「謝罪なく身勝手」路上生活者に容赦せず襲撃被告。死亡姉失った弟の憤り。

毎日新聞
2022/04/12 13:00

被告は法廷に立つことなく自ら命を絶った――。
東京都渋谷区のバス停で2020年11月に路上生活をしていた大林三佐子さん(当時64歳)が頭を殴られて死亡した事件は今月8日、被告が死亡し、刑事裁判は開かれない見通しとなった。
11日に毎日新聞の取材に応じた大林さんの弟(64)は、初公判を約1カ月後に控えていた中での突然の知らせに「今まで被告から何の謝罪もない。身勝手そのものだ」と憤った。

捜査関係者によると、傷害致死罪で起訴されて保釈中だった吉田和人被告(48)=渋谷区笹塚2=は8日朝、自宅近くの路上で死亡しているのが見つかった。
警視庁は、近くの建物から飛び降りたとみて調べている。

吉田被告は20年11月16日午前4時ごろ、渋谷区幡ケ谷2にあるバス停のベンチに座っていた大林さんの頭をペットボトルと石の入ったポリ袋で殴り、外傷性くも膜下出血で死亡させたとして逮捕、起訴された。
捜査段階では「事件前日にお金をあげるからバス停からどいてほしいと頼んだが、断られて腹が立った」と供述したとされる。
何かされてことで欲を我慢できずに容赦しなかったわけだ。断られてカッとなってね。

裁判員裁判で行われるはずだった事件の初公判は、5月17日に予定されていた。
大林さんの弟は以前から「(被告に)自分のしたことの責任をしっかり取ってほしい」との思いを持っており、裁判を傍聴するつもりでいた。

今年3月には、検察官から被告が保釈されたと連絡があった。
同時に、検察官から「三佐子さんがどんな人か分かるような文章を書いてほしい」と依頼され、構想を練っていたところだった。
「(被告)本人や弁護人と話したことはない」。家族を含め、被告側からの謝罪がないことに釈然としない思いを抱えていた。

11日午後に記者に伝えられるまで被告が亡くなったことを知らなかったという弟は「急な展開で、正直言って言葉が出てこないし、(気持ちの)持って行きどころがない。なぜ保釈されたのだろう」と困惑した表情も浮かべた。

一方、大林さんが20代前半のころに所属していた広島市内の劇団主宰の光藤(みつふじ)博明さん(71)は、テレビのニュースで被告の死亡を知ったという。
「裁判で真実を知りたいと気になっていたが、誰も納得できない結果になった。ぷつんと糸が切られ、突き放されたような気持ち。
事件が起きたことと今回の被告の死で、2度いたたまれない気持ちになる」と残念そうに話した。【鈴木拓也、木原真希】

https://mainichi.jp/articles/20220412/k00/00m/040/070000c