うれしいこと 横浜市泉区・堤桂子(主婦・66歳)


 地域の読書会の新年会が先月、北鎌倉のレストランで開かれた。JR横須賀線の北
鎌倉駅から会場まで、足が弱く、つえをついたNさんは、常に誰かに寄り添われ、梅やスイセンに目を留めながら歩いた。

 86歳のNさんは、30年以上続いている読書会の最古参の一人。緑内障の手術の後も、ルーペを片手に読んだ本の感想をきちんと話す。

 最近、川崎の息子さん一家と同居されたが、電車やバスを乗り継いで片道1時間以上かけ、休まず出席している。

 乾杯の後、Nさんが「今日のようにうれしい日はありません。長年のお友達が、交代で手を引いてくださって、本当にありがとう」とあいさつした。

 「これだ」と思った。Nさんの人柄の良さはもちろんだが、好かれる人は言葉の使い方が巧みだと気がついた。

 手を引いた側にとって「すみません」と恐縮されるより「うれしかったわ」と言われる方が、どれだけ楽で幸せなことか。


 長い入院生活の末に亡くなった友人が以前、「今まで自分でできたことができなくなるだけでもつらい
のに、やってもらうたびに『すみません』って言わなきゃならないから落ち込むの」と語ったことがあったが、その通りだろうと思う。

 どこを見ても、うれしくないことの多い今、うれしいことを一つでも多く見つけて、人に伝えていきたい。

http://mainichi.jp/life/kimochi/news/20120219ddm013070047000c.html