X



トップページあかり
431コメント203KB
ゆるゆりクトゥルフ [無断転載禁止]©2ch.net
0001名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:12:16.43
「……ここ、どこだ?」


気が付いたら見知らぬ場所にいた。

いつも通りの日常。

いつも通りの時間に目覚め、いつも通りに授業を受け、放課後はいつも通りに部室で京子たちと過ごした。
雨が降っていたので早めに解散し、帰宅後すぐにシャワーを浴びた。
買い物はしていなかったので夕食は買い置きのパスタを茹でて食べた。
ベッドの上でスマホをいじりながらだらだらしていたら眠くなって、それから……。


「ダメだ……思い出せない」


覚醒し切らない頭がもどかしい。
大きく息を吸い、吐き出す。

しっかりしろ、これは異常事態だ。
0002名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:14:41.39
「……まさか誘拐?」


誘拐だとしたら犯人の目的がわからない。
なぜわざわざ私を?
それに誰かに拘束されたような跡も……。


「って、あれ? なんで私、制服着てるんだ?」


ますます混乱してきた。
風呂上がりに着ていたのはごく普通のトレーナーだった。
それ以前に雨で濡れてしまった制服は乾燥機に入れたはずだ。


(あっ、そうだスマホ……)


制服のポケットを調べてみるが何もなし。
私は身ぐるみひとつでここにいるという訳になる。
まぁスマホがあったとしてもここに電波が通っているとは限らないのだが。


……誘拐説は、ひとまず保留しておこう。
0003名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:16:54.15
改めて周囲を見渡す。小さな部屋だ。

壁も床もコンクリート製、四方にはそれぞれ扉がある。
部屋の中央には古びた木製の長机と、それを挟むようにして木製の椅子が2脚。
天井からは大きめの豆電球がゆらゆらと部屋全体を照らしていた。


(落ち着け、落ち着け……何か情報を……)


私はテーブルの上に視線を向ける。
なにかが置いてあるようだ。

近づいてみると、そこには木製の皿に入った真っ赤な液体。
それと古びた紙片が2枚。


……液体が気になる、気になるけど、こっちが先だ。
私は2枚の紙片の内の1枚を手に取る。
0004名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:18:36.26
そこには文字が書かれていた。


『狭間へようこそ。
夜明けと共に迎えに行くからね。
現(うつつ)への切符は毒入りスープ。
美味しい美味しい毒入りスープ。
冷めないうちに、召し上がれ』


「はっ……ははは……」


なんだこれは。
冷や汗が止まらない。
頭がおかしくなりそうだ。


これは誰かのイタズラなんかじゃない。

なぜか確信めいて思えた。
どうしようもない程に雑で、それでいてバカみたいなスケールの大きさを持った……誰かの悪意。

それを、感じ取った。
0005名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:22:40.04
ヒラリ。
力の抜けた私の手から紙切れが落ちる。


迎えに来る? 誰が? 私を?
突然訪れた非日常。
そんなもの、私は望んでいない。


「あーもう! なんなんだよ!!」


とにかく、このままじっとしているのは不味い。
脳が本能レベルで危険を訴えかけて来ているのがわかる。

もっと情報を集めなければならない。
0006名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:24:51.46
気を取り直して私はもう1枚の紙片に目を通す。
どうやらこの空間の見取り図のようだ。


■□■
□□□
■□■


地図によると部屋は5つ。まとめると

今私がいる中央の部屋が『スープの部屋』

北にある白い扉の先が『調理室』

南にある小窓付きの分厚そうな鉄扉の先が『礼拝堂』

西にある木製の扉の先が『書物庫』

東にある錆びたボロ扉の先が『下僕の部屋』


とのことだ。
0007名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:28:18.41
続いてテーブルの上に置かれた皿に目を向ける。


(これが毒入りスープなのか?)


皿の中の赤い液体はほかほかと湯気を立てている。
どろりと濁ったそれはまるで……。


(……これを飲んで終わり、って訳にはいかないだろうな)


いきなり飲むのは早計だろう。
手で扇いで臭いを嗅いでみるものの無臭。
こいつはあと回しでいい。


となると次はそれぞれの部屋に向かうことになる。
しかし、明らかにヤバそうな名前の部屋が2つある。

礼拝堂と下僕の部屋だ。

どちらにせよ何かがいる気がしてならない。

特に南の礼拝堂は他の部屋と扉の造りがまるで違う。
厳重すぎるのだ。


しばらく考えてから私は比較的まともそうな西の扉、
書物庫から探索を始めることにした。
0008名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:31:19.40
木製の扉の前に近付き、聞き耳を立てる。
……特に物音はしない。


そっと扉を開ける。


書物庫の中は微かに明るい。
光源は小さな机の上に置かれた蝋燭のようだ。金色の燭台がよく目立つ。

四隅には本が山のように積まれた棚。
私はそこから適当な本を1冊抜き取り、パラパラとページをめくる。


「日本語、なんだな……」


どこかで読んだことがあるような童話。
手掛かりになるような事は書いていなさそうだ。


本を棚に戻し、改めて本棚全体に目星を送る。

本棚には数多くの本が収められているが、どれもジャンルはバラバラのようだ。
本の持ち主はきっと悪食なのだろう、統一感がまるでない。

いずれにせよ、ここから目当ての情報を見付けるのは骨が折れそうだ。
0009名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:34:44.00
(まずはオカルトとかそういうきな臭さそうな本を探してみようかな……背表紙だけ流し見る感じで)


結局地道な探索を続けることにした。

……ゲームなら一瞬で目当ての情報を見つけることが出来るんだろうな。
生憎不自然に光を放っている本などは見当たらない。


探索を始めてから10分程経っただろうか。

右手奥の棚から妙な本を見付けた。
どうも最近取り出された形跡がある。
背表紙になにも書かれていない、黒い本だ。
私はそれを本棚から抜き取る。


「!? なんだこの本、湿ってる……!」


嫌悪感から思わず手を離す。
その本はなにやら黒い液体にまみれていた。
液体からはほのかに甘い香りもする。

私は手にべっとりとついてしまったそれをスカートの裾で拭う。
ハンカチなど持っていないのだから仕方ない。


周囲を見渡すも本をつまめそうなものは見当たらない。
ゲンナリしながら私は再び本を手に取った。
0010名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:41:08.14
黒い本の題名は『スープの夢について』

