>>763
それがある時点を境に評価が一変する。
 「ツーアウトランナー無しの場面で平凡なショートゴロに打ち取ったときだ。
 半ばマウンドから下りかけたところでそれが内野安打になったのを見て頭に来た。
 “冗談じゃない”とは思いながらも何とか気を取り直して投げたらスティールだ。
 あっという間にピンチさ。
 俺は何らミスを犯していないのにだぞ。
 結局、かっかしたまま投げてマーク(マクレモア)にタイムリーを打たれちまった。」

 「ダグアウトに戻って頭を冷やしているときにとんでもないことに気付いて背筋が寒くなったんだ。
 考えてもみてくれ。
 投手が打者を安全に退ける手段のうちの重要な2つの方法、三振と内野ゴロがスズキには通じないんだ。
 しかも塁に出せば走られる。
 平凡な内野ゴロがダブル(ツーベース)と同じ結果になるんだぞ。
 それに気付いた瞬間、それまで熱かった汗が凍りついたよ。」

 ゴールドグラブの常連内野手でさえ、イチローには手を焼いた。
 「スズキの怖さに最初に気付いたのは我々内野手だろうね。
 足を警戒して前に守れば、測ったように間を抜かれる。
 それを嫌がって下がればセーフティバントだ。
 メジャーで何年も飯を喰ってきた我々が手玉に取られるさまは見ている方は面白いかもしれないが、やられる方はたまったものじゃない。
 彼のおかげで神経と奥歯がずいぶんと磨り減ったよ。」