「興味を惹かれたもんで、あれからも個人的に調べてみたんだ。しかし、調べれば調べるほど、
こいつ胡散臭いところだよ。宗教団体と名乗って、認証だって受けているんだけど、宗教的な実
体みたいなのはろくすっぽないんだ。教義的には脱構築っていうかなんというか、ただの宗教イ
メージの寄せ集め。そこにニューエイジ精神主義、お洒落なアカデミズム、自然回帰と反資本主
義、オカルティズムのフレーバーが適度に加味してある。それだけ。実体みたいなものはどこに
もない。ていうか実体がないってのが、いわばこの教団の実体なわけ。マクルーハン的にいえば、
メディアそのものがメッセージなんだ。そのへんがクールといえばクールなんだよね」
「マクルーハン?」
「私だって本くらい読むよ」とあゆみは不満そうな声で言った。「マクルーハンは時代を先取り
していた。一時期、流行りものになったせいでなんとなく軽く見られているけど、言ってること
はおおむね正しい」
「つまりパッケージが内容そのものを含んでいる。そういうこと?」
「そういうこと。パッケージの特質によって内容が成立する。その逆ではなく」
青豆はそれについて考えてみた。そして言った。
「『さきがけ』の教団としての中身は不明だけど、そんなことには関係なく、人はそこに惹きつ
けられ、集まってくる。そういうこと?」