ページのほとんどが白紙であり、最後の1ページにだけ以下の記述があった。


中央の部屋……美味しさの秘訣は隠し味。スープのレシピはメモの裏。

北の部屋……予備のスープが鍋にある。

東の部屋……良い子が待っている。良いものを持っている。

西の部屋……本を持ち出してはいけない。蝋燭は持っていける。

南の部屋……神が眠る。隠し味の資料がある。神の番人は供物を捧げなければいなくならない。

大事な事……人生は選択の連続である。死ぬ覚悟をして飲むこと。



……どれも重要そうな情報だ。
最初にここを調べたのは正解だったかもしれない。


私は蝋燭を持って書物庫を後にした。
0011名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 04:50:46.50
期待
0012名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 12:44:56.63
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど 同人 なもり                                                                                                                 
0013名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:36:43.15
中央の部屋へ戻り、テーブルの上に蝋燭を置いた。
必要になったら使えばいい。

黒い本によればメモの裏にはスープのレシピとやらが記されているらしい。
辟易しながらも私は先ほどメモを探す……が、見当たらない。


焦る。


慌てて周囲を見渡すとメモはすぐに見付かった。
なんて事はない。
床に落ちていただけだった。


(なにやってんだ、私は)


小さく咳払いをしてからそれを拾い上げる。
0014名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:37:30.94
そこにはこう記されていた。


『あたたかい血のスープ。
人間の血のスープ。
冷めないうちに、召し上がれ』


……まぁ予想はしていた。
考えないようにしていたが。
これを飲めと言うのか。

私はテーブルの上の皿に目をやる。

まだ湯気は立っていた。
先ほど調べた時には無臭だったはず。
しかし今ははっきりと鉄の臭いが感じられた。

頭が痛い。
0015名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:38:58.92
消去法で次は北の調理室に向かうことにする。

『スープの予備』も確認しておくべきだろう。

扉には取っ手は付いておらず押戸のような形になっていた。
一応室内に聞き耳を立てるが、物音はしない。
潔く突入することにする。
ゆっくりはしていられない。


調理室に入ってまず驚いたのは室内の明るさだった。

天井から無数の電球に照らされ真昼のように明るい。
周囲を見渡すと調理器具やガスコンロ、棚には食器や調味料の類いが積まれている。
ごく普通の調理場のようだ。
全体的に清潔な印象を受けた。


(パッと見で気になるところと言えば……)


ガスコンロの上の、蓋をされた大きな鍋。

堂々としすぎていて逆に怪しく思える。
普通に考えれば『予備のスープ』とやらはあそこにあるのだろう。
だがしかし……


「開けたくねー……」


あたたかい人間の血のスープ。
嫌な予感しかしない。
0016名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:41:57.68
コンッコンッ

軽く鍋の蓋を叩いてみる。
やはり何が入っているようなこもった音が返ってきた。

開けないわけにはいかないだろう。
覚悟を決めろ、しっかり気を持て。


「くそっ!」


私は半ばヤケになりながら蓋を開けた。


そこにあったもの。
『人間だった』もの。


千切れた四肢、

眼球、

裂かれた臓物、

底には真っ赤な血が貯まっていた。


「!!! うぇ!! オエエエエ!!!」


床に吐瀉物をぶち撒ける。

この状況は異常だとわかっているつもりだった。
皿に注がれた血液を見ても何とか耐えることは出来た。
しかし、しかし……

あまりに無残な光景に私の精神が削れていく。
0017名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:43:24.99
「はぁ……はぁ……ゲホッ……くそっ……」


結局私は数分間吐き続けた。

スプラッター映画とはまるで違う本物の悪意。
それに拒絶反応を抑えることが出来なかった。

口に残った胃酸の味が不快だったがここの水で口をゆすぐ気にもなれない。

私は不満をぶち撒けるかのように乱暴に鍋の蓋を閉めた。
そもそもこれは予備のスープだという。
出来ればもう……開けたくない。


改めて調理室の探索を続けることにする。
私は食器棚に目を向けた。
0018名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:44:51.71
棚の中には深めの大皿や小鉢、多種多様な食器が並べてある。

備え付けの引き出しを開けるとそこにはナイフやフォークがあった。
とりあえずナイフを1本、護身用に持っておくことにする。
……使わなければ、一番いいのだけれど。


一見なんの変哲もない食器棚。
しかしどうも不自然に思える点が一つだけ。


(そうだ、これって全部……)


食器、ナイフ、ティーセット……その他諸々。

そこにある全ての物が銀製だったのだ。

所有者の嗜好だとしてもあまりに徹底されすぎている……気がする。


(でもまぁ……今はそれだけかな)


食器棚はひとまず置いておくことにする。
行き詰まったらまた来よう。
0019名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:46:48.11
最後に室内をざっと見て終わることにした。

ほどなくして私は調理台の端に紙片を1枚見つける。
紙片落ちすぎだろ、ここ。

内容は以下の通り。


『大事な大事な隠し味。
残念、今は在庫切れ』


『隠し味』という単語をさっきからよく見かける。

文脈から察するにこれが『毒』なのだろう、多分。
在庫切れという言葉を信じるならそれはこの部屋にはないということにもなる。


どこかで『隠し味』を見つけ、中央の部屋のスープに入れて、飲む。


おぼろげだが探索の目的が見えてきたような気がした。
0020名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:50:54.68
中央の部屋へと戻り、しばし考える。
とうとう残る扉はこの2つだけとなってしまった。

南の『礼拝堂』には『神』と『隠し味の資料』と『番人』
東の『下僕の部屋』には『良い子』と『いいもの』


……どちらを優先すべきだろうか。

今一番欲しいものは『隠し味』、つまり毒だ。
そういう意味では礼拝堂を先にした方が良さそうに思える。


しかし、南の重厚な鉄扉を見るだけでゲンナリしてしまう。
一体あの中には何があるというのだろうか。
0021名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:52:30.70
(あの小窓、覗けるかな?)


