9分遣隊の隊長も兼任してもらい、エジンバラを西部地区の拠点にします。
チャールズ殿を補佐官として雇用し、総督府からも文官を送り込みます。
無難に五年間統治して下さいよ。
ああ、例の女性とは適切な交際をお願いしますよ。」

現在、進行中の中央部の天領ゾルーダの管理区域化と同時進行となる。
第8管理区となるゾルーダは金、銀、亜鉛が産出される。
そして、今回大陸で初めて見つかったマンガン、ウランの鉱脈の開発は急務となっている。
後回しにすることは出来なかった。
ならば同時進行となる。
女性問題に関しては丸山一尉の努力に期待するしかない。


丸山を退出させた秋山補佐官の部屋に青塚事務長が訪れる。
別に呼んではいないが、面会を求められたので会談に応じた。

「貴方ですね、今回の絵を描いた御人は?
予定になかった西部の拠点構築は周辺の貴族や帝国軍残党の活動の火種を付ける可能性があります。
どういうつもりかお聞かせ下さいますか?」
「本国における我々の派閥はですな、大陸総督府の悠長な活動に憤りを感じています。
大陸人の人口の減少させる計画。
我々は少しお手伝いしてるだけですよ。
今回はあなた方の圧倒的武力が背景にあったから誰も暴発しませんでしたがね。
まあ、今回の結果は予想外ながら我が国の権益に繋がるから結果オーライですかね。」

大陸総督府は緩やかな計画を立てているのに反して、青塚達は流血を伴う事態を引き起こさせている。
第1回から第3回の選挙は何れも紛争を巻き起こして多数の死者を発生させている。
第4回の奴隷特区も東部や中央部から多数の奴隷を移動させて、同地域の人口を減らしているのだ。
委員会のメンバーのほとんどはその思惑に気がついていない。
ほとんどの者は善意のつもりで利用されているのだ。

「北村先生が次期大陸総督の座を狙っているとは聞いてましたが、野党から指名されることは無いのですよ。
現状、あなた方は野党第3党です。
もう少し大人しくしてて欲しいのですがね。」

大陸総督は内閣総理大臣によって任命される副総理格の国務大臣である。
よって野党の議員から指名されることはありえない。

「国民は今の政府の弱腰に不満を抱いています。
確かに今の総理は立派です。
戦争に勝利した圧倒的支持率を背景に身を切る思いで様々な改革を断行した。
年金の停止、未成年以外の未就労者の健康保険の停止。
大陸進出を企てる財界への抑制。
国内では年々老人の死亡が増加して人口が減少している。
4月だけで墨田区と港区の解体がそれを物語っている。
大陸の既得権益を持つ勢力に気を使うのは結構ですが、我々にも既得権益に固執する勢力は存在するのですよ。」

現内閣の支持率は当初の85%から45%に落ち込んでいるのは事実だ。
再来年の選挙では大幅な議席の減少も予測されている。
より過激な方針を主張する野党第3党との連立の可能性も永田町では囁かれている。
第4回の奴隷特区も東部や中央部から多数の奴隷を移動させて、同地域の人口を減らしているのだ。
委員会のメンバーのほとんどはその思惑に気がついていない。
ほとんどの者は善意のつもりで利用されているのだ。

「北村先生が次期大陸総督の座を狙っているとは聞いてましたが、野党から指名されることは無いのですよ。
現状、あなた方は野党第3党です。
もう少し大人しくしてて欲しいのですがね。」


大陸総督は内閣総理大臣によって任命される副総理格の国務大臣である。
よって野党の議員から指名されることはありえない。

「国民は今の政府の弱腰に不満を抱いています。
確かに今の総理は立派です。
戦争に勝利した圧倒的支持率を背景に身を切る思いで様々な改革を断行した。
年金の停止、未成年以外の未就労者の健康保険の停止。
大陸進出を企てる財界への抑制。
国内では年々老人の死亡が増加して人口が減少している。
4月だけで墨田区と港区の解体がそれを物語っている。
大陸の既得権益を持つ勢力に気を使うのは結構ですが、我々にも既得権益に固執する勢力は存在するのですよ。」

現内閣の支持率は当初の85%から45%に落ち込んでいるのは事実だ。
再来年の選挙では大幅な議席の減少も予測されている。
より過激な方針を主張する野党第3党との連立の可能性も永田町では囁かれている。

「それでもあなた方はまだ政権与党でも無ければ、大陸総督府に席を置く役人でもない。
その活動を見逃してきたのは、大筋ではこちらの方針と違わないからだ。
だが邦人の犠牲者が出たなら・・・わかっていますね?」
「それはこちらも理解しています。
これでも私は穏便な方なのですよ?
委員会の監視と金庫番を任せられるくらいなのですから。
ですが、我々の支持者には時間が無い方が多数いることもお忘れなく。」

会見を終わらせて秋月補佐官はため息を吐いていた。
青塚事務長の言っていることも日本の一面を現した真実であることは間違いないからだ。

「我々も一枚岩ではないか・・・」

青塚は体調を崩した近藤女史の代理を委員会の長に据えて、新たな地に騒動の種を蒔く為の準備に入っている。
公的な組織では圧力にならないかもしれなかった。
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0090†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 03:12:34.274828ID:vGU57JL7K
エジンバラ領
リゲル砦
「大陸総督府補佐官秋山と申します。
さて、丸山一尉。
なぜ、私がサミットの準備で忙しい時にここに派遣されたか御理解して頂けてますか?」

ひ弱そうな(自衛隊基準)文官の視線に堪えかねて丸山一尉の体は小さくなっているように見えた。

「はい、自治領主に選出されてしまったからです。」
「貴官自身は立候補もしていないし、選挙活動も行っていないのに何故当選したのか困惑している。
そんなところですか・・・」
「はい、そんなところです・・・」

肯定する丸山に秋山が資料の山を突き付ける。

「これは青塚事務長が調査した住民の声です。
代表的なのを読み上げてみましょう。」

一枚の書類を手に取り、読み上げてみる。

「これは某山中で木こりを営む一家の夫人の証言です。
『隊員さんに字を教えてもらいました。
その際に貰った紙に書かれてた文字をもとに練習してたのですよ。
丸山さんの名前が書かれてたのでそれも練習してたら家族以外に書ける名前が他になかったの。』」

渡された紙とはクレーム対応や要望があった時の為に配布した大陸語で書かれた名刺である。
確かに人物名は責任者である丸山の名前以外に書かれていない。

「アンケートに答えてくれた4割の回答者がこんな感じでした。
何枚配布したのですか?」
「さ、三百枚ほど」

人口が一万人程度の領内で三百枚は結構な枚数である。
また、識字率の低い地域では文字の書かれたものを無駄にありがたがって残していく傾向がある。
学校などは無いので、集めた文字から必要に応じて生涯を通して少しずつ文字を学んでいたのだ。
ましてや今回は読んで貰わないと困るので自衛隊や委員会のメンバーが読み方を教えている。

「他には『支配者は強くなければならない。
今、この領地で最も強いのは誰かを考えれば自明の理である。
先日のゴブリン討伐の圧倒的武力がその証明である。』
『橋を建ててくれあり、小屋を修復してくれて助かりました。』
『日本人が統治してくれた方がハクが付いてまわりの町にでかい顔が出来る。』
まあ、貴官に落ち度は無いですね。」
「そ、そうですよね?」
「あれば、更迭の名目で本国送りに出来たのですが・・・チッ」

舌打ちされたことにもツッコメない。
いっそ本国送りにしてくれた方が気楽だった。

「総督府からの『判断』を伝えます。
丸山一等陸尉には自治領主の座を拝命してもらいます。
法的な問題ですが、各管理区域で似たようなことは既に行っていますのでクリアしています。
自治領主という名称は問題ですが、我々が大陸で民意を得ているプロパガンダに利用させてもらいます。
自衛隊も駐屯させて第9管理区に指定します。
この第9分遣隊の隊長も兼任してもらい、エジンバラを西部地区の拠点にします。
チャールズ殿を補佐官として雇用し、総督府からも文官を送り込みます。
無難に五年間統治して下さいよ。
ああ、例の女性とは適切な交際をお願いしますよ。」

現在、進行中の中央部の天領ゾルーダの管理区域化と同時進行となる。
第8管理区となるゾルーダは金、銀、亜鉛が産出される。
そして、今回大陸で初めて見つかったマンガン、ウランの鉱脈の開発は急務となっている。
後回しにすることは出来なかった。
ならば同時進行となる。
女性問題に関しては丸山一尉の努力に期待するしかない。


丸山を退出させた秋山補佐官の部屋に青塚事務長が訪れる。
別に呼んではいないが、面会を求められたので会談に応じた。

「貴方ですね、今回の絵を描いた御人は?
予定になかった西部の拠点構築は周辺の貴族や帝国軍残党の活動の火種を付ける可能性があります。
どういうつもりかお聞かせ下さいますか?」
「本国における我々の派閥はですな、大陸総督府の悠長な活動に憤りを感じています。
大陸人の人口の減少させる計画。
我々は少しお手伝いしてるだけですよ。
今回はあなた方の圧倒的武力が背景にあったから誰も暴発しませんでしたがね。
まあ、今回の結果は予想外ながら我が国の権益に繋がるから結果オーライですかね。」

大陸総督府は緩やかな計画を立てているのに反して、青塚達は流血を伴う事態を引き起こさせている。
第1回から第3回の選挙は何れも紛争を巻き起こして多数の死者を発生させている。
第4回の奴隷特区も東部や中央部から多数の奴隷を移動させて、同地域の人口を減らしているのだ。
委員会のメンバーのほとんどはその思惑に気がついていない。
ほとんどの者は善意のつもりで利用されているのだ。

「北村先生が次期大陸総督の座を狙っているとは聞いてましたが、野党から指名されることは無いのですよ。
現状、あなた方は野党第3党です。
もう少し大人しくしてて欲しいのですがね。」

大陸総督は内閣総理大臣によって任命される副総理格の国務大臣である。
よって野党の議員から指名されることはありえない。

「国民は今の政府の弱腰に不満を抱いています。
確かに今の総理は立派です。
戦争に勝利した圧倒的支持率を背景に身を切る思いで様々な改革を断行した。
年金の停止、未成年以外の未就労者の健康保険の停止。
大陸進出を企てる財界への抑制。
国内では年々老人の死亡が増加して人口が減少している。
4月だけで墨田区と港区の解体がそれを物語っている。
大陸の既得権益を持つ勢力に気を使うのは結構ですが、我々にも既得権益に固執する勢力は存在するのですよ。」

現内閣の支持率は当初の85%から45%に落ち込んでいるのは事実だ。
再来年の選挙では大幅な議席の減少も予測されている。
より過激な方針を主張する野党第3党との連立の可能性も永田町では囁かれている。


「それでもあなた方はまだ政権与党でも無ければ、大陸総督府に席を置く役人でもない。
その活動を見逃してきたのは、大筋ではこちらの方針と違わないからだ。
だが邦人の犠牲者が出たなら・・・わかっていますね?」
「それはこちらも理解しています。
これでも私は穏便な方なのですよ?
委員会の監視と金庫番を任せられるくらいなのですから。
ですが、我々の支持者には時間が無い方が多数いることもお忘れなく。」

会見を終わらせて秋月補佐官はため息を吐いていた。
青塚事務長の言っていることも日本の一面を現した真実であることは間違いないからだ。

「我々も一枚岩ではないか・・・」

青塚は体調を崩した近藤女史の代理を委員会の長に据えて、新たな地に騒動の種を蒔く為の準備に入っている。
公的な組織では圧力にならないかもしれなかった。



エジンバラ男爵邸

エジンバラ男爵邸は、エジンバラ男爵家の財産として認められた。
今後、エジンバラ自治領主府は新たな公邸や政庁の建設を行わなければならない。
新たに自治領主補佐官となるチャールズは、一族の者をこの男爵邸に集めていた。

「今後は自治領主を通じて、日本から供与される予算や技術力を持って、領内のインフラ整備や治安維持、経済の発展を推し進める。
そして、それを積極的に領主に進言して功績を領民にアピールする。」
「日本側にも面子がありますからな。
自治領主に恥を欠かせるような真似はしないでしょう。
そして、一歩引いたところから領内の発展に寄与するチャールズ殿を領民は目撃する。
さすれば領民はチャールズ殿を称賛し、次回の選挙では有利になると。
我々も慈善活動への出資をさせて頂きますよ。」

前男爵の第三夫人の父親であるこのエジンバラ最大の商人のオリバーが賛同する。

「さすがですわ、お兄様。」

妹のクララは無条件に兄を称賛している。

「うむ、領地の発展を優先し、正統なる権利を四年も我慢するなどなかなか出来ることでわない。」
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0091†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 03:16:13.386684ID:sHnq7/2lK
叔父で私兵軍の兵権を握っているアレク団長はこの場では最も自らの地位が保てるか怪しかった。
この場でチャールズに取り入る必要があったので同調している。
領主一族は今回の選挙に複数立候補して、既得勢力の票をわざと割ったのだ。
次回は領主一族が一丸となってチャールズを支持する。
日本側も領主一族に遠慮しているのか、様々な点で優遇を約束しているので勢力の維持は難しくない。
勝算は大いに高かった。
一度勝ってさえしまえば領主一族内で自治領主の座をまわしていけばいい。
状況によっては、自治領から再び男爵領に戻してもいい。
その頃には周辺領地とは隔絶した発展を遂げているはずである。

「もしくはその先・・・大陸中で選挙が行われるならばいずれは統一選挙が行われるかもしれない。
その時は我々一族は先駆者として中央の政界に討って出る。
この雌伏の時を皆で支えあっていこうぞ。」

誰もが遠い将来について自分達に都合よく語っていた。
大陸も日本も人ではない者達も。
そんな先のことは誰にもわからないのに


大陸南部
百済市沖
『瞬間の欠片』号

旧大韓民国・北朝鮮からの転移移民者が住む百済市の沖に、楕円形の物体が密かに浮上していた。

その背中に乗っていた数人の者達が水平線の向こうの百済市を見据えていた。

「数日のうちにあの街に地球からの諸王が一同に介する。
その時を狙い我等アガフィア海の民がその尽くを討ち取る。」

すでに数千を越える兵達が近海に潜んでいる。
決行の日までには万を越える軍勢になろう。
海底でも活動、生存できる海の民の利点だった。
百済サミットまで一週間を切っていた。
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0092†Mango Mangüé(ワッチョイ 711c-Cu4h)2018/06/16(土) 05:13:21.702693ID:UV8yj9Gy0
日本を取り囲む反日国家の存在を考慮すれば冗談抜きでスイスやフィンランドみたいな
国民皆兵制国家への移行以外に日本国民の生存手段は存在しないんだよな。

改憲(防衛関係の法整備含む)と自衛隊増強(装備・人員)が完了するまで日米安保は破棄出来ないのは勿論、
暫定措置として民兵隊の設置(当然銃刀法は改正)を認めなきゃ冗談抜きでカルタゴやタスマニア人の二の舞だ。
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Rock54ed.

