「なにそれ…」

心底気味悪そうに表情を歪めた彼女がつぶやいた。

「そんな意味わかんない本にハマってるから、そんな変な夢みるんだよ。」
「はあ?」

空になったコップに突っ込んだストローでせわしなくかちゃかちゃと氷をかき回す。

「向日葵、すーぐ影響されるからなー。感動しましたわー!って。」
「櫻子にはわからない感動でしょうね。」
「なんだと!」
「おまたせしましたー。」

注文していた料理がやってきた。大盛りのハンバーグ。朝ごはんからそう時間も経っていないのに
本当によく食べる子だ。将来は縦か横かはわからないがきっと大きくなることだろう。
あまり太らなそうだから縦に伸びるかもしれない。私の背を追い越すこともあるのだろうか。

「ちょっとジュース足してきますわ。」
「あ、私も行くー!」
「あなた何杯飲んでますの?糖尿になりますわよ。水飲みなさい。」

テーブルに乗る氷の溶けた水のコップをひとつ彼女の前に置いた。
年季の入った木のテーブルからゴトっという鈍い音が響く。

「向日葵も水でいいじゃん!料理を前にしてお前を待てというのかー!」
「ちょっと家にも電話しないといけないし。」
「なんだよ!そんなのあとでいいじゃん!」
「うるさいわね…ちょっとくらい待っていなさいな。じゃあ行ってくるから。」

ぼーっと揺らめく意識の中で、気がついたら天井を見つめていた。徐々に徐々に
私の思考は廻りだし、私は夢を見ていたであろうこと、ここが病室のベッドであること、
そして私が自殺を図ったことを思い出した。

ついさっきまでのあの子とのやりとりがとても夢とは思えないほどの実感を伴って
私の体の中でわんわんと響き続けている。これほどまでの現実味が、空気が、耳に入る
彼女の声の触感が、現実ではないというのだろうか。

私はただただ虚しくなって、ただただ際限なく涙がつうつうと流れていった。