南の扉の上部には小窓が付いている。
……鉄格子付きで。

いきなり突入するよりは安全だろう、私はそう判断した。

扉に近付き小窓から中の様子を伺うことにする。
聞き耳を立てるのも忘れない。


シュー……シュー……


!!!!

なにかが、聞こえる。

なにかが、いる。
0022名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:54:19.13
汗が吹き出す。
心臓の鼓動が早くなる。

私はとっさに屈んで扉の奥にさらに聞き耳を立てた。


シュー……シュー……


なにかの息遣いのような音。


ズル……ズル……


巨大ななにかが這いずりまわるような音。


涙が勝手に出てくる。
震えが止まらない。
中の音を聞いただけでこの有様だ。
本当にこのまま、中の様子を覗いてしまってもいいのだろうか?


『夜明けとともに迎えに行くからね』


時間に限りがあるのはわかっている、立ち止まっている暇はない。

しかし、私の心は……。


私の心は、中にいる『それ』を見ても耐えられるのか?
0023名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:57:43.98
怖い。
部屋の中に手掛かりがあるんだ。


怖い。怖い。
私はこの部屋の中に入らなくてはいけないんだ。しっかりしろ。


怖い。怖い。怖い。
中になにかがあるのは確実なんだ。覚悟を決めろ。



静かに立ち上がる。

私は、

小窓から、

部屋の中を、


覗いた。
0024名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 14:59:08.31
闇。


部屋の中に光源はないようで他には何も見えない。


シュー……シュー……


音は絶え間なく聞こえてくる。


目が暗闇に慣れて来ると、ぼんやりと何かが浮かび上がってくる。


ズル……ズル……


音は絶え間なく聞こえてくる。


蛇。


蛇だ、あれは。

背には一本の翼。

ゆうに私の5倍はあろうかという、巨大な蛇と……


目が、合った。
0025名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:00:41.87
蛇に睨まれた蛙。


昔の人は上手いことを言ったもんだ。


圧倒的な強者と、弱者。


身体が、動かない。

声が、出ない。


それが数秒だったのか数時間だったのかはわからない。


私を値踏みするように見つめていたそれはふいに視線を外すと、



そのまま部屋の奥へと消えていった。
0026名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:02:22.78
瞬間。

金縛りが解けたかのように身体の自由を取り戻す。

扉からゆっくりと後退り、部屋の中央まで戻る。
そのまま、倒れ込んだ。


無理だ。


あれが『神』なのか『番人』なのかはわからない。
わからないが、あんな化け物がいる部屋に入れるはずがない。

目前まで迫った濃密な死の臭い。
もはや手掛かりどころの騒ぎではない。


ポケットの中をまさぐり、銀のナイフを取り出す。
部屋の明かりを反射して光を放つナイフ。
こんなものでは、どうしようもないだろう。


私はポイ、とナイフを投げ棄てた。
0027名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:04:19.61
これからどうしようか。

夜が明けたらあの蛇がやって来るのだろうか。


(そうなったら、終わりだろうな……)


なぜこんなことになったのだろう。
私がなにかしたか?
誰でもいい、答えてくれ。


(京子……あかり……ちなつちゃん……)


いつも通りの日常を終え、いつも通りに明日を迎えるはずだった。
突然こんな部屋に連れてこられて……私は……私は……



両腕に力を込め、それを支えに立ち上がる。
もう充分に休んだ。

まだ探索していない部屋があるだろうが。
弱音を吐くのはまだ早い。


「絶対に……帰ってやる……」


虚勢でもいい。
とにかく声にしたかった。
0028名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:06:53.85
残った部屋は1つだけ。『下僕の部屋』だ。

一番ヤバいやつはさっき見た。
今さら何が出て来ても驚かない。


東の扉は錆びた鉄の扉だ。
扉の前までやって来たとき、新たな事実に気づく。


「南京錠……」


扉は施錠されていた。
今までの探索で鍵のようなものは見付けられなかった。

どうしたものかと南京錠に触れてみる。

……ボロい、経年劣化だろうか。
これならそれなりの衝撃を与えれば壊せるかもしれない。


周囲を見渡す。……あった。
私は先ほど棄てたばかりのナイフを再び拾い上げる。


(叩き壊すというよりは……こう……)


ツルの部分にナイフの刃をねじ込み、捻る。
バキッという音とともに南京錠は呆気なく役目を終えた。
0029名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:09:04.38
南京錠を床に置き、ナイフはポケットにしまう。

自棄になり投げ棄てたものだが、こんなものでも無いよりはマシだ。
やはり持っておくことにしよう。

続いて聞き耳。……物音、なし。

私は扉を開けた。きしむ鉄音が耳障りだ。


中は真っ暗だった。
中央の部屋の光も届かない。


(あ、そうだ蝋燭……)


今まで存在を忘れていた。
あれを使えば難なく探索出来るかもしれない。

踵を返し中央の部屋まで戻ろうとした時、


ヒタ……ヒタ……


足音。
0030名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:12:45.96
素早く扉から離れ、向かいの書物庫の扉の前まで走る。
下僕の部屋とは真ん中にテーブルを挟んだ形になった。


ヒタ……ヒタ……


(近づいてくる……!?)


