ジュースを買いに行ってきた。
自販機の前に立つと、一人の女の子が僕の前に回り込んできて「じゅーすかいにきたの？」と可愛らしく首を傾げた。
見たところ彼女は自販機を置いてあるうちの子のようだ。
年の頃は4〜5才だろうか？おかっぱ頭に水色のワンピースを着た、この年頃特有の、歪みのない整った顔立ちをしている。将来はきっとかなりの美人になるだろう。
「そうだよ」とまどいながらも僕がそう告げると彼女は上目遣いに僕を見つめ「あかねもかっていい？」とねだった。

まずい、と思った。そっけなく断るには彼女はあまりに可愛すぎた。幼女を誘拐する変質者の気持ちが少しだけ分かってしまった自分が怖い。僕は『子供好き』ではあったが、『幼女好き』となるとずいぶん意味合いが変わってくる。

『好きなだけ買っていいよ』という言葉がのどまで出かかっていたが、そこでふとある心配ごとが脳裏をよぎった。

もしここで僕が「いいよ」といえば彼女は労せずして物を得ることを覚えてしまう。なまじ可愛いだけに、将来駅前にパンツ丸だしで座り込んだり出会い系で男を呼びだし飯だけおごらせたりするろくでもない人間になってしまうのではないか？

僕は心を鬼にして、なるべくそっけなく聞こえるように「ダメ」とだけ告げた。
しかし彼女はあっけらかんとし「じゃあいいよ。どれかうの？」と笑顔で僕に問いかけた。


帰り際、車のサイドミラーに写る彼女は、僕の車が見えなくなるまで手を振り続けていた。
日本はまだいける。そんなことを思いながら、彼女が間違って押した抹茶オレを啜った。