山中からもうもうと黒煙が立ち上る校舎を見下ろす。
 そこに在るのはただの瓦篠の山だった。
 雨が降っている中でも、爆心地のあちこちではまだ火の気が登っている。

 人の悲鳴すら聞こえなかった。

「あれは……」
 燃えさかる炎の中に、人影が。確かあれは同じクラスの子だったはずだ。確証が持てないの
はそれが顔の半分が潰れているからだ。おそらくコンクリの塊が顔に飛んで来たのだろう。
 見渡す限り、生きている人が居るとは思えなかった。人影が見えてもさっきの子のように、
人として生命活動ができるパーツがそろっていない者ばかりだった。爆発の瞬間で全員即死だ
ったに違いない。
「はは……」
 次元が違った。
 人を殺した背徳感や罪悪感。そんな事を考える余地も無かった。
「やった……。これで……全部終ったんだ……」
韓国人として、日本人を大量に殺戮できた。
当初の予定は全て遂行した。
「唯も和もさわ子先生も、みんな死んだ。死んだに決まってる。やった。これで私も死ねる。
大丈夫だよ。私は地獄に堕ちる。死んでからも私に会わなくて済むよ。あはは。ははは……」

 その時、コンクリの塊が独りでに動いた。↑一

 ゴト、ゴロゴロ、と瓦篠を滑るようにしてコンクリの塊は地面へと落ちる。
 ただコンクリの塊が転がっただけなら、私もそこまで注意はしない。
 だが私は今、ハッキリと見えた。
「人の……動く手が……」
 それは見間違いでも何でもなかった。コンクリを退けた隙間からのそり、と人が這いずり出
てくる。
 生きている人間が居た。
 それも、私のよく知るアイツが。
 「ゆ……い……?」
 ギロリ、と目線が会う。決して呼んだわけではない。ましてや、この距離から私の声が聞こ
えるはずがない。それなのに、その生存者は確実に私の方を見ている。見えている。