0094†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 15:39:40.246249ID:kSuJk6KgK
大陸南部
百済市
百済市は高麗国が観光や仕事で日本に来ていた南北朝鮮人15万人の居住先として南部貴族エレンハフト伯爵領を占領して出来た町だ。
他にも日本人を伴侶にもつ一家や在日と呼ばれる者達も入植してきて現在の人口は18万人となっている。
何れは元在日朝鮮人が百済市の主流になるだろうと言われている。
高麗国にとっては大陸への窓口としての拠点でもあり、新香港、ヴェルフネウディンスクの次に建設された。
この占領と百済市の建設は完全に高麗国の独断ではあるが、日本が来日中の朝鮮人の扱いに困っていたのも事実中なので、事後承認の形で後押しをした。
大陸東端に新京、西端に新香港、北端にヴェルフネウディンスク市があることに対抗してか、大陸南端の貴族領が割譲された。
資源としては金や銅の鉱山が発見されていた。
問題は高麗国には鉱山の開発能力がまるで無いところである。
韓国や北朝鮮が徴兵制を採用していただけあって、国防警備隊を比較的早く組織した。
この百済にも守備隊として1個連隊にもおよぶ隊員が常駐している。
また、サミットに合わせて本国から1個大隊の警備隊員が増援として派遣されている。
その警備隊が警備する百済港の桟橋に日本国海上自衛隊新京地方隊に所属する護衛艦『くらま』が入港した。
海上では李舜臣級駆逐艦『大祚栄』警備にあたっている。
艦名は渤海の初代王に由来している。
『くらま』から港に降り立った大陸総督秋月春種は、警備隊音楽隊による君が代の演奏の中、百済市長の白泰英と握手をかわす。
白泰英は日本で参議院議員だったこともある男で転移後にこちらに再帰化した経緯がある。
日本からの紐付きと揶揄されていて支持率は高くない。
今回は議長として役割に張り切っている。

「ようこそいらっしゃいました。
他の首脳はもう到着しております。
会議は明日からですので、今日はごゆっくりして下さい。」
「ありがとうございます。
実りある会議になるように頑張りましょう。」

当たり障りない挨拶をかわす首脳陣を尻目に、防衛問題を話し合う為に随員となっていた高橋伸彦二等陸将は港に停泊する艦隊を眺める。
新香港の江凱I型(054型)フリゲート『常州』。
ブリタニアのアンザック級フリゲート『スチュアート』。
北方のヴェルフネウディンスク市からスラヴァ級ミサイル巡洋艦『ヴァリヤーグ』。
日本から供与されたサイゴンやルソンの巡視船や巡視艇の姿も見受けられる。
この2隻は転移前に南シナ問題でベトナムやフィリピン用に発注されていた船だ。
そして、今回新たにサミットに参加するガンダーラのシヴァリク級『サヒャディ』の姿が見受けられる。
さすがに海上戦力が貧弱なスコータイ、ドン・ペドロ、アルベルトの3都市の首脳は列車で来訪している。
また、オブザーバーである王国の宰相も列車で百済まで来訪していた。

「見応えがあるな。
ちょっとした国際観艦式みたいだな。」

だが港の外には多数のプラカードやのぼりを持ったデモ隊がシュプレヒコールをあげているのには苦笑を禁じ得ない。

「ああ、今回もあれですか」

うんざりした声を出す秋月総督を秋山補佐官が宥める。

「まあ、風物詩みたいなものですから」

高橋は総督達とともに宿泊先である日本資本のホテルに案内される。
百済はまだ空港が建設中であり、町並みも接収時の地球でいう中世型の建築物が多数残っており、そのまま使用されている。
警備や防諜、或いは施設の充実ぶりは日本資本のホテルが一番安心できた。
スタッフも大半が朝鮮人を伴侶に持つ日本人ばかりだ。
秋月総督が部屋で寛いでいると秋山補佐官が入室してくる。

「閣下、お休みのところ申し訳ありません。
マレーシア代表のアブドゥル・ザヒド・ヒマディ氏がご挨拶に来ていますが。
お会いになられますか?」

予定にはないが、理由は予想が付く。
マレーシア、バングラディシュ、ブルネイ、インドネシアによる東南アジアムスリムによる都市建設のプレゼンの為の直談判である。
ほとんど決定しているようなものなのだが、ブリタニカに出し抜かれた記憶が不安を呼んでいるのだろう。

「仕方がない会おう。
ホテルの応接室を用意してたまえ。」

会議の前日から忙しいことだった。


新香港系列ホテルでは新香港の主席一行が滞在していた。
そして、林主席も不意な来客に困らされている。

「確かに我々はお嬢さんとその家族、領民を追い出して居座った負い目はある。
だが現時点で日本の方針に逆らうのは得策ではない。
第一、我々も技術を大陸に対して開放しない方針には賛成なのだよ?」

新香港はかつてのヒルダの実家の領地だった。
その後も彼女の実家であるハイライン侯爵領や彼女が預かるアンフォニー男爵領の開発での大事な商売相手なので会見は許可した。
だが技術の規制緩和を日本に提案させられる到底同意できる内容ではない。

「しかし、新香港もいつまでも日本の風下に立つ気はないのでしょう?
このままではあなた方も飲み込まれますよ、日本に。」

その懸念は確かに林主席にもある。
観光客や日本で働いていた留学生、労働者が集って作られた新香港の子供の数は多くなかった。
人口が激減することは間違いなく、その頃には日本に吸収されるかもしれない。
これは他の地球系諸都市も同様だろう。
地球系諸都市は出産を奨励して産めよ増やせよ状態だが、人口が安定するまで時間を稼ぐ必要があるのも確かだった。

「その為に大陸民に技術を施して日本に対抗させる?
その牙が我々に向かない保障はないですからな。」
「軍事的な対抗は考えていません。
私達が求めるのは純粋な技術の向上による経済力の強化と勢力の維持のみです。
ですがアンフォニーから出る石炭は新香港にも必要でしょう?
現状では需要に供給を満たすことは出来ていません。
爆砕や列車による移動はその供給を拡大するのに大きく貢献すると思うですが?」

確かにその通りではある。
だが問題はもっと現実的なものだった。
それは単純に技術がないのだ。
転移当時の日本に来ていた観光客、労働者に鉱山に関する労働者、技術者は少ない。
観光客などは基本的に富裕層だし、鉱業が盛んでない日本で働いてた労働者や技術者にその分野の人間がいないのも当然なのだ。
鉄道に関しても似たようなものだ。
僅かにいた労働者、技術者は新香港自体の開発や後進の指導の為に手が空いていない。
この事は彼女等に教える必要はない。
何より彼女等が思い違いをしている点がある。

「お嬢さん一つ勘違いをしてるようだから訂正しておこう。
今回我々は大陸の今後の方針を話し合う為に集まっている。
だが大筋は既に官僚間で既に決まっているのだよ。
我々はそれを互いに確認しあい、、承認し、共同で声明を出すに過ぎない。
政治工作をするなら半年遅かったのだよ。」

本当は前回のサミットが終わった頃から官僚達の調整が始まっている。
トップなどお飾りに過ぎない。
だが領内で辣腕を奮うワンマン貴族には受け入れられないかもしれない。
しかし、ヒルダは領内で多数の日本人顧問を登用していた女傑である。
あまり衝撃を受けたように見えなかった。
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0095†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 15:43:53.577438ID:+iAf39AAK
「わかりました。
今回は新香港からの協力は諦めることにします。
でも私の言ったことも覚えておいて下さい。
それと不躾ながら主席閣下にお願いがあるのですが」

上目遣いで訴えてくる。
林主席としても悪い気はしないが、新香港の主席として毅然として対応しなければならない。

「お願いします・・・閣下・・・」
「私にできることならなんなりと。」

ヒルダの願いを跳ね退けたのだから可能なものならかなえてやるつもりだ。
ヒルダは大事な商売相手だ。
その面子を潰すわけにはいかない。

「ではお一つ。
ヴェルフネウディンスク市市長閣下への紹介状を認(したた)めて戴きたいのです。」


別室に控えていた斉藤は今回の訪問の主旨を後藤とマイラに説明していた。

「今回の会談だけで目的が達せられることは絶対に有り得ません。
ヒルダ様は数年先を見込んでいますが、私は数十年先まで交渉は続くと思っています。」

年内には成果を得られると考えていたマイラは黙っていた。

「まあ、何かしろの供与や商業的譲歩が得られればラッキーくらいだな。
ダメ元でもやってみないことには始まらないしな。」

後藤の言葉に斉藤も頷く。

「我々の目的は日本以外の地球系都市に危機意識という種を蒔くことです。
マイラさんにも新設されるガンダーラでやって頂きます。」
「えっと、御指導よろしく頼むわね。
私のやり方は拙速すぎるとは理解したから。
でもいいの?
貴方達の行動は母国に弓をひく行為にならないの?」



百済市沖の海中
アガフィア海亀甲艦隊
旗艦『瞬間の欠片』

アガフィア海を領域とする海棲亜人は海亀の獣人である。
基本的に長寿だが獣人となった影響か、人間でいうところの三メートル以上の大きさになる個体は産まれなくなっていた。
彼等は同属である獣人化しなかった超大型海亀の甲羅を改造して艦船として利用していた。
大きさは成長度によってかわるが、旗艦である『瞬間の欠片』号は全長200メートルを越える大型海亀である。
内部には乗員三百匹が操艦している。
巨大な甲羅の上では上陸用の重甲羅海兵千匹ばかりが手足を自らの甲羅の引っ込めて待機している。
ザギモ・ザロ提督は要請した本国からの増援の少なさに落胆していた。

「本国からの増援の艦はもう少し欲しかったな。」
「これでも全艦隊の半数以上を投入しているのです。
これ以上は無理でしょう。」

艦長の言うことは最もだが今回の襲撃が上手くいけば地球系国家に乾坤一擲の打撃を与えられる。
本国からは中型の海亀が12匹が到着している。
それぞれ重甲羅海兵400匹が乗っている。

「三千ばかりの重甲羅海兵には自力で泳いで上陸してもらうことになるな。」

海底に待機している三部隊は慎重に百済市まで、海底を這って進軍していた。
彼等には苦労を掛けるのが忍びがたかった。
艦長が百済港にまで偵察に出ていた兵から報告を受けていた。

「斥候が白地に赤い丸が描かれた旗がひるがえった大型艦が寄港したのを確認しました。」
「いよいよだな。
全軍に通達せよ、明日の太陽が落ちる頃に強襲上陸を開始する。」

水中にいる限りは人間種に海の民を見付ける術はない。
この作戦は完璧なはずだった。


百済市

早朝、朝食を終えた一行は会議所となるエレンハフト城に車に乗って集まり始めた。
港は貴重な水産資源を採取する為に漁船が港から出港していく。
食料の確保は至上の命題であり、港の近海の各所に魚群探知機を仕込んだブイが仕込まれている。

「反応が大きいな。
凄い魚の群れが来てるぞ。」
「今日は大漁だな。
港の漁船をありったけだせ!!」
それは重甲羅海兵による先遣隊であったが魚群探知機では大型魚類の群れにしか見えてなかった。


海中では1隻の潜水艦が控えていた。
孫元一級潜水艦『鄭地』。
高麗王朝末期の武将鄭地に由来する。
高麗本国からサミット警備に派遣されていたこの艦は開催日までは外洋で待機していた。
日付が変わってから沖合いまで移動したところで、アガフィア海亀甲艦隊の動向を察知したのだ。
ブイから発信される魚群探知機からのデータやアクティブソナーの反応から正確な位置を割り出している。
だがこの時点では敵は軍事勢力ではなく、巨大モンスターの群れの襲来としか考えられていない。
『鄭地』は艦隊の後方から魚雷の射程距離内に捉えていた。

「隅田川の事件の二の舞はごめんだからな。
ここで仕留める!!
百済の司令部と後方の『みちしお』にも通信を送れ、平文で構わん。」

どうせ傍受できる相手などいないと転移後は雑になった部分である。
海中のモンスター退治も何度か経験した任務だ。
艦長の決断のもとに副長が指示を出していく。

「魚雷管注水、前扉開きました、用意よし。」
「・・・、発射開始!!」
「一番魚雷発射!!
続いて20秒後に四番発射!」


百済沖
孫元一級潜水艦『鄭地』から発射されたK731 533mm長魚雷「白鮫」二発が速度35kn(時速63q)の速度で、アガフィア海亀甲艦隊の最後尾の中型海亀に向かっていく。
「目標12に一発命中、二発目を目標11回避!!」
「魚雷を自爆させろ。」

直撃は無理でも生物なら爆発による衝撃波でダメージを与えられるはずだ。
だがソナー員の報告に艦内に衝撃が走る。

「目標12・・・健在、回頭しつつ・・・こちらに多数の物体を放ってきました!!」
「馬鹿な・・・、3番、5番連続発射!!
投射物体の先端で自爆させろ!!」

TNT爆薬370sの威力を目標12こと、『紅の夕月』号は魚雷の直撃を受けたわけではない。
甲羅に無数に張り付いた重甲羅海兵隊の亀人達の甲羅に直撃したのだ。
それでも爆圧は『紅の夕月』を無傷にさせない。
爆発で甲羅の一部が割れて流血している。
亀の甲羅は皮膚の一部であり、手足や首や尻尾など、甲羅の外に現れている柔らかい部分の皮膚とつながっている。
甲羅に直結した内蔵に衝撃を受けて激痛の中を我慢して回頭したのだ。
生き残った重甲羅海兵隊の兵士達が『紅の夕月』から飛び出して『鄭地』に接近戦を挑んでいく。
だが魚雷の自爆で重甲羅海兵隊の兵士達が蹴散らされていった。
だか『紅の夕月』が『鄭地』まで一キロを切る距離までに近づいている。
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0096†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 16:23:44.790048ID:Oak6wUVIK
「下げ潜舵、速度、ダウントリム一杯!!
進度2−8―0へ。」

間一髪飛び掛かる『紅の夕月』の真下に潜り込み回避した。

「回避に成功、後部から雷跡音6・・・『みちしお』のです。
目標12に当たります・・・」

『みちしお』の89式魚雷が6本が群がる重甲羅海兵を爆発するまでもなく推進力のみで蹴散らし、『紅の夕月』号に一発が命中して爆発する。
残りの五本はアガフィア海亀甲艦隊に襲い掛かり炸裂する。
甲羅で覆われてない部分に命中した『紅の夕月』号は頭部と右前足を吹き飛ばされて海底に着底して絶命した。


