お母さんは仕事からずっと帰ってこないんだけど
遊んでくれていたおじさんは立派な帽子を被った別のおじさんに連れていかれたんだけど
みさきはみさきみたいな境遇の子供が集まる施設に連れて行かれたんだけど
そこでの生活は当たり前のように楽しいこともあって嫌なこともある当たり前なものだったんだけど
私はそうやって大人になって、人を好きになったりして、付き合ったりして、別れて
男の人とも女の人とも、色んな人と付き合って
その出会いと別れにも、当たり前のように楽しいことと嫌なことがあったんだけど
でも私はお母さんが私の前からいなくなってから、誰かが本当に自分の傍にいることを実感したことはないんだけど
誰かと一緒にいて、どうしようもないくらいに辛い時も、跳び上がってしまうくらいに嬉しい時も
お母さんと過ごしていたあの頃みたいに、私と私以外の人とで心が通じ合ったかのような錯覚を感じることはなくなったんだけど
強い感情が溢れれば溢れるほど1人であることを意識する思いは強くなってしまうのだけど
きっと、私はお母さんが去って以来本当に誰かを信じることはできなくなってしまったんだけど
何も知らずに騙されていただけだったあの頃、周りから見ても今の私から見ても可哀想な女の子でしかなかったあの頃
私がみさきだったあの頃、でもその時だけが
みさきが心から他人を必要とできた時間だったんだけど