「まあ、他薦の方々には賑やかしに頑張って頂きましょう。
他薦するくらいの人は字が書けるでしょう。
票は伸びないでしょうが。」

見も蓋もない青塚事務長の意見だが現実問題仕方がない。
この選挙にはもう1つ奇妙な側面がある。
候補者の大半を占める元領主一族がまるで演説などの活動を行わないのだ。

「まあ、チャールズ殿は自分の信任投票に過ぎないとしか思ってないとして、他の御一族の方々の動きがないのが不気味です。」

パルマ医師をはじめとする他の候補者達は本拠地の地元ではそれなりに支持者を集めているが、移動手段が無いので行動範囲が狭い。
地盤である町や村以外では知名度がまったく無い。
マスコミも発達してない選挙では無理もなかった。
領主一族の動向もあって、まったく結果の予想が出来ていなかった。
青塚事務長としては全くリアクションを取ってくれない旧領主一族は困った存在だった。

「当選されたら困るんだからいいじゃない。
もう少し大人しくしてて欲しいわ。」
「事はそう単純じゃないと思うんですがね。」

両者の懸念は平行線を辿っている。
だが丸山にはもう1つ懸念があった。
副隊長の福原二尉が入室してくる。
福原は青塚事務長や近藤女史がいることに眉をしかめるが、二人にも聞かせる必要があると考えた。

「王国府は敢えて公表してなかったみたいですが、総督府が追及したら吐いたそうです。
やはりこの西部方面では今年に入って村が4つ壊滅、12の村が襲撃を受けていました。
ゴブリンやオーク、或いはオーガや不特定多数のモンスターが確認されています。
西部以外でも被害が増加傾向にあります。」

ゴブリンの討伐作戦を指揮した岡本二尉から進言された懸念が的中していたのだ。

「よく連中が認めたな。」
「さすがに隠しきれないと思ったからでしょう。
スタルカ伯爵領の領都もカブトムシの虫人に襲撃されて、騎士団や神官戦士団が交戦した模様です。
冒険者ギルドも西部方面に討伐クエストを大量に発注していてます。」

冒険者ギルドには資源の調査の為に総督府がクエストを常時発注していたが、受注が減っていたのが疑問視されていた。

「予想以上に深刻だったな。」
「東部地域は第16師団、中央は第17旅団が大々的に討伐が決まりました。
西部地域に王国が戦力を集中出来るように負担を引き受ける為にです。
我々にも近いうちに撤収命令が出ますよ。
来月のサミットの議題にも上りましたからね。」

日本や在日米軍との戦闘で大陸における帝国軍は壊滅し、人間の戦力は大幅に減少した。
今は亡き帝国は獣人も傘下に納めて大々的にモンスターを狩り立てていた。
よくも協力出来たものだと考えられていたが、共通の敵の存在がそれを可能にしていたのだ。
だがこの五年近く帝国を引き継いだ王国軍に往事の力はない。
その間に繁殖して増加したモンスター達は、縄張りが手狭になってきた。
新たな狩り場を求めて人里まで姿を現している。
それも同時多発的にスタンピート現象(集団暴走)を起こそうとしているのだ。

「自衛隊だけでは手がまわらないかもな。」
「なんにしても今は目の前の選挙を片付けましょう。
それが我々に出来る最低限のことよ。」

偉そうに締められてしまい、青塚事務長も丸山一尉も苦笑してしまった。
丸山一尉も今後の方針を言ってみる。

「では我々は精々このエジンバラの安全に気を配るようにしましょう。
さしあたって出来るのはこの地域のモンスターの駆除かな?」

咳払いする福原二尉が問題点を指摘してみる。

「あまり弾丸を使うと司令部に睨まれるので知恵と勇気で補って下さい。」


とにもかくにも選挙は投票日を迎えたのだった。
大陸の一般庶民にとって統治機構から布告された内容は命令と同義である。
領主による布告に従うのは領民の義務である。
すなわち選挙の投票は領主からの命令と勘違いをした領民の投票は驚異的な投票率という数字になっていた。
まだ、投票開始前の早朝だというのに住民達は各地の投票所に列を成して集っていた。
強制参加の選挙だと住民が勘違いしていることに気がついていない日本人達は、報告を聞いて自分達の努力の成果と感激に浸っていた。

「これよ!!
これこそが私の求めてた光景よ!!」

楽しそうに叫び声をあげる近藤女史を目立たないところに放置して、丸山一尉と青塚事務長も満足そうに投票所を見つめている。
有権者達は黙々と投票所に入り、係りの委員会のメンバーや自衛隊の隊員、現地スタッフ等に質問を投げ掛けながらも順調に投票が行われていった。