おやしお型潜水艦『みちしお』
「目標12の沈黙を確認。
目標7から11に魚雷着弾・・・、健在!!
被弾した目標が多数の物体を放出しながら」
反転してこちらに向かってきます。」

『みちしお』をはじめとする自衛隊の艦船もモンスターと戦うことが任務に加わってしまった。
その為に各艦に超音波魚群探知機が搭載されることになってしまった。
これまでのソナーでも同じことは出来るのだが、人間サイズの生き物が海底を無呼吸で潜水艦を襲ってくることは想定されてなかったからだ。
新規開発するより民間の魚群探知機を搭載する方が手っ取り早かったのだ。
これでは旧韓国海軍を笑えない。
だが今はそれが役にたっているのだから皮肉なものである。
そして、戦況はまだ好転していない。

「数が多い、不味いな。」

最低でも二発はぶちこまないと倒せない大型生物。
数百単位で群れをなして襲ってくる人サイズの生物。
艦長の佐々木弘毅二等海佐は魚雷の残数14本を確認して眉をひそめる。
『鄭地』も残りが12本のはずだ。
敵はまるで軍隊のような隊列を敷いて、こちらに向かってきてくれいるので対処しやすい。
しかし、バラバラにこられたら対処は不可能だった。
だが大型の生物のうち被弾してない個体はこちらを無視して陸地に向かっている。

「地上に連絡しろ。
敵がそっちに向かったと。」

通信傍受による危険性は皆無だから問題は無かった。

「少しは陸の連中に獲物を残してやらないとな。
さあ、残った敵は我々で片付けるぞ。」



百済市
エレンハフト城
各都市の首脳が招かれたエレンハフト城には舞踏会にも使える広間が存在する。
その広間に絨毯が敷かれ、テーブルにクロスが掛けられて会談が始まっていた。

「では、正式にガンダーラの建設を承認します。」

議長である白泰英百済市市長の宣言のもと会場にいる来賓が拍手で迎え、中央の壇上に暫定ガンダーラ代表プチャランカ氏の挨拶が行われている。
ガンダーラの主軸となるネパール人は約五万六千人を数える。
その数は日本政府の予想を越えて単独で都市を任せられるほどである。
2010年に起きたネパールによる国王暗殺事件ならびにマオイストとの内戦の結果、日本国内では急速にネパール人人口が増大していた結果だった。
だが地球では内陸国であったネパール人達は独自の軍事力や船舶を持っていなかった。
地上部隊に関しては若者達を鍛え直してグルカ・ライフル大隊を創設した。
少数だが日本にもグルカ旅団やPMCで活躍したネパール料理料理人達がいたのが幸いした。
だが船舶に関してはどうにもならない。
船員の経験者もほとんどいなかった。
そこで彼等が目をつけたのは同じ仏教系であるミャンマー、ブータン、インドである。
インド人二万四千人、ミャンマー人一万三千人、ブータン人が百名程度。
彼等の配偶者となった日本人を加えれば人口は九万五千人の人口となる。
インド、ミャンマー人のもつ船舶も魅力である。

「上手く話がまとまって何よりですな。」
「そうですな、アイルランドの連中もブリタニカに合流を表明してくれたのは助かりました。」

白市長に声を掛けられて秋月総督も頷く。
秋月総督はマイクを受け取りプチャランカ氏に質問する。

「現在、大陸各地ではモンスターによるスタンピードが懸念されています。
日本を初めとして各都市ではモンスターの駆除が行われていますが、ガンダーラ建設予定地での進行状況をお聞きしたい。」

プチャランカ氏は水を一口飲んで発言する。

「現在増強したグルカ・ライフル2個大隊を用いてガンダーラの地の掃討作戦を実施しております。
蜂人の集落を一つ、オークの集落を三つ駆除しました。
ジャングルや山岳での戦いなら我々に負けはありません。」

ライフルとグルカナイフで多大な成果をあげている彼等に列席者は賛辞を惜しまない。

「掃討作戦は貴都市の安全に繋がります。
我々も可能な範囲で協力は惜しまないつもりです。」

プチャランカ氏と秋月総督の握手に会場が拍手に包まれる。
ここまでは台本通りである。
プチャランカ氏とスタッフには専用の席が与えられる。
これでG10はG11となる。
ここからは各都市の問題が提示されて協力できる範囲を調整に入る。
調整の内容は前日までに決まっている。
日本からはスタンピード問題。
新香港からは不足するエネルギー問題が提示された。
これは昨夜のヒルダに言われるまでもなく林主席としても認識はしていたのだ。


ヒルダは知らないことだが、新香港は東シナ海に海底油田や天然ガス田を八ヶ所ばかり保有している。
新香港は供給する側なのだ。
確かに新香港のエネルギー需要に足りていないのは事実だが、日本に供給する分を減らせばいいだけの話である。
新香港にも足りてない事実が存在した方が日本に高値で売り安いのだ。
つまりヒルダの提案は迷惑でしかなかった。
おそらく北サハリンのヴェルフネウディンスク市長も話を持ち掛けられても同様な反応だろう。

「我が新香港としては新都市建設にあたり、必要となるエネルギーの増産の安定化に努めていきたいと思います。」

ヴェルフネウディンスク市の問題は単純だ。
東部、西部、南部と違って列車の途中駅がまったく無いのだ。
東部東端の新京から中央の王都ソフィアまで7つの駅がある。
王都から西部西端の新香港まで同じくらいの距離だがこちらは建設中のエジンバラ駅が存在する。
その東西線の距離は約四千キロに及ぶ。
南北線も似たような距離だ。
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0097†Mango Mangüé(ガラプー KK85-/v34)2018/06/16(土) 16:27:51.566586ID:rp6XSFqVK
王都ソフィアから南部南端の終着駅百済の間にはアンフォニーとケンタウルス自治伯領最大の町ウォルロックの2つ駅が存在する。
百済−新香港間にも線路が敷かれる計画で現在も敷設工事中である。
海岸沿いにルソン、サイゴン、スコータイ、アルベルト、ドン・ペドロ、ブリタニカの都市が100キロごとに存在してすで鉄道の運行が始まっている。
ここにガンダーラが加わることになる。
ところがソフィアーヴェルフネウディンスク間の約二千キロの間に途中駅が存在しない。
この問題がヴェルフネウディンスクの悩みの種であった。
ヴェルフネウディンスク市長の問題提起の最中に白泰英百済市市長のもとに国防警備隊の幹部が耳打ちしに来た。

「沖合いでモンスターの大群が発見されました。
百済市に向かっているとの交戦中の潜水艦からの報告です。」
「そうかわかった。
早く始末してくれたまえ、サミットに泥を塗りたくない。」

白市長はあまり事態を深刻に捉えていない。
それは伝えに来た幹部も同様の態度だったから深刻さが伝わらなかったせいでもある。
だが会場を見渡すと秋月総督のもとに高橋陸将が耳打ちしていて、総督は困った顔を見せている。
日本側も事態を察したと国防警備隊幹部は捉えていた。
国防警備隊幹部は会場を離れると携帯電話で警備隊司令部に命令を伝える。

「『大祚栄』、『太平洋10号』を出港させろ。
敵を港湾に近づけるな。」



百済港
護衛艦『くらま』
港の桟橋を離れて、李舜臣級駆逐艦『大祚栄』、太平洋型警備救難艦『太平洋10号』が出港していく。
『太平洋10号』は大韓民国慶尚南道群山市の海洋警察暑所属の艦であった。
だがパトロール中に転移に巻き込まれ百済の国防警備隊に組み込まれた。
『大祚栄』は転移の年には日本への寄港や近海での活動が多く、転移に巻き込まれた艦である。
百済警備の一翼を担う2隻が一度に出港すれば、同じ港にいる他国、他都市の艦の耳目を集めてしまう。
『くらま』艦長佐野光一郎二等海佐もブリッジから双眼鏡で出港する2隻を眺めて舌打ちをする。

「事前通達は無しか。
我々は『もちしお』からの連絡を受けているからいいが他艦の連中は困惑しているだろうな。」

『くらま』は『もちしお』から連絡を受けて、半舷上陸させていた乗員を呼び戻している。
さらに搭載している3機のうち1機のSH-60K哨戒ヘリコプターを飛ばして湾内の警戒にあたらせている。
もう1機はいざというときに総督達をエレンハフト城から退避させる為に待機させてある。
日本と高麗の不穏な動きを察知して、各艦から問い合わせが相次いる。
「今、忙しい!!
百済の警備隊本部に聞け!!」

そう言いつつも事態の異常さをまとめた書類を他艦に渡す為に伝令を直接走らせて向かわせていた。
百済港内でこのような警戒態勢にあたるのも問題になるかもしれない。
だが百済市の対応の甘さの巻き添えになる気は毛頭無かった。


百済沖海中
アガフィア海亀甲艦隊
旗艦『瞬間の欠片』号
艦隊を指揮するザギモ・ザロ提督のもとに各艦からの伝令がひっきりなしに泳いでくる。


UA:N05C
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06/17 23:11
「くそ、計算違いもいいところだ。
完全なる奇襲の筈が先制攻撃まで受けてしまったぞ。
まさかこちらが海中で攻撃を受けるとわな。
戦況はどうなっている。」

参謀が卓上の地図の駒を杖で指して説明を始める。

「『紅の夕月』撃沈。
他5匹が負傷しつつ、敵の海中艦を迎え討っております。
まもなく泳いで敵都市に向かっていた先鋒の重甲羅海兵の千匹隊が3隊が沿岸部に到達する頃です。」

だがそこに新たな伝令が飛び込んでくる。

「大変です!!
沿岸部の海域に大量の罠が仕掛けてあります!!
重甲羅海兵が次々とその罠に・・・」

提督はその伝令の言葉に戦慄を覚えていた。

「まさか我々の行動が敵に漏れていたのか・・・
そんなはずは・・・」

無数の亀人海兵達が網に包まれ、自らの固い甲羅をぶつけあってもがいていた。
手足や頭を甲羅に引っ込めるのが遅かった者達は仲間の甲羅にその露出した体を砕かれて悲鳴をあげている。
強固な甲羅同士がぶつかり、互いに破損したり衝撃で絶命する者もいる。
彼等を虐殺に及んだ罠は、海底に杭で固定された袋状又は垣根状の複数の魚網、定置網の仕業だった。
この海域には大小様々な定置網が設置されていて、魚群探知機で獲物の大群がやってきたことを悟った漁師達により巻き上げ作業が始まっている。
巻き上げられる魚網にその体躯を捉えられた重甲羅海兵達は次々と犠牲となっていた。

百済沖
おやしお型潜水艦『もちしお』
アガフィア海亀甲艦隊と2隻の潜水艦の戦いは続いていた。
「目標11に魚雷着弾!!
目標11圧壊しています。」
「目標11上部から離脱する物体群に4番魚雷自爆。
放出された物体が散り散りになっています。」

残りの魚雷は12本。
こちらに向かってくるのは大型生物は4匹。
大型生物と小集団を仕留めるのに必要なのは最低でも8本。
艦長の佐々木二佐はまだ自艦と敵との距離があるので余裕があった。
第一斉射が89式魚雷の有効射程距離限界ギリギリの27海里/50キロメートルから攻撃だったこともある。
だが友軍の潜水艦『鄭地』はだいぶ距離を詰められている。
何より敵小集団のものと思われる何かが外側から『鄭地』を叩いている音もソナーが捉えている。
何で叩いてるかわからないが、潜水艦に孔を穿つほどではない。

「『鄭地』からスクリュー音が減少。
『鄭地』がマスカーを起動させた模様です。」

マスカーと呼ばれる気泡発生装置により、艦周辺の水中に気泡を作られていく。
本来は音源となるスクリューを主とする音を水中で伝わりにくくする装置だ。
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0098†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/17(日) 04:01:31.564017ID:/akEGpUCK
また、艦体との海水と船体の摩擦抵抗の軽減にも使われる。
『鄭地』の艦体表面に取りついていた重甲羅海兵達が気泡に押し流されていく。
或いは摩擦が軽減して滑って『鄭地』から放り出されていく。
そのまま『鄭地』から四本の魚雷発射された。
目標9、10に魚雷が命中し、自爆した魚雷が小集団を粉砕されていく。

「残り2匹。
仕留めたのが3匹ずつなら互いの沽券も傷つけまい。
よし舵そのまま、機関逆進!
ピンガーを打て!」

戦闘中に政治まで考慮しないといけないのは佐々木二佐に取っても煩わしかった。
『もちしお』と『鄭地』は互いの獲物を追跡する。



百済沿岸
定置網が重甲羅海兵達に犠牲を強いている頃、その定置網を水揚げをしようとしていた各漁船に無線で状況が漁師達に伝わっていた。

「なんだ魚じゃないのか・・・」

魚群探知機には大量に獲物の影が映っていただけに漁師達の落胆は激しかった。

「迂闊に引き揚げると危ないってか?」
「でも亀のモンスターなんだろ?
肉は食えるし、甲羅は漢方や鼈甲になるから損はあるまい。」
「じゃあ、もう少しひっぱり回して弱らせとくか。
それと・・・、武器を出しとくか。」

国防警備隊も漁師達も亀人が獣人の一種である認識も無いし、敵が軍隊であるとも考えていない。
単なる昨今問題視されていたモンスターのスタンピードの類いだと思われている。
漁師達は普段から用意してあるモンスターを相手にする為のダイナマイトや猟銃、銛を手に持ち始めて、海面に姿を見せた重甲羅海兵達を仕留めていく。
重甲羅海兵達は固い甲羅を持っているが、海遊する為には四本の脚や頭部や尻尾を甲羅から出さないといけない。
露出した部位が攻撃を受けて負傷した者や死亡した者が続出した。
さすがに全ての重甲羅海兵が定置網に捕らわれていたわけではない。
二千匹ほどの重甲羅海兵達が、定置網を避けて海面まで浮上して突破したからだ。
定置網や漁船の包囲を抜けて胸を撫でおろしていた。
だがそんな彼等の前に高麗国国防警備隊の李舜臣級駆逐艦『大祚栄』、太平洋型警備救難艦『太平洋10号』が姿を現した。