私はポケットからナイフを取り出し、身構えた。

戦えるか戦えないかではない。やらなければやられるんだ!
身体の震えを押し殺し、目の前のそれに意識を集中させる。


ヒタ……ヒタ……


中央の部屋に近づくにつれ、徐々に姿形があきらかになる。


暗闇の中から現れたのは、酷くやつれた姿の少女だった。
0031名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:14:37.10
アルビノ、というやつだろうか。


白い髪に白い肌。
年齢はまりちゃんと同じか、少し上くらい。
小さな女の子。

部屋の明るさに少女は赤い目を細めていた。


「…………」

「…………………」


少女としばし見つめ合う。


「……あなたは、敵なの?」

「…………?」


私の問いに少女は首を傾げる。
この仕草を京子が見たら喜ぶかもしれない。



少女が血にまみれた白いローブを纏い、手に拳銃を持っていなければ……の話だが。
0032名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:20:16.23
豆電球に照らされた狭い部屋。

そこには二人の女。
一人はナイフを、もう一人は拳銃を手に対峙。
この状況はなんなのだろう。


「…………」

「…………」


少女はじっとこちらを見つめている。
今のところ、襲いかかって来る様子はない。


「えっと……私の言ってること、わかるかな?」


ならば、と質問を変えてみる。
言葉が通じるなら何とかなるかもしれない。

少女はコクンと首を縦に振る。
通じた!


「手に持ってるそれ、置いてくれないかな? 私もこれ、しまうから……」


ナイフをポケットへとしまう。
……少々軽率かもしれないが。


間を置かず少女も拳銃をゴトリと床に落とした。


「…………」

「…………」


再び見つめ合う二人。
この状況はなんなのだろう。
0033名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:24:16.23
黒い本によればあの部屋には『良い子』と『いいもの』があるらしい。
この少女が『良い子』なのだろうか。


「えーっと……あーっと……ごめん、聞きたいことが多すぎて何から聞いていいのかわかんないや……」


まだ頭が混乱してるのかもしれない。
誰かと話をすること自体が随分久しぶりのような気がする。


そんな私の様子を見て少女は少しだけ笑った。
二人の間の空気が和らいだ気がした。


少し考えた後、今度は私の方から少女に近付く。
0034名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:26:51.45
少女の側まで行き、目線を合わせるようにして屈む。


「私は結衣。あなたの名前は?」

「…………」


困ったようにこちらを見つめる少女。


「……もしかして、喋れないの?」

コクン。
肯定。

……喋れないとなると、質問の内容は限られるかな。

少女は申し訳なさそうな表情でこちらを見ている。
頭を撫でてみる。


「…………」


されるがまま。
かわいい。


なでなで。なでなで。なでなで。


「…………♪」


嬉しそうに顔を綻ばせる少女。
かわいい。
0035名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:30:04.66
時間を忘れ少女と戯れたくなる衝動をなんとか抑えた。
質問を続ける。


「あなたはどうしてここにいるの?」

困ったような顔。


「あの拳銃は使ったの?」

フルフル、否定。


「そのローブの血は?」

少女はキョトンとしたあと自分が着ている服を見て……固まる。
ベットリとついた血痕に驚いた様子。
今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ている。


「ご、ごめん! よしよし、いい子いい子……えーっと、じゃあ毒入りスープってなんの事だかわかる?」


かわいそうだが質問を止める訳にはいかない。
再び頭を撫でながら聞く。
フルフル、否定。


「そっか……あなたが居た部屋に『いいもの』があるらしいんだけど、中に何かあるの?」


少しの沈黙。
コクン、控えめな肯定。


……なんだろう。
やはり部屋の中にはなにかがあるようだ。
0036名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:34:54.76
私は少女への質問を一旦切り上げることにする。

暗い室内を調べるには光源が必要だ。
蝋燭を持っていこう。
そう思いテーブルの上の蝋燭を見て、気付く。


短くなってる。


見つけた時は火を着けたばかりのそれに思えたが、今は半分よりも少し下くらいの長さだ。

時間は、確実に経過している。

私の不安を悟ったのか、少女は心配そうな表情で私を見る。


「……大丈夫だよ」


そう言って軽く笑ってみせる。
自分にもそう言い聞かせるように。

コクン。

頷いてから彼女は私の横に並ぶ。
ついてきてくれるようだ。


「ははっ……じゃあ私が少し先を歩くから、あなたは後ろからついてきて」


コクン。

蝋燭は左手で持とう。探索開始だ。
私と少女は闇の中へと足を進めた。
0037名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:37:51.20
部屋の中は思ったよりも奥行きがある。
そこそこの広さだ。

コンクリート製の天井と壁。
中央の部屋と同じような造りだが、目に見える範囲に特に気になるものはない。

クイッ。
少女に制服の裾を引かれる。


「…………」


部屋の左奥を指差す少女。
なにかあるのだろうか。

少女の案内を頼りに足を進める。


……見えた。黒い影。


明かりに照らされ明らかになったそれ。
首から上がない、男の死体だった。


(うお…………)


後ろの少女を見やる。
申し訳なさそうな表情。
さっきの控えめな肯定の答えはこれか。


なんにせよ、これが『いいもの』には到底思えない。
0038名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:40:39.93
(調べなきゃ、ダメだよな……)


蝋燭の火を頼りに死体へ目星を送る。

死体を見つけ驚きはしたものの、大きく取り乱すようなことはなかった。
この短時間で異常事態への耐性が付きつつある自分が恐ろしい。


男が着ていたのはごく普通のワイシャツとスラックス。
ワイシャツには男のものだと思われる血液が付着。
年齢は……ちょっと判別が付かない。
中年の男だと思う。


男が死んでからそれなりの時間が経っているのだろう。
ワイシャツに着いた血液はドス黒く変色していた。


「この人、誰だか分かる?」


私の背に隠れるようにしていた少女に尋ねる。
死体への目星を続けながらの質問なので少女との目線は合わせない。


フルフル、首を横に振る気配。
0039名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:42:31.21
「……あなたがやったの?」


一瞬の間。
フルフル、首を横に振る気配。


「……そっか。ごめんね、変なこと聞いて」


かなり踏み込んだ質問だが聞かずにはいられなかった。
沈黙を誤魔化すように私は目星に集中する。


しばらくして男の右手が握り拳になっていることに気がついた。
……触りたくない。
触りたくはないが、今さらそんな事は言っていられない。

死後硬直の影響だろうか。 
男の指は固く閉じられている。


(冷た……くそっ…………!)


