肥満は高血圧や糖尿病の危険因子ですが、歩くのが速い人はそれらのリスクが緩和されるようです。
 太っていても歩くのが速い人は、高血圧や糖尿病、脂質異常症のリスクが低いことが、日本人を対象とした研究(*1)で明らかになりました。

歩くのが速い人は病気のリスクが低い、では肥満者では?

 健康診断の際に記入を求められる問診票には、「同年代の同性と比較して歩く速度が速いですか?」という項目がよく見られます。歩行速度が同年代の人に比べて遅い人は、心臓・血管系の病気や死亡のリスクが高く、逆に歩行速度が速い人はそれらのリスクが低いことが知られています。

 しかし、歩行速度を測定するためには、場所も人手も必要で、年1回の健康診断や人間ドックの際に、多くの人を対象に測定を行うことは容易ではありません。

 そこで同志社大学などの研究者たちは、「同年代の同性と比較して歩く速度が速いですか?」という質問への答え、つまり主観的な歩行速度と、高血圧、糖尿病、脂質異常症のリスクの関係を、肥満者を対象に調べることにしました。

 対象者を肥満者に限定したのは、肥満がある人はそうでない人に比べ、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)などのリスクが高いからです。

 対象にしたのは、京都市にある健診センターで2011年4月から2022年6月までに人間ドックを受けた40〜74歳の人々のうち、BMI(体格指数;25以上が肥満と定義される)が25.0以上だった8578人(平均年齢53.7歳、女性は37.0%)と、腹囲が基準値(男性85 cm、女性90 cm)以上だった9626人(平均年齢54.8歳、女性は20.2%)、および、これらの両方の基準を満たした6742人(平均年齢54.0歳、女性は26.0%)です。

 主観的な歩行速度は、健康診断の質問票の「同年代の同性と比較して歩く速度が速いですか?」という質問に対する回答(はい/いいえ)に基づいて判断しました。
歩行速度が速い人は糖尿病のリスクが29%低い

 歩行速度が遅かった集団を参照群として、歩行速度が速かった集団の高血圧、糖尿病、脂質異常症のリスクを、年齢、性別、運動習慣、喫煙習慣、飲酒習慣を考慮して分析しました。

 その結果、BMI25以上のグループでは、歩行速度が速い人の糖尿病のリスクは遅い人より29%低くなっていました。高血圧と脂質異常症のリスクも低下傾向を示しましたが、差は有意になりませんでした(表1)。

 腹囲が基準値以上だったグループでは、歩行速度が速い人は、高血圧のリスクが6%、糖尿病のリスクが28%、脂質異常症のリスクが3%低いことが明らかになりました。

 BMIと腹囲の両方が該当したグループでは、歩行速度が速い人の高血圧のリスクが5%、糖尿病のリスクが29%、脂質異常症のリスクが3%低いことが示されました。

 以上の結果より、肥満があっても主観的な歩行速度が速い人は、高血圧、糖尿病、脂質異常症のリスクが低いことが分かりました。この結果の因果関係を明らかにするためには長期間追跡を行う研究が必要ですが、「今回の結果に基づいて早歩きを奨励することは、特に肥満のある人において糖尿病や高血圧、脂質異常症の予防に役立つ可能性がある」との考えを著者らは示しています。