「攻撃を開始せよ。
一匹たりとも逃がすな。」

『大祚栄』艦長の命令のもと、『大祚栄』のMk-45 127mm砲が発砲する。
ゴールキーパー 30mmCIWSも海上を舐めるように掃射を開始する。
Mk 32 3連装短魚雷発射管から6発の魚雷が発射され重甲羅海兵の密集した海域で自爆して肉片や甲羅が爆風に巻き上げられて空を飛ぶ。
『太平洋10号』もそれらを突破してきた重甲羅海兵達に40mm連装機銃、シーバルカン 20mm機銃、ブローニングM2重機関銃を撃ち込んでいく。
加えて2隻から発進したスーパーリンクス 300が2機とKa-32ヘリコプターがドアガンを用いて海面の掃射に参加する。
水柱がところ構わず数十、数百本と立ち上がる。
だがその海面の地獄を掻い潜り、アガフィア海亀甲艦隊が海中を通過していく。
海面が激しく叩かれて、爆発で海上、海中が乱れているので、上手くすり抜けられると思われた。
しかし、『大祚栄』のソナーや魚群探知機は逃がさない。
『大祚栄』のMk 41VLSが開き、対潜ミサイル紅鮫が次々と発射された。
対潜ミサイル紅鮫は上空で落下傘を開いて減速、着水した。
着水時に落下傘を切り離し、スクリューが稼動する。
その後は魚雷としてアガフィア海亀甲艦隊を追跡する。
複数の魚雷をぶつける必要がある情報が伝わっていなかったのか6本だけである。
目標を感知した誘導魚雷がアガフィア海亀甲艦隊に次々と命中するが、海中での爆発を受けながらも撃沈、或いは離脱した中型海亀はいない。
アガフィア海亀甲艦隊は遂に百済港のある湾岸に到達に成功した。


エレンハフト城
エレンハフト城の大広間ではサミットが続いていた。
現在はルソン代表ニーナ・タカヤマ市長が問題を提示していた。
ニーナ・タカヤマ市長は日本ではグラビアモデルをしていた経歴を持つ。
ルソンは23万人の在日フィリピン人やその日本人の伴侶を主な住民としている。
これらに加えて転移当時来日していたフィリピン人も共に市民生活を送っている。
問題は男女比が25対75な点である。

「圧倒的に女性が多くて労働力が足りません。
現在は協定に従って大陸民を地域から追放していますが、都市では大陸人の移民を望む声も一定数あり、当局は対応に苦慮しています。
当然のことながら軍警察の男性隊員による実働部隊が30名と少なく、治安の悪化と大陸民の都市部郊外での居住区の成立を防げていません。」

このままではスタンピード防止の為の駆除作業も遅々として進まず被害を受ける可能性が大であった。
産業も特に育っていない。
膨大な女性の大半は水商売や性風俗の経験者ばかりだ。
しかも転移から十年も立つと高齢化により需要も右肩下がりだ。
領域内に炭鉱もあるのだが開発を行うことも出来ていない。
ルソンからの希望は各都市からの資本の投入と多国籍軍の派遣であった。
サミット参加国はこれを了承するとともに地球系人類との積極的婚活を支援する声明が出された。
ルソンに割り当てられた時間が終わり会議は休憩の時間となった。
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0099†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/17(日) 04:07:32.844313ID:xnAAHSiOK
書類をまとめている秋月総督や秋山補佐官のもとに高橋陸将が『くらま』や『もちしお』から送られた戦況が書かれた報告書を差し出してくる。
ただモンスターの種類まではまだ調査中となっていた。

「海洋モンスターのスタンピードですか。
まあ、順調なようですね。
何か懸念になる点でも?」
「『鄭地』ですが魚雷の使いすぎです。
高麗に魚雷の生産能力は無いはずです。
一応、忠告をしといた方がいいと思いますが・・・」

高麗国は軍艦から潜水艦といった艦艇の建造能力を保有している。だが他の兵器の製造能力は限定されていた。
それでも本国の3島には結構なサンプルが残っていたので再現と量産を目標としていた。
最も資源の確保自体が停滞しているので日本からの輸入頼りになっているのが現状だ。

「高麗国って何を生産してるんですか?」

高橋陸将は少し考えこんで答える。

「近年は『大祚栄』と『太平洋10号』の主砲や機関砲の弾薬に集中してましたからね。
あとはK1A1 5.56mmアサルトカービン、ブローニングM2重機関銃とその弾薬。
野外炊事車、浄水セット・・・
ああ、最近はK131多用途車の再現に成功して、次はK311小型トラックだとか言ってましたね。」

比較的常識の範囲で意外であった。
ミサイルや魚雷の生産にはいまだに携わることが出来ていない。
つまり現在の在庫が全てなのであった。

「出し惜しみされてここまで、モンスターの侵入を許されても迷惑ですな。
事が終わるまで黙っていたまえ。
それと秋山君。
本国に高麗が長魚雷の輸入を打診してくるかもしれないから対応を考慮してくれるよう連絡しといてくれ。」

話し合っているうちに休憩時間は終わり、サイゴンの代表が壇上に立つがバルコニーや窓の側にいた人間達が騒ぎ始めた。
高橋陸将がバルコニーから外の光景を見渡すと、エレンハフト城から見渡せる百済の港湾に数隻の船のような物体が港に向かっていた。
高橋陸将はその物体を見て舌打ちする。

「亀甲船?
なるほど我々に対するイヤミか。」

エレンハフト城から距離はあるのだがその大きさから形は辛うじて見てとれる。
高橋陸将は大広間にいる白泰英百済市長を睨み付けた。
それは城内の日本人達に伝染していった。
険悪な雰囲気に新香港の林主席もやり過ぎだと肩を竦めていたが、謂われの無い視線の集中に白市長は身震いしていた。

「誰だあんなもの用意してた奴は!!」

自分を市長の座から引き摺り降ろそうとする反動主義者によるセレモニーと疑って掛かっていた。
百済市にいる市民は日本に観光や仕事で来ていた人間ばかりで比較的反日傾向は薄い。
だが高麗本国の人間には警戒が必要だった。
現に港で反日デモを行っていたのは本国に籍を置く市民団体が中心になっている。
再び警備隊の幹部を呼び出して命令する。

「さっさと警備隊を港に派遣して連中を排除しろ!!
このままではサミットが台無しだ。」



アガフィア海亀甲艦隊
旗艦『瞬間の欠片』号
『瞬間の欠片』号は海底を這って進んでいた。
おかげで地球系海軍にはまだ見付かっていない。
その内部で艦隊を指揮するザギモ・ザロ提督は、損害の大きさに頭を抱えていた。
百済の港にようやく中型海亀を侵入させたが、魚雷による負傷で浮上させざるを得なかった。
だが港に侵入したにも関わらず、何故か攻撃は受けていない。
港には数隻の軍船の姿が確認されているが、まるで動きを見せていなかった。

「重甲羅海兵の生き残りはどれくらいか?」

ザギモ・ザロ提督は味方の状況を整理していた参謀に問い質す。

「先鋒隊の一部が交戦中なので、詳細は不明ですが。
湾内には千と百ばかり。
そして、本船の三百は無傷です。」

作戦開始時には一万を数えた軍団が1400しか残っていない。

「撤退を命じるべきなんだろうな本当は・・・」
「ですが退路はすでにありません。」

本当は軍隊と認識されていないので、湾外に逃げ出した重甲羅海兵達は追撃を受けておらず退路はガバガバである。
ただ潜水艦による後背からの奇襲。
巧妙な網を使って待ち構えていた罠。
迎撃に出てきた軍船による激しい攻撃。

「やはり我々の作戦は漏洩していたのだろうな。」
「残念であります。
ここまで周到に待ち構えていた敵です。
我々を生かして帰す気はないでしょう。」
「だが敵の王達が参集しているというのは本当のようだ。
せめて、一太刀浴びせてくれよう。」

ザギモ・ザロ提督は右前足を静かに振って、全軍に前進を命じた。



百済港
デモ隊と亀甲船の排除を命じられた国防警備隊の隊員達はパトカーやバスを改造して造った輸送車で百済港に到着していた。
責任者の一人である隊長柳基宗大尉が、岸壁に陣取るデモ隊の一人に声を掛ける。

「おい亀甲船を早く撤去しろ。
あちこちに迷惑が掛かってるんだよ。」
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Rock54ed.

0100†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/17(日) 04:17:58.400552ID:28YSlsJ6K
声を掛けられたデモ隊の若者は困った顔で、柳大尉に海上を見るよう指を指した。
岸壁には数隻の手漕ぎボートをもとに造られたみすぼらしい亀甲船が浮かんでいた。
大きさは二メートルほど。
城から見えるサイズではない。
柳大尉はそのデザインに些か失望を覚えた。
次に若者が港湾の奥を指差す。
そこには城から見えた巨大な亀甲船が浮かんでいた。
舳先には亀甲船の特徴の竜頭もついている。

「竜頭にしては丸いか?」

だが勇壮な姿は子供の頃に妄想した『ボクの考えた最強亀甲船』そのものだった。

「そうだよ、亀甲船はああじゃないと。」
「あれ、俺らが用意したのじゃないです。」
「えっ?」

若者の言葉に驚いていると、亀甲船の舳先の竜頭がこちらを向いていて目が合ってしまった。

「敵襲!!」

叫びと同時に海中から無数の岩球とハンマーが飛んできて警備隊とデモ隊に降り注いだ


百済港
無数の岩球やハンマーが、港に陣取っていたデモ隊や取り締まりに来た国防警備隊の隊員達に別け隔てることなく降り注ぐ。
岩球は縄で括られて、ハンマー投げと同じように重甲羅海兵がその身を回転させて遠心力で飛ばされてくる。
近くにいたデモ隊の若者が押し潰されて絶命する。
その様子を見ていた柳基宗大尉は上陸してきた重甲羅海兵の振るうハンマーを地面を転がりながら攻撃を避けていた。

「くそ、調子に乗るな!!」

ホルスターから引き抜いたK5 9mm拳銃の銃弾を重甲羅海兵に叩き込む。
K5 9mm拳銃はコルト社のガバメントの後継として開発された韓国国産の自動拳銃だ。
装弾数は12発と予備が一発。
その一匹に三発の銃弾を叩き込んだ。
とても痛そうにもがいてひっくり返っている。
多少は甲羅にヒビが入っているが死んでいないようだ。
どうも起き上がれないようなので戦闘不能と判断してよいようだった。
だが続々と重甲羅海兵が上陸してくる。

「隊長!!」

隊員達がK1A1 5.56mmアサルトカービンやK7サブマシンガンで反撃を開始する。
K131多用途車の銃座からはK6 12.7mm重機関銃の発砲も始まり、上陸しようとする重甲羅海兵達は血祭りにあげられていく。
柳大尉は逃げ遅れたデモ隊の若者達を庇いつつ味方の援護を受けながらパトカーまで退避する。
そのまま小銃を受け取り、パトカーのドアを盾に発砲しながら部隊をさらに後退させて距離を取らせる。
近距離からの遭遇戦になった為にいらぬ犠牲者を出した。
今も前に出ていた隊員の頭部が投擲されたハンマーで弾き飛ばされている。
パトカーも岩球にフロントガラスを粉砕されて車内に入り込まれて動かせなくなった。
敵の投擲武器の到達距離を脱するのに指示をだした。
銃火器による射程距離はこちらが上なのだ。
徐々に味方の一方的な攻勢になっていく。
だが重甲羅海兵達も負傷や戦死する前に前後の足や頭を引っ込めて仲間同士で積み上がっていく。

「防壁?」

重厚な甲羅と内部の肉体が防壁となって銃弾を防ぎ始める。
甲羅の傾斜も多少の避弾経始の効果があるようだ。
防壁の向こうから岩球やハンマーが飛んできてパトカーの屋根が押し潰される。
さらに海上にいた中型海亀が多少は戸惑った顔をしながら、前足のヒレで港に停泊していた亀甲船を弾き飛ばしてパトカーを盾に陣取っていた警備隊員達にぶつけてきた。
他の中型海亀もヒレで海水を掻き上げて警備隊員達に浴びせてくる。
海水の重さで流される者や制服が海水に濡れて動きが鈍る者が続出した。

「後退だ、後退しろ!!」

港の戦いは国防警備隊が不利なまま警備隊の増援や上陸してくる重甲羅海兵の逐次投入で戦場は広がっていく。


エレンハフト城
港湾の戦闘による銃声はエレンハフト城まで聞こえてきている。
高橋陸将はバルコニーから日本の総督府一行が陣取る座席に戻って来る。

「突破されるかもしれません。
『くらま』に援護させるべきかもしれません。
城からの脱出も考えましたがここは城塞ですからもう少し様子をみた方がいいかもしれません。」

秋月総督は渋い顔をする。
ここは高麗国の領域だ。
相手国からの要請無しに軍事行動は慎むべきである。
『みちしお』の戦闘に関しては海中でのことで表沙汰になることは本来なかった。
大陸における領海に関する取り決めが曖昧なままだったこともある。

「『くらま』は戦闘の用意は出来てますね?
敵が防衛線を突破するか、『くらま』に攻撃を仕掛けるまでは待機を命じます。
今はG11が一丸となって困難に立ち向かうというポーズを大陸側に見せる必要もあります。」

今はサイゴンの市長ロイ・スアン・ソンが演説している。
元々は在日ベトナム大使館の公邸料理人だった男で転移当時の混乱する職員達をまとめ上げる指導力を発揮した。
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0101†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/17(日) 04:21:52.462955ID:wQEb2vTlK
在日・訪日ベトナム人達の指導的立場となり、大陸に建設されたサイゴンの市長に選出された経緯のある人物だ。
サイゴン市の人口は約16万人。
出稼ぎ労働者と高等留学生が多数を占めている為に工場の誘致が積極的に行われている。
金、銀、鉛、亜鉛の鉱山も開発が進んでおり独立都市の中では新香港に次ぐ安定性を保っている。
特に問題となる点もないので国際貢献を高らかに謳い、大陸での影響力の拡大を狙っている。
だが市民の避難を促すサイレンの音まで聞こえてくると、出席者達の視線がロイ市長に突き刺さってくる。
たまたま壇上に上がっていた為に各都市の代表達はロイ市長に最初の一言を言わせるよう視線で圧力を掛けてきているのだ。
咳払いをして気を取り直したロイ市長は白市長に声をかける。

「白市長、そろそろタイムミリットです。
百済市に存在するサミット諸国の戦力をモンスター討伐に活用する許可をお願いしたい。」
「しかし、我が都市の主権が・・・」

林市長はいまだに躊躇している。

「ですが先程サミット諸国は多国籍軍を動員してモンスターのスタンピード事案に対処する協定にサインをしたばかりです。
些か準備不足で唐突な出撃となりますが、あくまで協定の範囲内。
ご許可頂けますな?」