蝋燭を床に置き、両手を使って男の指をこじ開ける。
男が握っていたのは1枚の紙片だった。
0040名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:45:16.94
蝋燭の側でくしゃくしゃになった紙片を開く。
そこには文字が書かれていた。

……この男が遺したものなのだろうか。

手書きだったが筆跡は乱れておらず、問題なく読み取れる。
内容は以下の通りだ。


『それは名前もない貴方の下僕です。
言われたことは嫌でも絶対に従います。
無口だけど人懐っこい良い子なので、
可愛がってあげてください』


私は少女を見る。
少女は黙って私を見つめ返す。


「……出ようか」


メモをポケットに仕舞い、蝋燭を手に取り立ちあがる。
そして、右手で少女の左手を握った。

一瞬驚いた様子の少女だったが、小さく笑ったあと、私の手を握り返してくれた。


二人で並んで部屋を出た。
0041名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:49:01.71
中央の部屋へ戻ってきた。
少女をイスに座らせ、私も向かいのイスに座る。

チラリ。

床に落ちた拳銃に目をやる。
少女が最初に持っていたものだ。


あれが『いいもの』なのか?


正直、『いいもの』とは毒そのものの事だと思っていた。

礼拝堂を除いて調べられる場所は全て調べたはずだ。
なのに、それらしいものは未だ見つかっていない。


……やはり、礼拝堂に入るしかないのだろうか。

拳銃で武装したとして、あの蛇に勝てるかどうかを考えてみる。

鱗はかなり堅牢そうに見えた。
そもそも私は拳銃など撃った事がない。
運良く命中させたとして、ダメージが通るかどうかすら怪しい。
身体を撃たれた蛇は当然怒り狂うだろう。
そして、怒りのまま、私を……。

目前まで迫った死の恐怖を思い出す。身震いがした。


(…………うん、無理だ)


交戦は絶対に避けるべきだ。
これは決定事項。
0042名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:52:21.90
振り出しに戻った。
テーブルの上の蝋燭は更に短くなってる。
時間が、惜しい。


(今までの情報を思い出せ……なにか見落としはないか?)


最初に調べたのは書物庫。
そこで見つけた本にはそれぞれの部屋の説明が書いてあった。


(南の礼拝堂には毒の資料があって……神が眠ってて……それから番人が……)


脳に電流が走る。
なぜ今までその記述を忘れていたのだろうか。
その項目の最後の一文。


『番人は供物を捧げなければいなくならない』


やめろ。


私は、なにを、考えている。
0043名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:54:54.71
供物とはなんだろうか。
やめろ。


鍋に詰まったバラバラ死体?
やめろ。


東の部屋には男の死体があった。
やめろ。


そして、もう一人……。
やめろ!!!!


『それは名前もない貴方の下僕です。
言われたことは嫌でも絶対に従います』


「ああぁあぁあぁああああ!!!!!」


バラバラにされた死体を見てすこぶる吐いた。

圧倒的な存在を前に死を覚悟した。

緊張と混乱の連続。極限状態。



私の精神は、限界だった。
0044名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 15:59:56.75
少女が怯えている。
目の前の人間が突然叫び出せば、そうなるだろう。


私はスッと立ち上がる。
少女は今にも泣き出しそうな顔だ。


私は少女と見つめ合う。
私を気遣うような、心配するような、視線。


私はポケットに手を入れる。
冷たい感触。
少女の顔は……よく、わから、ない。



私はナイフをとりだす。
わたしは、ナイフを……
0045名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 16:00:53.80
ぐさり。

血。


ぐさり。

血が出ている。


ぐさり。

血が出ている。


声にならない少女の悲鳴。



少女は私に詰め寄る。

それを振りほどこうとして、
私はその場に崩れ落ちる。


ナイフは私の足に深々と突き刺さっていた。


意識が遠のく。
血が、出ている。
0046名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 16:39:31.50
見てる
0047名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 17:01:49.72
すげえな
0048名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 17:04:52.97
これクトゥルフなの?
0049名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 17:45:28.38
「結衣せんぱーい! お茶のおかわり淹れました!飲んでください!」


「あぁ、ありがとう」


「ちなつちゃんちなつちゃん! 私の分は!?」


「最初に淹れてあげたじゃないですか……あとは自分でやってください」


「えぇー!? やだやだ! ちなつちゃんが淹れてくれたお茶じゃないとやーだー!」


「おいこら。あまりちなつちゃんを困らせるなよ」


「結衣先輩……! 私の事を想って……!」


「ちぇー! じゃあこっち飲ーもう! いただきまーす!」


「んん!? それあかりのお茶だよねぇ!?」


「こら京子! まったく……」
0050名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 17:48:29.06
………
……



全てが夢ならよかったのに。
左ももの鋭い痛みで私の意識は覚醒した。


「…………!」


傍らには白い少女。
私に寄り添うようにして涙を流している。

ももの付け根は白い布で止血がされてあった。
ローブの切れ端だろうか。
この少女が、手当てをしてくれたようだ。

意識を取り戻した私に気付いた少女は、私の胸に頬を寄せ、泣いた。
少女に抱擁される形となる。


「ごめん……ごめんね……私、よく分からなくなっちゃって」


そっと少女の頭を撫でる。
少女の涙は止まらない。


バカなことをした。
自暴自棄になり、自分で自分の身体を傷つけた。
自分の心の弱さが嫌になる。

そんな私をこの少女が救ってくれた。


「………………!!」



必ず、ここから脱出する。
私一人でじゃない。
少女と、二人で。
0051名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 17:53:11.37
「っ…………!」


痛みはあるが、なんとか立ち上がることが出来た。
自分でやったことだ。弱音は吐けない。

少女は気が気でないといった表情で私を見つめている。
私の身体にくっついて離れようとしない少女を離れさせるのには苦労した。


そのままよろよろとした足取りでイスへ向かい、座る。
少女は向かいのイスには座らず側にいてくれるようだ。
心配させてばかりで申し訳ないと思う。

テーブルの上の蝋燭は4分の1程度の長さになっていた。

気絶していたのは10分か、20分か。

なんにせよ、時間はあまり残っていないと見るべきだろう。


『礼拝堂』の探索は諦めよう。
現状あの蛇をどうにかする手段はない。
例えそれが間違った選択だとしても、私は少女を犠牲にしての生還は望んでいない。

必ず二人で脱出するんだ。
0052名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 17:55:47.85
頭の中でグルグルと思考を巡らせる。
今まで探索の結果を振り返る。


書物庫には黒い本と蝋燭。

調理室にはバラバラ死体と銀食器。

礼拝堂には蛇。

下僕の部屋には少女と首のない死体。ついでに拳銃。


どうすればいい?
このまま八方塞がりなのか?


