「あんた、私の部屋に勝手に入ったでしょ!」
俺の部屋のドアをノックもせずに開けるなり、姉貴は大声で怒鳴った。
「いや、俺じゃないよ、大体姉貴の部屋に用事なんてないもん」
「そんなはずないわよ、私の、その……」
「その、何だよ?」
「の、ノートよ、ノート! 机の上にあったノートがないの!!」
「知らねーって、そんなの、姉ちゃんがごっか置いてきたんじゃないの?」
「……もう、当てにならないんだから!」
姉貴はそういい残すと、ドアも閉めずにさっさといってしまった。
相変わらず騒々しいな。
俺は気分転換に何か飲もうと、台所へいって冷蔵庫から牛乳パックを取り出すと、
そのまま口を付けて飲んだ。
「……ふう」
そして、一気に飲み干すとパックを水洗いして、流し台に置いた。
再び部屋に戻ろうと、すると、台所のテーブルの上に置かれたノートが目に留まった。
姉貴が探してるの、これじゃないかな。俺はノートを手に取った。
黒い表紙で、何か英語の文字が書いてある。
さっき怒鳴られたんだ、渡す前に少しくらい見てやろう。そう思いついて、
何気なく最初のページを開いてみた。
そこには誰かの名前らしいものが一行だけ書いてある。
「何だ、これ?」
俺は不思議に思い、次のページをめくって見たが、そこにもやはり知らない名前がある。
次々とページをめくっていくがしばらく同じように名前ばかりが続いている。
「……おい、これまさか」
そして、あるページを開いたとき、俺は愕然とした。
そこには、俺の名前と、詳しい死に方の方法までが事細かに記されていた。
「ま、マジかよ……」
俺は確信した。自分の姉貴が何者なのかを。
「……見たわね」
そのとき、背後から聞こえた姉の声に、俺は慌てて振り返った。
「見たんでしょ、それ……」
「あ、ああ」
答えながらも、俺はショックで震えていた。
「じゃあ、しょうがないわね」
姉はそういうと、その場にゆっくりと膝をつき、上目遣いに俺を見た。そして。
「お願い、誰にもいわないで!」と、頭を下げる。
やっぱりか、やっぱりそうなのか。
「な、なあ姉ちゃん、これ、デスノ……」
「友達に勧められてはまっちゃったのよー、お願いだから秘密にして」
姉貴は俺の手を握りながら、潤んだ瞳で見つめてくる。だが、問題は。
「いや、それはいいんだけど、俺の名前あるの……何で? しかも、やたら死に方詳しいし」
「え、えと……それはね、その」
「何だよ」
「こういうのってほら、実際にそうなったら困る人の名前は書き込めないでしょ」
ああ、なるほど。て……。
「じゃあ、俺ならいいのかよ!」
「い、いいじゃない、あんた生きてるんだからさ」
「当たり前だ!!」
「とにかく、これは秘密にしてね、バラしたら酷いわよ」
姉貴は俺からノートをひったくると、逃げるように自分の部屋へ走っていった。
先ほどノートに書かれていた、俺のあまりに具体的な死に方が、頭からまだ離れていない。
今、手元にデスノートがあれば、俺は迷わず姉貴の名前を書き込むだろう。
一人残された台所で、そう確信していた。