まだ躊躇う顔をしていた白市長だが、観念した顔になり静かに語りだした。

「わかりました。
スタンピード化したモンスター討伐の為に、百済市は多国籍軍の出動を要請します・・・」
「承知した。」

そう答えた秋月総督は立ち上がり、高橋陸将に頷く。
高橋陸将が退出して、日本代表団の控え室に向かう。

「まあ、しょうがありませんな。」

新香港の林主席も隣に座っていた常峰輝武警少将に指示を出す。

他の都市の代表達も各々の武官と話し合いを始めたり、合図だけ送って武官を退出させたりしている。
エレンハフト城の城壁には最小限の護衛を残して武官達が銃を構えて陣取っていく。
すでに国防警備隊の防衛線を突破してきた少数の重甲羅海兵達に発砲している。
すでに戦闘は市街戦にまで発展しているようだ。
その音を聞きながら溜め息を吐く男がいた。

「なあデウラー団長。
我らも兵士を差し向けた方がよいのではないか?」

大陸に名目上君臨する唯一国王の冠を戴く男はこの会議中終始空気扱いであった。
先の皇帝である兄を裏切った男に貴族達からの支持も薄い。

「むしろ陛下。
この場であの地球人どもを討ち取るというのは如何でしょう。
今なら容易く我らだけでできます。」

禿頭の近衛騎士団団長デウラーは剣の柄に手を掛ける。
エレンハフト城には30騎の近衛騎士が国王に付き従っているだけだが、城外には200名の騎士団と3000の兵士が待機しているのだ。

「まだその時ではない。
今は控えよ。」
「はっ・・・」

静観を命じられてデウラー団長は内心胸を撫で下ろしていた。
確かに今はまだその時ではなかった。
今は・・・


百済港
港での戦いは続いていた。
柳大尉は部下達を率いて倉庫街の路地にバリケードをひいて防衛戦を続けている。
市民にも幾ばかりか犠牲者が出ているようだ。
戦闘自体は別段に苦境に陥っているわけではない。
単に味方が分断され、弾薬も残り少なく、市民が殺されてるだけだ。

「くそ、最悪だな。」

事態をいくらポジティブに考えてみてもネガティブに陥っていく。
中型海亀も掻き上げていた海水の範囲から国防警備隊の姿が消えると上陸を始めようとしていた。



海上自衛隊
護衛艦『くらま』

「現時点を持って、サミット派遣艦隊はモンスター討伐の任にあたる。」

進水から48年もたつ老朽艦である『くらま』だが、度重なる近代化改修や艦齢延長工事の結果、いまだに現役として動くことが出来る。

「CICに伝達。
主砲搭照準に固定。」

それを証明するように73式54口径5インチ単装速射砲2門が目標に設定した中型海亀に照準を合わせている。
あいにく対艦ミサイルは再生産の難しさから使用には多重の規制が掛けられている。
主砲と魚雷で仕留めるしかない。

「CIC了解。
諸元入力、照準を固定、完全自動追尾!」
「CIC了解。
諸元入力、照準を固定、完全自動追尾!」
「『常州』、『スチュアート』から砲撃準備完了の連絡が来ました。」
「『ヴァリヤーグ』、『サヒャディ』、準備完了!!」
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0102†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/17(日) 04:24:45.692958ID:DGDIyHghK
港の桟橋に停泊していた5隻の艦の主砲が各々の目標を捉える。
最も老朽艦である『くらま』が艦隊の指揮を執ることを艦長の佐野二佐は皮肉と思いつつ号令を発する。

「各艦、砲撃を開始せよ・・撃ちー方始めー!!」

五隻の軍艦による発砲はそれぞれ目標とした中型海亀に命中する。
だが硬い甲羅に覆われた中型海亀はダメージを受けつつも一発や2発の砲弾では仕留めきれない。
だが五発、7発と命中するととともに中型海亀達は絶叫をあげつつ傷つき、倒されていく。
各艦は桟橋から離れて湾から移動しつつ砲撃を続ける。

「ソナーに感。
でかい、今までで一番デカイのが浮上して来ます。」
「まだいたのか!!
アスロック1番、2番発射!!」

74式アスロック8連装発射機から短魚雷が2発発射されて海中の大型目標に命中させるが浮上は止まらない。

「増速、この場から離れろ!!」
港ではマニラとサイゴンの巡視船が陸地に沿って航行をしていた。
彼等には日本からいわみ型巡視船が供与されている。
サイゴンの巡視船『CSB−8007』、ルソンの巡視船『コロン』の2隻が30mm単装機銃を港にいる重甲羅海兵に向けて発砲する。
港から岩球やハンマーが飛んで来るが、両船はものともせずに投擲場所に向けて発砲して粉砕する。
総崩れになった重甲羅海兵達を柳大尉達が掃討していく。

艦隊から発艦したSH-60K3機、Z-9C対潜ヘリコプター1機、SH-2 哨戒ヘリコプタースーパーシースプライト1機、Ka-27(カモフ27)が1機、HAL ドゥルーブ2機が空中からドアガンや機関砲で重甲羅海兵の掃討戦に参加していく。
陸上の戦いは終息しつつあった。
海上の中型海亀『根深き樹』がもう一匹が残っている。
他の中型海亀が盾になる形で砲撃の死角となっていたからだ。
撃沈された中型海亀の乗員や重甲羅海兵の生き残りを救助しつつ海上に現れた『瞬間の欠片』号に全てを任せて海中に潜行して港湾から脱出をはかる。
艦隊やヘリコプター部隊は『根深き樹』を相手にする余裕はなかった。
だが砲撃音が聞こえている。
柳大尉が奪還した岸壁からみた光景に絶句する。
それは海上を二足歩行する超巨大大亀『瞬間の欠片』号だった。

艦隊は攻撃を続けているが、尋常にない硬さに思うように効果をあげていない。

「か、怪獣?」

その光景はエレンハフト城からも見ることが出来た。
このままでは艦隊や地上の部隊、百済市に致命的な損害が出てしまう。
秋月総督はバルコニーでその光景を見ていた。

「『くらま』には無理か?」
「申し訳ありません。
我々では手詰まりです。」

『くらま』には対艦ミサイルは装備されていない。

「ならば出来る艦にやって頂きましょう。」

北サハリン海軍所属のミサイル巡洋艦『ヴァリヤーグ』に対艦ミサイルに対する規制が解除の命令が下された。
艦長のキリール・イグナチェフ大佐は命令を受諾すると部下達にも指示を下す。
『ヴァリヤーグ』をはじめとする各艦が『瞬間の欠片』号から距離を取ると号令を発する。

「撃て!!」

『ヴァリヤーグ』が搭載するP−1000がSSM連装発射筒から発射された艦対艦ミサイル、バルカンが短距離から加速して『瞬間の欠片』号に命中する。
近距離の為にマッハ2,5にまでは到達しなかったが『瞬間の欠片』号の背中の甲羅を貫き内部から爆発するのは一瞬の出来事のように思えた。
『ヴァリヤーグ』に命令が下されたのは対艦ミサイルの生産が可能だという現実的な話だった。
イグナチェフ大佐は双眼鏡で『瞬間の欠片』号が倒れ伏し、巨大な水柱が上がるのを見て感慨深げに呟いた。

「まあ、所詮は生物だな、一撃で死にやがった。」


エレンハフト城では列席者達から歓声が上がっていた。
白市長は椅子に体を預けて安堵の表情を見せている。
秋月総督は秋山補佐官から小声で呟かれる。

「今回の襲撃者達はモンスターではありません。
亀の獣人です。
捕縛した亀人からの証言によるとこれは軍事行動です。」
「また、レムリア連合皇国絡みですか?」
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0103†Mango Mangüé(ガラプー KK6d-/v34)2018/06/17(日) 04:27:04.095614ID:2air8Bw/K
「確証はまだありませんが時期に判明するでしょう。
近海で静観していた北サハリンの潜水艦が撤退中の巨大海亀を追跡中です。」

今まででほとんど情報を得ることが出来なかった海棲亜人の根拠地の存在が確認出来るかもしれない。
だが続く情報が朗報に冷水を浴びせてきた。
白市長が慌てて秋月の元に駆け込んでくる。

「そ、総督閣下・・・、高麗本国で『珍島犬1』が発令されました。
本国が直接攻撃を受けたのです。
日本政府に援軍の要請をお願いしたい!!」

百済市内の戦いもいまだに続いていたが、サミットはようやく初日を終わろうとしていた。
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0105†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 12:48:22.749216ID:R9ySUlZEK
高麗国巨済島
首都巨済市
国防警備隊本部
事の起こりは漁師達が海上に城が建っているとの通報から始まっている。
そして、高速で移動しているという。
城が海上でである。
警備隊はこの通報を悪戯或いは、誤報として処理した。
最初の襲撃は新巨済大橋跡で行われた。
新巨済大橋は転移前は巨済市と統営市を結ぶ、国道14号線の橋である。
転移と同時に橋の真ん中が分断されて消滅し、走行中の車両や徒歩の人間が海に落ちて大惨事を招いていた。
その後は新巨済大橋は閉鎖されて、その橋脚の付近は釣り人の釣り場となっている。
そんな釣り人が目撃したのは巨大な建築物が海上を移動しているところだった。
巨大な岩山をくり貫いて作られたような城のような建築物が3つばかり建っている。
それが崩壊した橋の先端部で、野次馬や釣り客の目の前でさらなる異様な動きを見せる。

「飛んだ?」

海中から島のような陸地ごと建築物が飛び上がった。
そのまま新巨済大橋の上に着地し、滑りながら欄干を破壊しつつ陸地を目指して移動している。
さすがに釣り人達はその物体を一目見て正体を看破した。
下から見上げたら一目瞭然だった。

「エイ?」
「馬鹿言え、200メートルはあるぞ!?」
「早く逃げろ、橋が!!」

幅も100メートルはあった。
その背中には岩場がそのまま付着して島のようになっている。
当然、そんな重量物に新巨済大橋が耐えられる筈もなく、崩壊した大橋の破片が逃げ惑う釣り人や野次馬達を押し潰していく。
巨大なエイは新巨済大橋の道路から続く、島内の国道14号線の最初の交差点まで車両や家屋を凪ぎ払いながら滑り込んで停止した。
すぐに国防警備隊のパトカーが、巨大なエイこと『荒波を丸く納めて日々豊漁』号の周辺を固めるように展開する。
だが『荒波を丸く納めて日々豊漁』号の背中の城塞の門が開いた。
そこには数千の武装した戦士達が整列している。
城塞の搭の物見台から船長イケバセ・グレが号令を掛ける。

「蹂躙せよ!!」

城門から数千の戦士が人口21万人を誇る巨済島への進軍を開始する。
10本の脚の内の獲物を瞬時に捕える時に使う特に長い2本の「触腕」は腕に進化し、二本の脚はそのまま大地に立てる足となっている。
触手には吸盤が多数付いており、吸盤の内部には角質で出来た歯が付いている。
外套膜と呼ばれる内臓を覆う体壁は胴体となっている。
それがシュヴァルノヴナ海を領海とする種族の正体であるイカの獣人だ。
それは皮肉にもサミットの会場たる百済市が襲われたのとほぼ同時刻だった。
巨済島には国防警備隊が約二千名ほど配備されていたが、このうち600名ほどがサミット警備の為に留守にしている。
首都の海を守る李舜臣級駆逐艦『大祚栄』や孫元一級潜水艦『鄭地』がサミット警備の為に出払っていたのも大きい。
首都襲撃という惨事の為に、首都防衛に携わる第一連隊に召集が掛けられた。
完全装備で出動するまでの間は所轄の警備隊隊員が拳銃と警棒で防戦に努めていた。
だが軟体の体は多少の打撃やパトカーによる轢き逃げ攻撃の効果を弱めていた。
さらに貝殻による両手盾で銃弾をしのぎ、触手に持たせた三本の銛で一人ずつ仕留めていく。
また、近距離の警備隊員には粘着力のある墨を吐いて浴びせて、動きを封じて仕留めていく。
複数ある触手で締め上げられたり投げ飛ばされている者もいる。
だがさすがに第一連隊の半数ほどで編成された先発隊が到着し、小銃や機関銃で応戦を始めると劣勢を押し返し始める。
それでもイカの兵士達の数が多く膠着状態となっていった。
浜辺からは更に千匹ほどのイカ人達が上陸してくるが、状況は動かない。

「ここは持ち堪えられそうだな。」

連隊長の伊太鉉大佐は一息つく。
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0106†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 12:51:44.658000ID:8r0J4A2bK
敵の数は味方の5倍以上だが、完全に抑え込んでいる。
心配の種は弾薬の残弾だ。
生産が思うようにいかない弾薬の為に連射や無駄打ちは厳に戒めている。

「巨済大橋跡近辺に敵勢力が上陸、数は約千!!」

巨済大橋は転移前は朝鮮半島南部の固城半島との間に結ばれていた橋だ。
ここもやはり転移時に崩壊して惨事の舞台となっている。
問題は100万トン・ドックをもつ玉浦造船工業団地が長承浦邑に存在し、人口が集中している地域である点だ。
国防警備隊本部もこの地区にある。
そこに附属する駐屯地には、まだ召集中で出動出来ていない中隊が残っていたはずなので対応を任せれば問題はない
本部の要員も残っている。
その上、民間の武装警備員が200名ほどが玉浦造船所に配備されているので、そちらに動員を要請すればいい。

「玉浦造船所、外島にも敵が上陸、各々約千の敵を確認!!」

外島は巨済島の東海岸の沖に浮かぶ島で、同観光植物園は日本でも人気を泊した韓流ドラマのの最終回の撮影地として有名である。
こちらにはろくな戦力は配備されていない。
島が個人所有なので致しかなかった。
玉浦造船所は地球でも世界最大と言われた造船所だ。
現在では資源不足で、大半のドックが休止状態だがここが破壊される事態は避けねばならない。

「海洋警察署の署員を玉浦造船所の防衛にまわせ。
それと第5中隊は市民の避難と大統領官邸の警備に専念していろ。」

大統領官邸は巨済島の最北端にある島津義弘が築城したと言われる永登浦城跡とその麓にある永邑城跡を利用して建築されている。
要害と言ってよく官邸警備隊も配備されている。
多少の兵力では落とせないし、山頂のヘリポートから脱出は可能だ。
残った戦力である第六中隊は各所に補給を運ぶ為に動員されている。
これで手駒は尽きた。

