「夢」

「え……」


資料を拾いながら、船見さんが小さく呟いた。

こちらに背を向けているせいで、その表情は伺えない。
「独り言だと思って」と一言置いて、彼女は続ける。


「一ヶ月くらい前、夢を見たんだ」


なんの話だろう。
立ち上がった船見さんは手に持った紙の束を机の上で整え始める。
相変わらず背は向けたままだ。


「その日は雨が降ってた」


淡々とした口調。
私が作ったものと、船見さんが持ってきてくれたもの。
二つの資料を重ねて腕に抱えると、そのまま歩き出す。


「夢の中では私は……よっと」


抱えていたそれを先生の机へと置いた。

「ふぅ」と一息ついて肩をほぐす船見さん。
その姿から、目が離せない。


反転してこちらへ戻ってきた彼女は元の席へと座った。
二人、向き合う形となる。


「見たこともない部屋の中にいた」


船見さんは静かに語り始めた。
夕日に照らされた船見さんの表情は柔らかかったものの、その目は笑っていなかった。