私のことなどお構い無しに蝋燭は燃えつづける。
0053名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 17:57:40.67
「ふぅ……」


小さく息を吐く。
傍らの少女は不安げな表情で私を見つめている。


(ほんとに小さな子なんだな……)


改めてそう思う。
年齢は私よりもずっと下。
やつれていることもあり、儚げに見える。


「………?」

「あぁ、なんでもないよ。ごめんね」


まりちゃん、元気かな。

先日まりちゃんを連れファミレスへ行った時の事を思い出す。
限定のミラクるんグッズが貰えるとかで。京子の提案だった。
みんなでデザートを食べて……楽しかった。
まりちゃんもグッズを貰えて嬉しそうにしてたっけ。
……その後ひと悶着あったのだけれど。


考えてみれば、今私たちが置かれている状況もちょっとしたお食事会と言えるのかもしれない。

メニューは美味しい血のスープ。
アホか。
0054名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:01:13.57
思えば二人の姿はボロボロだ。

少女のローブは最初から血にまみれていたが、今はその上に私の血も付いてしまっている。
もはや赤いローブに白い模様がついている、と言った方が正しいのかもしれない。

私も私でブラウスは血で真っ赤。
血の海に倒れ込んだのだから当然だろう。
元々赤い色をしている制服部分も酷いことになっている。
足から血を流したのだからスカートは特に悲惨だ。
これは洗っても落ちそうにない。


(あれ?)


小さな違和感。

なんだろう、胸騒ぎがする。


スカートの裾に付着した、血ではない色。違う色。

黒。

こんなもの、いつ付いたのだろうか。

なにかを拭ったような、掠れた黒。


あぁ、そうだ……これは…………。



「あったじゃないか……! 得体の知れないもの……!」


絶望的な状況の中で、一筋の光明が差した。
0055名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:05:51.60
私はイスから立ち上がった。

すかさず少女が腰にしがみ付いて来る。
彼女はキッとした視線を私に送る。


「…………!」


「座ってろ」という事なのだろうか?
だが、聞いてはいられない。時間がない。

私は少女の目を見て言う。


「今からちょっと忙しくなるんだ。でも私は足がこんなだから……あなたも手伝ってくれる?」


沈黙。
もう何度目のやり取りだろう。


しばらくして、少女はゆっくりと腰から離れる。


コクン。


私の目を見て、力強く頷いた。
0056名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:08:42.84
目的地は書物庫。

だがここにきて本に書かれていた誓約に引っ掛かる。

『本を持ち出してはいけない』

ならばと私は少女に言う。


「あそこの部屋に行って、棚からお皿を1枚持ってきてくれるかな? 下の方の棚ならあなたでも届くと思うから」


コクン。

少女は調理室の方へ駆けて行った。

私も動かなくては。

テーブルの上の蝋燭を持ち、歩き出す。
足の痛みに眉をしかめる。
弱音を吐くな、歩け。



扉の前まで歩いた私はそのまま木製の扉を開ける。
あるはずの光源を無くした室内はうす暗かった。
0057名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:11:44.24
向かうは右手奥の棚。
蝋燭の明かりを頼りに進む。


「あった……」


棚から黒い本を取り出す。
本は相変わらず黒い液体で湿っていた。


(後は、これを……)


続いて少女が室内にやってきた。
腕には大事そうに銀の皿を抱えている。
グッドタイミングだ。


少女から受け取った皿を床に置き、その上から本をかざす。


ポトリ、ポトリ


銀の皿へと黒い水滴がしたたり落ちる。
……なんとか上手く行きそうだ。
0058名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:13:29.75
変化はすぐに起きた。

まばゆいばかりの輝きを放っていた皿が、黒く変色しだしたのだ。
それもただ変色しただけではない。
黒い液体の通った跡にだけ、変化が起きている。


……そういえばどこかで聞いたことがあるような気がする。
銀は古来より毒味に使われていた事を。


(なんで今さら思い出すのかなぁ……)


自分のバカさ加減にうんざりだ。
無事に帰れたのなら少しは勉強することにしよう。


しばらくして皿には充分な量の液体が溜まった。
黒い液体。
これが、毒だ。
0059名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:16:54.51
少女とともに書物庫を出る。
液体入りの皿は少女に持ってもらった。


再び中央の部屋。
テーブルの上に銀の皿と蝋燭を置く。
一息付きたいところだが休んでいる暇はない。

少女の方を見やると

「次はなにをすればいいの?」といった表情。

その姿に少し癒される。
やる気は十分のようだ。



少女を連れ今度は調理室へと向かう。

部屋に入ると私は早速棚の物色を始めた。
必要なのは大皿が1枚、小皿が2枚、おたまが1つ、スプーンは……とりあえず5本ほど。

小皿2枚は少女に頼んで中央の部屋へと持っていって貰う。

そのまま部屋で待っていてくれ、と頼むと少女はもの凄い顔をした。
不安と恐怖と悲しみをごちゃごちゃにしたような。そんな顔。

「必要なことだから」と私は少女を抱き締めて諭す。

少女は渋々といった様子で了解してくれた。
0060名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:20:18.09
私は手に大皿とおたまを持ち、よろよろとガスコンロの方へ向かう。


(息は止めておく。そしてなるべく血以外の物が入らないように……)


頭の中でシュミレーションする。
この作業だけは少女にやらせる訳にはいかない。

私は意を決して鍋の蓋を開けた。


バラバラ死体! 無視!
血液掬う! 早く早く!
蓋閉める! 終わり!!