「日本に増援を要請しろ。」

巨済は高麗国の首都。
決して落とされてはならなかった。



『荒波を丸く納めて日々豊漁』号の物見台から、イケバセ・グレ船長は巨済島に攻めこんだ自軍の指揮を執っていた。

「すでに島内に投入した兵は六千になる。
日本の援軍を阻止する為に海中に潜ませているのが三千ほど。
もう1隊は何をしている?」

予定通りに上陸していない部隊があり、イケバセ・グレ船長は首を傾げていた。

「海中に仕掛けられていた網に引っ掛かり、身動きが取れなくなった者が多数出たと伝令が届いています。」

船長イケバセ・グレは頭痛する思いだった。
彼はイカが漁師達の獲物であることを知っているので、魚網の存在は承知している。
だが千匹ものイカ人の行く手を阻む魚網の規模については理解が追い付かなかった。

「もう一押しなのだがな・・・
見ろあの造船所を!!
艦隊でも造れそうな規模のものがこんな離島にある。
おそらくはここは日本の戦略上の要所に違いない。
不釣り合いな規模の守備隊もいるしな。」

イケバセ・グレの確信の込めた言葉に部下達も頷いている。

「他の島に侵攻した部隊に伝令を出せ。
余力の戦力があればこの島に集結させよとな。」


南海市
南海市は転移後に市に昇格した高麗国の自治体である。
人口は約四万人。
主に南海と昌善という二つの島から成り立つ。
鳥島、虎島、櫓島など有人島が3つ、無人島が65ほど存在する。
守備隊は2個中隊ほどの戦力を有していたが、現在は住民とともに山岳部に敗走したか、市街地で自警団とともに抵抗を続けている。
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0107†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 12:56:43.885612ID:gzKzOMgjK
旧南海警察署の庁舎を利用した守備隊本部はすでに焼け落ちている。
数ある島に隊員を分散させて勤務にあたらせていたのも敗因なのだが、これは仕方がない。


『みんなが願う安全漁業』号船長ウコビズ・ゲロは、西北部の蟾津江の河口に形成された巨大砂洲に巨大なエイと背中に乗せた城を上陸させて指揮に当たっていた。

「他の有人島は全て制圧した。
住民は予定通りに一ヶ所に集めておけ。
抵抗すれば殺しても構わない。
さあ、残るはこの島だけだ。」

イカ人達の侵攻は順調だったが、それだけに内陸部に攻めこんだ同族が体が乾いて動けなくなっている事態に困惑している。
年配のイカ人なら経験で知っているのだが、若手の兵士達は加減が判らずに被害が続出したのだ。
やはり海棲亜人に地上戦は向いていないと思い知らされる。
だが兵力の差で戦局は覆らない。

「船長、敵艦です!!
また、来ました!!」

島を周回している高麗国の仁川級フリゲート『大邱』である。
転移前に巨済島の玉浦造船所で起工していた艦だ。
翌年の6月に進水する予定だったが、転移の影響で就役が十年遅れた艦だ。
就役して半年ほどだが、Mk 45 5インチ砲でイカ人の軍勢を見つけては砲撃し、民間人を救出しては確保した漁船で脱出させている。
イカ人達は今のところ対抗する術を持たない。
数十匹のイカ人が乗り込もうと突撃していくが、あまりの早さに追い付けていない。
『大邱』の正面に陣取り、迎え討った部隊はあっさりと正面から蹴散らされた。
地上にいたイカ人達は、『大邱』が接近する度に建物に身を隠してやり過ごしている。
しかし、『みんなが願う安全漁業』号だけは回避するわけにもいかないので、砲撃に堪え忍んでいた。

「砲弾がいつまでも続くわけがない。
まあ、この島も明日には墜ちるだろう。
ゆるりと殲滅してやろう。」

今も『大邱』の周囲の海中を千匹ものイカ人が追跡したり、定置網に引っ掛かっているのだ。
封鎖は完璧のはずだった。


珍島
珍島市
珍島市の人口は約3万5千人。
本島の他に有人島45、無人島185の計230の島々で構成されている。
転移に伴い珍島郡から珍島市に昇格した。
この島々でもやはりイカ人の襲撃を受けていた。
例によって定置網と付属の島々の制圧。
日本からの援軍を断つ為の部隊を省いて、五千の大群が本島に迫っていた。
だが珍島の守備隊は事前に巨済や南海が襲撃された連絡を受けていた。
その為、海上を疾走する城が目撃されたと同時に上陸予想地点に全戦力を集結させ、住民には避難命令を出していた。
珍島東南部の回洞里と沖の茅島との間で、大潮の日に海割れの現象が起きて砂州が現れる場所が存在する。
『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号は、そのまだ砂州が現れていない浅瀬に乗り上げて、上陸の準備を始める。
だがパトロール任務中で、珍島近海を航行中だった警備救難艦『太平洋9号』が駆けつけて、座礁するギリギリまで接近する。
『太平洋9号』から発艦したKa-32ヘリコプターがイカ人の兵達が集結する場所を確認する。
その指示のもとに『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号の背中に鎮座する城の城壁に、『太平洋9号』の40mm連装機銃とシーバルカン 20mm機銃から放たれた弾丸が炸裂する。
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0108†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 13:00:58.887253ID:P56COM3SK
機銃弾の前には岩石で出来た城壁はたちまち穴だらけになり、集結していたイカ人達の兵達は薙ぎ倒されていく。

「せ、船長!?」

部下達の悲鳴を聞いたエサブゼ・ゴワ船長は直ちに号令を下す。

「門を開いて、島に攻め込め!!
このままでは狙い撃ちにされるぞ。
海中にいる部隊にも上陸とあの船を直接狙う命令を出せ!!」

開門された門からイカ人の軍勢が島に雪崩れ込もうとしたが、陸地には国防警備隊守備隊1個中隊が総出で車両を盾に陣取っている。

「撃て!!
ここから一歩も通すな!!」

本部要員や自警団も攻撃に加わり、イカ人の軍勢の死体が積み重なっていく。
だが海中から上陸してきた軍勢が防衛ラインの各所に突入してきて突き崩されていく。

「海岸の敵に直接攻撃を仕掛ける。」

『太平洋9号』機銃の銃口が海岸に向けられるが、触手の吸盤を利用して、イカ人達が船体の壁をよじ登ってくるのが確認された。
『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号を直接攻撃する為に低速で航行していたのが裏目に出たのだ。
乗員達は船縁に出て、艦内に備え付けられた小銃や拳銃でイカ人達を仕留めていく。
ある乗員は斧を振り回して触手を切り落とすという奮闘までしてみせた。
しかし、機銃の銃弾も底を尽き、『太平洋9号』も沖まで後退する。
守備隊も海岸線を放棄して後退を余儀無くされた。
一方でイカ人達も多大な出血を強いられて、この日の戦闘を終えることになる。


大陸南部
百済市
エレンハフト城
高麗本国の騒ぎをよそにサミット二日目は当然のように実施されていた。
議長である白市長の顔色はよくない。
ほとんど不眠不休で、本国情勢や百済市から出来る対策の検討、苦情の処理に携わっていたからだ。
大陸南部である百済市から高麗本国までは、船舶ではどうしても十日は掛かる。
ましてや昨日の亀人との戦闘による死傷者や捕虜の管理等に人員が割かれて、援軍の為の隊員を確保出来ていない。
亀人達とも言葉が通じないので、管理が苦労している。
会場も些か生臭い臭いが漂っていて、顔をしかめている出席者もいる。
警護の者達や係りの者達が消臭剤を振り撒いている中、サミット二日目が始まる。

「よって、唯一の策は日本本国からの援軍ということになります。」

秋月総督は高橋陸将と小声で相談しながら答える。

「我が国本国でも現在は海岸線に自衛隊、警察、海上保安庁の各部隊を警戒配備中でありますが、援軍の為の戦力を抽出中であります。
本国からの回答をもう少しお待ちください。」

日本本国では海沿いの各都道府県に各普通科連隊や各方面隊所属の即応連隊が動員されている。

「現在陸上自衛隊は三個旅団を派兵しており、隊員に余裕がありません。」

編成途上の部隊は幾つかあるが、戦地への派遣など論外のレベルだ。
部隊を運ぶ艦艇の問題もある。
日本本国には現在、護衛艦隊の艦艇の半数が存在しない。
残っている艦も各護衛隊から最低1隻はドック入りしている。
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0109†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 13:05:18.853098ID:qYswb86nK
編成途上の部隊は幾つかあるが、戦地への派遣など論外のレベルだ。
部隊を運ぶ艦艇の問題もある。
日本本国には現在、護衛艦隊の艦艇の半数が存在しない。
残っている艦も各護衛隊から最低1隻はドック入りしている。
そして、稼働可能な艦艇も沿岸の警備に手一杯な状況だ。

「ただし、航空自衛隊による航空支援は直ちに実施されます。
現在、築城基地の航空隊が出撃した頃です。」

日本も転移以来日本人口が600万人減少し、215万人が大陸に移民している。
国内の対応と大陸への航路の確保が最優先であれば、現時点での支援はこれが限界のはずだった。


対馬海峡
対馬の南上空をF−2戦闘機6機が飛行していた。
福岡県築城基地から出撃した第6飛行隊に所属する機体で、それぞれMk.82通常爆弾を12基搭載している。
これほどの規模で出撃したのはいつ以来だったか、編隊長の河井健次郎3等空佐は思いに耽る。
転移前には盛んだった近隣諸国へのスクランブルも、転移後は皆無となった。
貴重な航空燃料の節約の為に哨戒活動も最低限となっている。
今の航空自衛隊は間違いなく往時の練度を維持できていない。
今回の任務は貴重な実戦を経験できる機会と言えた。
間もなく高麗国領空に到達すると二機編隊ずつに別れる。
巨斉島、南海島、珍島を襲撃した敵の巨大生物にMk.82通常爆弾をお見舞いしてやるのが任務だ。

「L(リマ)ポイント通過、戦闘空域、全機スプレッド(散開)!」

高麗国の領空に入ればどの島も数分で到着する。

『ツー』
『スリー』
『フォア』
『ブラボー、ワン』
『ブラボー、ツー』

編隊を組む五機の部下から応答があり、ツーマンセルで目標とする島に向けて散開する。
対空攻撃の心配はないので、巡航高度から高度を下げて超低空飛行に切り換える。
目標の位置については、高麗国の国防警備隊から逐一報告が届いている。


珍島上空
「対地攻撃用意・・・目標まで20、17、8、1、投下!!」

珍島に陣取る『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号に、ブラボーツーから投下された12発のMk.82通常爆弾が降り注ぎ、大爆発を起こす。
Mk.82通常爆弾は一発あたりの爆発の効果範囲が300メートルに及ぶ。
硬い岩盤に覆われた『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号であるが、爆撃を受けて岩盤ごと背中が大きく抉られる。
岩盤で造られた城も城壁も跡形もなく吹き飛んでいた。
『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号の城内や周辺に展開していたイカ人達もたちまちスルメや焼きイカになっていく。
エサブゼ・ゴワ船長もすでに焦げすぎた焼きイカとなっていた。
だがこの攻撃は思わぬ副産物を産み出していた。
『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号の体内にはその巨体に相応しく、大量のアンモニアが溜め込まれていた。
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0110†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 13:09:29.606524ID:Y43aPDB7K
気化したアンモニアが青い炎をあちこちで巻き起こしている。
そのまま消し炭になってくれれば問題はないのだが、引火したアンモニアから発生したアンモニアガスが現場に混乱を招いていた。
大量のアンモニアは或いは地球にいたエイよりもその身に多く溜め込んでいたのかもしれない。

「状況、ガス!!
後退・・・いや、避難しろ!!
マスクを早く装着しろ!!」

有害な一酸化窒素ガスが発生していて、交戦していた国防警備隊が後退している。
すでに隊員の中には目、喉、鼻が刺激されて、痛みを訴えている者もいる。
倒れた隊員はまだ無事な隊員やガスマスクを装着した隊員が引き摺って後退していく。
このまま留まれば呼吸の痙攣を引き起こし、呼吸麻痺で死に至るだろう。
ガスの種類は独特の臭いから直ぐに判明した。
アンモニアガスは水溶性が高いので、出動した消防車による放水が行われた。
海上からも警備救難艦『太平洋9号』からも、毎時1,200t放水可能な放水銃塔2基から放水が行われている。
生き残ったイカ人達は人間よりは抵抗力はあるらしい。
それでも一旦は海に飛び込むか、自らの墨を互いに掛け合って、アンモニアガスを洗い流して対処している。
F−2戦闘機のブラボーワンは、地上の国防警備隊からの要請のもと、残ったイカ人達の陣地を空爆していく。
主力を失った珍島のイカ人達は、六割近くの死傷者を出して各所に立て籠った。
国防警備隊の珍島守備隊はいまだに数の上では劣勢であり、これを狩り出す戦力に不足していた。
アンモニアガスの危険性は、各島の国防警備隊や第6飛行隊各機に伝えられていった。


南海島
アンモニアガスの危険性は、第6飛行隊のF−2戦闘機2機にも伝えられたが時既に遅く、Mk.82通常爆弾が投下された後だった。
その為に蟾津江の河口の巨大砂洲に陣取っていた『みんなが願う安全漁業』号は、よい標的としと船長ウコビズ・ゲロごと、Mk.82通常爆弾による爆撃により粉砕されていた。
だがすでに国防警備隊の守備隊は敗走しており、町の大半はイカ人達の手に落ちている。
アンモニアガスも蟾津江の水が大半を吸収してくれていた。
だが多くのイカ人が街中に潜んでおり、多数の住民や捕虜となった国防警備隊員が拘束されていた。
市街地を空爆するわけにもいかず、F−2戦闘機は幾つかの陣地を空爆するだけで帰投を余儀なくされていた。
島を周回しながら戦闘を続けていた仁川級フリゲート『大邱』も弾薬が不足し始めていて、島を脱出した船団の護衛に徹している。
なお、南海島と周辺の島々には三千のイカ人の軍勢が立て籠っていた。
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0111†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 13:13:02.513639ID:hRB85tMXK
巨斉島
すでに市街地近郊に上陸していた『荒波を丸く納めて日々豊漁』号に空自のF−2戦闘機は空爆を封じられていた。
新巨斉大橋の破片も背中に取り込み、防御力を増している。
アンモニアガスの影響もすでに伝わっていてどうにもならない。
河井二佐は目標の変更或いは強行を司令部に打診している。
だが珍島や南海島と違い人口が十倍以上のこの島でアンモニアガスを発生すれば被害の規模は比較にならない。
イカ人の軍勢は市街地に入り込み、国防警備隊の守備隊と市街戦に突入している。
新巨済大橋、巨済大橋、国防警備隊本部、玉浦造船所、外島、海洋警察署でも交戦が行われている。