「お日柄もよく、妨害も無い。
今回は平穏無事に終わりそうですな。」

青塚事務長も椅子に座り、お茶を啜りながらこの光景に見いっている。

「開始3時間で有権者の六割ですか。
この分だと夕方には当確をだせそうですね。」

各地の投票所から送られて来る投票数の集計を見て丸山一尉も頷く。
予想通りに昼過ぎには投票数は有権者の八割に達していた。
この頃には既に開票作業も始まっていた。
責任者である近藤女史、青塚事務長、丸山一尉は投票所の監督に終始し、開票作業には関わっていない。
だが開票作業に当たっていた委員会のメンバーや自衛隊の隊員達の間で微妙な空気が流れていることに三人とも気がついていた。
規則により開票作業の内容は口にしてはいけない。
だがその日本人達による微妙な顔、或いは苦笑したようすに思惑とは違った方向に進んでいるのは理解できた。
夕方になる頃には投票数は有権者の九割に達していた。
だがこの時点で有権者に対する得票率50%を獲得した者が現れた。
次期領主が決定した瞬間であった。
発表は領主代行を務めるチャールズの館で行われる。
丸山達三人も他の有力者や各町や村の町長、村長達も席を連ねていた。
発表の為に新京や新香港からマスコミの人間も招待されていた。
やがてチャールズが妹で虹と芸術の教団の司祭であるクララが発表のプレゼンテーターを務めることになっていた。
二人とも候補者だったのにプレゼンテーターを務められるのは落選が確定しているからだ。

「では、お兄様。」

司祭の服とも思えない虹色の祭服を着たクララが銀色のお盆に乗せた封書をチャールズに差し出した。

「ありがとう、クララ。」

チャールズは封書を受け取り、ペーパーナイフで封書を開き、書簡を取り出す。

「発表します。
第一回、エジンバラ自治領主選挙で当選を致しましたのは・・・」

誰もが固唾を飲みながら見守っているなか高々と発表された。

「陸上自衛隊一等陸尉丸山和樹殿!!」

沈黙が広間を包む。
誰もが驚きで拍手すら忘れている。
当の丸山一尉が一番反応に困っている。

「は、はい!?」

そして、隣にいた近藤女史がやはり気を失い丸山一尉にもたれ掛かった。
妙齢の女性を抱き抱えた新自治領主の姿が次の日の紙面の一面を飾っていた。


シュヴァルノヴナ海海底
海底宮殿
『荒波を丸く納めて日々豊漁』号船長イケバセ・グレは自らの種族が治める海底に建設された宮殿に他の船長達と共に集められていた。
同種族の船長は他に二人。
いずれも勇猛で知られた船長達だ。
もう一人の船長は他種族の女船長で、細長い体を水中に漂わせている。

「ウキドブレ提督が御入室します。」

宮殿内とはいえ、水中の中なので一同は漂っているのだが、彼等の種族的に居住まいを正して提督を最敬礼で迎える。

「遠路ご苦労だった。
諸兄等に集まってもらったのは他でもない。
諸君等の長年の苦労が実って、あの忌まわしき日本の幾つかの島への上陸が可能となったことが判明した。
ハーヴグーヴァ殿下は日本の本島攻撃の為の橋頭堡として、これらの島々を攻略することを決定した。
激しい抵抗が予想される為に各々の島に一万を越える兵士を各船長に与える。
万難を排して、作戦を成功させて欲しい。」

3人の船長は手を両肩と両腰に当ててひざまづく。
この作戦は海棲亜人連合の主導権争いにも影響される。
そんな作戦に他種族の者がいるのは解せなかった。
彼等の視線は唯一の他種族の女船長に向けられる。
ウキドブレ提督は彼等の視線の意味を察して、彼女の紹介を始める。

「彼女はザボム・エグ。
北方のフセヴォロドヴナ海から派遣された『革命の音階』号の船長である。
北方でも見つかった上陸出来る島には彼女の兵団一万が上陸する。
こちら来て貰ったのは4島同時攻撃の調整の為だ。
よく話し合って欲しい。」

さすがに北方まではシュヴァルノヴナの手は届かない。
日本の戦力を分散させる必要もある為の共同作戦になったのだろう。

「皆様と協力して忌まわしき日本に一鞭くれてやれるのを光栄に思いますわ。
麗しき死を日本に」

足に装飾品代わりに装着された鞭がザボム・エグの武器なのだろう。
その鞭を水中で振るって、勝利の誓いを立てている。
彼女の挨拶とともに総勢4万を越える大軍による遠征の会議が始まった。
BBR-MD5:CoPiPe-821df22bc489cb4e979fe111dc7fdffd(NEW)
BBS_COPIPE=Lv:0
PID: 7706
[1.341674 sec.]
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