乱暴に蓋を閉められカラカラと音を立てる鍋。
作業を終え、私は大きく深呼吸をした。

……少女のもとへと戻らなくては。
0061名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:22:42.61
中央の部屋へと戻ってきた。
手には大皿に注がれた血液。


私の姿を見つけた少女に抱きつかれそうになるが、目で制止を掛ける。
気持ちは嬉しいけど、今は不味い。

少女はなんとか踏み留まってくれた。
……シュンとしないで。お願いだから。

テーブルの上に大皿を置く。
ポケットに入れておいたスプーンもすべて置いた。


「これで全部かな……」


隣で居心地悪そうにしていた少女を抱き寄せる。
少女は腕の中で嬉しそうに目を細めた。
0062名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:24:44.53
最初から部屋に置かれていた赤いスープ。
木製の皿に入っている。

ついさっき私が持ってきた赤いスープ。
こちらは銀製の大皿に入っている。

どちらも同じものだろう。
人間の血液だ。


私は二つのスープを一つの皿へとまとめることにする。
木製の皿のスープを大皿へとくわえ、それを銀のスプーンで混ぜ合わせる。

大皿とスプーンに変化はない。



次に書物庫から持ってきた黒い液体。

液体が入った銀の皿は既に黒く変色しているが、一応確認。
新しいスプーンを黒い液体に浸してみる。


みるみる内に黒ずむスプーン。
やはり銀は毒味に使えるらしい。
0063名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:28:23.55
さらに黒い液体を大皿へと流し込む。
大皿にはなみなみと液体が注がれている。
深めの皿を選んでよかった。


私は新しいスプーンでそれをかき混ぜる。
大皿とスプーンは黒く変色していく。


(毒入りスープの出来上がり、ってね……)



最後に私は大皿のそれを2枚の小皿へとそれぞれ移し替えた。

小皿に入った毒入りスープ、二人前。

それもスプーンで確認。黒く変色。


これで全ての準備は整った。
0064名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:31:10.78
私はテーブルの上の蝋燭に目をやる。
蝋燭はもう1センチ程の長さしか残っていなかった。
本当にギリギリだったらしい。


私は少女と向き合う。


「私は、これまでに見付けた手懸りから、このスープを飲めば元の世界に帰れるんじゃないかと思ってる」

「…………」


「薄々気付いてたかもしれないけど、さっきの黒い液体。あれ、毒だ。飲んだら死んじゃうかもしれない」

「…………」


「それでも、私はこのスープを飲もうと思う。元の世界に帰りたいから。それでね……私は、あなたにもこのスープを飲んでもらいたい」

「…………」


「これは頼みじゃなくて……願い。あなたがスープを飲みたくないのなら、そう言って欲しいの。あなた自身の思いを、聞かせて欲しい」

「…………」


伝えたい事はすべて伝えた。

メモに書いてあったことが本当なら、少女に飲めと一言命令すれば飲んでくれるのだろう。
自分の意思とは無関係に。

でも、それではダメなんだ。

私を救ってくれた少女。


この子自身の意思で、決めて欲しい。
0065名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:34:57.06
私との目線を外し、俯く少女。

小さな身体は震えていた。

怖いのだろう。
当たり前だ。私だって怖い。


沈黙。
時間は無常にも過ぎていく。


テーブルの上の蝋燭はもうボタン電池ほどしか残っていない。
……タイムリミットだ。


「ありがとう……あなたに会えてよかった」


少女を一人残していくのは忍びない。

しかし、スープを飲みたくないのならそれでいいと思う。
それが少女の選択なのだから。
それを責める権利なんて誰にもない。


願わくば、少女が無事に帰れますように。
0066名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:37:30.75
立ち上がり、少女に背を向けた瞬間。
スカートの裾をギュッと掴まれる。

私は振り返る。

少女は泣いていた。

涙で顔をめちゃくちゃにしながら、


コクン。


一度だけ頷いた。



私は少女を抱き締める。


「……ごめんね……ありがとう……」


私も、泣いていた。
0067名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:40:03.99
二人は並んで皿を持つ。

少女の様子を伺う。目が合う。

少女は小さく笑った。私も頬笑み返す。


そして一気に、

スープを、飲み干した。


瞬間。


呼吸と心拍が激しくなっていく。

身体中の血液がグツグツ煮えたぎるような感覚。

立って、いられない。

頭が痛い。胸が痛い。全身が、痛い。

隣の少女も苦しそうに悶えている。

私は力を振り絞り、少女を傍らへと寄せる。


しばらくもがいたあと、やがて少女は動かなくなった。


(ごめんね……)


わたしも……もう……げん……か…………



視界が真っ白に染まり上がる。
0068名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:43:15.63
………
……



ここはどこだろう。
白い。白くて、なにも見えない。


『 見 事 だ ! 』


吠えるような、声。


『 勇 敢 な る 者 よ ! 』


『 現 へ と 還 る が い い ! 』



最後に、そう聞こえた。



……
………


次に目が覚めたとき、私は自室のベッドの上で横になっていた。
0069名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:47:27.93
………
……



あの奇妙な夢を見た日から既に2週間以上が経つ。

夢から覚めた私はまず最初に自分の足を確認した。
ナイフでグサグサに刺したはずの左もも。

しかし、そこには傷ひとつ付いていなかった。


「……ふぅ」


結局その日は学校を休んだ。
雨に濡れたせいで体調を崩して……担任にはそんな説明をした気がする。
実際体調はすこぶる悪かったのだ。バチは当たらないだろう。

夕方見舞いにやって来た京子たちの姿を見て、不覚にも泣いてしまった。
珍しく綾乃と千歳も来ていて、それがまた嬉しかった。
……泣いている私を写真に撮ろうとしていた京子にはゲンコツをお見舞いしておいたが。