「随分、入り込まれたな。
F−2には外島への空爆を要請しろ。
あそこなら被害は少ない。」

第一連隊隊長の連隊長の伊太鉉大佐の臨時司令部にも何度もイカ人達が侵入して交戦している。
大統領官邸でも散発的に戦闘が行われていた。
要所のほとんどはいまだに抵抗を続けている。
大統領から施設への被害を最低限に納めるよう指示が出てなければ空爆で形勢が決まっていたところだ。
決め手に欠けるのはイカ人達も同様だった。
イケバセ・グレ船長は上陸して、本陣を占拠したビルに構えている。
ビルの窓から上空を飛ぶF−2を睨みつける。

「隣接する島にいた部隊が、あの飛行機械の攻撃を受けて八割に至る損害とのことです。」

さきほど大きな爆発音が聞こえたので、確認に行かせていた部下が答えてくれる。

「あれは厄介だな。
だが積極的には仕掛けて来ないようだ。
今のうちにこの島の制圧を急ぐぞ。」

海路の封鎖に使っていた三千の兵のうち、千を島に上陸させて攻撃に加えている。
兵の損害も甚大だが、制圧は時間の問題と思えた。
他の島を攻めた同胞も上手く攻略出来ていることを海と生命の神に祈っていた。
巨斉島とその近辺には尚も七千にも及ぶイカ人の軍勢が残っていた。


百済市
エレンハフト城
サミット二日目は、高麗国支援の後はドン・ペドロ市長カルロス・リマが演説している。
日本で自動車会社に勤務していたビジネスマンで、転移後は地球系所都市に電力を供給するドン・ペドロ発電所の誘致と建設に尽力した。
ドン・ペドロ市は在日ブラジル人と来日の旅行者。
ブラジルの配偶者となった日本人を含む20万の人口を誇る都市である。
在日ブラジル人は日本で製造業に携わっていた者が多くい。
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0112†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 13:18:58.974017ID:Dq+DPVY8K
豊富な電力を生かして中小の工場が多数建設され、地球系都市に機械部品を供給する拠点となっている。
徴兵で兵役経験者も多く、約600名の軍警察が治安を守っている。
反面、船舶の保有は少ない。
ようやく日本に巡視船の発注の契約を結んだのが、今回のサミットの成果である。
また、在日ポルトガル人を含むポルトガル人約千名を受け入れることを表明した。
次にアルベルト市長、エリック・サイトウが壇上に上がる。
在日ペルー人を集めて建設されまアルベルト市だが、その人種構成は大半が日系人の子孫という特徴がある。
これはドン・ペドロ市民にもみられる傾向だが、アルベルト市民ににおける割合は高い。
やはりドン・ペドロ同様、製造業に携わっていた人間が多いが電力的に恵まれた環境ではない。
幸い、農業経験者も多いことからなんとか食い繋いでいるのが現状だ。

「産業の誘致と治安部隊の強化に対するご支援を各諸都市のお歴々にはお願いしたい。」

徴兵制だったブラジルと違い、志願制のペルー出身者には軍役に就いたことがある者は少ない。
その為に治安部隊の編成に苦労していた。
スコータイの代表には犯罪と技術流出をどうにかしろとの批判が殺到した。
事前に会議の内容は打ち合わせ済みだったはずだが、昨日からの騒動で些か混乱して暴走しているようだった。
秋月総督達も完全に話を聞いていない。
高麗本国の戦況についての報告を秋山補佐官から聞いていた。
ようやく海上自衛隊の準備も整ったようだ。

「佐世保から護衛艦『あまぎり』が珍島に向かいます。
呉からは護衛艦『しまかぜ』、輸送艦『くにさき』が特別警備隊二百名を乗せて関門海峡を通過しました。
第3ミサイル艇隊が対馬で合流して巨斉島に向かいます。」


UA:N05C
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[3]
08/13 02:03
「随分、少ないな。
我が国の余剰戦力はそれしか残っていないのか・・・」
「舞鶴や横須賀の艦隊はどうせ間に合いません。
警備の範囲も広いですならね。
編成中の第51普通科連隊を出すわけにもいきません。
彼等はここに派遣される貴重な戦力です。
あんなところで消耗消耗されても困ります。
それに転移前の政治情勢における凝りが、両国に残っていて大規模戦力の派遣が憚れた事情があります。
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0113†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 13:23:57.379076ID:jULqqYQfK
今の与党の長老方には転移前の韓国に対する不信感が残っていますからね。」

長老方だけではなく、転移前にネットなどに慣れ親しんだ若い世代にも不信感が漂っているのを秋山補佐官を見て悟らざるを得なかった。
派遣された自衛官達はプロフェッショナルだと信じているが、隊員達にも同様の心情を持つ者が多数いるだろうことが、秋月に不安を感じさせた。
そこに高橋陸将が控え室から戻ってくる。

「総督、まもなくヴェルフネウディンスク市長から正式に発表があると思いますが、緊急事態です。
北サハリンに巨大な生物と獣人の軍勢が侵攻しました。
現在、北サハリン軍と交戦状態に入っています。」

その後、公式に発表された北サハリンへの侵攻を聞かされた各都市の代表達は各々の言語で同じ言葉を呟いていた。

「またかよ・・・」



対馬海峡
輸送艦『くにさき』
対馬海峡を通過する『くにさき』には海上自衛隊特別警備隊二百名が乗艦していた。
護衛艦『しまかぜ』とともに対馬海峡まで航行してきた。
現在は第3ミサイル艇隊とも合流して珍島に向かっている。
海上自衛隊特別警備隊は転移後ろに大幅な増強を受けていた。
それは転移前に予定されていた水陸機動団の創設が、転移後の混乱で中止になってしまったからだ。
宙に浮いてしまった装備一式が特別警備隊に引き渡されていった。
即ち水陸両用車AAVP7A1 RAM/RS(人員輸送車型)である。
性能確認や運用検証等を行うための参考品として調達された四両とAAVC7A1 RAM/RS(指揮車型)の1両が『くにさき』に積載されている。
おおすみ型輸送艦は、水陸両用戦機能を強化すべく大規模な改修が行われている。
対馬から巨斉島までは60キロしかない。

「総員、乗車!!」

隊長の長沼一佐の号令のもと、特別警備隊の隊員達がAAVP7A1 RAM/RS(人員輸送車型)やAAVC7A1 RAM/RS(指揮車型)に乗り込んでいく。
全通飛行甲板では3機のSH-60Kがローターを回している。
こちらにも特別警備隊員達が乗り込んでいく。

「立入検査隊や基地警備隊の為の訓練部隊と揶揄してきた連中を見返す機会だ。」
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0114†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 13:59:04.161720ID:gpCoJ8XxK
特別警備隊は使いどころの難しい部隊と思われていた。
特別警備隊の主任務は脅威度の高い船舶・艦艇の武装解除および無力化である。
だが海上自衛隊は立入検査隊を重武装化させ、乗員分の拳銃分も艦艇に載せている。
海上保安庁も似たようなものだし、民間船まで武装警備員を乗せたり、自主的な武装をしている。
ほとんど任務らしい任務などは回ってこない。
立入検査隊や基地警備隊の訓練部隊として扱われ、優秀な隊員は引き抜かれていく。
隊員個人のレベルは転移前より下がっているかもしれない。
帝国との戦争でも大陸の沿岸部のホルスト伯爵領の攻略に投入されたくらいだ。
この作戦は部隊の有用性を証明するいい機会だった。


北サハリン
ポビギ村近郊
かつてネヴェリスコイ海峡と呼ばれる海峡があった。
ユーラシア大陸と樺太の間にあり、間宮海峡とアムール潟を結ぶ海峡のことである。
海峡の幅はもっとも狭いところで7.3 kmほどだったが、ユーラシア大陸が消えた今となっては大した意味はない。
今は水平線が見えるくらいの大洋がその姿を見せている。
その海岸に北方のフセヴォロドヴナ海から派遣された『革命の音階』号と船長ザボム・エグが率いる一万の軍勢が上陸した。
途中、何度も北サハリンの哨戒の為と思われる艦船を潜り抜けた結果、上陸出来たのがこの場所だった。
『革命の音階』号が巨大な三頭大蛇である。
口内に多数の海蛇の獣人兵士を乗せている。
海蛇の民には『革命の音階』号の消化液も問題はない。
さすがに一万もの兵士が乗るわけもなく、ほとんどが自力で泳いで海岸に上陸を果たしている。
さすがに船長のザボム・エグは真ん中の大蛇の口内から上陸する。

「何も無いねぇ・・・」

道路らしき舗装された道はあるのだが、集落一つ見当たらない。
小屋らしき者が散見されるが、人の姿一つ見受けられない。
これでは略奪どころでは無い。
聞く限りの日本の都市とは大違いでガッカリしている。
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0115†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:03:06.823993ID:YGPvD26aK
「日本は日本でもとんだ辺境に上陸してしまったようだね。」

見渡す限り山脈が連なり見通しは悪い。
フセヴォロドヴナ海を領海とするザボム・エグ船長の種族は海蛇から進化した種族だ。
その姿は四肢を得たことにより、リザードマンに近い。
尾は縦に平べったくなっており、泳ぐのに適している。
主な武器は槍と鞭だが、毒を含んだ自らの体液を塗って使用している。

「姐御、もう少し行ったら村があるみたいですが・・・」
「そこまで行ってみるか、全軍に前進を伝えな!!」

本能的に『革命の音階』号が危険を察知したのか上空を見上げていた。
さて『革命の音階』号の能力であるが、それを披露する暇もなく対地ミサイルの爆発に曝されてその身を焼失させる。
Su-25SMが飛来し、10基のハードポイントからKh-25空対地ミサイルが一斉に発射されたのだ。
2機目のSu-25SMが軍団の真ん中にKh-25空対地ミサイルを発射して爆発させる。
Su-25SMは、北サハリン空軍の第1親衛航空連隊に所属する18機の戦闘・攻撃機のうちの二機だ。
最初の爆撃から難を逃れたザボム・エグは、煙に視界を奪われつつも状況の把握に努める。
咄嗟に周囲の部下達が盾になってくれなければ危なかったかもしれない。

「どれくらいやられた!!」
「三千はやられやした・・・」
「また来やした!!」

身軽となったSu-25SMの2機が、各々の方向から飛来してGSh-30-2 30mm連装機関砲を発砲して海蛇の軍勢を掃射する。
大部分の者はすばやく物陰や海に逃れるが、相当数の死傷者を出しているのが見てとれる。

「あ、姉御、海からも!!」

複数の艦艇が海上に現れる。
旧ロシア海軍、現サハリン海軍所属の第11水域警備艦大隊だ。
間宮海峡防衛を主任務にしていた艦隊で、艦隊ごと転移に巻き込まていた。
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0116†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:09:59.051126ID:WKtjLW/DK
グリシャ型コルベット、『ウスチ・イリムスク』、『メーティエリィ』、『コリェエツ』の3隻によるAK-725 57mm連装砲による艦砲射撃が地上に対して行われる。
さらに海中に逃れた敵に対して、RBU-6000 対潜ロケット砲が発射される。

「えぇい、ここは地獄かい?」

爆風に煽られながらザボム・エグは生き残りを集める。
これだけの攻撃に関わらず、いまだに三千の兵士が戦闘可能だった。
だがその兵士達も数匹単位で薙ぎ倒されていく。
装甲車両を前面に立てた北サハリン陸軍第3自動車化狙撃大隊だ。
3方向から自動車化狙撃中隊が接近して射撃を開始したのだ。
さらに後方の迫撃砲中隊や歩兵戦闘車BMP-3や装甲兵員輸送車BTR-60の攻撃も加わる。
海蛇の兵士達は死兵と化し、人間では考えられない速度で突撃を敢行するが、距離の壁は無情にも彼等を射ち抜いていく。

「弾薬の補充を要請せんとな。」
北サハリン軍の大隊指揮官アンドレーエフ少佐は消耗される弾薬の数に眉をひそめる。
弾薬や武器の部品は日本に生産させて購入している。
転移の影響で営業停止に追い込まれていた中小の工場に取っては渡りに船の話だった。
代金はサハリン2により開発した油田や天然ガスだ。
日本政府は渋い顔を見せたが、生産して組み立てた兵器や弾薬を自衛隊に提供すると提案して黙らせた。

「射撃を控えさせますか?」

大隊付き参謀のヴィクトル中尉が聞いてくる。

「バカを言え。
我々は高麗の連中ほど甘くは無いことを敵並びに同盟国に知らしめねばならん。
だからわざと上陸させてやったんだ。」
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0117†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:13:14.522572ID:IGDGu9S+K
『革命の音階』号の動きは高麗国襲撃の時点で、警戒の為に発進した海上自衛隊のP−3C対潜哨戒機により捕捉されていた。
途中から引き継いだ北サハリンの対潜哨戒機イリューシン Il-38より指示を受けた第11水域警備艦大隊が、わざと姿を見せたり接近を装うことで誘導していたのだ。
すでに海軍、空軍による攻撃は停止している。
敵の数が減ったことと、粘った敵がこちらの前衛に到達しそうだったからだ。
到達出来たのは数十匹程度だ。

「降伏を勧告しますか?」
「言葉通じるのか?」
「いえ、無理ですがあの爬虫類見た目がセクシーじゃないですか?」

確かに海草で造ったようなハイレグ水着のような衣装の一匹に注目する。
確かにセクシーな気もする。
おそらくは連中の頭目だろう。
だが爬虫類だ。

「ヤンキーの映画に出てきそうだが好みじゃないな。
捕虜は必要ない。」

会話の間にも海蛇の兵士達の数が減っていく。
ザボム・エグは最後の一匹になるまで残った。
銃弾が幾つも肉体を穿つが、その鞭を奮う。
鞭はBMP-3の砲塔に巻き付くと、ザボム・エグの体がそのまま跳んだ。
蛇のようにBMP-3の車体を這いずりまわり前衛を突破する。
同士討ちを恐れて北サハリン兵達は撃つことが出来ない。
そのまま攻撃の間に仮設された野戦司令部のテントに突っ込んでくる。
惜しむらくはテントの中は無人だったことだ。
大隊司令部の要員は全員外で双眼鏡を抱えて戦闘を観ていたからだ。
全員が野戦服を着ていた為に、ザボム・エグには誰が大将が誰だかわからなかったのだ。
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0118†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:16:12.364331ID:J3xCksTVK
テントの布を体を巻き付けながらロシア人の将兵に蜂の巣にされて息絶えた。