翌日からは普通に学校へ行った。

いつも通りの日常。
いつも通りの時間に目覚め、
いつも通りに授業を受け、
放課後はいつも通りに部室で京子たちと過ごす。

かけがえのない、そんな日常。
0070名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:50:35.91
まりちゃんにも会いたくなった。
おばさんの家に電話を掛けると、ちょうど今度の日曜にまりちゃんと遊んで欲しかったそうだ。
私は二つ返事でOKした。


今日がその日曜日。
私はまりちゃんと二人で近所の公園にやって来ていた。


小さい子供はパワフルだ。
たっぷり遊んだはずなのにまだまだ遊び足りないという。
今は公園にいた同年代の子供たちの遊びに混ぜて貰っている。
……私はというと、疲れ果ててしまいベンチで休憩中。


(体力には結構自信があったんだけどな……)


なんとなく、左ももを撫でてみる。


「おねーちゃーん!」

「ん? はーい」


まりちゃんが戻ってきた。
そろそろ日が暮れる、おばさんもまりちゃんを迎えに来るだろう。


「もういいの?」

「うん!たのしかった!」


とびきりの笑顔。
私は「よかったね」とまりちゃんの頭を撫でる。
0071名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:53:37.63
まりちゃんはくすぐったそうに顔を綻ばせる。


「はじめてみる子となかよくなったの!その子とずっとあそんでた!」


誰とでもすぐに打ち解けられるというのは子供の特権かもしれない。
私は、それを少し羨ましく思う。


「へぇ、どんな子だったの?」

「うんとねー! しろい子!すっごくかわいかった!」


頭を撫でる手がピタリと止まる。

白い子?

私はまりちゃんに詰め寄る。


「ま、まりちゃん!? その子は今どこにいるの!?」

「? もうかえったよ? まり、ばいばいーしたもん」


脳裏に浮かぶのはあの少女。
慌てて公園を見渡す。
夕暮れ時だ。
既に公園内の人の姿もまばらになっている。


それらしき姿は、見当たらない。
0072名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:55:53.29
「おねーちゃんもあの子とあそびたかったの?」


「うん、そうだね……その子は何か言ってた?」


「おねーちゃんをみてやさしそうっていってた! まり、じまんのおねーちゃんだっていったの!」


「! そっか……そうなんだ……」



「えへへー! ? おねーちゃん、ないてる? おなかいたい?」


「…………ううん、大丈夫。なんでもない……なんでもないから……」


「おねーちゃん……」
0073名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:57:20.37
あの出来事が夢だったのか、それとも現実だったのか。

それは今でもわからない。

しかし時間が経てばすべてが記憶から消えていくことだろう。


恐怖も。

痛みも。

少女のことも。


私の異常体験は終わったのだ。


今はただ、いつも通りの日常を、大切にしたい。

そう思った。
0074名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 18:58:08.67
探索者名:船見結衣

探索結果:生還

クリアボーナス:SAN値+10

クリアボーナス2:SAN値+6(条件:少女の生存)



原作
クトゥルフTRPGやろうずコミュ
泥紳士様制作 『毒入りスープ』

0075名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 19:15:23.15
結衣のステータスしりたい
0076名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 20:07:30.60
クトゥルフ知らんが面白かったで
0077名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 20:08:17.42
おつ
0078名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 20:59:40.00
窓に!窓に!
0079名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 21:14:31.60
いあ!いあ!ゆるゆり!
0080名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 21:16:18.00
わきが!わきが!
0081名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 21:27:24.98
こんなとこまで沸くなよ
0082名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 22:31:37.93
ちなつ編、京子編、あかり編の順で頼む
0083名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 22:35:34.69
安価スレ希望
0084名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 23:31:21.34
おもしろかった
0085名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 23:46:04.31
あかりちゃん即発狂しそう
0086名無しの七森
垢版 |
2016/09/13(火) 23:50:26.48
SAN値低そう
0087名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 00:16:23.66
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど 同人 なもり                                                                       
0088名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 00:38:38.94
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど 同人 なもり                                                                                                               
0089名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 05:09:48.35
ワキガ編も是非頼む
0090名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 14:40:17.15
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人                                                                                                                       
0091名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 16:32:14.13
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人               
0092名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 16:50:22.48
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人                                               
0093名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 17:33:10.77
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人                                                                                                         
0094名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 22:38:07.50
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人                                               
0095名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 22:42:42.55
毒入りスープ面白いよな
簡単なセッションに見えて黒幕かなり大物だし
0096名無しの七森
垢版 |
2016/09/14(水) 23:51:14.67
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人                                                                                                                             
0097名無しの七森
垢版 |
2016/09/15(木) 01:00:19.13
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人                                    
0098名無しの七森
垢版 |
2016/09/15(木) 02:08:29.67
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人                                                   
0099名無しの七森
垢版 |
2016/09/15(木) 03:12:20.63
「ありがとうございましたー」


目当ての参考書を購入し、本屋を出た。
その瞬間、むわっと伝わる湿気。
このところしばらく雨が続いており、ジメジメと不快で仕方がない。
空調がきいた店内に少々後ろ髪を引かれる。


(ひと雨、来るかもしれないわね……)


東の空に黒い入道雲を見つけた。

たまの晴れ間を見計らい買い物に出たものの、どうやら雨はまだ続くようだ。
鞄に入れた折り畳み傘を確認する。


使わずに済めばいいのだけれど。
0100名無しの七森
垢版 |
2016/09/15(木) 03:15:07.30
つい先日も船見さんが雨に打たれ体調を崩したという。

私も歳納京子に連れられ、見舞いに行った。千歳も一緒に。
出迎えてくれた船見さんは思っていたよりも体調が悪そうだった。
熱はもう下がったと言ってはいたが、酷く疲れているように思えた。

……歳納京子は、構わず騒いでいたのだけれども。
結局最後には船見さんにゲンコツを食らっていた。
あれが幼馴染の距離感というものなのだろうか。


(……って、なに考えてるのよ、私は!)


歳納京子のことなんて、今はなにも関係ないじゃないか。


とにかく、見舞いに行っておいて自分も同じように風邪を引いたとなればいい笑い者だろう。

私は足早に帰路に着いた。
レスを投稿する


ニューススポーツなんでも実況