南樺太
日本国国境保安隊西柵丹保安署
北緯50度線、あくまで転移前の戦前に測量されたこのラインが現在の日本と北サハリンの国境である。
転移後に日本に南樺太が返還されて、陸上自衛隊第二師団が駐留することになった。
しかし、国境に関しては北サハリンとの摩擦を避ける必要があった。
国土交通省の内部部局として新設された国境保安局の部隊が国境保安隊である。
平時は制服を着て、拳銃、警棒、という軽武装でパトロールをしながら畑を耕しつつ日々の任務をこなしている。
だが日本の各治安機関に沿岸警備命令が発令されたこの時は、出動服に臑当・篭手・防護ベスト、防護面付特殊警備用ヘルメットを纏っている。
いわゆる機動隊隊員と同様の装備である。
ただし、警戒にあたっている隊員は全員が豊和M1500をその手に持っている。
全員が緊張した顔で、北サハリン領内の方を警戒している。
財務省の税関職員や法務省の入国管理局の管理官も任務の性質上、この保安署に詰めている。
国境の向こう側ではやはり北サハリンの国境警備隊員が姿を見せている。
毎日のように顔を会わせているので、国境を挟んで酒を酌み交わす仲の隊員もいる。
その内の一人の国境警備隊員が保安隊員達の前に笑顔で語りかけて来る。

「終わったぞ!!
ポギビの戦いは我が軍の勝利だ!!」
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0119†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:26:16.268328ID:c3XEQiExK
保安署隊員達と国境警備隊隊員達が歓声をあげている。

「やれやれ隊員達は無邪気だな。
まあ、ようやく一連の襲撃に対する朗報だから仕方も無いが・・・」

署長兼隊長の松尾が呆れた顔で署内から眺めている。
戦いはものの一時間で終わったと聞いている。
自衛隊から派遣された観戦武官からの連絡だ。
今回の戦いは、北サハリン軍がその気になれば国境保安隊など一溜まりもないだろうことを再認識させられるものだった。
国境を預かる者としての不安が松尾を苛む。
自衛隊の第二師団が到着するまでの警戒の強化と退き際の見極めを関係各所と検討する必要が感じられた。
国境を挟んで互いに隊員達が喜びあっている。
だがロシア人達の中には南樺太や千島列島を日本に返還したことを面白く思っていない一派がいることは理解している。
いずれ決着を付ける時が来るのかもしれない。
或いは平和的な解決の道が切り開かれるのを祈るばかりだった。


百済市
エレンハフト城
北サハリンへの襲撃と撃退が報告されたのは僅か30分の出来事だった。
先程まで騒然としていた会場は沈黙を保ちつつ、各都市の代表はヴェルフネウディンスク市市長ユーリー・チカチーロに祝辞を述べている。
暗に『我々は高麗とは違う』と言われているようで、白市長は益々顔を蒼くしている。
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0120†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:29:24.543591ID:xyvpATlXK
「この勝利宣言と合わせまして、在日ベラルーシの住民500名を我が同胞として受け入れることを宣言します。」

もと転移前のサハリン州には六千名のベラルーシ人が居住していたことから問題はなかった。

「加えて、今回の損害の補填の為に、我々もアンフォニー男爵領の炭鉱開発事業に参入させて頂く。
先程、アンフォニー代官のミツオ・サイトウと正式に契約を取り交わした。」

これは新京総督秋月と新香港主席の林が驚愕の顔を見せてくる。
北サハリンは彼等の街の利権に食い込んで来たからだ。
いつの間にか、ユーリー市長の背後でどや顔の代官の斎藤と、困惑した顔のアンフォニー男爵代行のヒルダが立っていた。
ヒルダが困惑しているのは、この計画は40分前に結ばれたばかりだからだ。
この世界の住民で、最も利権を手にする筈の彼女が一番恐縮しているのは印象的であった。
だが報告に戻ってきた高橋陸将の言葉に皆が我に帰る。

「護衛艦『あまぎり』が珍島に到着しました。
反抗の支援作戦を開始します。
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0121†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:32:12.940696ID:aqPJmle5K
高麗国
珍島沖
護衛艦『あまぎり』
珍島で猛威を奮ったイカ人の軍勢は、航空自衛隊第6飛行隊の爆撃により、母船と指揮官を含む大半の兵士を失っていた。
だが島の各所では、いまだに国防警備隊の守備隊と交戦を続けていた。
主力が一度は壊滅状態に陥ったことから、日本からの援軍を断つべく海中に配されていたイカ人五千の兵のうち二千が島の各所から上陸を開始して猛威を奮っていた。
『あまぎり』の周辺では乗員達が89式小銃で、散発的に現れるイカ人の兵士を掃射している。
大規模集団には62口径76mm単装速射砲やMk15 MOD2 高性能20mm機関砲 2基が海上に向けて、発砲が続けられている。
74式アスロック8連装発射機や68式3連装短魚雷発射管も時折攻撃に加わっている。
その間にも『あまぎり』の飛行甲板では現在、警備救難艦『太平洋9号』に所属していたKa-32海上輸送ヘリに搭載されたK6重機関銃用の弾薬を補給していた。
さすがに航行中では、『太平洋9号』に補給を行うわけにはいかないが、ヘリコプターならなんとかなる。
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0122†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:35:24.071853ID:A/9YwcaIK
同時に『あまぎり』に搭載されたSH-60J哨戒ヘリコプターの2機は、先行して珍島に到着して戦闘に参加していた。
1機が国防警備隊が籠城する島の南に築かれた南桃(ナムド)石城の上空を通過する。
アンモニアガスの発生により、前線を放棄した国防警備隊の守備隊は、二つの防御陣地に向けて別れた。
そのうちの1隊は遅滞戦術を展開しながら、島の国道18号線を南下し、南桃石城に到着して陣を構えた。
国防警備隊2個小隊と自警団が立て籠る南桃石城に、千を越えるイカ人の兵士達が攻め寄せていた。
南桃石城には、周囲610m、高さ5.1mの丸い城壁と東、西、南門がそのまま残っている。
現在の石城内は国防警備隊の駐屯地となっている。
高麗王朝の時代、裴仲孫将軍に率いられた三別抄軍は、ここを根拠地として壮烈な対モンゴル抗争繰り広げていた。
転移前には、南桃石城観光化事業が推進されていて、周囲の城壁は復元されている。
復元のやりすぎで、石組みは立派であり、城内にあった役所の建物も復元された。
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0123†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:39:37.888003ID:NkZNXyT0K
史実を誇張した復元は批判も多いのだが、今回はそれが功を奏していた。
近隣住民を避難させ、イカ人の軍勢から籠城するのに最適な環境となっていたのだ。
だが敵の数は圧倒的であり、国防警備隊や自警団の死傷者が続出し、陥落は時間の問題といえた。
そこに、『あまぎり』から発艦したSH-60J哨戒ヘリコプターが到着した。

「城外の敵を排除しろ。」

機長の命令のもと、キャビンドアが開かれ、隊員の一人が74式機関銃をドアガンとして、空中から掃射を開始した。
空からの攻撃に忽ち数十のイカ人が死傷する。
堪り兼ねたイカ人達は攻め寄せていた城壁から離れて近隣の建物や森林などに身を隠す。
攻撃の効果を確認したSH-60Jは、国防警備隊員の誘導のもと城内に着陸した。
SH-60Jに積載された弾薬が、国防警備隊員達に補給物資として引き渡されていく。

「今度は感謝くらいしてくれよ。」

転移前の南スーダンの件を思い出して機長は苦笑していた。
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0124†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:42:25.998255ID:UbEXw/UIK
ヘリに同乗していた『あまぎり』の立入検査隊の五名が城壁から89式小銃で、再び攻め寄せるイカ人の軍勢を射ち倒していく。
補給を済ませた警備隊員も加わっていく。
補給の弾丸を引き渡したSH-60Jは再び飛び立ち、空から敵を弾丸で凪ぎ払いに向かった。
珍島北東部の戦いも同様に推移していた。
こちらには龍蔵山の尾根伝いに城壁を巡らした龍蔵山城がある。
やはり1270年、裴仲孫将軍が率いる三別抄軍が、それまでの山城を改築し、対蒙抗争の根拠地とした城だ。
鎌倉幕府にに国書を送り、自分たちが唯一の正統な高麗政府であることを表明したのがこの城である。
龍蔵城の跡は史跡第126号に指定され、ほぼ復元されている。
周辺に420mに達する土城が築かれている。
ここに避難した近隣住民による自警団と国防警備隊三個小隊が籠城し、二千を越えるイカ人の軍勢と交戦していた。
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0125†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:45:07.680329ID:gRjvexc+K
だが強固な土城と遠距離攻撃、夏の最中で動きが鈍る上に山に登らされたイカ人達は面白い様に倒されていく。
それでも物量の壁は残酷だ。
弾丸の残量はみるみる減少していく。
イカ人達の投げ槍による死傷者が増えていく。

「いよいよ覚悟する時か・・・白兵戦用意!!」

散兵していた隊員達や自警団団員達が、スコップやナイフ、投げ込まれた槍を手に取り集まり出す。
イカ人の軍勢があと20メートルにまで接近したときに、『あまぎり』のSH-60J哨戒ヘリコプターが飛来した。
キャビンドアを開き、ドアガンがイカ人達を掃射しながら着陸する。

「ほら、5.56mmをたっぷり持ってきたから集まれ!!」

海自隊員の声に我に帰ったK2アサルトライフル、K3機関銃を持った隊員達がSH-60Jの周囲に集まってくる。
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0126†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:47:41.430266ID:fKFw6QytK
キャビンドアから、『あまぎり』の立入検査隊隊員達が降り立って時間を稼ぐべく射撃を開始する。
弾薬を補充した隊員は、予備のマガジンに弾を詰めるのも惜しんで、前線に戻っていく。
国防警備隊員の一人が『あまぎり』の立入検査隊隊員に声を掛けてくる。

「助かったが、このままではまた追い詰められるだけだぞ!!」
「問題ない。
もうすぐ来るぞ!!」

爆音を響かせて現れたのは航空自衛隊第六飛行隊のF−2戦闘機だ。
築城基地から空爆を終えたあと、燃料と弾丸を補充して、第二次支援爆撃の為に舞い戻ってきたのだ。

『ブラボー1、投下!!』
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0127†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:49:29.219711ID:X0M+pqw1K
Mk.82通常爆弾12発がイカ人の軍勢に降り注ぎ、焔の壁が天高く舞い上がる。
同時刻、南桃石城付近でもF−2戦闘機が到着する。

『ブラボー2、投下!!』

爆発による焔は確実にイカ人の軍勢を炙り倒していった。
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0128†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:50:53.151343ID:JfKgOxaXK
百済市
エレンハフト城
珍島の作戦が上手くいったとの報告に、会場は拍手に包まれていた。
珍島ではこれ以後は掃討作戦に切り換えるらしいが、大勢は決していた。
新香港の林主席とヴェルフネウディンスク市チカチーロ市長のアンフォニーを巡る舌戦に会場が緊迫していた中で、関係者もこの空気を吹き飛ばす朗報に胸を撫で下ろしていた。
話を中断させられた林主席は、話を続けようとしたが、百済市長の白に遮られる。
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0129†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:52:10.101693ID:PnKU6OXdK
「皆様、ありがとうございます。
ようやく珍島の平和を取り戻せました。
残るは南海島と首都巨済島の二つ。
引き続きの御協力をお願いいたします。
さて、我々も北サハリンの仲介の元、アンフォニーの開発に一口乗らせてもらうことにしました。」

林主席の開いた口が塞がっていない。
秋月総督も眉を潜めている。
林主席はさらに抗議を口にしようとしたが、ブリタニカの代表のダリウス・ウィルソン市長の会見が進行されて口を紡ぐしかなかった。
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0130†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:54:45.103322ID:1SRJ/5TsK
なにより本物の子爵位を持つ英国貴族であり、王国貴族からの信任も篤い。
ブリタニカ市民は転移前は教育関係者や金融関係者だった者が多い。
転移後のこの世界では財産を失ったり、アドバンテージだった知識が無用の長物になったりと辛酸を舐めていた。
それでも白人系の容姿と一部の貴族位を持つ英国系住民が、王国貴族の相談役や地球系各都市と王国貴族の商談の仲介役として、多大な財産を築き始めていた。
平民の集まりである他の諸都市とは信頼度が違うのである。
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0131†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:57:15.624566ID:/uzkGxX6K
なにより王国貴族を集めて、船舶に対する被害を受けたときにその損害を補償する代わりに、前受け金(保険料)を貰える』という契約を結ぶ、シンジケートの役割も担うようになった。
つまり異世界にロイズ保険の制度を持ち込んだのだ。
半分くらいの王国貴族は、一方的に儲かることを夢見ている。
地球系各都市の海事機関が海賊やモンスターを討伐して、被害が転移前に比べて格段に減っているのも効いている。
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0132†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 14:59:22.852059ID:yELPLT0xK
だがそれだけでは足りない。

「我々としても木造船舶に対する安全強化の為に、王国船舶に対しての技術提供を提案したいと思います。
これは人道的処置としても必要なことだと考えています。」

これは予定外の不意討ちだった。
本来のブリタニカの声明とは違うものだ。
このままではサミット終了後の共同声明にも支障が出る。
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0133†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 15:01:00.377578ID:NWxNhNMxK
事態を憂慮したのはヒルダも同様だ。

「斉藤、やりすぎよ。
このままでは日本を意固地にさせかねないわ。」

技術規制派の最右翼である日本がこの事態を面白く思っている筈が無い。
だが指摘された斉藤は心外そうに答える。

「ブリタニカにはまだ接触してません。
あれは彼等の独断です。」
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0134†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 15:02:18.260729ID:stHm1KMsK
なんだかんだと日本が強権を奮えば、全てはひっくり返るのだ。
ここで刺激を煽るのは得策ではなかった。
こちらに便乗してくるのは構わないが、巻き添えで技術緩和の機会を棒にふるのは御免だった。
さすがに秋月総督が一言言ってやろうと立ち上がる。

「総督!!」
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0135†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 15:03:36.092860ID:pptQewQtK
だが秋山補佐官に止められる。
秋月総督が振り返ると、秋山補佐官も後ろを振り返っている。
そこには高橋陸将が慌てた様子で駆けつけていた。

「『くらま』から連絡が・・・百済沖に!!」
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0136†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 15:05:11.501945ID:cnEy+5mWK
白市長の周囲でも国防警備隊の幹部が何かを報告して慌ただしくなっている。
北サハリンやブリタニカも何かを掴んだようだ。
新香港の林主席のまわりでも常峰輝武警少将が耳打ちしている。
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0138†Mango Mangüé(ガラプー KKf9-/v34)2018/06/17(日) 15:09:43.107624ID:BiaqyNTiK
地球人達の慌てぶりに列席していたヒルダや国王にデウラー近衛騎士団団長も驚いている。
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